269 / 312
第5章
第266話
しおりを挟む
トムのシッポが増えた。
特に強敵を撃破したとかでも無いのだが、恐らくは今までの蓄積が花開いた結果なのだろう。
ふと気付いたらトムから感じる魔力が飛躍的に上昇していて、シッポも6本になっていたのだ。
朝イチで位階の上がったトムのテンションは、一気に最高潮に達した。
第42層は、ほぼトムが単独で踏破したようなものだったぐらいだ。
「トムちゃん、良かったね~」
『アイ様、我輩……ついに一族の伝説に残る王を超えたのですニャ! 主様、本当にありがとうございますニャー』
「良かったな、トム。でも、ここまで強くなれたのはトムが頑張ってたからだろ。いつも、ありがとうな」
「おとぎ話の中に出てくる『トム』がファイブテールだったわね。凄いじゃない、トム」
「それ、前から思ってたんだけどさ……そっちじゃ有名な話なのか? トリアもカタリナも『ケット・シーならトムで決まり』っていうから、そっちじゃそんなもんなのかぐらいで深く考えてなかったけど」
ついでに言えばエネアもマチルダも、トムの名前を最初に聞いた時、深く納得したかのように頷いていた。
こちらで言うところの……『ネコならタマ』みたいなもんなのだろうか?
『ウニャ、我輩もそれ気になってたのですニャー』
「私も~」
「元の世界では有名なおとぎ話よ。心優しい男の子と仲良くなった猫が、ゴブリンの群れに大怪我をさせられた男の子の仇討ちを成功させたことがきっかけで、世界で初めてのケット・シーになるの。その後も知恵と勇気を振り絞って格上を倒しては尾を増やしていく……そんなお話ね」
……ちょっと面白そうな話だ。
『我輩の一族の伝説と似てますニャー。ゴブリンじゃなくて、コボルトってことになってた筈ですけどニャ』
「そうなってる話も有った筈よ。ファイブテールに至るまでに倒した相手も、ちょくちょく変わるもの。男の子の種族もドワーフだったり、エルフだったり……ね」
「なるほどな……実話を元に各地で脚色されて、色んな話が残ってるのかもしれないな」
「ふーん。じゃあ、もしかしたらトムちゃんのご先祖様も、おんなじ名前だったってことなのかな?」
『そうだとしたら嬉しい限りなのですニャ』
「興味深い話だけど……そろそろ行こうか? まだまだ先も長いしな」
ボスの居なくなったボス部屋だからこそ、ゆっくりしていられただけの話で、まだ疲れてもいないのに、あまり長居するのも好ましくないだろう。
亜衣も、トリアも、トムも、それぞれに了承の意を表明して歩き出した。
◆
このダンジョンの第61層。
この辺りは完全に前人未到の領域だ。
オレの知る限りでは53層のボスが手に負えなくて撤退……というのが最高到達記録の筈だから、既に大きく記録を塗り替えていることになる。
もちろん、これまでの最高到達記録はあくまで『魔法無し』でのものなので、そうした意味では同列に語るべきものでは無いのかもしれない。
しかし、オレ達だって自衛隊所属の探索者パーティが持っていたような最新鋭の火器を所持しているわけでは無いのだから、そういった意味でも比較しにくい話であることは間違いないだろう。
人数も全く違う。
あちらは複数のパーティを動員しての、いわゆるレイド構成で、こちらはたったの4人(?)だ。
問題は、そんな少人数で人跡未踏の高難度ダンジョンに挑んでいること……それ自体だった。
曲がりなりにも先人がクリアした実績のある階層とは、全く比べ物にならないほどのモンスターの密度。
普通のダンジョンなら、階層ボスや守護者になっていてもおかしくないほどの強敵がウジャウジャ居る。
