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第4章
第225話
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思っていたよりトムが戦力になってくれそうなのは良かった。
確かに直接的な戦闘力という意味では、他の面々には劣るかもしれないが、支援役ということなら活躍の機会は幾らでも有るだろう。
中でも『ケット・シーの爪跡』と呼ばれているらしいダンジョン内の隠し部屋の目印を見付け出す特技によって、有用な物を次々に発見出来るというのは非常に大きい。
さすがに、このダンジョンの隠し部屋は先ほどのもので最後だったらしいが、初めて行くダンジョンや、今までに攻略したダンジョンでも難易度の高かったダンジョンにトムを連れて行くことのメリットは計り知れないだろう。
……可愛いし。
◆
ダンジョン外のモンスターの掃討も、順調に進んでいる。
レッサードラゴンに関しては、ほぼオレとトリアの二人で倒しているような恰好では有るが、その他のモンスター退治ではカタリナはもちろん、トムも大いに活躍してくれていた。
ダンジョンの設定を変更したことで、ダンジョン外のモンスターに新手は現れなくなっている。
減らせば減らした分だけ、徐々にモンスターが少なくなっていくわけで、こうなると精神的にも体力的にも負担は目に見えて減っていく。
『主様……我輩、少しお腹が減っているのですニャ。干し肉のカケラとかでも良いので、何か貰えないですかニャ?』
「あれ? 魚じゃなくても良いのか?」
『魚は食べたことが無いですニャー。何しろ我輩、迷宮に呼び出される前は深い森の中に居ましたからニャ。魔素が並外れて濃いところで、獲物にも事欠かない素敵な住み処だったのですニャ。毛が濡れる危険を冒してまで川に居る魚を獲る必要性を感じなかったのですニャー』
所変われば品変わる……じゃないが、アメリカの猫なんかは魚に見向きもしないとか聞いた気もするし、猫なら必ず魚好きっていうわけでも無いのかもな。
「そっか。干し肉は(マチルダに)貰ったヤツが大量にあるから、空間庫にも入れといた筈……っと、これで良いか?」
『ありがとうございますニャ! これなら食べながらでも戦えるのですニャ』
どうやら本当に腹が減っていたらしい。
無意識なのか、ウニャウニャ言いながら干し肉を噛んでいる。
「……ねぇ、あそこ。魔素の揺らぎがあった気がするわ。気を付けましょ。新手の魔物が現れない筈なら今のあれは不自然に過ぎるわ」
トリアが緊張の弛緩しかけたオレ達に警鐘を鳴らす。
「トリア、どこ? 私には分からなかったわ」
「あそこの地面から生えた赤い箱の陰よ。奇襲を得意とする魔物かもしれない」
どうやらトリアが言っているのは、遠目に見えている郵便ポストのことらしい。
「あぁ、あれ? たまに見掛けるけど不思議な箱よね。隠蔽系の魔法を使って隠れているのか、そういう特殊能力持ちか……どっちにしても厄介な相手でしょうね。先制で一斉に魔法を放ちましょうか?」
確かに……何かが隠れているのが間違いないなら、むざむざ奇襲されに近付いてやる必要性は無い。
カタリナの提案はもっともだ。
お互いに目顔で合図し合って、タイミングをはかる。
トムの表情は少し分かりにくいが、その目付きは先ほど食料の無心をしていた時よりも真剣なものに変わっているように見えた。
トリアとカタリナは奇しくも同じく光の魔法。
精霊魔法と属性魔法の違いこそ有るが、威力はさほど変わらないように見えた。
オレは無属性の魔力波。
トムは一拍遅らせてから、風の精霊魔法を放っている。
オレ達の魔法は先を争う様に次々と着弾していき、その余波で郵便ポストは跡形も無くなってしまっていた。
これで無事なようなら、かなりの強敵に違いない。
『主様、来ますニャ! 右!』
トムの警告に一瞬遅れて【危機察知】が盛大に警報を鳴らし始める。
すんでのところで屈み込んで躱したが、先ほどまでオレの首が有った位置を正確に薙いだのは剣の様に長く伸びた鋭い爪。
体勢の崩れた敵の隙を突くようにトムが放ったチャクラムを、そちらを見もせずに真っ二つにしたのも同じ爪だった。
カタリナが両手に持った拳銃タイプの無属性砲で狙うが、着弾よりも早くその場を飛びのいている。
そしてそのまま天高く飛翔。
たちまち空気に溶け込む様に姿を掻き消してしまったが、オレはその姿を確かに見た。
黒豹のような頭部から生えた角は、まるでバッファローのもののように湾曲していて、その特徴的な頭部以外は人間とそう変わらない造形をしていたものの、背中には複数の翼が林立していて見た者には等しく禍々しい印象を与えることだろう。
翼の色は頭部と同じく漆黒。
見たことも聞いたことも無い姿だが、恐らくは高位の悪魔である可能性が高い。
「……あれは恐らくそれなりに高位の悪魔。単純な格で言えば先ほどの竜よりも間違い無く上位の存在よ。どうする? 一時撤退する?」
「隠蔽系の特技持ちだしね。トリアの言う通り、いったん撤退しても決して怯懦の謗りを受けるような相手では無いわよ?」
『アイツ、我輩を見て嗤ったのですニャ! 我輩、獲物として認識されていたのですニャー!』
こうまで仲間達が撤退を勧めてくる相手には、久しく出くわしていなかった。
先ほどもトムの警告が無ければ、回避が間に合って居なかった可能性も高い。
