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向かうはローレス領

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先に女性たちが水浴びし、後から交代で男が水浴びに入る。その女性たちがゆっくり水浴びしている間に、俺とアンフェルディスはせっせと肉の燻製準備をしていた。

「あとはしばらく待てば燻製肉の出来上がりですね」

「これの作り方も冒険者たちに?」

 アンフェルディスが興味深々に俺が作った簡易燻製器を覗き込む。ちなみにディルグラートは規律正しい騎士を見込まれて、女性たちの水浴びの見張り役になっている。

 今回の移動手段は馬車だ。馬車はリュックに荷物を背負って移動するより、多くの荷物を乗せられる。皇都から出発したとき荷のほとんどは日持ちする食料だったが、その中に少しだけ料理器具と日用品を乗せてもらった。

 金網とフライパン、そして鍋だ。決して大きいものではないがこれがあるだけで、味気ない食事がぐっと美味しくなる。

 食料が入っていたが既に消費し終えて空になった木箱を燻製の囲いに使わせてもらう。
あとは火を消した炭の上に位置を高くした網を浮かせておいて、燻製にしたい肉を並べて蓋を閉めれば終わりだ。

「違います。これはギルド支部の近くにある飯屋のご主人に教えてもらったんです。エリスが給仕しているって言えばわかりますか?」

「あの店か。確かに夜にだす燻製チーズは美味い。酒のツマミに何度か持ち帰り用に買って帰ったこともある」

「3週間もかかる旅なら、道中で手に入れた食料を日持ちさせる方法はないかと思って、飯屋の主人に聞てみたんです。そうしたら塩と網を持って行けっておっしゃって燻製の仕方を教えてくれました。でも味は期待しないでくださいね。あくまで肉の腐敗を防ぐための処理ですから」

「いや、俺も現役の冒険者だったころは数え切れないほど野宿してきたが、塩は携帯していたが燻製までは流石にした経験がない。あの頃、このやり方を知っていれば食料を無駄にすることはなかったな」

 塩は料理の味を加えたり食料の防腐効果だけでなく、生きていく上で大事な栄養になる。汗をかけば体から塩分がでてしまうし、尿だって塩分が入っている。塩を摂取しなければ生物は生きていけない。

 だから旅をするとき、必ず塩だけは持っていかなくてはならない必需品だ。

「石鹸も女性たちがとても喜んでいた」

「それこそ女性の冒険者の方が言ってたんです。旅の間、絶対石鹸だけは携帯しているって。女性にとって石鹸一つで旅は天と地ほども違うそうです」

 今回の旅で俺が一個だけ荷に入れたのが<石鹸>だ。もちろん香油が入った高価なものではなく、帝国内で広く普及している一般的な石鹸だ。それを一個荷に積んでいるだけで、これまで十分に体を清めることができず、ストレスをため込んでいた女性たちが上機嫌になる。

 (とくにギィリやレースウィックは貴族出身な上、ほとんど皇都暮らしで、こういう旅に慣れていないだろうし。毎日風呂に入れないというのはストレスだろうな)

 魔導軍団長とその直属の上位魔導士であれば、皇都の、それも1級か2級あたりに2人は家があり、毎日ゆっくりと風呂に入っていたことだろう。それが体を拭くのがせいぜいで、水浴びもままならない旅になれば、どうしてもストレスに感じるはずだ。

 旅の途中に立ち寄れる村や宿屋があれば泊まることが出来るが、毎日泊まれるわけではなく、次にいつ水浴びできるか分からない。だから少しくらい水浴びが長くなってもいいから、着ている肌着類も洗えそうだったら今のうちに洗えばいい。

 俺の説明に納得したようにアンフェルディスは頷いた。

「なるほど。男は水を頭からかぶれば十分だが、女性たちはそうはいかないだろう。本当にレイは冒険者たちの話をよく聞いている」

「受付でそれくらいしか俺はできませんから」

 話を聞くといっても少し女性たちの愚痴を聞く程度だ。旅で立ち寄ったどこの町はご飯が美味しかったとか、部屋のベッドに敷かれたシーツがちゃんと洗ってないっぽいとか、いい話から愚痴までピンキリである。

 他にも女性がいるPTでは依頼難易度に加えて、行先に宿があるとか川が近くにあるとか、そういった衛生面を考慮した依頼の選び方をしているとまで教えるのは余計なのだろうと黙っておく。

 「時にレイは皇都で1人暮らしをしていると聞いたのだが、皇都育ちではないのだろう?出身はどこか聞いても?」

 アンフェルディスの口調は穏やかだったが、

(ちょうど2人しかいないし、探りか?探りにしては出身地なんてあまりにも見え透いた探りだけど)

 急に尋ねられたからと困るような質問ではない。

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