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プロローグ
1 捕囚ゲームにログインします
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半年前、世界的人気であったVRMMOバーチャルオンラインゲーム『Adelcrisis 』で、同時刻ログインしていたプレイヤーたちが一斉にログアウトできなくなった。
VRヘッドセットを外しても意識は目覚めることなく昏々と眠り続ける。その代わりVRMMO運営会社が管理するサーバーとログイン情報には、眠り続ける人々のキャラ名にログインが表示され続けた。
被害者数は全世界で10万人以上にものぼり、被害額は天文学的数字になったという。
しかし、不幸中の幸いか、死者は1人もでていなかった。ログインできなくなったゲームの中で死ぬと、ゲームに囚われていた人は現実で意識を取り戻し、ゲーム中の出来事を口々に話したが、全ての帰還者に共通している点があった。
自分はアデルクライシスの世界の住人として生きていたと。
現実世界の記憶を全て忘れ、ゲームの世界で生まれ育ち、商人として、騎士として、冒険者として、赤子として生まれ育った記憶と共にゲームの世界で確かに生きていたと。
だから誰もオンラインゲームに取り込まれた自身を悲観し、自殺しようとは思わなかったと。
そのアデルクライシスに自分(黒崎ユイ)はこれからログインしようとしている。
ログイン後、現実の記憶を保っていられるかは分からない。他の被害者たちのように記憶を全て失い、偽りの記憶を刷り込まれて完全にアデルクライシスの住人になってしまう可能性の方が高い。
本来ならばアデルクライシスのサーバーは継続稼動していても、常に閉じられ、誰も外部からアクセスできない。
しかし自分の兄から半年前に手渡されたUSBを接続することで、封鎖されたゲームにログインできることに気付いたのは3ヶ月前である。
(手渡されたときは、自分に何かあったときの保険受け取りとかマンションのこととか、お葬式の手続きに必要なデータがまとめてあるからって、冗談めかして言ってたけど………、全部真っ赤な嘘じゃない!相続関連のことなんて1文字も書いてなかったわよ!)
キャラデータに気づいた時の驚きは表現のしようがなく、思い出すだけでも怒りがこみあげてくる。
けれど兄の存在を確信した瞬間でもあった。
(私には兄さんがいた。絶対にいたんだ)
10歳以上年の離れた兄(啓一郎)は、交通事故で両親を亡くし、まだ小学生だった子供だったユイの親代わりになって大学にも出してくれた。大手ゲーム会社に勤め、『アデルクライシス』のメインプログラマーとして朝から晩まで働いていたのだ。
なのに―――半年前の事件の日を境に、啓一郎は忽然と消えた。
ユイ以外、啓一郎を誰一人覚えておらず、勿論戸籍や住民票もない。
同じマンションの一室で暮らしていたはずなのに、啓一郎の私物は家の中から服も歯ブラシもキレイに消えている。勤めていたはずのゲーム会社を何度も訪ねても、そんな人物は社員にはいないの門前払いだった。
そして啓一郎の存在を証明するものは、事件直前に渡されたUSB1つのみ。
消えた啓一郎がユイをサーバー閉鎖されたアデルクライシスへ誘っているようにも思える。
このUSBの存在がなければユイも啓一郎の存在を疑問視し、自分の頭がおかしいのかと、今頃精神病に通っていたかもしれない。
事件が半年経った今頃、国や大きな企業でもない個人が、アデルクライシスにログイン出来る者がいるとは誰も考えないだろう。
啓一郎が消えて1人暮らしになった自分は誰にも気付いてもらえず肉体が死んでしまうかもしれない。そうならないように、友人に今日の15時に家に必ず来て欲しいと頼んである。
なぜ封鎖されたアデルクライシスのサーバーへ、外部から接続しログインできたのか、経緯を書いた手紙も残した。2年前に就職した会社には、明日からの有給をとって、出来る限りの業務引継ぎはしておいた。
急に自分がいなくなっても迷惑は最小限に抑えられるだろうと心配するあたり日本人気質なのかもしれない。
(ここまで来たんだもの!これでおじけづいたら女が廃るわ!よし!ログインしよう!)
