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ただの幼馴染だったのに

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鳥の囀りが聞こえる。
眩しく感じたのはカーテンの隙間から射し込む朝日のせいだった。

まだ眠い…。

昨日、キャラとはいえ自分の兄貴から向けられた感情に頭が追い付かず、とりあえずノートに片っ端から覚えてる分のルートとエンディングを書き出した。
記憶しか頼りにならないけれど、無いよりマシだと思う。

やっぱり、レオンルートにヤンデレやブラコン情報はなかった。
バグ…という言葉で片付けていいのか怪しくなってくる。

アルバートの事もある。
まさかとは思うけど、俺は主人公側なのか…?
いや、ゲーム通りだとしたら主人公はもう入学してる筈。
攻略対象達と仲を深めるのも秒読みだ。

そして主人公が誰を選ぶのか、が肝になる。

主人公が転生者の可能性も考えておこう。
これもよくある話だ。
だとしたら、間違いなくアルバートルートを狙うだろう。
皆地位はそこそこにあるけど、王太子には敵わない。


「…接触してくる時期が早まるかもしれない…」

自分で口にしたのに、ぞっとした。
折角アルが俺を好きだと言ってくれたんだ。
手離したくない…のが、本音。
けれども主人公補正に勝てる訳もなくて…、とどのつまり、俺は結局モブの位置から抜け出す事は出来ないのだ。

とりあえず、学園へ行こう。
俺は起き上がってカーテンを開ける。
遮る物が何もないと、こんなにも強く朝日が射し込んでくるのか。
窓をからりと開けると、入ってくる風の心地良さに目を瞑る。

「…、よし」

どんな結末になるかは分からない。
けれどそれも受け入れよう。

決意を改めた時、扉を叩く音がしてから開かれた。

「おや、リオ様今日はお早いお目覚めですね」
「うん、たまにはいいかなって」

部屋に入ってきたのは、俺の従者であるロイドだった。
歳もそこそこ近いけれど、ロイドの方が歳上だ。

「制服はこちらにご用意をいたしております」
「うん、ありがとう」

少し驚いてはいたけど、言及されなくて良かった。
…元のリオはありがとうも言わなかったのかな。
でも言わないのはそれはそれで気持ちが良いものでもないし、俺はそう言うスタイルにしていこう。
でも…、リオの記憶を引き出すのも楽じゃないけど…出来る限り普段通りのリオを見せないと、周りに怪しがられる。
それだけは避けたい。

俺は用意された制服に袖を通し、早めの朝食を終えて学園に向かった。



​───────​───────​───────

色々な事が起こりすぎて、授業に全く身が入らなかった。
上の空で、ずっと何かを考えてしまう。
日本語ではない文字をノートに写す事も、作業のようになっていた。

アルファベットを崩したような文字だけど、日本語とは程遠くて一瞬大丈夫かと心配になったのも杞憂だった。
やっぱりこの体は、リオのものなのだ。


……そういえば、リオはどこに行ったのだろう?


俺の意識が先行して動いているけれど、リオはあの日居眠りをしただけだ。
死ぬような事をした訳でもない。
リオの記憶の引き出しを開けられる…、という事は、リオはまだこの体の中に居て、押し込まれているんじゃないだろうか。

背筋の凍る話だ…。

一目で分かるほど、浮かない顔をしていたのだろう。
昼になるとユーリに食堂に誘われて、何故か奢ってもらった。

「…んで、何をそんな気に病んでんだ?」
「え?えっと…」

言える筈もない。
今ユーリの目の前に居るのはリオであってリオじゃない、なんて。

優しい幼馴染だな…。
…、幼馴染…、そうだ!

「ねえ、ユーリ」
「なんだ?」
「ユーリって、俺以外にも幼馴染っているの?」

学食のハンバーグを口に入れながら、ユーリはああと声を漏らした。

「居るけど…、言ってなかったか?俺元々はこっちの出身じゃねえんだ」
「え!?」
「親の都合ってやつ。まあ別に不自由してねえからいいけどさ」

ユーリは元々、この国の出身じゃない…?
だとするともう一人幼馴染が、他国に居ても不思議じゃないってこと。

「へ、へぇ…そうなんだ…。じゃあ、…その幼馴染って、今どうしてる?」
「ああ…、今年入学してきた奴の中に居るぞ」

やっぱり!
これで主人公はもう、この学園に居る事は分かった。
…、だけど、ユーリが俺以外の人間と行動を共にしたり、それこそ幼馴染の主人公の所に行ったりしてるのを見たことない…。
それは何で?

「その子もこっちに来たんだ、…会いに行かないの?」
「なんで?確かに幼馴染だけど…下級生のとこにわざわざ行くのも変だろ?」

……ん??
あれ、おかしいな…?
ゲームでは度々主人公の教室に来て、頼りになる兄貴分みたいな感じからのスタートだった。

だからこそ、今のユーリの発言はおかしい。

「でも…幼馴染なんだから、ユーリとも話したいだろうし…」
「気が向いたら行くかもな。まあ俺はお前がいればそれでいいし」

……、待って、頭が追い付かない。
動揺のあまり、空になったコップを飲もうとしてしまった。

「なんだよ、喉乾いてんのか?取ってきてやるよ」

そう言ってユーリはぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でて、コップを俺から奪って行った。

見たことある。

あれ、ユーリが幼馴染にやる癖だ。


『子供扱いしないでよ!』


頭を撫でる度に、そう言う主人公が頭に浮かんだ。
でも何でそれを俺に…?
確かにユーリは面倒見がいいと思ってたけど、深く考えたことはなかった。

水を取りに行ったユーリを見て、俺はもしかして…なんて考えてしまう。
流石に自意識過剰だとは思う。そう思うけど…。

俺の視線に気付いたユーリが、にま、と笑う。


「……うそでしょ…」


あれは主人公に向ける表情。
何度も見たスチルの中の、ユーリだった。
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