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「ライラ嬢、…いえ、ライラ・オーキッド男爵令嬢。貴女はこの国において禁忌の魔術。『魅了の魔法』を手に入れましたね?」
しん、と水を打ったように静まり変える会場。
中には恐ろしいものを見るような目をライラ嬢に向けている人までおります。
『魅了の魔法』
その魔法を手にし発動させた者は、どんな相手であろうとその手中に堕とす事が出来ます。
効果はさながら麻薬のようで、一度摂取してしまうとその魔力を摂取する為に発動者を崇拝し、最後は精神を破壊される。そして中毒症状を起こす魔法です。
その危険さ故に、この国では魅了の魔法は魔術として恐れられ、使用する事を禁じている術の一つです。
洗脳に近い状態…ライラ嬢でいえば、皆ライラ嬢に心酔するという事が起きてしまいました。
もっと早く気付いていれば犠牲者は少なく済んだかもしれませんが、もう遅いのは明白です。
この場にいる男性方。気付いた時には同学年の方は勿論、別学年の男性ですら虜にしていました。
「そ、そんな…禁じられている魔法なんて、魔力の少ないわたしが使える訳ないじゃありませんか…っ」
「そうだ!それに、出会った時に私は一目見て真実の恋に落ちたんだ!彼女から魔法をかけられた事などない!いくらライラが美しいからといって、でっち上げの嘘を吐くな!お前との婚約なんかこっちから願い下げだ!」
「だ、ダスティ…!お前、なんという事を…!」
ダスティ様はどうやら、ご自分のお父様の顔色に気付いていないみたいですね。
青ざめたと表現するよりも、最早土気色といった表現が正しい程だというのに。
恋こそが魔術、なのかもしれませんね。
「そこまで言うのなら、…この場にいる方全員の魅了を解いて差し上げましょう」
そう言ってわたくしは自らの手を上へと伸ばしました。
大丈夫、少しばかり意識が無くなるだけです。その後は全て元通りになるのですから。
わたくしがパチンッと指を鳴らすと、会場に居た数十名の男性が皆一様に意識を失い倒れられました。
…おや、おかしいですね。
あのアホ…いえ、ダスティ様は立ち上がったままですわ。
…まあ良いのです。わたくしはほとほと貴方に愛想が尽きましたから。
ダスティ様がどうなろうが、わたくしは興味はございませんので。
ただ…どうやら全く効いていない、という訳ではなさそうですね?
「…っ、おい!貴様何をした!」
「話、聞いてました?『魅了の魔法』を解いたんです。直に皆さん目が覚めるでしょう。全てを元に戻しただけです。…そこのエメラルドのブローチを付けた貴方」
「お、俺?あ…いや、私ですか…?」
「ええ、貴方よ。ダスティ様の隣にいらっしゃるご令嬢を見て、何か特別な感情は湧きますか?」
「いえ、特には…。あ、珍しい髪色ですね、くらいしか…」
「!?え、な、なんで…!?」
「ライラ…?」
あからさまに狼狽え始めるライラ嬢。
それもそうでしょうね、その瞳に魅入られた者は皆貴女の虜になるのですもの。
魅了の魔法は魔力を多く必要とされておりません。
そして魅了の魔法の使用方法。それはわたくしが知る限り、発動者の瞳を見る事。
彼女は今、私が指した男性へと視線を向けており、その瞳は僅かに朱が濃くなっていました。
ですが男性にその魔法が通用しなかった。だからそんなにも焦っておいでですのね。
分かりやすくて助かります。
「今一度問いますわ。ライラ・オーキッド男爵令嬢、その魔法はどこで手に入れたのです?禁術の書物を扱えるのは王族くらいですが?」
「何を言っているんだエアリス、彼女は魔法なんて…!」
「う、うう、………あれ?俺は一体何を…?」
どうやら倒れていた男性が起き出した様です。懐中時計を確認すると大体3分から5分程…というところでしょうか。
「皆様、目覚めたばかりで申し訳ございません。もう少しわたくしの質問に応えをお願いします。」
皆様まだ混乱されているようですが、今しかありません。
「ダスティ・クーズスト侯爵令息の隣にいらっしゃるご令嬢をご存知の方は挙手を願います」
わたくしがそう告げますと、過半数が手を上げておりました。
記憶がない方も中にはいらっしゃる様ですが、一先ず次の質問を与えましょう。
「では質問を変えます。彼女をご覧になって、何か特別な感情を抱いておりますか?」
その質問に男性陣が何のことだとでも言いたげにお互いに視線を送ったり、興味本位かなんなのか彼女に視線を向ける者もいらっしゃいました。
