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第5章
最終話
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「ヒデちゃん、お帰り~」
「ただいま」
「パァパ」
……!
壮悟が……息子が、ついに。
「壮ちゃん、ママは? まぁま」
「ママァ」
「壮ちゃん、お利口さん! 亜衣。ウチの子、天才じゃない!?」
「ヒデちゃん……今さら、そんなこと言ってるの? 当たり前でしょ?」
「亜衣……じゃなかった。ママ、これから壮悟の前では、こう呼ぶな」
「そうだね~。パパ、嬉しいね!」
パァとかマァ。バァとかジィとかは前から言えていたのだが、きちんと『パパ』『ママ』と発音してくれたのは、実はこれが初めてだった。
最近、トムの影響か『ニャ~』とか『ニャニャ』と、しょっちゅう言っていたのが良かったのかもしれない。
大切なものを護る。
口で言うだけなら簡単だが、それは今や非常に重たい言葉だ。
ただそれだけを目標に努力して来たことが、今こうして報われた気がする。
……我ながら酷く単純だけれど。
◆
亜神達の誘いを断ってから数日。
スタンピードによって攻め込まれた結果……歪いびつに入り組んだ状態のまま固定された領域を、最低限スタンピード以前の状態に戻すべく皆が皆、忙しく動き回っていた。
子ダンジョン、孫ダンジョンの付近にはイレギュラーの出現も多く、自警団の面々だけに任せておくわけにもいかず、必ず誰かしらが同行するか、あるいはオレ達が単独ないし少人数の攻略パーティを編成して動くことで、対策している。
最も単独で動く機会が多かったのは、恐らくは右京君だろう。
アジ・ダハーカ戦に参戦していないにも拘わらず、参戦したメンバーと大して変わらないレベルまで自身が強くなってしまったことに、右京君は忸怩たる思いが有るようだ。
同じ境遇の父は、さほど気にしていない様に見えるから、このあたりは恐らく本人達の性格の問題なのだろう。
『兄の気の済むようにさせてやりましょう』とは、沙奈良ちゃんの言葉だが、素っ気ないように聞こえるこのセリフを口にした時の沙奈良ちゃんの顔は、今まで見たことも無いほど辛そうだった。
その沙奈良ちゃんだが、アジ・ダハーカ戦後に例のスキルのレベルが上昇。
スキル性能の不安定だった部分が、これによってかなり改善されたという話だ。
『1年後の生存確率53パーセント』
アジ・ダハーカ戦以前はこれが僅か10パーセント前後だったらしい。
もっと言うなら、オレがオーガから沙奈良ちゃんと右京君を救う以前……つまりは柏木さん達が引っ越して来る以前のそれは5パーセントも無かったというから恐ろしい話だ。
沙奈良ちゃん本人の行動によって、常にこの数値が変動していく。
いくら自分なりに努力しても、中々この数値が上がらない。
……実は怖くて堪らなかったらしい。
それはそうだろう。
よく今まで独り耐えて来たものだ。
今のところオレにしか話せていないのだというが、確かにこれは話したくても話しにくいと思う。
のほほんとした部分の有った右京君が鬼気迫る様子になったかと思えば、いつも何かと気を張っていた沙奈良ちゃんから危うげなところが無くなった。
良くも悪くもバランスの良い兄妹だ。
ちなみに右京君が必死になったせいか、沙奈良ちゃんの生存確率の数値は1パーセント好転したらしい。
兄妹と言えば……オレの兄は毎晩ご機嫌だ。
当面の脅威は去った。
それどころかアジ・ダハーカおよびヴリトラを打倒したことで、オレ達が今さら生半可なモンスターに敗れる可能性は極めて低いと言える。
日中は誰よりも率先して自警団メンバーの護衛に就いている兄だが、夜は好きな酒を文字通り浴びるほど飲むようになったのだ。
