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向かうはローレス領
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皇都からローレス領のダンジョンまで、馬車で2週間かかる距離である。徒歩ならその倍はかかる。
前にフィリフェルノがソロで先遣調査を行ったときは1人ということもあり、移動スキルを駆使して3日で到着した。PTを組めば当然戦力は増えるが、移動に時間がかかるのがネックだ。
けれどもダンジョン調査に緊急性はない。理由は解明できていないが、何故かダンジョンのモンスターはダンジョン外へは出てこない。
ダンジョン外に出ると消滅してしまうためとも言われてしまうが、検証でモンスターをとらえてダンジョン外に連れ出してもモンスターは消滅しなかったため、その線は消えている。
ともあれ、ダンジョン外にモンスターが溢れ出てこないのであれば、外の世界にモンスターによる被害はでない。あとは現れたばかりの新しいダンジョンに、命を顧みず一攫千金を狙って勝手に入ろうとする馬鹿がでないように、入り口を冒険者ギルドが見張っていれば問題はないわけだ。
たまにモンスターに遭遇することはあれど、馬車に乗っているのは強者ばかりなので、行く手を阻もうものなら、問答無用で一刀両断か火炎で消炭にされていった。
「オオツノジカの仔を仕留めた。誰か内臓処理をするので手伝ってほしい」
剣士のディルグラートが仕留めたらしい仔ジカを担いで、今夜の野営地に戻ってくる。野営地からほんの先に流れる川から水汲みや馬車を引く馬の手入れなどを俺がちょうど終えたところだったので、素早く声を上げディルグラートの元までいく。
「ずいぶん大きな仔ジカですね。今夜はご馳走だ」
旅の主食は日持ちする乾パンや干し肉などだ。だから生の肉は当然ご馳走になる。
仕留めたばかりの獲物であれば、鮮度抜群のご馳走が期待できた。
「あ!私も手伝いまーす!」
続くようにして手を挙げてくれたのはテントを張っていたレースウィックだった。ボブの金髪に大きな青い瞳、少女にまだ片足突っ込んでいるようなとても可愛らしい容姿だが、いきなり上空から馬車目掛けてて襲ってきたスカイドラゴンを、詠唱無しで氷漬けにした上位魔導士でもある。
「近接戦闘がメインの剣士なのに、警戒心が強いシカを仕留めるなんてすごいですね。獣って下手なモンスターより周囲の魔力に敏感で、魔法で仕留めようとしてもすぐに逃げちゃうのに」
ディルグラートの背中に背負われた仔ジカを後ろから眺めながら、レースウィックの瞳は既に今晩のご馳走に輝いている。その様子に苦笑しつつディルグラートは説明した。
「まずこの辺りがオオツノジカの生息地だと教えてくれたレイ殿の情報のお陰だ。次にオオツノジカの好物の実をレイ殿が用意してくれた。最後に姿消しの術をギィリ殿にかけてもらい、風下に隠れて獲物が近づいたところを瞬足のスキルを使って一撃で仕留める。簡単だろ?」
「みんなの連携プレイということ?」
「そういうことだ。しかし、レイ殿が冒険者ギルドで受付をしていて様々なモンスターの知識を持っているというのは伊達ではないな。生息地域だけでなく好物や性質までよく知っている。まさか遠くから魔法で狙える魔術士ではなく、剣士である俺の方がシカを捕えやすいと助言されたときは耳を疑ったが、こういう事だったのか」
納得いったとばかりに、ちらりとディルグラートが視線をむけてきて俺は肩をすくめた。
詳しい説明は省いたが、ほぼほぼレースウィックの言った通りだ。オオツノジカはとにかく周囲の魔力探知に優れている。名前の由来にもなったその大きなツノが魔力探知機能を持っているのだ。
魔術師が魔法を使うとき、詠唱・無詠唱に拘わらず魔力が収束する。その異変をオオツノジカに察知され逃げられてしまう。