考えている暇も、それほど長く与えてくれるとは思えない。
すぐにでも決断する必要が有るだろう。
そして…………
確かに直接的な戦闘力という意味では、他の面々には劣るかもしれないが、支援役ということなら活躍の機会は幾らでも有るだろう。
中でも『ケット・シーの爪跡』と呼ばれているらしいダンジョン内の隠し部屋の目印を見付け出す特技によって、有用な物を次々に発見出来るというのは非常に大きい。
さすがに、このダンジョンの隠し部屋は先ほどのもので最後だったらしいが、初めて行くダンジョンや、今までに攻略したダンジョンでも難易度の高かったダンジョンにトムを連れて行くことのメリットは計り知れないだろう。
……可愛いし。
◆
ダンジョン外のモンスターの掃討も、順調に進んでいる。
レッサードラゴンに関しては、ほぼオレとトリアの二人で倒しているような恰好では有るが、その他のモンスター退治ではカタリナはもちろん、トムも大いに活躍してくれていた。
ダンジョンの設定を変更したことで、ダンジョン外のモンスターに新手は現れなくなっている。
減らせば減らした分だけ、徐々にモンスターが少なくなっていくわけで、こうなると精神的にも体力的にも負担は目に見えて減っていく。
『主様……我輩、少しお腹が減っているのですニャ。干し肉のカケラとかでも良いので、何か貰えないですかニャ?』
「あれ? 魚じゃなくても良いのか?」
『魚は食べたことが無いですニャー。何しろ我輩、迷宮に呼び出される前は深い森の中に居ましたからニャ。魔素が並外れて濃いところで、獲物にも事欠かない素敵な住み処だったのですニャ。毛が濡れる危険を冒してまで川に居る魚を獲る必要性を感じなかったのですニャー』
所変われば品変わる……じゃないが、アメリカの猫なんかは魚に見向きもしないとか聞いた気もするし、猫なら必ず魚好きっていうわけでも無いのかもな。
「そっか。干し肉は(マチルダに)貰ったヤツが大量にあるから、空間庫にも入れといた筈……っと、これで良いか?」
『ありがとうございますニャ! これなら食べながらでも戦えるのですニャ』
どうやら本当に腹が減っていたらしい。
無意識なのか、ウニャウニャ言いながら干し肉を噛んでいる。
「……ねぇ、あそこ。魔素の揺らぎがあった気がするわ。気を付けましょ。新手の魔物が現れない筈なら今のあれは不自然に過ぎるわ」
トリアが緊張の弛緩しかけたオレ達に警鐘を鳴らす。
「トリア、どこ? 私には分からなかったわ」
「あそこの地面から生えた赤い箱の陰よ。奇襲を得意とする魔物かもしれない」
どうやらトリアが言っているのは、遠目に見えている郵便ポストのことらしい。
「あぁ、あれ? たまに見掛けるけど不思議な箱よね。隠蔽系の魔法を使って隠れているのか、そういう特殊能力持ちか……どっちにしても厄介な相手でしょうね。先制で一斉に魔法を放ちましょうか?」
確かに……何かが隠れているのが間違いないなら、むざむざ奇襲されに近付いてやる必要性は無い。
カタリナの提案はもっともだ。
お互いに目顔で合図し合って、タイミングをはかる。
トムの表情は少し分かりにくいが、その目付きは先ほど食料の無心をしていた時よりも真剣なものに変わっているように見えた。
トリアとカタリナは奇しくも同じく光の魔法。
精霊魔法と属性魔法の違いこそ有るが、威力はさほど変わらないように見えた。
オレは無属性の魔力波。
トムは一拍遅らせてから、風の精霊魔法を放っている。
オレ達の魔法は先を争う様に次々と着弾していき、その余波で郵便ポストは跡形も無くなってしまっていた。
これで無事なようなら、かなりの強敵に違いない。
『主様、来ますニャ! 右!』
トムの警告に一瞬遅れて【危機察知】が盛大に警報を鳴らし始める。
すんでのところで屈み込んで躱したが、先ほどまでオレの首が有った位置を正確に薙いだのは剣の様に長く伸びた鋭い爪。
体勢の崩れた敵の隙を突くようにトムが放ったチャクラムを、そちらを見もせずに真っ二つにしたのも同じ爪だった。
カタリナが両手に持った拳銃タイプの無属性砲で狙うが、着弾よりも早くその場を飛びのいている。
そしてそのまま天高く飛翔。
たちまち空気に溶け込む様に姿を掻き消してしまったが、オレはその姿を確かに見た。
黒豹のような頭部から生えた角は、まるでバッファローのもののように湾曲していて、その特徴的な頭部以外は人間とそう変わらない造形をしていたものの、背中には複数の翼が林立していて見た者には等しく禍々しい印象を与えることだろう。
翼の色は頭部と同じく漆黒。
見たことも聞いたことも無い姿だが、恐らくは高位の悪魔である可能性が高い。
「……あれは恐らくそれなりに高位の悪魔。単純な格で言えば先ほどの竜よりも間違い無く上位の存在よ。どうする? 一時撤退する?」
「隠蔽系の特技持ちだしね。トリアの言う通り、いったん撤退しても決して怯懦の謗りを受けるような相手では無いわよ?」
『アイツ、我輩を見て嗤ったのですニャ! 我輩、獲物として認識されていたのですニャー!』
こうまで仲間達が撤退を勧めてくる相手には、久しく出くわしていなかった。
先ほどもトムの警告が無ければ、回避が間に合って居なかった可能性も高い。
考えている暇も、それほど長く与えてくれるとは思えない。
すぐにでも決断する必要が有るだろう。
そして…………
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