…しかし。
「え…?特に、何も…?それよりもダスティ様はエアリス様の婚約者ではありませんか。何故他の女が?」
「あ、自分も同じ事を考えておりました。えっと…オーキッド男爵令嬢、でしたっけ?」
「その通りです。彼はわたくしの婚約者であり、隣にいるのはオーキッド男爵令嬢です。…では最後に。皆様、ご自分の婚約者の方をご覧になって?」
それを聞いた方々は、ご自分の婚約者を探し、お相手を見付ければ安堵の息を吐き出しました。
「アイリス!」
「デイジー!…あれ、何だかすごく久しぶりな気がするな…。今度一緒に行くと約束していたパンケーキのお店に行こう。何故か長く待たせてしまったみたいだ、すまない…、って、デイジー!?どうしたんだ、何か泣かしてしまう事を俺は言ってしまったか…?」
女性達は涙を流す者もおり、どれ程非道な事をされていたのかと怒りすら湧きました。
私利私欲の為に使われる魅了の魔法は、やはり禁術なのだと身を持って知る光景です。
ダスティ様の影に隠れているつもりなのでしょう。
彼女の表情は今にも歯軋りが聞こえてきそうな程わたくしを睨んできています。
ここでライラ嬢を断罪しても、一番信じていた婚約者に裏切られた事実は変わりません。それが何より、わたくしは悔しい。
「どういう事だ…?ライラ、まさか本当に魅了の魔法を…」
「ち、違うわ!そう…そうよ、あの人が皆を操ったのよ!私は無実よ、信じてダスティ様!」
「……その茶番、もう終わりにしませんか?ライラ嬢、ダスティ様」
呆れてモノも言えないとはこの事か。
自分の発言で、一体どれ程の罰をこの人は受けるのでしょうね。
「…クーズスト侯爵令息様、婚約破棄、確かにお受け致しました。後程書類等を送らせて頂きます。それでは、ごきげんよう」
わたくしは2人に背を向け、出入口であるドアに手を掛け溜息を吐いた。
…追い掛けても来ないのね。
後ろでクーズスト侯爵の怒声が聞こえた気がしましたが、わたくしにはもう関係の無いこと。
心配して来てくれたのか、いつの間にか隣にいたお父様が扉を開いて下さった。
「…よく頑張ったな。辛い思いをさせてしまって…すまない」
「…、いいえ、良いのです。…良い、のです…」
一緒に会場から外へ出て、扉を閉めた。
その時ポタ、と落ちた雫は地面に僅かな染みを作り、それは風に乾かされて消えていった。
しん、と水を打ったように静まり変える会場。
中には恐ろしいものを見るような目をライラ嬢に向けている人までおります。
『魅了の魔法』
その魔法を手にし発動させた者は、どんな相手であろうとその手中に堕とす事が出来ます。
効果はさながら麻薬のようで、一度摂取してしまうとその魔力を摂取する為に発動者を崇拝し、最後は精神を破壊される。そして中毒症状を起こす魔法です。
その危険さ故に、この国では魅了の魔法は魔術として恐れられ、使用する事を禁じている術の一つです。
洗脳に近い状態…ライラ嬢でいえば、皆ライラ嬢に心酔するという事が起きてしまいました。
もっと早く気付いていれば犠牲者は少なく済んだかもしれませんが、もう遅いのは明白です。
この場にいる男性方。気付いた時には同学年の方は勿論、別学年の男性ですら虜にしていました。
「そ、そんな…禁じられている魔法なんて、魔力の少ないわたしが使える訳ないじゃありませんか…っ」
「そうだ!それに、出会った時に私は一目見て真実の恋に落ちたんだ!彼女から魔法をかけられた事などない!いくらライラが美しいからといって、でっち上げの嘘を吐くな!お前との婚約なんかこっちから願い下げだ!」
「だ、ダスティ…!お前、なんという事を…!」
ダスティ様はどうやら、ご自分のお父様の顔色に気付いていないみたいですね。
青ざめたと表現するよりも、最早土気色といった表現が正しい程だというのに。
恋こそが魔術、なのかもしれませんね。
「そこまで言うのなら、…この場にいる方全員の魅了を解いて差し上げましょう」
そう言ってわたくしは自らの手を上へと伸ばしました。
大丈夫、少しばかり意識が無くなるだけです。その後は全て元通りになるのですから。
わたくしがパチンッと指を鳴らすと、会場に居た数十名の男性が皆一様に意識を失い倒れられました。
…おや、おかしいですね。
あのアホ…いえ、ダスティ様は立ち上がったままですわ。
…まあ良いのです。わたくしはほとほと貴方に愛想が尽きましたから。
ダスティ様がどうなろうが、わたくしは興味はございませんので。
ただ…どうやら全く効いていない、という訳ではなさそうですね?
