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第4章
第241話
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「まぁた、イレギュラーか……」
『どうも、そのようですニャ~』
『イレギュラーで御座いますか? それはいかなる意味なのでしょうや?』
オレとトムが結論に辿り着いて納得している中、アラクネだけはイレギュラーという言葉に聞き覚えが無いせいか、それとも言葉自体は理解していてもリッチとイレギュラーがどう繋がるのかが分かっていないようだった。
「今までのルール……法則に縛られずに出現しているモンスター。つまり常識から外れた魔物ってところかな」
『ですニャ』
『なるほど……それならば道理に合わぬ此度のことも全て辻褄が合うやもしれませぬな』
そう。
確かに道理に合わない。
まず、他のダンジョンの守護者では無いのは確かだ。
守護者だからといって、必ずしも【交渉】や【侵攻】というプロセスを飛ばして、他の守護者を襲う可能性が無いとまでは言い切れない。
言い切れはしないが……それにしても本拠地以外のダンジョンの守護者に収まっていたことまでは説明が出来ないのだ。
厳密に言うと……守護者が他の守護者から奪えるのは、あくまでも権限だけで他所のダンジョンの守護者になることまでは出来ない。
同時に元のダンジョンの守護者の座を放棄することも不可能だ。
当然、このダンジョン内でポップしたモンスターでも有り得ない。
守護者に対する反乱じみた行動に出ること自体が不可能なのなら、この可能性については考慮するまでも無いだろう。
最後にダンジョン外に生み出されたモンスターはどうか?
いわゆる『戻り』モンスターは通常なら、自我らしい自我を全く持っていないらしい。
それならば、そもそも守護者の座を奪うために行動する意思も理由も無い。
どうやらトムやアラクネは思い至らなかったようだが、自我は無くとも本能じみたモノに衝き動かされて守護者を襲うことは有るかもしれないのだが、先ほどのリッチは明らかにそうしたタイプでも無かった。
では何なのか?
そうした理の外にいる存在……つまりはイレギュラーとオレ達が呼んでいる者でしか有り得ないだろう。
実際、オレにも今回のリッチの行動について、他に辻褄の合う説明が出来そうに無かった。
『しかし物騒な話なのですニャー。今までのところ、我輩達が遭遇したイレギュラーな魔物は手強い者ばかりだったのですニャ。そんな連中が迷宮の守護者の座を貪欲に求めて蠢いているとなると……放っておいたら手がつけられないほどに位階を高めていってしまう輩が出てくるかもしれニャいのでは無いですかニャ?』
『左様で御座いますね。それに……おちおちしていたら寝首を掻かれるやもしれませぬゆえ、たとい守護者たりとも寸時も気が抜けなくなりまする』
「そうだな。今後はさらにダンジョンを攻略するペースを早めていく必要性があるだろう。それをするにしても、いちいちイレギュラーが立ち塞がるわけか……」
実際、ジャイアントワームやグリルスぐらいならまだしも、リッチやグリフォン、それから先日の大百足やグレーターデーモンのような強大なモンスターが、そこかしこに普通に出現するようではダンジョン攻略のペースを上げるどころの話では無いだろう。
イレギュラーの発生を食い止めるにはダンジョンを支配下に置いて、領域内でのモンスターの出現自体が起きない設定にしていくしかない。
それなのにダンジョンの攻略に際して、ダンジョン自体の難易度、周辺地域の発展度以外に考慮するべき事情が更に増えたことになる。
しかも出現頻度や出現するモンスターの格、それらに何の法則性も見えて来ないのだから、イレギュラーとはとことん困り者だ。
まだしも幸いなのは、個体数がそこまで多くないことぐらい。
それすらもスタンピード発生時にどうなるかまでは全く予想もつかないと来ている。