USBをVRヘッドセットに接続しアデルクライシスを起動する。本来ならエラー表示。けれど、エラー表示になることなく、半年前と変らないログイン画面が表示される。
ユイ自身、学生時代は実の兄が開発運営に携わっているゲームということで興味を持ち、例に漏れず半廃人になるまで寝食を忘れてアデルクライシスに没頭した。
社会人になってゲームする時間は限られるためライト勢に落ち着いていたのだが、アデルクライシスのプレイ歴は古株でゲームの仕様は熟知している方だろう。
一呼吸置いてから、ログインボタンを押す。
これから異常なゲームの世界に取りこまれると分かっていて、緊張で心臓が大きく脈打っている音が耳にまで反響して煩い。
アデルクライシスは1アカウントで3キャラまで作ることが出来る。ログインした次はどのキャラでプレイするか選択画面が出るのだが、
(1キャラだけ?レベルはカンストしてるみたいだけど………)
『Ciel Levinson 』の名前とLVだけ表示されたキャラは、啓一郎が用意したキャラだろうか。
出来れば使い慣れた自キャラがよかったが我侭は言っていられない。疑いはあってもこのキャラでログインするしかない。
意を決してユイが『シエル・レヴィンソン』を選択した途端、意識がプツリと途切れた。
=======================
【console.log】
構築中の異世界で良き旅を シエル・レヴィンソン
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VRヘッドセットを外しても意識は目覚めることなく昏々と眠り続ける。その代わりVRMMO運営会社が管理するサーバーとログイン情報には、眠り続ける人々のキャラ名にログインが表示され続けた。
被害者数は全世界で10万人以上にものぼり、被害額は天文学的数字になったという。
しかし、不幸中の幸いか、死者は1人もでていなかった。ログインできなくなったゲームの中で死ぬと、ゲームに囚われていた人は現実で意識を取り戻し、ゲーム中の出来事を口々に話したが、全ての帰還者に共通している点があった。
自分はアデルクライシスの世界の住人として生きていたと。
現実世界の記憶を全て忘れ、ゲームの世界で生まれ育ち、商人として、騎士として、冒険者として、赤子として生まれ育った記憶と共にゲームの世界で確かに生きていたと。
だから誰もオンラインゲームに取り込まれた自身を悲観し、自殺しようとは思わなかったと。
そのアデルクライシスに自分(黒崎ユイ)はこれからログインしようとしている。
ログイン後、現実の記憶を保っていられるかは分からない。他の被害者たちのように記憶を全て失い、偽りの記憶を刷り込まれて完全にアデルクライシスの住人になってしまう可能性の方が高い。
本来ならばアデルクライシスのサーバーは継続稼動していても、常に閉じられ、誰も外部からアクセスできない。
しかし自分の兄から半年前に手渡されたUSBを接続することで、封鎖されたゲームにログインできることに気付いたのは3ヶ月前である。
(手渡されたときは、自分に何かあったときの保険受け取りとかマンションのこととか、お葬式の手続きに必要なデータがまとめてあるからって、冗談めかして言ってたけど………、全部真っ赤な嘘じゃない!相続関連のことなんて1文字も書いてなかったわよ!)
キャラデータに気づいた時の驚きは表現のしようがなく、思い出すだけでも怒りがこみあげてくる。
けれど兄の存在を確信した瞬間でもあった。
(私には兄さんがいた。絶対にいたんだ)
10歳以上年の離れた兄(啓一郎)は、交通事故で両親を亡くし、まだ小学生だった子供だったユイの親代わりになって大学にも出してくれた。大手ゲーム会社に勤め、『アデルクライシス』のメインプログラマーとして朝から晩まで働いていたのだ。
なのに―――半年前の事件の日を境に、啓一郎は忽然と消えた。
ユイ以外、啓一郎を誰一人覚えておらず、勿論戸籍や住民票もない。
同じマンションの一室で暮らしていたはずなのに、啓一郎の私物は家の中から服も歯ブラシもキレイに消えている。勤めていたはずのゲーム会社を何度も訪ねても、そんな人物は社員にはいないの門前払いだった。
そして啓一郎の存在を証明するものは、事件直前に渡されたUSB1つのみ。
消えた啓一郎がユイをサーバー閉鎖されたアデルクライシスへ誘っているようにも思える。
このUSBの存在がなければユイも啓一郎の存在を疑問視し、自分の頭がおかしいのかと、今頃精神病に通っていたかもしれない。
事件が半年経った今頃、国や大きな企業でもない個人が、アデルクライシスにログイン出来る者がいるとは誰も考えないだろう。
啓一郎が消えて1人暮らしになった自分は誰にも気付いてもらえず肉体が死んでしまうかもしれない。そうならないように、友人に今日の15時に家に必ず来て欲しいと頼んである。
なぜ封鎖されたアデルクライシスのサーバーへ、外部から接続しログインできたのか、経緯を書いた手紙も残した。2年前に就職した会社には、明日からの有給をとって、出来る限りの業務引継ぎはしておいた。
急に自分がいなくなっても迷惑は最小限に抑えられるだろうと心配するあたり日本人気質なのかもしれない。
(ここまで来たんだもの!これでおじけづいたら女が廃るわ!よし!ログインしよう!)
USBをVRヘッドセットに接続しアデルクライシスを起動する。本来ならエラー表示。けれど、エラー表示になることなく、半年前と変らないログイン画面が表示される。
ユイ自身、学生時代は実の兄が開発運営に携わっているゲームということで興味を持ち、例に漏れず半廃人になるまで寝食を忘れてアデルクライシスに没頭した。
社会人になってゲームする時間は限られるためライト勢に落ち着いていたのだが、アデルクライシスのプレイ歴は古株でゲームの仕様は熟知している方だろう。
一呼吸置いてから、ログインボタンを押す。
これから異常なゲームの世界に取りこまれると分かっていて、緊張で心臓が大きく脈打っている音が耳にまで反響して煩い。
アデルクライシスは1アカウントで3キャラまで作ることが出来る。ログインした次はどのキャラでプレイするか選択画面が出るのだが、
(1キャラだけ?レベルはカンストしてるみたいだけど………)
『Ciel Levinson 』の名前とLVだけ表示されたキャラは、啓一郎が用意したキャラだろうか。
出来れば使い慣れた自キャラがよかったが我侭は言っていられない。疑いはあってもこのキャラでログインするしかない。
意を決してユイが『シエル・レヴィンソン』を選択した途端、意識がプツリと途切れた。
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【console.log】
構築中の異世界で良き旅を シエル・レヴィンソン
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