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第4章

第210話

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 濡れた衣服をようやく着替えたオレは、攻略を終えたばかりの高台のダンジョンの各種設定を素早く変えて、次の行き先候補を【遠隔視】で偵察しているところだ。

 残念ながら近隣で目ぼしいダンジョンは、これが最後だった。
 あとはダンジョンの規模や周辺地域の発展度の問題で、多くの魔素が得られそうなダンジョンは無い。
 いや……有るには有るのだが、それは例の仙台駅周辺のダンジョンだったり、青葉城址のダンジョンで、それはドラゴンや巨人を普通に倒せる者しか、とても近寄れないような地域に存在するダンジョンということで、つまりは初めから対象外なのだ。

 一定以下の規模のダンジョンは、これからも兄がどんどん攻略してくれる筈なので、今後のオレの行動は遠征がメインということになる。
 車で移動するには危険な地域が邪魔になってしまい、行き来するのが難しいところに有るものの、規模や周辺地域の発展度のバランスが良いところについても、実は幾つか心当たりが有った。
 そしてそうした地域への移動手段は【転移魔法】が担うことになる。
【転移魔法】で移動することが出来るのは、あくまでオレが行ったことの有る場所に限られるが、幸い世の中がなる以前のオレの仕事はハウスメーカーの営業マン。
 仙台市内に限らず宮城県内の住宅地なら、かなりの割合で訪れた経験が有った。
 もちろん目当てのダンジョンが、そうした住宅地は近くに無い場合も多いが、多少の距離なら普通に走って向かえば良いし、乗り捨てられたまま放置されている車を一時的に使わせてもらう手もある。

 これは共にスタンピードの防衛戦を戦った警官隊の1人から聞いた話だが、こうした災害発生時に限り、乗り捨てられた車を動かすことは法的にも認められているらしい。
 もちろん、今となっては法を守ることにどれだけの意味が有るのかは判断の難しいところだが、積極的に違法行為に手を染めたいわけでも無いのだ。
 利用させて貰った車は、なるべく元の位置に返すように心掛けるつもりではいるが、それが難しい状況の際は勘弁して貰うしかないとも思う。

 ──閑話休題それはそれとして……

 現在オレが【遠隔視】で偵察しているダンジョン化した巨大な観音像が立っているエリアは、やはりスタンピードの防衛には失敗していたようで、かなりの数のモンスターが徘徊していた。
 今度はゴースト系のモンスターも普通に居るようだし、今オレ達の居るダンジョンのような妙な出来事は起こらないとは思う。
 それ以外のアンデッドモンスターの数も多いが、ワイバーンやトロルの上位種も居るし、コッカトライスやギャザーなど単純な強さ以上に厄介な特殊能力を持ったモンスターの姿も有る。
 兄やカタリナはともかく、妻やマチルダでは万が一が怖い。
 やはりここはオレ達が向かうべきだろう。

 そう決心したことをエネアに伝え了承を得たオレは、すぐさま【転移魔法】を使用し元はコンビニだった建物の駐車場へと飛んだ。
 目の前の交差点には正面衝突した後に炎上したらしい乗用車が2台、そのまま残されているが、それ以外には特に目立つ物は無かった。
 交通量の多い道路だったが、もちろん走る車はいない。
 代わりにこちらに向かって走り寄って来たのは、本来かなりレアなモンスターの筈のワーキャットが2体……どうやらマチルダのように理性が残っていたりはしなさそうだ。

 今さらワーキャットぐらいでは、どうということも無いのだが、むしろ問題は後続のトロルや空から高速で飛来するワイバーンの方かもしれない。
 もちろん偶然の為せる業だろうが、トロルとワイバーンの到達は、このままいけば同じぐらいのタイミングになりそうだった。
 そう判断したオレはワーキャットを瞬時に排除して、そのまま空へと視線を向ける。
 それを見ていたエネアはトロルの移動を妨害するように、精霊魔法で土塊の手を伸ばす。
 トロルを転倒させるまでには至らなかったが、上手く移動を遅らせてくれた。
 エネアの援護は地味に見えるかもしれない。
 しかし、そのおかげでオレはワイバーンの相手に専念することが出来たし、ワイバーンが消えた後にノコノコやって来たトロルも問題なく倒すことが出来た。
 最初の山場を結果的に難なく切り抜けたオレ達は、その後も暫くその場に留まり、後から後から殺到して来たモンスターを次々と屠り、白い光へと還していく。
 明らかにオレとエネアの連携は向上していた。
 デュラハン戦、ホムンクルス戦を経て、お互いにお互いの理解が深まったことが良い方に作用している。

 ◆

 何度か場所を移しながら、周辺のモンスターの掃討に一定の目処が着いたと判断したオレは、ついに気味が悪いぐらい真っ白なままの観音像の前まで辿り着いていた。
 どういう意図で建造されたものなのか、詳しい事情は知らなかったが、どうやら寺の境内に建てられたものだったらしい。
 実際に近付くまで知らなかったのは、少しばかり迂闊だったかもしれない。
【遠隔視】であらかじめ観ておくことも可能だったわけだし……。

 まぁ、今さら気にしても仕方ないか。
 境内地内に待ち構えていたモンスターも既に倒し終わった後だ。
 ダンジョン内部の探索に移ろう。
 以前は中にエレベーターが有って、展望台も兼ねていたらしいが……まぁ、ダンジョン化してしまった時点で、そんな便利なものは失われてしまっている筈だ。

 身体能力が急激に伸びた今となっては、もはや苦にならない筈なのに、そびえ立つ観音像を見上げるオレの心は少しばかり憂鬱になっていた。
 今からこれを登るのか……と。
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