それでも先ほどまでは、さほど変わらないペースで攻略を進められていたのだが、この61層に足を踏み入れた途端、ついにオレ達も余裕綽々とまではいかなくなっていた。
『ニャニャ! アイ様、そっちに1体行ったのですニャ!』
「おっと! ありがと、トムちゃん。おかげで間に合ったよ」
「あぁ、もう! 何で効かないのよ!」
「トリア、冷静にな。どれかは必ず効くから」
先ほどからオレ達が苦戦を強いられている相手はリビングドール。
つまりは生きた人形だ。
キューピッドを模した、羽根の生えた極小サイズの人形達。
魔法抵抗力が高いから……というよりは、敢えて弱点属性を自らに課す形で、他の属性の魔法を完全にシャットアウトしているように思える。
無属性魔法さえ非常に効きが悪いため、そもそもの魔法抵抗力も高いのだろう。
光、闇、風、火、土、水のどれかが弱点なのだが、弱点が個体ごとに違うため、範囲魔法で一網打尽というわけにも中々いかないのだ。
武器で倒した方がまだマシなのだが、身体がミツバチぐらいのサイズで密集せず分散して襲い掛かって来るため、どうしても討ち漏らしが出やすい。
いくらサイズが小さいからと言っても、こんな大量にモンスターを相手にした経験は、スタンピード時でさえ無かった。
コイツらと接敵する前に相手したモンスターも超一流の大物揃い。
リビングスタチュー(生きた石像)や、ゴーレム、ガーゴイルなどの材質もミスリルだったり、ダイヤモンドだったり、神使樹だったり、オリハルコンだったり……腐肉だったりした。
スペクター、リッチ、バンパイア、タキシム、ワイトなどのアンデッドモンスターも、余所で戦った個体より明らかに強く、果てはワイバーンやワーウルフ、トロルのような手強いモンスターがゾンビ化したモノまで出現する始末だ。
いよいよ本気で侵入者を排除しに来ている。
そう感じずにはいられなかった。
それでも、オレ達は進まなくてはならない。
敵が強いのは好都合。
喰らえば喰らうほど、オレは……いや、オレ達は強くなれる。
強くなって……必ずこの先に待ち構えている死の運命さえも、残らず喰い破ってやるのだ。
『あ……主様、危ない!』
まずは、このうるさい小バエどもからだな。
トムの警告が無ければ、今のは少し危なかったかもしれない。
集中、集中……。
いかにも何でも無い風を装いながら、急接近したリビングドールを槍の穂先に掛けたオレは、今度はトムの窮地を救うべく駆け出していた。
特に強敵を撃破したとかでも無いのだが、恐らくは今までの蓄積が花開いた結果なのだろう。
ふと気付いたらトムから感じる魔力が飛躍的に上昇していて、シッポも6本になっていたのだ。
朝イチで位階の上がったトムのテンションは、一気に最高潮に達した。
第42層は、ほぼトムが単独で踏破したようなものだったぐらいだ。
「トムちゃん、良かったね~」
『アイ様、我輩……ついに一族の伝説に残る王を超えたのですニャ! 主様、本当にありがとうございますニャー』
「良かったな、トム。でも、ここまで強くなれたのはトムが頑張ってたからだろ。いつも、ありがとうな」
「おとぎ話の中に出てくる『トム』がファイブテールだったわね。凄いじゃない、トム」
「それ、前から思ってたんだけどさ……そっちじゃ有名な話なのか? トリアもカタリナも『ケット・シーならトムで決まり』っていうから、そっちじゃそんなもんなのかぐらいで深く考えてなかったけど」
ついでに言えばエネアもマチルダも、トムの名前を最初に聞いた時、深く納得したかのように頷いていた。
こちらで言うところの……『ネコならタマ』みたいなもんなのだろうか?
