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ローレス領ダンジョン攻略

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 裏ダンジョンは、ギミックの一種として侵入者に強制的なルールを敷く。
 中でも魔法が使えない、スキルが使えない、走れない……etcなど侵入者たちの行動を制限するものが、難関だった。これまで普通に使えていたモノが使えなくなるということは、相乗異常の不自由とストレスを侵入者に与える。

 「くそっ。やはり伝心スキルは使えないか。伝心スキルが使えては侵入者たちを3つに分ける意味がない。スキル制限が伝心スキルだけならいいが」

 扉に入ってすぐにアンフェルディスが苦々しそうに呟く。誰に伝心スキルを使おうとしたのかまではディルグラートは聞かずにおいた。

「ギミックの意図、ともいうべきでしょうか。侵入者たちの何を制限するギミックなのか、意味をもっと考えていかなくてはなりませんね」

 数歩前を進むのはアンフェルディスだ。その後ろから周囲を警戒し見渡す。ダンジョン内、それも地下の奥深くだというのに扉を抜けた先は、まるでダンジョンから出た外の世界そのものだった。

 小高い丘に木々がところどころ生え、畑には金色になった小麦が頭を垂れて、空に輝く太陽の光を浴びている。畑の間にある道を歩いているのだが、モンスターの気配はどこにもない。

 (聞いたこともないギミックだ。ダンジョン内であることを忘れそうになるくらいのどかな風景だ。まだガキだったころに住んでいた田舎の風景に似ているな)

 あまりにものどか過ぎて、逆に気味が悪い。何より自分たち以外誰も見かけないことが、気味悪さを増長させている。

「連絡の取れない二組で、何も問題が起きていなければいいが」

「問題が発生した場合、決して無理をせず戻るようにとの確認は取ってあります」

「そうだな。今回は攻略が目的ではない。調査が主だから無理をする必要はないのだが」

「ギィリ殿とレイの2人が気になりますか?」

 ディルグラートがカマをかけると、意外なほどあっさりアンフェルディスは認めた。隠す気もないようで、飄々とした様子でディルグラートの方を振り返った。

「分かるか?」

「戦力的には3組の中でもっとも劣りますからね。しかしギィリ殿の知識と魔法力、レイの発想力、機転は侮れないものがあります。うかうかしていると2人が一番先に攻略してしまうかもしれませんよ?」

「それは悠長にしていられないな。」

 ふと明後日の方を見やってからアンフェルディスは肩をすくめた。
 ディルグラートも軽く恍けてみたが、さっき言った言葉は半々で真実と嘘が混ざっている。一見して戦力的にもっとも劣ると思われて、最も戦力が勝っているのがギィリとレイの組だ。

(ギィリ殿はレイがオル元帥ご本人とは知らされていないようだが、まさか閣下自ら素性を隠して裏ダンジョン調査に乗り込んでくるとは恐れ入る……)

 聞けば、レイを同行者として連れてきたアンフェルディスもレイの正体を知らず、知っているのはフィリフェルノとディルグラートだけだというのだから、開いた口が塞がらなかった。

 しかし、ローレスに来る途中の川でギィリたちと話した内容がディルグラートの脳裏をかすめる。ギィリの話を信じるなら、オル元帥は人種であり、現皇帝アーネストとほぼ年齢が変わらないはずなのだ。

 なのにレイの容姿はどう見ても20台半ば。何か変化の術を使い、容姿を若く見せていることは十分に考えられるが、漠然とそうではない気がした。以前にディルグラートが城で見かけたときもマスクはしていたがレイと変わらない容姿だった。

(たぶん魔術など小細工を使わず、ありのままであの容姿を元帥は保っていらっしゃるのだ)

 長寿のエルフやロードでもなく、そんなことが人種で可能なのか?と問われたら答えられない。
 根拠のない仮定にすぎない。何より帝国に多大な貢献をし、またラドバニア帝国で皇帝の次に権力がある元帥に疑いを持つことはあってはならないことだ。

 しかし、

 (人種でありながら老うことのない姿を見せないためか)

 そう考えればなぜ元帥が人前に姿を現わさず、マスクをつけて素顔を晒さないのか理由がつく。

 そしてレイ元帥 の力を今も様々と思い知らされている光景に、ディルグラートは背中を冷や汗が流れるのを感じた。
 
 中央上に<Amadeus>という名前が書かれ、黒く長方形の掲示板状のもの。うっすら背後が透過しているのでその後ろの景色も視認することができ、黒い板に文字が白く発光していることで文字も問題なく読むことができる。

 何よりディルグラートが驚いたのはその薄っすら透過した黒板が、均等に3分割されて、一つ一つに映し出され、そして今も伸びている線に驚きを隠せなかった。
 恐らくそれは裏ダンジョンの地図であろうと、漠然とディルグラートは理解した。

3分割された黒い板には左から【Reiレイ 】、真ん中には【Philifernoフィリフェルノ 】、右には【Dillgratoディルグラート】と表示されており、どの黒い板が誰の地図なのか即座に判別できるようになっている。

ディルグラートたちが道を奥へと進むにつれて、何もなかった地図の道も新しく出来上がっていく。しかも、通った道には赤い線が入っているので、通っていない道との区別も出来る。

 なにより、驚愕したのは伝心スキルすら届かない場所で会話が出来たことだ。アンフェルディスも伝心スキルを使おうとして失敗しているので間違いはない。

『ディルグラート、フィリフェルノ、そっちどんな感じだ?』

 レイ元帥の声がディルグラートの頭の中に響く。それに対して、声に出さず頭の中で相手と会話するようなイメージで返事を返す。 

『はっ、ここが地下とは思えないほど広いです。畑があって木々が生えて、子供のころに住んでいた田舎の道を歩いているようです。モンスターや人気は全くありません』

『私の方は深い森の中に出ました。エルフが好んで住む森に似ています。しかし生き物の気配そのものがありません。動物、植物共にです。そちらはどうですか?』

『似たようなものだ。精神干渉系のギミックか、そのあたりだろう。アマデウスでそちらを追跡トレース させてはいるが、2人とも油断するなよ』

 ローレスの街で調達したアイテムを、それぞれの組に3つに分けるとき、さりげなくディルグラートの手の甲にレイオル元帥の指が触れた。
 その一瞬、手の平がチリと熱くなり、青白い丸い文様が装備している小手の上から浮かび上がった。

 一見して手の平大の小さな魔法陣の一種かとディルグラートは考えた。円の中央に<Amadeus>と文字が入った光。そして青白い文様の光は消えることがなかったので、アンフェルディスに見られないようにどうにか篭手を隠さなけれと思った矢先、

『その文様は俺以外は見えない仕組みだから、変に隠さなくていい。少し光るけど気にしなくていいよ』

 頭の中に響いたレイオル元帥の声に、体が震えた。


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