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第4章
第213話
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幸いと言うべきか、何と言うべきか……。
深夜と言っても差し支えの無い時間に帰宅したオレを迎えた妻は、あまり怒っていなかった。
あらかじめ観音像のダンジョンを攻略しにいくことを、メッセージアプリを介して連絡しておいたのが良かったのかもしれない。
さらに……帰宅するタイミングで妻に加えて右京君にも連絡を取り、柏木さんを自宅に招いておいたのも良かった。
ダンジョンから真っすぐに転移したい気持ちをグッと堪えて、いったん外に飛んでオレの判断は間違っていなかったのだ。
まぁ、幼女の姿で同行していた筈のエネアが、すっかり大人の女性になっていたり、そんなエネアと瓜二つのトリアがシレっと一緒に着いて来ていたのには驚いていたようだが、オレが柏木さんに挨拶をしている間に、エネアが妻にトリアを丁寧に紹介してくれたお陰かもしれない。
柏木さんに加え、右京君と沙奈良ちゃんまで来宅していて、柏木一家と妻に改めてトリアを紹介したわけだが、妻が何か言うより先に沙奈良ちゃんがトリアを支持するような発言をしてくれたのも大きかった。
◆
「さて……今回もまた凄い量の素材だね。しかもコレ、例の『樹』なんじゃないのかな?」
「はい、その通りです。素材になるアイテムは今までもそれなりに手に入れて来ましたが、『神使樹』がドロップしたのは、アレ以来初めてですね」
「良質な木材は、ちょうど喉から手が出る程に欲しかったところなんだ。しかも……宗像君の要件とも、実は関係が有る。右京、アレを」
「はい。ヒデさん、コレなんですけど……【鑑定】してみて貰っても?」
右京君がライトインベントリーから取り出して、オレに差し出して来たのは、あまり見慣れない形状の磨き上げられた木製の何かだった。
……最近、どこかで見たことが有るような気がするのだが、残念ながら思い出せない。
「あぁ、もちろん。…………これは?」
【鑑定】してみても、名前が出て来ない。
もちろん、こんなことは今までには無かった。
「銃床って分かるかい? その部分を前に宗像君から提供して貰った魔木から造り出してみたんだけど、どうも上手くいかなくてね。二階堂さんの猟銃を借りて見た目だけは似せてみたんだが、どうやら材質が適さないようで意図した品質にならない。要は完全な失敗作さ」
なるほど。
二階堂さんの持っていた猟銃の、いわゆるお尻の部分を模している部品だったのか。
銃口が頭なら、銃身は身体、銃床は尻とか足という、何とも素人くさい区別だが……。
「ヒデさん、今度はコレをお願いします」
右京君が差し出して来た物は一見すると、先ほどの銃床の成り損ないと全く同じ物のように見えるのだが、何が違うのだろう?
【鑑定】すると、今度はしっかり杉製の銃床と出る。
「こちらは【鑑定】の結果が銃床と出ています」
「そっちはありふれた杉材なんだけど、一応は使用に耐えるようなんだ。肝心な銃身とは完全に不釣り合いらしくて【製作】は成功しなかったわけなんだが……」
「ヒデさん、度々すいません」
右京君が申し訳なさそうに差し出して来たのは、猟銃の金属部分に当たる物だった。
こちらは『無属性砲の部品』という鑑定結果が出るので、失敗作というわけでは無いようだ。
「まだ部品段階の様ですが、こちらも【鑑定】自体は上手くいきました」
「そうだろう? 要は木製部分の【製作】さえ上手くいけば、きちんと使えるものになる筈なんだ。そのあたりは槍や薙刀を作るのとあまり変わらないわけだしね」
「なるほど……つまり?」
「君には特にお世話になっているからね。特別製の猟銃タイプを造って驚かせてあげようと思っていたんだが、残念ながらこのザマさ。とりあえずは皆と同じ拳銃タイプで我慢してくれるかい?」
「我慢だなんてそんな……いつもすいません」
「実銃を見ながらじゃないと、さすがに作れないからね。映像や画像では上手くいかないようなんだ。だからバズーカタイプを作れって言われても無理だよ?」
そう言って笑う柏木さんだったが、その言葉が事実なら拳銃も誰かに借りていたことになる。
一体、誰から……?