『ウニャ、我輩もそれ気になってたのですニャー』
「私も~」
「元の世界では有名なおとぎ話よ。心優しい男の子と仲良くなった猫が、ゴブリンの群れに大怪我をさせられた男の子の仇討ちを成功させたことがきっかけで、世界で初めてのケット・シーになるの。その後も知恵と勇気を振り絞って格上を倒しては尾を増やしていく……そんなお話ね」
……ちょっと面白そうな話だ。
『我輩の一族の伝説と似てますニャー。ゴブリンじゃなくて、コボルトってことになってた筈ですけどニャ』
「そうなってる話も有った筈よ。ファイブテールに至るまでに倒した相手も、ちょくちょく変わるもの。男の子の種族もドワーフだったり、エルフだったり……ね」
「なるほどな……実話を元に各地で脚色されて、色んな話が残ってるのかもしれないな」
「ふーん。じゃあ、もしかしたらトムちゃんのご先祖様も、おんなじ名前だったってことなのかな?」
『そうだとしたら嬉しい限りなのですニャ』
「興味深い話だけど……そろそろ行こうか? まだまだ先も長いしな」
ボスの居なくなったボス部屋だからこそ、ゆっくりしていられただけの話で、まだ疲れてもいないのに、あまり長居するのも好ましくないだろう。
亜衣も、トリアも、トムも、それぞれに了承の意を表明して歩き出した。
◆
このダンジョンの第61層。
この辺りは完全に前人未到の領域だ。
オレの知る限りでは53層のボスが手に負えなくて撤退……というのが最高到達記録の筈だから、既に大きく記録を塗り替えていることになる。
もちろん、これまでの最高到達記録はあくまで『魔法無し』でのものなので、そうした意味では同列に語るべきものでは無いのかもしれない。
しかし、オレ達だって自衛隊所属の探索者パーティが持っていたような最新鋭の火器を所持しているわけでは無いのだから、そういった意味でも比較しにくい話であることは間違いないだろう。
人数も全く違う。
あちらは複数のパーティを動員しての、いわゆるレイド構成で、こちらはたったの4人(?)だ。
問題は、そんな少人数で人跡未踏の高難度ダンジョンに挑んでいること……それ自体だった。
曲がりなりにも先人がクリアした実績のある階層とは、全く比べ物にならないほどのモンスターの密度。
普通のダンジョンなら、階層ボスや守護者になっていてもおかしくないほどの強敵がウジャウジャ居る。
それでも先ほどまでは、さほど変わらないペースで攻略を進められていたのだが、この61層に足を踏み入れた途端、ついにオレ達も余裕綽々とまではいかなくなっていた。
『ニャニャ! アイ様、そっちに1体行ったのですニャ!』
「おっと! ありがと、トムちゃん。おかげで間に合ったよ」
「あぁ、もう! 何で効かないのよ!」
「トリア、冷静にな。どれかは必ず効くから」
先ほどからオレ達が苦戦を強いられている相手はリビングドール。
つまりは生きた人形だ。
キューピッドを模した、羽根の生えた極小サイズの人形達。
魔法抵抗力が高いから……というよりは、敢えて弱点属性を自らに課す形で、他の属性の魔法を完全にシャットアウトしているように思える。
無属性魔法さえ非常に効きが悪いため、そもそもの魔法抵抗力も高いのだろう。
光、闇、風、火、土、水のどれかが弱点なのだが、弱点が個体ごとに違うため、範囲魔法で一網打尽というわけにも中々いかないのだ。
武器で倒した方がまだマシなのだが、身体がミツバチぐらいのサイズで密集せず分散して襲い掛かって来るため、どうしても討ち漏らしが出やすい。
いくらサイズが小さいからと言っても、こんな大量にモンスターを相手にした経験は、スタンピード時でさえ無かった。
コイツらと接敵する前に相手したモンスターも超一流の大物揃い。
リビングスタチュー(生きた石像)や、ゴーレム、ガーゴイルなどの材質もミスリルだったり、ダイヤモンドだったり、神使樹だったり、オリハルコンだったり……腐肉だったりした。
スペクター、リッチ、バンパイア、タキシム、ワイトなどのアンデッドモンスターも、余所で戦った個体より明らかに強く、果てはワイバーンやワーウルフ、トロルのような手強いモンスターがゾンビ化したモノまで出現する始末だ。
いよいよ本気で侵入者を排除しに来ている。
そう感じずにはいられなかった。
それでも、オレ達は進まなくてはならない。
敵が強いのは好都合。
喰らえば喰らうほど、オレは……いや、オレ達は強くなれる。
強くなって……必ずこの先に待ち構えている死の運命さえも、残らず喰い破ってやるのだ。
『あ……主様、危ない!』
まずは、このうるさい小バエどもからだな。
トムの警告が無ければ、今のは少し危なかったかもしれない。
集中、集中……。
いかにも何でも無い風を装いながら、急接近したリビングドールを槍の穂先に掛けたオレは、今度はトムの窮地を救うべく駆け出していた。
0
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない
鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン
都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。
今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上
レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。
危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。
そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。
妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる