上 下
35 / 52
第2章:商会の始まり

第34話:ベルンハイム

しおりを挟む
 ベルンハイムの門が見えてきたとき、俺たちはほっと一息ついた。旅路は順調だったが、途中で魔狼の襲撃があったことを思い出すと、無事に到着できたことに感謝せざるを得ない。ルナが魔狼を追い払ってくれたおかげで、大事には至らなかったものの、危険は常に付きまとうことを改めて痛感した。

「ベルンハイムか……大きい街だな」

 門をくぐりながら俺はその規模に驚嘆した。石造りの壁がそびえ立ち、門を通る馬車や行商人の数も多い。市場も賑わい、街全体が活気に溢れているのが一目でわかる。

「タケルさん、無事に到着できましたね。これもあなたとルナのおかげです」

 商人のグレイが俺に声をかけ、安堵の表情を浮かべる。

「まあ、ルナがいなかったら、あの魔狼の襲撃でどうなってたかわかりませんからね。無事に着いて良かったです」

 俺がルナに目を向けると、彼女は満足そうに鼻を鳴らしていた。魔狼の襲撃を難なく切り抜けた彼女の力には、俺も何度救われたことか。

「それにしても、ベルンハイムはイストリアとは比べ物にならないくらい大きいですね」

「ええ、ここはこの地域最大の都市ですからね。市場の規模もかなり大きいですし、取引相手の数も段違いです。私の商会にとっても重要な拠点です」

 グレイの言葉に、俺もベルンハイムの重要性を感じる。この大きな都市でどれだけの取引が成立するのか、想像するだけでわくわくしてきた。

「さて、タケルさん。出発は明後日の朝に予定しています。それまでは、自由に過ごしてください。宿はすでに手配してありますので、ゆっくりお休みください」

 グレイはそう言ってから、案内してくれた宿へと向かった。俺も同じ宿に入り、受付でチェックインを済ませた。

「ふぅ……無事に着いてよかった」

 荷物を部屋に置き、俺はベッドに腰を下ろした。ルナも部屋の隅に座り、少しのんびりしている様子だ。

「明日は一日休みか。ベルンハイムの市場も少し見てみようかな」

 大都市ベルンハイムに来たからには、商材のリサーチをする絶好のチャンスだ。街を回り、新しい商材や市場の動きを確認して、今後の商売に役立てるつもりだ。

「ルナ、明日は少し街を探索しようか」

 ルナは軽く吠えて、同意してくれた。俺たちは次の日の活動に備えて、少し早めに休むことにした。

「明日が楽しみだな」

 そう呟きながら、俺はゆっくりと目を閉じた。

 翌朝、目覚めた俺はベルンハイムの朝の光が差し込む宿の窓辺に立ち、ゆっくりと深呼吸をした。旅の疲れはしっかりと取れており、今日は新たな商材探しに集中できそうだ。ルナも隣で伸びをして、準備万端の様子だ。

「さて、ルナ。今日はこの大都市ベルンハイムを探索してみよう」

 俺は身支度を整え、ルナと一緒に宿を出た。ベルンハイムの朝の市場は既に活気に満ちていた。行商人や商店主が商品を並べ、呼び込みの声が賑やかに響いている。俺はこの街でしか見られないような商品があるかどうか、目を光らせながら市場を歩いた。

「ベルンハイムの市場、やっぱり規模が違うな」

 俺は市場の喧騒の中で足を止め、辺りを見渡した。道沿いにずらりと並んだ店舗や屋台からは異国情緒溢れる香りや活気が漂い、見渡す限りの人々が絶え間なく行き交っている。イストリアの市場も賑やかだが、ここベルンハイムの市場はその規模や商品の多様さが圧倒的だ。

「イストリアでは見かけないものがたくさんあるな……」

 俺は商品を一つ一つ観察しながら、ルナを連れてゆっくりと歩き始めた。手作りの木製品や陶器類が上品に並び、どれも洗練された作りだ。特に木工職人たちが並べた椅子や宝石箱などの精巧な作品には目を引かれるものがある。

「これは……いいな」

 自然と俺の足は木工細工の店に向かっていた。手触りの良い椅子やテーブル、そして小物入れや宝石箱が並ぶ。俺は宝石箱を手に取り、じっくりと観察した。滑らかな木の質感、精巧な彫刻、そして手作業で丁寧に仕上げられた工芸品の美しさに思わず感心した。

「イストリアでは、こんな精巧な木工品は見かけないな……」

 俺は宝石箱を手に取り、価格を確認する。値札には2,500クラウンと書かれている。イストリアで扱うガラス食器や香辛料に加えて、こうした高級感のある木工品を取り扱うことで、新たな層の顧客を引き寄せることができるかもしれない。

「すみません、この宝石箱と椅子、小物入れをそれぞれサンプルとして一つずつ購入したいのですが」

 俺は店主に声をかけた。店主は見た目こそ無骨な男だが、その顔には職人としての自信が滲み出ている。

「もちろん、旦那様。サンプルとして一つずつですね。それなら宝石箱は2,500クラウン、椅子は3,000クラウン、小物入れは1,200クラウンでございます」

「それでお願いします」

 俺はそのまま代金を払い、それぞれのアイテムを受け取った。だが、配送の必要はない。俺には等価交換で得た「収納」スキルがあるのだ。商品をその場で収納にしまい、店主に微笑みかけた。

