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一弥(いちや)と周一郎(しゅういちろう) 3
しおりを挟むイチゴミルクは美玖が昔から好きなものだからね。
そんなこと初めて知った。
ジャッジさんと美玖が付き合ってるの? 本人から聞いたよ。
己は掲示板で知った。
美玖は小さい頃から怖がりで、一人でトイレにも行けなかったよ。
それは知ってる。叔母を起こして行っているのを見かけた。
叔母さんのお腹に語りかけてたよ。
そんなこと、知らなかった。
美玖はあんたのせいで昏睡状態に陥ったんだ。
俺なら違う誘い方をする。その方が楽しめるから。
一弥の言葉が頭の中で何度もリフレインする。
その度に己が打ちのめされていく。
「なんでっ!」
己よりも美玖に会っていないはずの男が知ってるんだ? ゲーム内でのことまで、どうして知ってるんだ?
「ちくしょう!!」
思わず近くにあった机を殴った。
「……シュウ」
「そっちも終わったのか?」
「お前と話している人が終わると、迎えに来た」
周一郎はそのままその場に座った。
「シュウ?」
「何でだよっ!?」
八つ当たり気味に、そのまま話をする。
「それでジャッジさんと一緒に来たのか」
そして、周一郎は初めて、レイが己と美玖を何とか会わせようとしていたことを知った。
「まぁ、クィーンさん見かけたときに何となく、とある人と連絡を取れれば会えるかなって思った。だから頼み込んだ。……そのあとからその人との連絡も取れないけど」
それが理由で現在ゲームに繋げないというのは、おかしい。
「おかしくないらしい。ミクは今も治療中らしいから。ジャッジさん曰く、身内にも場所を教えていなかったんだって」
「ってことは……」
「そう、さっきの人も知らなかった。そして、その場所にももういない」
親が大変な時にゲームで遊んで、恋人といちゃいちゃして。そう文句をつけに行ったとき、美玖はかなりうろたえていた。それは、後ろめたいことをしていると知っていたからだと思っていた。
だが、違うという。美玖には両親がどうなっているかというのは、知らせていないらしい。
周一郎に言われ、美玖は初めてその状況を知りパニックを起こしたことも初めて伝えられた。
「強制ログアウトになる前に、医師判断でログアウトさせたみたいだよ。あの頃は医師の指示の元行うリハビリの真っ最中だったらしいんだ。……今でも外出は難しいみたいだよ。とりあえず、春までは家の中でのんびりするみたいだ。だから、俺たちに一切口出ししてくるなっていう忠告」
「レイ」
「何?」
「ネットで書かれている悪口、俺信じたくない」
「だろうね。でも、事実だと思う。実際ミクは驚くほど、オドオドしていた。もし、報道のように全てを否定され続けていてそうなったのだとしたら、それは虐待以外なにものでもないと思う。それに、叔父さん夫婦はシュウにゲームを勧めていたんだろう?」
「あぁ」
「ミクは本当に禁止されていたらしいよ。だから、両親の目を盗んでゲームをしていたそうだし。……事実だし、俺もミクは不器用だと思えない」
レイは当事者でない分、少しだけ客観的になれるのだろう。
「事実だったら、俺はどうしたらいい?」
「それはシュウが決めることだよ。俺じゃどうしていいかなんて分からない。……あの人には何て言われたの?」
「二度と関わるなって。ゲームでも現実でも……」
「だったら、暫くそうしてみるのもいいんじゃないか?」
「俺は……俺はっ!!」
悪意から美玖を守っているつもりだった。だが、本当に「つもり」だったのだ。
周一郎は獣のような雄叫びを、あげた。
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