禁酒とまではいかないが、今までかなり自制していた反動なのだろう。
例の酒を無限に造り出す『聖杯』とダンジョンから得られる豊富な食材ありきの贅沢だ。
その兄に言わせると『酒に酔っている気分は味わえるが、本当に酔っぱらうことは出来ない身体になっちまった。便利っちゃ便利だけど寂しいもんだな』……だそうな。
年齢のせいか、めっきり酒に弱くなっていた父は純粋に喜んでいるが、酔っぱらうこと自体も好んでいたフシの有る兄にとっては確かに物足りないのかもしれない。
エネアとトリアには本人達の望む環境を用意した。
エネアにはド田舎ダンジョンに広大かつ多様性に溢れる森を……トリアには清浄この上無い水量豊かな泉を観音像ダンジョンに。
あくまでもダンジョン内だから仮初めの楽園だが、姉妹それぞれに感謝してくれている。
今のところは余裕が有るから好きなだけそこで過ごしてくれても良いと言ってあったのだが、日中は相変わらずオレ達に付き合ってくれている。
初めは退屈しのぎに過ぎなかった筈なのに、気付けばいつの間にか、それが当たり前になってしまったらしい。
今さら元の様に暮らすのは本人達も望んでいないということなので、有り難く協力を続けてもらっている。
逆にカタリナとクリストフォルスは、あれ以来は我が道を歩んでいる。
カタリナという後継者を見つけたクリストフォルス。
クリストフォルスという師匠に恵まれたカタリナ。
今は僅かな時間も惜しいらしい。
ただしカタリナは、かなり亜衣と沙奈良ちゃんの干渉を受けてもいる。
寝食を忘れ研究に没頭するカタリナの悪癖は、それこそ死んでも直らなかった。
せっかく奇跡的に再び生を取り戻したのに、またカタリナが死んでしまったら……。
そう考えた亜衣と沙奈良ちゃんによって、カタリナの寝食は厳しく管理されている。
そのせいか最近は生き返ってからも僅かに蒼白かった顔色が、非常に良くなってきた。
一方のクリストフォルスにも変化が現れている。
身長が僅かに伸びたのだ。
もしかすると、もしかするかもしれない。
ちなみに、ほんの少しだけ人嫌いが直った気がする。
マチルダは、ある意味で一番アジ・ダハーカ戦以前と行動が変わらないかもしれない。
積極的にオレ達と行動を共にしてくれているし、探索中もそれ以外の場面でも精力的に地域の人々との関係性を改善しようとしているのが分かる。
マチルダのお陰で、カタリナやエネア達が受け入れられている部分は大きいと思う。
しかし……オレは気付いてしまっている。
右京君ほどでは無いが、マチルダもまた悔しい想いを抱えていることに。
アジ・ダハーカから奪った力は、マチルダを驚異的なまでに強くしたし、何なら近接戦闘においてはオレや兄、亜衣と比較してもひけをとらない水準にまで成長した。
後半戦……特にヴリトラ戦では、マチルダにかなり助けられたと思っている。
マチルダが納得していないのは、その過程だろう。
アジ・ダハーカ戦でのマチルダは、確かに決して目立っていなかった。
アジ・ダハーカ戦を経て急激に成長したマチルダだが、本人の努力で得た力だと思っていないのは見ていて明らかだ。
マチルダはきっと、そのうち誰よりも強くなる。
……そんな気がする。
さてトムだ。
ついにシッポが9本になったことで、自信満々なトム。
本音としては、早く帰ってお嫁さん探しがしたいらしい。
そのあたりを聞いた時は『我輩モテモテ間違い無しなのですニャー』と言っていたものだが、すぐに『主様のお陰ニャので、一生を懸けて恩返しするつもりですニャ』とも言ってくれた。
ある意味、分かりやすくて良い。
どちらも本音と言えば本音なのだろう。
トムのモテ期はいつになるのか。
……ちなみにエマには盛大にフラれたらしい。
エマ、もうお婆ちゃん猫だぞ?