そんな疑問が顔に出てしまったのか、柏木さんは少し慌てたようにまた口を開いた。
「あぁ、拳銃タイプのモデルになったのは私物だよ。現役時代にサブウェポンとして使っていたものだ。まだ探索者登録自体は残っているからね」
「あ、それでですか。警官隊の誰かから借りたにしては、妻の持っていた銃が随分ゴツい造りだったなぁと思いまして」
「コレのこと? ちなみに沙奈良ちゃんも同じの持ってるんだよ」
「はい、亜衣さんのとお揃いですね」
「まだ、あまり数が造れないからね。女性陣を優先させて貰ったわけなんだが、カタリナさんと言ったかな? 今日は彼女の分も急に造ることになってしまったし、お兄さんや右京の分はまた明日だ。えーと、エネアさんとトリアさんにも必要かい?」
「いえ、私達は原理の異なる魔法を使いますので、結構です」
「ちょっとエネア、勝手に! 私は出来たら欲しいです。順番は後回しで大丈夫ですけれど」
「分かった、なるべく早めに用意させて貰うよ。徐々にだが魔力のロスも少なくなる筈だしね」
◆
こうして新たな攻撃手段を手に入れ、さらに頼りになる仲間を新しく迎えたオレだったが、それでも勝てない相手が居るのだということを、意外な程に早く思い知らされることになってしまった。
……妻は、やはり拗ねていたのだ。
平謝りに謝って何とか許しは得られたのだが、拗ねられるよりは怒って貰った方が、幾らかマシなんだよなぁ。
でも、これだけは分かって欲しい。
不可抗力っていうモノが、世の中には有るんだよ……。
深夜と言っても差し支えの無い時間に帰宅したオレを迎えた妻は、あまり怒っていなかった。
あらかじめ観音像のダンジョンを攻略しにいくことを、メッセージアプリを介して連絡しておいたのが良かったのかもしれない。
さらに……帰宅するタイミングで妻に加えて右京君にも連絡を取り、柏木さんを自宅に招いておいたのも良かった。
ダンジョンから真っすぐに転移したい気持ちをグッと堪えて、いったん外に飛んでオレの判断は間違っていなかったのだ。
まぁ、幼女の姿で同行していた筈のエネアが、すっかり大人の女性になっていたり、そんなエネアと瓜二つのトリアがシレっと一緒に着いて来ていたのには驚いていたようだが、オレが柏木さんに挨拶をしている間に、エネアが妻にトリアを丁寧に紹介してくれたお陰かもしれない。
柏木さんに加え、右京君と沙奈良ちゃんまで来宅していて、柏木一家と妻に改めてトリアを紹介したわけだが、妻が何か言うより先に沙奈良ちゃんがトリアを支持するような発言をしてくれたのも大きかった。
◆
「さて……今回もまた凄い量の素材だね。しかもコレ、例の『樹』なんじゃないのかな?」
「はい、その通りです。素材になるアイテムは今までもそれなりに手に入れて来ましたが、『神使樹』がドロップしたのは、アレ以来初めてですね」
「良質な木材は、ちょうど喉から手が出る程に欲しかったところなんだ。しかも……宗像君の要件とも、実は関係が有る。右京、アレを」
「はい。ヒデさん、コレなんですけど……【鑑定】してみて貰っても?」
右京君がライトインベントリーから取り出して、オレに差し出して来たのは、あまり見慣れない形状の磨き上げられた木製の何かだった。
……最近、どこかで見たことが有るような気がするのだが、残念ながら思い出せない。
「あぁ、もちろん。…………これは?」
【鑑定】してみても、名前が出て来ない。
もちろん、こんなことは今までには無かった。
「銃床って分かるかい? その部分を前に宗像君から提供して貰った魔木から造り出してみたんだけど、どうも上手くいかなくてね。二階堂さんの猟銃を借りて見た目だけは似せてみたんだが、どうやら材質が適さないようで意図した品質にならない。要は完全な失敗作さ」
なるほど。
二階堂さんの持っていた猟銃の、いわゆるお尻の部分を模している部品だったのか。
銃口が頭なら、銃身は身体、銃床は尻とか足という、何とも素人くさい区別だが……。
「ヒデさん、今度はコレをお願いします」
右京君が差し出して来た物は一見すると、先ほどの銃床の成り損ないと全く同じ物のように見えるのだが、何が違うのだろう?