「…っ、おい!貴様何をした!」
「話、聞いてました?『魅了の魔法』を解いたんです。直に皆さん目が覚めるでしょう。全てを元に戻しただけです。…そこのエメラルドのブローチを付けた貴方」
「お、俺?あ…いや、私ですか…?」
「ええ、貴方よ。ダスティ様の隣にいらっしゃるご令嬢を見て、何か特別な感情は湧きますか?」
「いえ、特には…。あ、珍しい髪色ですね、くらいしか…」
「!?え、な、なんで…!?」
「ライラ…?」
あからさまに狼狽え始めるライラ嬢。
それもそうでしょうね、その瞳に魅入られた者は皆貴女の虜になるのですもの。
魅了の魔法は魔力を多く必要とされておりません。
そして魅了の魔法の使用方法。それはわたくしが知る限り、発動者の瞳を見る事。
彼女は今、私が指した男性へと視線を向けており、その瞳は僅かに朱が濃くなっていました。
ですが男性にその魔法が通用しなかった。だからそんなにも焦っておいでですのね。
分かりやすくて助かります。
「今一度問いますわ。ライラ・オーキッド男爵令嬢、その魔法はどこで手に入れたのです?禁術の書物を扱えるのは王族くらいですが?」
「何を言っているんだエアリス、彼女は魔法なんて…!」
「う、うう、………あれ?俺は一体何を…?」
どうやら倒れていた男性が起き出した様です。懐中時計を確認すると大体3分から5分程…というところでしょうか。
「皆様、目覚めたばかりで申し訳ございません。もう少しわたくしの質問に応えをお願いします。」
皆様まだ混乱されているようですが、今しかありません。
「ダスティ・クーズスト侯爵令息の隣にいらっしゃるご令嬢をご存知の方は挙手を願います」
わたくしがそう告げますと、過半数が手を上げておりました。
記憶がない方も中にはいらっしゃる様ですが、一先ず次の質問を与えましょう。
「では質問を変えます。彼女をご覧になって、何か特別な感情を抱いておりますか?」
その質問に男性陣が何のことだとでも言いたげにお互いに視線を送ったり、興味本位かなんなのか彼女に視線を向ける者もいらっしゃいました。
…しかし。
「え…?特に、何も…?それよりもダスティ様はエアリス様の婚約者ではありませんか。何故他の女が?」
「あ、自分も同じ事を考えておりました。えっと…オーキッド男爵令嬢、でしたっけ?」
「その通りです。彼はわたくしの婚約者であり、隣にいるのはオーキッド男爵令嬢です。…では最後に。皆様、ご自分の婚約者の方をご覧になって?」
それを聞いた方々は、ご自分の婚約者を探し、お相手を見付ければ安堵の息を吐き出しました。
「アイリス!」
「デイジー!…あれ、何だかすごく久しぶりな気がするな…。今度一緒に行くと約束していたパンケーキのお店に行こう。何故か長く待たせてしまったみたいだ、すまない…、って、デイジー!?どうしたんだ、何か泣かしてしまう事を俺は言ってしまったか…?」
女性達は涙を流す者もおり、どれ程非道な事をされていたのかと怒りすら湧きました。
私利私欲の為に使われる魅了の魔法は、やはり禁術なのだと身を持って知る光景です。
ダスティ様の影に隠れているつもりなのでしょう。
彼女の表情は今にも歯軋りが聞こえてきそうな程わたくしを睨んできています。
ここでライラ嬢を断罪しても、一番信じていた婚約者に裏切られた事実は変わりません。それが何より、わたくしは悔しい。
「どういう事だ…?ライラ、まさか本当に魅了の魔法を…」
「ち、違うわ!そう…そうよ、あの人が皆を操ったのよ!私は無実よ、信じてダスティ様!」
「……その茶番、もう終わりにしませんか?ライラ嬢、ダスティ様」
呆れてモノも言えないとはこの事か。
自分の発言で、一体どれ程の罰をこの人は受けるのでしょうね。
「…クーズスト侯爵令息様、婚約破棄、確かにお受け致しました。後程書類等を送らせて頂きます。それでは、ごきげんよう」
わたくしは2人に背を向け、出入口であるドアに手を掛け溜息を吐いた。
…追い掛けても来ないのね。
後ろでクーズスト侯爵の怒声が聞こえた気がしましたが、わたくしにはもう関係の無いこと。
心配して来てくれたのか、いつの間にか隣にいたお父様が扉を開いて下さった。
「…よく頑張ったな。辛い思いをさせてしまって…すまない」
「…、いいえ、良いのです。…良い、のです…」
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