それ以前にケット・シーですらないし。
本当に故郷に帰ったらモテるのか、甚だ疑問ではある。
◆ ◆ ◆
『今回も、どうやら楽勝ですニャー』
「トムちゃん、まだ分からないよ~?」
「でも、確かにこのまま日付が変わりそうです。危険な可能性も無さそうですね」
「沙奈良ちゃんが言うんなら、間違い無さそうだね~」
「確かにな」
『我輩もそう思うのですニャ』
あれから何度かのスタンピードを乗り越えている。
今回も無事に済みそうだ。
亜神達からの干渉は、あれ以来無い。
それが却って不気味では有る。
……と、どうやらお出ましの様だ。
『お久しぶり~。元気だった? って、まぁ見たら分かるけどね。本題から言うね。キミがどうしたいか、選ばなくてはならない時が迫っているよ。そろそろ……保たないんだ。助けて欲しい。今すぐで無くても良い。今すぐで無くても良いから、ボクと一緒に来て欲しい。そうじゃないと護れそうにないんだ……』
「そっか、なら行く。さすがに今すぐじゃないけどな」
『そうだよね。こんなにキミ達の世界を荒らしておいて……って良いのかい!? 決着が付くまでは帰って来られないんだよ?』
「あぁ。お前達のためじゃ無いぞ? あくまでも護るため、な。いよいよヤバくなったのなら力を貸すさ」
そう。
あくまでもオレは、オレの護りたいもののために動く。
そのためなら、たとえ一時的に世界を移動することになったとしても。
『恩に着るよ! まだ数日は大丈夫だと思う。なるべくギリギリにならない様に迎えに来るから』
「分かった」
初めから、そこに居なかったかのように姿を消した亜神。
気付いた時には、今回のスタンピードも終わりの時間を迎えていた。
さぁ、覚悟はしておこう。
勝手に決めたワケじゃない。
こうなる可能性は亜衣とも、兄とも話し合っていた。
だからこそ即答出来た。
問題は……
「なるべく早く帰って来てね? 待ってるから」
……命に替えても、などとは決して口に出来ないことだよな。
やるからには護りきろう。
そして必ず生きて帰ろう。
オレと、オレの大切な人達のためにも。
「ただいま」
「パァパ」
……!
壮悟が……息子が、ついに。
「壮ちゃん、ママは? まぁま」
「ママァ」
「壮ちゃん、お利口さん! 亜衣。ウチの子、天才じゃない!?」
「ヒデちゃん……今さら、そんなこと言ってるの? 当たり前でしょ?」
「亜衣……じゃなかった。ママ、これから壮悟の前では、こう呼ぶな」
「そうだね~。パパ、嬉しいね!」
パァとかマァ。バァとかジィとかは前から言えていたのだが、きちんと『パパ』『ママ』と発音してくれたのは、実はこれが初めてだった。
最近、トムの影響か『ニャ~』とか『ニャニャ』と、しょっちゅう言っていたのが良かったのかもしれない。
大切なものを護る。
口で言うだけなら簡単だが、それは今や非常に重たい言葉だ。
ただそれだけを目標に努力して来たことが、今こうして報われた気がする。
……我ながら酷く単純だけれど。
◆
亜神達の誘いを断ってから数日。
スタンピードによって攻め込まれた結果……歪いびつに入り組んだ状態のまま固定された領域を、最低限スタンピード以前の状態に戻すべく皆が皆、忙しく動き回っていた。
子ダンジョン、孫ダンジョンの付近にはイレギュラーの出現も多く、自警団の面々だけに任せておくわけにもいかず、必ず誰かしらが同行するか、あるいはオレ達が単独ないし少人数の攻略パーティを編成して動くことで、対策している。
最も単独で動く機会が多かったのは、恐らくは右京君だろう。
アジ・ダハーカ戦に参戦していないにも拘わらず、参戦したメンバーと大して変わらないレベルまで自身が強くなってしまったことに、右京君は忸怩たる思いが有るようだ。
同じ境遇の父は、さほど気にしていない様に見えるから、このあたりは恐らく本人達の性格の問題なのだろう。