反対に魔力ではなく技術面のスキルを駆使して戦う剣士であれば、魔力の収束は起きにくいためオオツノジカに気づかれにくくなり、さらに高レベルの瞬足スキルを持っている者であれば、物陰から一気に近づいて仕留めることができる。
「べつに俺だけ知っていることではありませんから自慢にはなりません。依頼内容のチェックや依頼受付をしている他の職員でも知っていることです。何より最後の俊足スキルのレベルが高くなければ、やはり獲物には逃げられてしまいます」
だから何でもないことなのだと話したのだが、ディルグラートの認識はそうではないらしい。
「数多いる冒険者たちの力量把握と同じで、俺の実力を考慮してのアドバイスか。確かにここに来るまでに一度遭遇したモンスターを俺が俊足のスキルを使って倒したが、あれをレイ殿は覚えていたのだな。たかが受付と言うのは簡単だが奥が深い。アンフェルディス殿がダンジョン調査のPTにレイ殿を同行させた理由が分かった気がする」
「へー、レイって本当に色んなことを知っているのね」
「ハハハ、大げさですよ。ほとんど冒険者の方々が俺に教えてくれたことですから」
嘘は言っていない。冒険者ギルドにやってきて、どの依頼を受けようか迷っていたり、時間つぶしをしている冒険者たちと受付職員が話す機会は多い。
(シカの生息地と好物を用意しただけで、ここまで褒められるとは………)
その中で知りえた情報で、ディルグラートだけでなくレースウィックにまで持ち上げられるとさすがに素で照れてしまう。
しかし、アンフェルディスに数字で見られているとなると、どこまでアドバイスをしていいものか迷ってしまう。
もしかすると、言い過ぎないように気を付けていたつもりだったが、冒険者のためにと、本来の受付職員では知らないような余計な情報を教えていたのかもしれない。
アンフェルディスはその数字とやらを俺に見せてはくれないだろう。
今後はより警戒して情報やアドバイスをしようと肝に念じることにした。
前にフィリフェルノがソロで先遣調査を行ったときは1人ということもあり、移動スキルを駆使して3日で到着した。PTを組めば当然戦力は増えるが、移動に時間がかかるのがネックだ。
けれどもダンジョン調査に緊急性はない。理由は解明できていないが、何故かダンジョンのモンスターはダンジョン外へは出てこない。
ダンジョン外に出ると消滅してしまうためとも言われてしまうが、検証でモンスターをとらえてダンジョン外に連れ出してもモンスターは消滅しなかったため、その線は消えている。
ともあれ、ダンジョン外にモンスターが溢れ出てこないのであれば、外の世界にモンスターによる被害はでない。あとは現れたばかりの新しいダンジョンに、命を顧みず一攫千金を狙って勝手に入ろうとする馬鹿がでないように、入り口を冒険者ギルドが見張っていれば問題はないわけだ。
たまにモンスターに遭遇することはあれど、馬車に乗っているのは強者ばかりなので、行く手を阻もうものなら、問答無用で一刀両断か火炎で消炭にされていった。
「オオツノジカの仔を仕留めた。誰か内臓処理をするので手伝ってほしい」
剣士のディルグラートが仕留めたらしい仔ジカを担いで、今夜の野営地に戻ってくる。野営地からほんの先に流れる川から水汲みや馬車を引く馬の手入れなどを俺がちょうど終えたところだったので、素早く声を上げディルグラートの元までいく。
「ずいぶん大きな仔ジカですね。今夜はご馳走だ」
旅の主食は日持ちする乾パンや干し肉などだ。だから生の肉は当然ご馳走になる。
仕留めたばかりの獲物であれば、鮮度抜群のご馳走が期待できた。
「あ!私も手伝いまーす!」