これは……やはり今のうちに後顧の憂いは取り除いておくべきか。
まずは、ひとまず安全な環境に居るからと特に手をこちらから差しのべずにしまっていた、親族達を迎え入れることからだ。
最大の懸念だった東京の妻の実家に行く手段は既に確保した。
例の大百足から手に入れた『スキル・アンプリファイアー』で【転移魔法】の効果を増幅すれば、余裕を持って往復出来る筈だ。
母と義姉の実家についてはマジックアイテムの助けを借りずとも、充分に行き来可能。
最悪、スタンピード期間中だけでも避難してもらえれば、それでも良いのだし……。
今までそれを出来ずにいた理由は、当の親族がそれを特に望んでいなかったことが最も大きいが、最早そうも言っていられない状況だろう。オレの【転移魔法】を周囲に公表するようなものかもしれないが、そんなリスクばかりを恐れて行動に移さずにいた結果、後悔する破目に陥っては目も当てられない。
もう1つの懸念は……仙台市内ではトップクラスの危険度と予想されている幾つかのダンジョンと、その周辺エリアのモンスター。
これを未だに放置してしまっていることだ。
イレギュラーモンスターは必ずしも規模の大きいダンジョンの周辺だったり、都市部のダンジョンの周辺ばかりに現れているわけではないし、そのダンジョン付近のモンスターの強さとの関連性も曖昧ではあるが、オレには何故かこれ以上の放置は危険なように思えて仕方なかった。
単なる勘かもしれない。
だが【直感】スキルの成せる業かもしれない。
その可能性が否定しきれない以上は、放置し続けた場合と攻略に乗り出した場合、どちらの危険性が上回る可能性が高いのかというと、放置し続けた場合の方が危ないということになるのだろう。
いまだにドラゴンや一部の巨人系モンスターには勝てる自信が無いのも事実だが、だからと言っていつまでも無視していられるわけではない。
恐らくはそう遠くないうちに今の安全地帯という概念は、無慈悲なルールの変更によって消えて無くなるのだろうし、その時に大量のドラゴンに襲われることになるよりは、自分から挑む方がまだマシというものだろう。
いよいよ覚悟を……決める時、か。
『どうも、そのようですニャ~』
『イレギュラーで御座いますか? それはいかなる意味なのでしょうや?』
オレとトムが結論に辿り着いて納得している中、アラクネだけはイレギュラーという言葉に聞き覚えが無いせいか、それとも言葉自体は理解していてもリッチとイレギュラーがどう繋がるのかが分かっていないようだった。
「今までのルール……法則に縛られずに出現しているモンスター。つまり常識から外れた魔物ってところかな」
『ですニャ』
『なるほど……それならば道理に合わぬ此度のことも全て辻褄が合うやもしれませぬな』
そう。
確かに道理に合わない。
まず、他のダンジョンの守護者では無いのは確かだ。
守護者だからといって、必ずしも【交渉】や【侵攻】というプロセスを飛ばして、他の守護者を襲う可能性が無いとまでは言い切れない。
言い切れはしないが……それにしても本拠地以外のダンジョンの守護者に収まっていたことまでは説明が出来ないのだ。
厳密に言うと……守護者が他の守護者から奪えるのは、あくまでも権限だけで他所のダンジョンの守護者になることまでは出来ない。
同時に元のダンジョンの守護者の座を放棄することも不可能だ。
当然、このダンジョン内でポップしたモンスターでも有り得ない。
守護者に対する反乱じみた行動に出ること自体が不可能なのなら、この可能性については考慮するまでも無いだろう。
最後にダンジョン外に生み出されたモンスターはどうか?
いわゆる『戻り』モンスターは通常なら、自我らしい自我を全く持っていないらしい。
それならば、そもそも守護者の座を奪うために行動する意思も理由も無い。
どうやらトムやアラクネは思い至らなかったようだが、自我は無くとも本能じみたモノに衝き動かされて守護者を襲うことは有るかもしれないのだが、先ほどのリッチは明らかにそうしたタイプでも無かった。
では何なのか?