『兄の気の済むようにさせてやりましょう』とは、沙奈良ちゃんの言葉だが、素っ気ないように聞こえるこのセリフを口にした時の沙奈良ちゃんの顔は、今まで見たことも無いほど辛そうだった。
その沙奈良ちゃんだが、アジ・ダハーカ戦後に例のスキルのレベルが上昇。
スキル性能の不安定だった部分が、これによってかなり改善されたという話だ。
『1年後の生存確率53パーセント』
アジ・ダハーカ戦以前はこれが僅か10パーセント前後だったらしい。
もっと言うなら、オレがオーガから沙奈良ちゃんと右京君を救う以前……つまりは柏木さん達が引っ越して来る以前のそれは5パーセントも無かったというから恐ろしい話だ。
沙奈良ちゃん本人の行動によって、常にこの数値が変動していく。
いくら自分なりに努力しても、中々この数値が上がらない。
……実は怖くて堪らなかったらしい。
それはそうだろう。
よく今まで独り耐えて来たものだ。
今のところオレにしか話せていないのだというが、確かにこれは話したくても話しにくいと思う。
のほほんとした部分の有った右京君が鬼気迫る様子になったかと思えば、いつも何かと気を張っていた沙奈良ちゃんから危うげなところが無くなった。
良くも悪くもバランスの良い兄妹だ。
ちなみに右京君が必死になったせいか、沙奈良ちゃんの生存確率の数値は1パーセント好転したらしい。
兄妹と言えば……オレの兄は毎晩ご機嫌だ。
当面の脅威は去った。
それどころかアジ・ダハーカおよびヴリトラを打倒したことで、オレ達が今さら生半可なモンスターに敗れる可能性は極めて低いと言える。
日中は誰よりも率先して自警団メンバーの護衛に就いている兄だが、夜は好きな酒を文字通り浴びるほど飲むようになったのだ。
禁酒とまではいかないが、今までかなり自制していた反動なのだろう。
例の酒を無限に造り出す『聖杯』とダンジョンから得られる豊富な食材ありきの贅沢だ。
その兄に言わせると『酒に酔っている気分は味わえるが、本当に酔っぱらうことは出来ない身体になっちまった。便利っちゃ便利だけど寂しいもんだな』……だそうな。
年齢のせいか、めっきり酒に弱くなっていた父は純粋に喜んでいるが、酔っぱらうこと自体も好んでいたフシの有る兄にとっては確かに物足りないのかもしれない。
エネアとトリアには本人達の望む環境を用意した。
エネアにはド田舎ダンジョンに広大かつ多様性に溢れる森を……トリアには清浄この上無い水量豊かな泉を観音像ダンジョンに。
あくまでもダンジョン内だから仮初めの楽園だが、姉妹それぞれに感謝してくれている。
今のところは余裕が有るから好きなだけそこで過ごしてくれても良いと言ってあったのだが、日中は相変わらずオレ達に付き合ってくれている。
初めは退屈しのぎに過ぎなかった筈なのに、気付けばいつの間にか、それが当たり前になってしまったらしい。
今さら元の様に暮らすのは本人達も望んでいないということなので、有り難く協力を続けてもらっている。
逆にカタリナとクリストフォルスは、あれ以来は我が道を歩んでいる。
カタリナという後継者を見つけたクリストフォルス。
クリストフォルスという師匠に恵まれたカタリナ。
今は僅かな時間も惜しいらしい。
ただしカタリナは、かなり亜衣と沙奈良ちゃんの干渉を受けてもいる。
寝食を忘れ研究に没頭するカタリナの悪癖は、それこそ死んでも直らなかった。
せっかく奇跡的に再び生を取り戻したのに、またカタリナが死んでしまったら……。
そう考えた亜衣と沙奈良ちゃんによって、カタリナの寝食は厳しく管理されている。
そのせいか最近は生き返ってからも僅かに蒼白かった顔色が、非常に良くなってきた。
一方のクリストフォルスにも変化が現れている。
身長が僅かに伸びたのだ。
もしかすると、もしかするかもしれない。
ちなみに、ほんの少しだけ人嫌いが直った気がする。