続くようにして手を挙げてくれたのはテントを張っていたレースウィックだった。ボブの金髪に大きな青い瞳、少女にまだ片足突っ込んでいるようなとても可愛らしい容姿だが、いきなり上空から馬車目掛けてて襲ってきたスカイドラゴンを、詠唱無しで氷漬けにした上位魔導士でもある。
「近接戦闘がメインの剣士なのに、警戒心が強いシカを仕留めるなんてすごいですね。獣って下手なモンスターより周囲の魔力に敏感で、魔法で仕留めようとしてもすぐに逃げちゃうのに」
ディルグラートの背中に背負われた仔ジカを後ろから眺めながら、レースウィックの瞳は既に今晩のご馳走に輝いている。その様子に苦笑しつつディルグラートは説明した。
「まずこの辺りがオオツノジカの生息地だと教えてくれたレイ殿の情報のお陰だ。次にオオツノジカの好物の実をレイ殿が用意してくれた。最後に姿消しの術をギィリ殿にかけてもらい、風下に隠れて獲物が近づいたところを瞬足のスキルを使って一撃で仕留める。簡単だろ?」
「みんなの連携プレイということ?」
「そういうことだ。しかし、レイ殿が冒険者ギルドで受付をしていて様々なモンスターの知識を持っているというのは伊達ではないな。生息地域だけでなく好物や性質までよく知っている。まさか遠くから魔法で狙える魔術士ではなく、剣士である俺の方がシカを捕えやすいと助言されたときは耳を疑ったが、こういう事だったのか」
納得いったとばかりに、ちらりとディルグラートが視線をむけてきて俺は肩をすくめた。
詳しい説明は省いたが、ほぼほぼレースウィックの言った通りだ。オオツノジカはとにかく周囲の魔力探知に優れている。名前の由来にもなったその大きなツノが魔力探知機能を持っているのだ。
魔術師が魔法を使うとき、詠唱・無詠唱に拘わらず魔力が収束する。その異変をオオツノジカに察知され逃げられてしまう。
反対に魔力ではなく技術面のスキルを駆使して戦う剣士であれば、魔力の収束は起きにくいためオオツノジカに気づかれにくくなり、さらに高レベルの瞬足スキルを持っている者であれば、物陰から一気に近づいて仕留めることができる。
「べつに俺だけ知っていることではありませんから自慢にはなりません。依頼内容のチェックや依頼受付をしている他の職員でも知っていることです。何より最後の俊足スキルのレベルが高くなければ、やはり獲物には逃げられてしまいます」
だから何でもないことなのだと話したのだが、ディルグラートの認識はそうではないらしい。
「数多いる冒険者たちの力量把握と同じで、俺の実力を考慮してのアドバイスか。確かにここに来るまでに一度遭遇したモンスターを俺が俊足のスキルを使って倒したが、あれをレイ殿は覚えていたのだな。たかが受付と言うのは簡単だが奥が深い。アンフェルディス殿がダンジョン調査のPTにレイ殿を同行させた理由が分かった気がする」
「へー、レイって本当に色んなことを知っているのね」
「ハハハ、大げさですよ。ほとんど冒険者の方々が俺に教えてくれたことですから」
嘘は言っていない。冒険者ギルドにやってきて、どの依頼を受けようか迷っていたり、時間つぶしをしている冒険者たちと受付職員が話す機会は多い。
(シカの生息地と好物を用意しただけで、ここまで褒められるとは………)
その中で知りえた情報で、ディルグラートだけでなくレースウィックにまで持ち上げられるとさすがに素で照れてしまう。
しかし、アンフェルディスに数字で見られているとなると、どこまでアドバイスをしていいものか迷ってしまう。
もしかすると、言い過ぎないように気を付けていたつもりだったが、冒険者のためにと、本来の受付職員では知らないような余計な情報を教えていたのかもしれない。
アンフェルディスはその数字とやらを俺に見せてはくれないだろう。
今後はより警戒して情報やアドバイスをしようと肝に念じることにした。
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