【鑑定】すると、今度はしっかり杉製の銃床と出る。
「こちらは【鑑定】の結果が銃床と出ています」
「そっちはありふれた杉材なんだけど、一応は使用に耐えるようなんだ。肝心な銃身とは完全に不釣り合いらしくて【製作】は成功しなかったわけなんだが……」
「ヒデさん、度々すいません」
右京君が申し訳なさそうに差し出して来たのは、猟銃の金属部分に当たる物だった。
こちらは『無属性砲の部品』という鑑定結果が出るので、失敗作というわけでは無いようだ。
「まだ部品段階の様ですが、こちらも【鑑定】自体は上手くいきました」
「そうだろう? 要は木製部分の【製作】さえ上手くいけば、きちんと使えるものになる筈なんだ。そのあたりは槍や薙刀を作るのとあまり変わらないわけだしね」
「なるほど……つまり?」
「君には特にお世話になっているからね。特別製の猟銃タイプを造って驚かせてあげようと思っていたんだが、残念ながらこのザマさ。とりあえずは皆と同じ拳銃タイプで我慢してくれるかい?」
「我慢だなんてそんな……いつもすいません」
「実銃を見ながらじゃないと、さすがに作れないからね。映像や画像では上手くいかないようなんだ。だからバズーカタイプを作れって言われても無理だよ?」
そう言って笑う柏木さんだったが、その言葉が事実なら拳銃も誰かに借りていたことになる。
一体、誰から……?
そんな疑問が顔に出てしまったのか、柏木さんは少し慌てたようにまた口を開いた。
「あぁ、拳銃タイプのモデルになったのは私物だよ。現役時代にサブウェポンとして使っていたものだ。まだ探索者登録自体は残っているからね」
「あ、それでですか。警官隊の誰かから借りたにしては、妻の持っていた銃が随分ゴツい造りだったなぁと思いまして」
「コレのこと? ちなみに沙奈良ちゃんも同じの持ってるんだよ」
「はい、亜衣さんのとお揃いですね」
「まだ、あまり数が造れないからね。女性陣を優先させて貰ったわけなんだが、カタリナさんと言ったかな? 今日は彼女の分も急に造ることになってしまったし、お兄さんや右京の分はまた明日だ。えーと、エネアさんとトリアさんにも必要かい?」
「いえ、私達は原理の異なる魔法を使いますので、結構です」
「ちょっとエネア、勝手に! 私は出来たら欲しいです。順番は後回しで大丈夫ですけれど」
「分かった、なるべく早めに用意させて貰うよ。徐々にだが魔力のロスも少なくなる筈だしね」
◆
こうして新たな攻撃手段を手に入れ、さらに頼りになる仲間を新しく迎えたオレだったが、それでも勝てない相手が居るのだということを、意外な程に早く思い知らされることになってしまった。
……妻は、やはり拗ねていたのだ。
平謝りに謝って何とか許しは得られたのだが、拗ねられるよりは怒って貰った方が、幾らかマシなんだよなぁ。
でも、これだけは分かって欲しい。
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