そうした理の外にいる存在……つまりはイレギュラーとオレ達が呼んでいる者でしか有り得ないだろう。
実際、オレにも今回のリッチの行動について、他に辻褄の合う説明が出来そうに無かった。
『しかし物騒な話なのですニャー。今までのところ、我輩達が遭遇したイレギュラーな魔物は手強い者ばかりだったのですニャ。そんな連中が迷宮の守護者の座を貪欲に求めて蠢いているとなると……放っておいたら手がつけられないほどに位階を高めていってしまう輩が出てくるかもしれニャいのでは無いですかニャ?』
『左様で御座いますね。それに……おちおちしていたら寝首を掻かれるやもしれませぬゆえ、たとい守護者たりとも寸時も気が抜けなくなりまする』
「そうだな。今後はさらにダンジョンを攻略するペースを早めていく必要性があるだろう。それをするにしても、いちいちイレギュラーが立ち塞がるわけか……」
実際、ジャイアントワームやグリルスぐらいならまだしも、リッチやグリフォン、それから先日の大百足やグレーターデーモンのような強大なモンスターが、そこかしこに普通に出現するようではダンジョン攻略のペースを上げるどころの話では無いだろう。
イレギュラーの発生を食い止めるにはダンジョンを支配下に置いて、領域内でのモンスターの出現自体が起きない設定にしていくしかない。
それなのにダンジョンの攻略に際して、ダンジョン自体の難易度、周辺地域の発展度以外に考慮するべき事情が更に増えたことになる。
しかも出現頻度や出現するモンスターの格、それらに何の法則性も見えて来ないのだから、イレギュラーとはとことん困り者だ。
まだしも幸いなのは、個体数がそこまで多くないことぐらい。
それすらもスタンピード発生時にどうなるかまでは全く予想もつかないと来ている。
これは……やはり今のうちに後顧の憂いは取り除いておくべきか。
まずは、ひとまず安全な環境に居るからと特に手をこちらから差しのべずにしまっていた、親族達を迎え入れることからだ。
最大の懸念だった東京の妻の実家に行く手段は既に確保した。
例の大百足から手に入れた『スキル・アンプリファイアー』で【転移魔法】の効果を増幅すれば、余裕を持って往復出来る筈だ。
母と義姉の実家についてはマジックアイテムの助けを借りずとも、充分に行き来可能。
最悪、スタンピード期間中だけでも避難してもらえれば、それでも良いのだし……。
今までそれを出来ずにいた理由は、当の親族がそれを特に望んでいなかったことが最も大きいが、最早そうも言っていられない状況だろう。オレの【転移魔法】を周囲に公表するようなものかもしれないが、そんなリスクばかりを恐れて行動に移さずにいた結果、後悔する破目に陥っては目も当てられない。
もう1つの懸念は……仙台市内ではトップクラスの危険度と予想されている幾つかのダンジョンと、その周辺エリアのモンスター。
これを未だに放置してしまっていることだ。
イレギュラーモンスターは必ずしも規模の大きいダンジョンの周辺だったり、都市部のダンジョンの周辺ばかりに現れているわけではないし、そのダンジョン付近のモンスターの強さとの関連性も曖昧ではあるが、オレには何故かこれ以上の放置は危険なように思えて仕方なかった。
単なる勘かもしれない。
だが【直感】スキルの成せる業かもしれない。
その可能性が否定しきれない以上は、放置し続けた場合と攻略に乗り出した場合、どちらの危険性が上回る可能性が高いのかというと、放置し続けた場合の方が危ないということになるのだろう。
いまだにドラゴンや一部の巨人系モンスターには勝てる自信が無いのも事実だが、だからと言っていつまでも無視していられるわけではない。
恐らくはそう遠くないうちに今の安全地帯という概念は、無慈悲なルールの変更によって消えて無くなるのだろうし、その時に大量のドラゴンに襲われることになるよりは、自分から挑む方がまだマシというものだろう。
いよいよ覚悟を……決める時、か。
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