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今日は入学式

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「お嬢様、ミアルワお嬢様。もう朝ですよ。」

シャッとカーテンが開かれる音と共に、強い朝日が部屋に充満していって、眩しくて寝てもいられないと起きるしかなかった。

「ふぁ…。…ん、おはよう…エミリー…」

まだ寝惚けているのか、それともあの夢を久し振りに見たせいか分からないけれど、思考の動きが大分鈍い。

そう、私はあの後無事、ヴァルの世界へと転生する事が出来たのだ。でも前世と比べると今は寝起きがすこぶる悪い。元々朝は強い方ではなかった。…でももう一つ理由があって、
私の属性…、闇属性は朝が苦手な子が多いらしい。

「お嬢様、そろそろご支度を始めないと、学園に遅れてしまいます」
「え、もうそんな時間!?」

彼女の言葉に一気に覚醒した頭はさっきとは違いフル回転。急いでパジャマを脱ぎ捨て、まだ真新しい制服に袖を通す。黄色のクロスタイを着ければ完成!
私は今15歳。漸く学園に入れる歳になりました。つまり、今日この国の学園で入学式に参加します!

「ヴァル!ヴァル起きて!遅刻しちゃう!」
「んむう…、なんじゃミワ…我はまだ眠いのだが…」
「今日から学園に入るって前から言ってたじゃん!ほら、ペンダントにでも擬態して?制服で隠れるしそれならバレないから!」
「仮にも精霊王の我を…、まあ良いか。そういう契約じゃしな」

隣で寝ていた普通の猫より少し大きめの黒猫は、しゅん、と突然居なくなり、代わりに黒曜石を嵌め込んだ様なペンダントがそこにあった。私はそれを首から下げ、誰にも見られない様に制服の下に隠した。
これで何があってもヴァルが守ってくれる。

ヴァルを呼んだのはもう随分前の事。赤ちゃんの頃から前世の記憶とヴァルの会話を覚えていた私は、五歳くらいの時にヴァルを呼んだ。召喚したとも言えるかな?それから一緒に過ごす為に、この世界でも猫の姿になる事にしたらしい。…普通の猫より一回り…くらい?それ以上?とりあえずそれくらい大きいけど、もふもふ出来るから全然OKです。

そろそろ行かなくちゃ。
私の部屋は二階にあって、階段を降りるとそこはダイニングの様な、家族で食事をする為の場所になっている。

「お父様、お母様、おはようございます!」

「あら、おはようミアルワ。…まあ、やっぱり素敵ね、その制服」
「おはようミアルワ。制服、似合っているよ。今日から三年間、頑張るのだぞ」
「はい!」

心躍るのも仕方ない、今日この日をどれだけ心待ちにしていたか。
私が転生した先、ヴァルが守護する国を私は知っていた。なんの偶然か因果か。そこは私があの夜続きをしようとしていた乙女ゲームの中だった。
まさか流行りの異世界転生物に自分が加われると思えなかったよ~。

「…まさか、ヒロイン位置だとは思わなかったけどね…」

ミアルワ・ガーネット伯爵令嬢。私はヒロインのデフォルト名に表示されていた、ガーネット伯爵公の長女として生まれてきた。そこまで大きくはないけど領地も持っていて、実は私自身もお店を出しているんだよね。これはゲームになかった設定だけど…これくらいならセーフよね、多分。
前世ではハンドメイドが趣味で、キャラモチーフの物だったり、コスプレ用の小道具だったりと色々な物に手を出して来たのが、まさかこんな所で発揮されるとはねぇ…。
今は貴族も平民も分け隔てなく買える様なアクセサリーを作れる様になった。なんたって貴族の御用達なんて呼ばれるくらいの腕前なんだから!勿論平民の皆の声も取り入れて、そんなに高くないけれど高価に見える代物だってお任せあれ。

学園に入ったらリサーチし放題!だってこの学園は平民も貴族も通える学園!これでまた新しい作品が作れる…!

でもヒロインって男爵令嬢な筈だったんだけど…ヴァルが転生先をミスったのかな?
こういうヒロイン位置の子って、自分より上流階級の誰かの婚約者を奪っていくイメージが強いんだよね。私的には悪役令嬢より悪役令嬢っぽいと思ってる。
でも私、伯爵令嬢のままでも構わないんだよねえ。ぶっちゃけ爵位に興味が無い。それをヴァルに言ったら、「お主はやはり変わり者だな」と言われてしまったのは記憶に新しい。

実は偶然にも異世界転生してしまう人間はそこまで珍しくないらしいが、大抵が下流階級の家に転生するんだって。だから上流階級になりたくて、婚約者を強奪なんていう事をする女性が後を絶たないとか…。ううん、分からない。
そんなに階級って大事なのかな。もし最初から侯爵とかの家に生まれていたら…。
それとも、王子と結婚出来る可能性があるからなのかな?

でも世の中には身分違いの恋ってものがあって…、…ううん、実はそれは現実的じゃないのかもしれない。
よく男爵令嬢が婚約者を強奪するシーン。あれだって身分違いの恋よね?

あ、でも安心して。私王子とかと結婚したくないから。王妃教育とかしんどいだけらしいじゃん、覚える事が山の様だって聞くし。私は平均的でいい。
…なんて、こんな考え、前世と変わりない状態になっちゃうよね…。もっと貪欲になれ私。そう暗示を掛けるも持って生まれた感性はなかなか変えられない。地道に地道に、が私にお似合い。

なんて、そんな事を考えている間に私は家族との朝食を食べ終わり、学園へと向かう馬車に乗っていた。家に篭りがちだから忘れそうになるけれど、文明の利器は素晴らしかったんだなぁ…としみじみ。勿論馬車も嫌いじゃない。
最初は新鮮だったな、テレビで観た世界、本の中でしか知らない物。そんな物に乗れるなんて、それだけで楽しくなってしまう。だから今でも馬車に揺られる時間は好きだ。

でもそう長くも乗っていられない。学園まではそれほど遠くなくて、体感時間だと凄く短い時間に感じた。

「お嬢様、お手を」
「ありがとう」

御者である彼の手を支えに、馬車から降りれば…。

「うわぁ……!」

そこは学園の正門前。学園が一望とは言えないけれど、背景で出てきていた学園そのものだ。正に聖地。私今聖地巡礼してる!
馬車が去った後でも余韻は続いた。
本物…なんだよね?疑ってる訳じゃないけど、夢みたいな光景だから仕方ない。
…けど、少し憂鬱な気分でもある。
爵位、平民問わず通う事で有名なこの学園。貴族も平民も皆平等と名を売っておいて、平民と貴族では正門、校舎も違う。貴族感でも爵位でのマウント取りも日常茶飯事。
そんな中で伯爵はまあ…中流階級?くらいだから差程酷い事にはならないと思ってる。ゲームでは男爵令嬢だったから悲惨だったけど。


「そこの貴女、お退きなさい。立ち止まられると迷惑ですわ」


不意に、強かさを隠さない、周りの空気が澄む様な声が後ろから聞こえてきて、思わず振り返ってしまった。
そこに居たのは…。

「…何かしら?…わたくしの顔に何か付いていて?」

風が吹く度、太陽に反射して眩しいくらいの長いライトゴールドの髪を靡かせながら彼女は、私より背が高いせいか見下ろされていた。
そう。そこに居たのは、このゲームの悪役令嬢。ヒロインのライバル令嬢。


シャーロット・アンバー侯爵令嬢。その人だった。
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