「手間をかけさせずにすみません。これで十分です」

「おお、それは便利なスキルですね。お気に召していただけたなら幸いです」

 店主は驚きつつもにこやかに応じ、取引はあっという間に終わった。

「よし、これで新しい商品が揃ったな」

 俺は収納に入れた商品を頭の中で確認しながら、イストリアの店の棚にこれらの商品が並ぶ光景を思い描いた。木工品は他の商品とはまた違う魅力がある。これがイストリアの顧客にどう受け入れられるか楽しみだ。

「ルナ、いい収穫があったな」

 俺が話しかけると、ルナは軽く尻尾を振り、興味津々でこちらを見上げた。彼女も新たな挑戦にワクワクしているのかもしれない。

「さて、これでイストリアに戻る準備は整った。カティアと相談して、うまく店舗運営を進めていかないとな」

 そう自分に言い聞かせながら、俺はベルンハイムの市場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

秘宝を集めし領主~異世界から始める領地再建~

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とした平凡なサラリーマン・タカミが目を覚ますと、そこは荒廃した異世界リューザリアの小さな領地「アルテリア領」だった。突然、底辺貴族アルテリア家の跡取りとして転生した彼は、何もかもが荒れ果てた領地と困窮する領民たちを目の当たりにし、彼らのために立ち上がることを決意する。 頼れるのは前世で得た知識と、伝説の秘宝の力。仲間と共に試練を乗り越え、秘宝を集めながら荒廃した領地を再建していくタカミ。やがて貴族社会の権力争いにも巻き込まれ、孤立無援となりながらも、領主として成長し、リューザリアで成り上がりを目指す。新しい世界で、タカミは仲間と共に領地を守り抜き、繁栄を築けるのか? 異世界での冒険と成長が交錯するファンタジーストーリー、ここに開幕!

絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります

真理亜
ファンタジー
有栖佑樹はアラフォーの会社員、結城亜理須は女子高生、ある日豪雨に見舞われた二人は偶然にも大きな木の下で雨宿りする。 その木に落雷があり、ショックで気を失う。気がついた時、二人は見知らぬ山の中にいた。ここはどこだろう? と考えていたら、突如猪が襲ってきた。危ない! 咄嗟に亜理須を庇う佑樹。だがいつまで待っても衝撃は襲ってこない。 なんと猪は佑樹達の手前で壁に当たったように気絶していた。実は佑樹の絶対防御が発動していたのだ。 そんな事とは気付かず、当て所もなく山の中を歩く二人は、やがて空腹で動けなくなる。そんな時、亜理須がバイトしていたマッグのハンバーガーを食べたいとイメージする。 すると、なんと亜理須のイメージしたものが現れた。これは亜理須のイメージ転送が発動したのだ。それに気付いた佑樹は、亜理須の住んでいた家をイメージしてもらい、まずは衣食住の確保に成功する。 ホッとしたのもつかの間、今度は佑樹の体に変化が起きて... 異世界に飛ばされたオッサンと女子高生のお話。 ☆誤って消してしまった作品を再掲しています。ブックマークをして下さっていた皆さん、大変申し訳ございません。

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢
ファンタジー
剣と魔法の世界に生まれた主人公は、子供の頃から何の取り柄もない平凡な村人だった。 盗賊が村を襲うまでは…。 成長したある日、狩りに出掛けた森で不思議な子供と出会った。助けてあげると、不思議な子供からこれまた不思議な力を貰った。 不思議な力を貰った主人公は、両親と親友を救う旅に出ることにした。 王道ファンタジー物語。

無限の成長 ~虐げられし少年、貴族を蹴散らし頂点へ~

りおまる
ファンタジー
主人公アレクシスは、異世界の中でも最も冷酷な貴族社会で生まれた平民の少年。幼少の頃から、力なき者は搾取される世界で虐げられ、貴族たちにとっては単なる「道具」として扱われていた。ある日、彼は突如として『無限成長』という異世界最強のスキルに目覚める。このスキルは、どんなことにも限界なく成長できる能力であり、戦闘、魔法、知識、そして社会的な地位ですらも無限に高めることが可能だった。 貴族に抑圧され、常に見下されていたアレクシスは、この力を使って社会の底辺から抜け出し、支配層である貴族たちを打ち破ることを決意する。そして、無限の成長力で貴族たちを次々と出し抜き、復讐と成り上がりの道を歩む。やがて彼は、貴族社会の頂点に立つ。

年代記『中つ国の四つの宝玉にまつわる物語』

天愚巽五
ファンタジー
一つの太陽と二つの月がある星で、大きな内海に流れる二つの大河と七つの山脈に挟まれた『中つ国』に興り滅んでいった諸民族と四つの宝玉(クリスタル)にまつわる長い長い物語。

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

処理中です...