マチルダは、ある意味で一番アジ・ダハーカ戦以前と行動が変わらないかもしれない。
積極的にオレ達と行動を共にしてくれているし、探索中もそれ以外の場面でも精力的に地域の人々との関係性を改善しようとしているのが分かる。
マチルダのお陰で、カタリナやエネア達が受け入れられている部分は大きいと思う。
しかし……オレは気付いてしまっている。
右京君ほどでは無いが、マチルダもまた悔しい想いを抱えていることに。
アジ・ダハーカから奪った力は、マチルダを驚異的なまでに強くしたし、何なら近接戦闘においてはオレや兄、亜衣と比較してもひけをとらない水準にまで成長した。
後半戦……特にヴリトラ戦では、マチルダにかなり助けられたと思っている。
マチルダが納得していないのは、その過程だろう。
アジ・ダハーカ戦でのマチルダは、確かに決して目立っていなかった。
アジ・ダハーカ戦を経て急激に成長したマチルダだが、本人の努力で得た力だと思っていないのは見ていて明らかだ。
マチルダはきっと、そのうち誰よりも強くなる。
……そんな気がする。
さてトムだ。
ついにシッポが9本になったことで、自信満々なトム。
本音としては、早く帰ってお嫁さん探しがしたいらしい。
そのあたりを聞いた時は『我輩モテモテ間違い無しなのですニャー』と言っていたものだが、すぐに『主様のお陰ニャので、一生を懸けて恩返しするつもりですニャ』とも言ってくれた。
ある意味、分かりやすくて良い。
どちらも本音と言えば本音なのだろう。
トムのモテ期はいつになるのか。
……ちなみにエマには盛大にフラれたらしい。
エマ、もうお婆ちゃん猫だぞ?
それ以前にケット・シーですらないし。
本当に故郷に帰ったらモテるのか、甚だ疑問ではある。
◆ ◆ ◆
『今回も、どうやら楽勝ですニャー』
「トムちゃん、まだ分からないよ~?」
「でも、確かにこのまま日付が変わりそうです。危険な可能性も無さそうですね」
「沙奈良ちゃんが言うんなら、間違い無さそうだね~」
「確かにな」
『我輩もそう思うのですニャ』
あれから何度かのスタンピードを乗り越えている。
今回も無事に済みそうだ。
亜神達からの干渉は、あれ以来無い。
それが却って不気味では有る。
……と、どうやらお出ましの様だ。
『お久しぶり~。元気だった? って、まぁ見たら分かるけどね。本題から言うね。キミがどうしたいか、選ばなくてはならない時が迫っているよ。そろそろ……保たないんだ。助けて欲しい。今すぐで無くても良い。今すぐで無くても良いから、ボクと一緒に来て欲しい。そうじゃないと護れそうにないんだ……』
「そっか、なら行く。さすがに今すぐじゃないけどな」
『そうだよね。こんなにキミ達の世界を荒らしておいて……って良いのかい!? 決着が付くまでは帰って来られないんだよ?』
「あぁ。お前達のためじゃ無いぞ? あくまでも護るため、な。いよいよヤバくなったのなら力を貸すさ」
そう。
あくまでもオレは、オレの護りたいもののために動く。
そのためなら、たとえ一時的に世界を移動することになったとしても。
『恩に着るよ! まだ数日は大丈夫だと思う。なるべくギリギリにならない様に迎えに来るから』
「分かった」
初めから、そこに居なかったかのように姿を消した亜神。
気付いた時には、今回のスタンピードも終わりの時間を迎えていた。
さぁ、覚悟はしておこう。
勝手に決めたワケじゃない。
こうなる可能性は亜衣とも、兄とも話し合っていた。
だからこそ即答出来た。
問題は……
「なるべく早く帰って来てね? 待ってるから」
……命に替えても、などとは決して口に出来ないことだよな。
やるからには護りきろう。
そして必ず生きて帰ろう。
オレと、オレの大切な人達のためにも。
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