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千年の終わり
巡る時
しおりを挟む「リュウロ様 何を見てるんですか?」
薄暗い書斎の机の上に現れた小さな黒猫は流暢に人の言葉を繰り出す
黒猫の目の前にいる金の髪の男は一見すると三十前後の年齢にしか見えない
「少し昔の書き付けを見ていただけだ」
リュウロと呼ばれた男は少し疎ましげに応える
「千年も生きてると やっぱボケるんですかねー?」
その言葉にさすがのリュウロも不機嫌な顔をした
リュウロをはじめ 長命なαは世界の事象に関わる役割を与えられる
この世界にはβだけが集まる普通の人間の世界とα、β、Ω が存在する獣人や妖怪と云われる世界が次元の狭間を隔てて存在しており、予定調和にない事件が起きないようリュウロが監視を行っていた
リュウロの目下の悩みは目の前にいる黒猫の元の飼い主『水無瀬 瑞稀』の事だ
どちらの世界の"普通の人"も自らの意思で双方の世界へ行き来は出来ない
万が一次元の歪みが出来て界を渡ったとしてもリュウロらによってスグに連れ戻されいわゆる怪現象と呼ばれるに過ぎない出来事として処理される
そう自在に行き来出来るのは役割を与えられたαだけ…のはず
だが件の『水無瀬 瑞稀』は自らの意思で界を渡り人の世界に行っては問題を起こしている…そして何より不思議な事はαではなくΩだという事、そしてΩは基本短命であるはずなのにα同様の長命である事だ
「リュウロ様 眉間に皺を寄せるといい男が台無しですよぅ?」
空気を全く読まない黒猫が呑気に言う言葉に更にリュウロはなおさらイラッとする
「奏…俺の事はいいから水無瀬を探して来い」
少し低い声で黒猫の名前を呼ぶ
呼ぶ名が無いと不便なために 黒猫に奏(かなで)と名付けたが言い得て妙だった
奏が水無瀬を呼ぶと必ず現れるからだ
「ひゃいっーっ分かりました~」
奏はボブっと尻尾の毛を膨らませて慌てて部屋を出て行った
「ふぅ…」
リュウロはその姿を横目で見やると小さくため息をつく。水無瀬が人の世界に現れるのは周期がある…そろそろ現れるだろう頃合だ
「もう千年か…」
永い間 水無瀬の事を有耶無耶にしていたが水無瀬の正体には心当たりがある。
確証はないが自分の役割を終える前にケリはつけなければいけない
思考をクリアにし、また古い書物に目を通しはじめる
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