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3回目の卒業パーティー2

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コツ、と、シャロンが私から体を離すと誰かが近付いてくる靴音がする。

気付かないうちに皆こっち見てるし…。
…!もしかして、私達注目の的だった!?
そうだとしたら…とんでもなく恥ずかしい…!

「ごきげんよう。久しぶりだな、シャーロット嬢…いえ、ルーチェリア国のウィスタリア公爵。我が国の卒業パーティーへようこそ」

とかなんとか考えてたら、現れたのはまさかのディラン王太子殿下。
これ、事情を知ってる卒業生達が見たらすごくヤバい状況に見えるのでは……?

もう既に視界の端でひそひそと扇で口元を隠し、何か話してる女生徒…、いや、もう生徒じゃないか。
どこぞのご令嬢がまた噂話でもしているのだろう。

何とでも言え。
そして睨み付けるとやっぱりそそくさとその場から離れていった。

「立太子礼、婚儀に参加出来ず申し訳ございませんでした、ディラン王太子殿下。…お久しゅうございます…」
「私も君も忙しかったんだ、仕方ないし気にしていないよ。それより、父上には挨拶に行ったくせに私のとこに来なかったじゃないか。なんでだ?」
「だってあの場に居なかったでしょう?」
「いやそこは探してくれ!」
「ですが…何かご事情があったのでは?」
「…少し妻の体調が良くなくてな…、端の方の部屋なら静かだからそこに居たんだ」
「それ、余計行きにくいです。因みにお医者様は…?」

「それが、だな…、……懐妊、したらしくて…」

「え!!?おめでとうございます殿下!!」
「おめでとうございます、王太子妃様も今はお辛い時期でしょうから、それは仕方ないですね」

懐妊、という言葉に思わず、首を突っ込む様に拍手をしてしまった。
これは誰よりも早く得られた情報なのでは!?
だって周りには誰も言っている人が居なかったもん!

…あ、という事はあまり騒いじゃないけないな、と口を噤む。
その様子を殿下に見られてしまい、意図を察したであろう殿下にまた笑われてしまった。

今日の私、笑われる事多くない?

「この事はまだ他言無用な?」

こくこくと勢いよく頷くと殿下は少年みたいな笑顔で私の頭を撫でてくれた。

不思議だなぁ…。攻略対象だった筈の殿下に、今は妹みたいに扱われてる。
恋愛対象からは完全に外れた存在。
これが…、私の選んだ選択肢なんだろうなって思う。

「後で妻にも顔を見せてやってくれないか?落ち着いた頃呼びに来るから」
「ええ、是非ともお願いしますわ」

そう言って手を振った殿下は、私達から離れて壇上近くの陛下達が座る場所に留まった。
その笑顔はとても満ち足りている、とでも言いたげな優しい表情だ。

「わたくしが来たからにはミアを壁の花なんて言わせないわ。貴女はずっと前から…わたくしの花なのだから。さあ、わたくしのステップ、まだ覚えてるかしら?」
「……ふふっ、勿論よ!シャロンのステップなら、世界中の誰より綺麗に踊れる自信があります!」


私は差し出されたシャロンの手に重ねるように手を乗せ、シャロンが私の手を引いてフロアにくるりと踊り入る。

さっきまで聞こえていた陰口も、喧騒も、何も聞こえない。

聞こえるのは流れる音楽と、シャロンの時折笑う声。

嗚呼、幸せだな、本当に。


「ミア、前にわたくしの国へ来ないかと話をしたのを、覚えてる?」
「勿論覚えてますよ。忘れる訳ないもの」
「…じゃあ2日後。2日後に貴女のお家に迎えに行くわ。実はガーネット伯爵にはもう既に許可を頂いているの」

お父様ったらいつの間に…、せめて私に断りの一つでも欲しいところだわ。
…でも、シャロンの事なら許してもいいかな。

「ルーチェリアがどんな国か貴女にも知ってもらいたいの。だから少し長く滞在する事になるけれどいい?あと…一応お父様…陛下と王妃様への顔見せに、ね?」
「は、はい!」

まさか私が、娘さんをください!発言をしなければいけない時が来るなんて…!
ルーチェリア国はドゥンケール国よりもとても大きく栄えていて、私なんかがそんな国の陛下と王妃様のお眼鏡に適うとは最初から思っていない。
謁見の間に向かう事を考えるだけで足が竦みそうになる。

でも、それでも、私はシャロンを諦めたくない。

「シャロン、私頑張るわ!陛下と王妃様に入られるくらいに!」
「あら、そんなに身構えなくてもいいのに…。…ふふ、楽しみにしてるわよ」

こつん、と私とシャロンの額がくっ付く音がする。

私はもう、この手を離したりしないと、此処に誓った。
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