上 下
200 / 312
第4章

第198話

しおりを挟む
 破竹の勢いで快進撃を続けること数日。

 周辺地域のダンジョンを攻略し続けたオレ達はついに、青葉城址のダンジョンのすぐ隣の地域にあるダンジョンを訪れていた。

 同行者は、エネアにカタリナは勿論のこと、今日は兄とマチルダにも来て貰っている。
 これはドラゴンや、ジャイアントなどが跳梁跋扈する青葉城址の近隣まで到達したことで、道中に万が一が有った際に備えてのことだ。
 妻も来たがっていたが、さすがに本格的な危険地帯に来るのに、息子を残して夫婦で来るわけにもいかない。
 第1次スタンピードの時のように、そうも言っていられない状況に追い込まれない限りは、安全マージンの取れないを夫婦揃って行うつもりは無かった。
 青葉城址のダンジョンとの間には、僅かながら安全地帯が広がっていて、万が一という事態は中々に考えにくいのも事実だが、それはそれ……だ。
 今では妻も、マチルダが人狼になっていない時の強さぐらいには追い付いて来ているので、そのうち共にダンジョンに挑むことにはなりそうだが、それはもう少し安全なところなら……という話になるだろう。

 ここ数日、幾つものダンジョンを攻略しているわけだが、その時にこの付近を通っていて酷く肝を冷やしたことがある。
 比較的、新しく作られた国道を通る分には問題無いのだが、隣合うように伸びている旧国道を通っていて、ごく間近にまでドラゴンが飛来してきたことが有り、そのブレスや魔法の射程距離を考えると、安全地帯上ではあっても旧国道を使うのは止めようという結論になったのだ。
【危機察知】は相対的な力関係で反応が全く変わって来るため、ここのところ仕事をあまりしていなかったが、あの時の警報は『けたたましい』という表現がピッタリくるもので、まだまだオレが力不足なのだと痛感させられてしまった。
 あの時は慌てて引き返して、攻略を予定していたダンジョンでは無く、それよりずっと小規模かつ難易度の低いダンジョンに挑んで、お茶を濁すことにしたものだ。

 閑話休題それはよいとして……

 今日、来ているダンジョンは周辺のモンスターからして、ここ数日とは様相が違っていた。
 兄とマチルダを加えて磐石の体制で臨んだ掃討戦も、想定していたより時間が掛かってしまったほどだ。
 顔も知らない住民達の成れの果て……アンデッドモンスターにしても、生前から使えていたとは思えない魔法を媒体となる杖や指輪も無しに行使してくる始末。
 ゴブリンやオークなども魔法を使って来る上位種や、武器や防具も非常に良い物を携えている。
 弓やボウガンの装備率も高く、それなりに手を焼かされたものだ。
 逆にオーガの方がノーマルなランクのヤツが多くて戦いやすいほどだった。

 地味に厄介だったのが、ゴブリンに良く似た……それでいて全く別物のモンスター、レッドキャップだ。
 その特徴的な赤い帽子は、犠牲になった人々の血で染めぬかれたモノらしい。
 身長は50センチほどで、ゴブリンよりもむしろ小さいぐらいだが、手の爪は長く鋭く伸びていて、眼は充血して真っ赤に染まっている。
 同じ赤でも血の赤……まるで眼底出血が白目全体に及んでしまっているかのようだ。
 ワシ鼻に茶色い肌、犬歯は牙のように伸びていて、醜悪な老人のような見た目。
 見た目上でゴブリンとの一番の差異は長く伸ばしたアゴ髭と、真っ白な長髪。
 酷く猫背なせいで身長よりも更に小さく見えるが、それでいて走るのが物凄く速い。
 小さな身体に不釣り合いなほど、大きな金属製のブーツを履いているのに、そんなことはお構い無しだ。

 そしてこのレッドキャップ。
 物理攻撃が全く効かない。
 エネアやカタリナ、それからマチルダ。
 彼女達、異世界組から事前に話を聞いておかなかったら、酷く慌ててしまっていたかもしれない。
 レッドキャップは、こんな醜悪な見た目でありながら、妖精種に分類されるモンスターなのだ。
 討伐時は魔法か、魔法を付与した武器で戦うしかない。
 それはともかく、このレッドキャップ……酷く好戦的であるうえ恐ろしく狡猾な魔物だ。
 物陰に隠れての奇襲などは序の口で、ゾンビや他のモンスターに隠れて接近することさえ多々あった。
 斧をメインの得物として巧みに扱うが、投石や砂を投げてくることも好んで行う。
 その斧さえも必要なら平気で投げてくる。
 そもそもの数が多いうえに、一時撤退も平気でするため、非常に面倒な相手だった。

 ダンジョンの中に入っても、レッドキャップには散々に悩まされた。
 元はパチンコや、ボウリング、温泉やサウナのあるスーパー銭湯、飲食店やカラオケボックスが併設された建物だったここは、敷地面積も建物の規模も非常に大きい。
 それでいて自然洞窟タイプのダンジョンで、死角になり得るところも多く存在した。
 天井からも地面からも伸びている鍾乳石や、うっすらと地面を覆う水、他のダンジョンよりも薄暗い視界……そもそもの探索難易度が高い。
 そんなところに無尽蔵にも思えるほどのレッドキャップや、自在に魔法を操る上位種のブラックキャップ達が行く手を阻み続ける。
 正面戦闘ではオレ達の敵では無いのだが、いつ来るか分からないうえ、いったん襲われると延々と続く邪妖精達の襲撃は、否が応にもダンジョンの探索速度を下げていく。
 ダンジョン内部では、外には居なかったタイプのモンスターも多く生息し、あの法則からも外れていた。

 ゴブリン、オーク、オーガ、ダンジョンに入ってから現れはじめたトロルは亜人系。
 レッドキャップ、ブラックキャップは妖精系。
 ゾンビにゴースト、スケルトンにグールはアンデッド系。

 通常のダンジョンなら、これ(アンデッド含めて3系統)以外の系統のモンスターは出現しない。
 ……だと言うのに、イビルバットにイビルウルフ等の獣系や、ワーラット、ワーバット等の獣憑き(ライカンスロープ)系。
 インプは悪魔系だし、ガーゴイルは魔法生物系、ジャイアントリーチ(ヒル)や、ジャイアントキャタピラー(イモムシ)は虫系だ。
 さらにはスライムやクリーピング・クラッド、ゼラチナス・キューブ等のスライム系統のモンスターまで出現し始めた。

 これらのイレギュラーが1体や2体なら、いわゆる『戻り』モンスターなのだろうが、明らかに数がおかしい。
 ここ数日の平和(?)なダンジョン攻略の日々とは、既に様相が大きく異なっていた。

 何か

 ……間違い無いだろう。

 この異変に誰からともなく気付いた時のオレ達は、一様に緊張の面持ちを浮かべ始めていた。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない

鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン 都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。 今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上 レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。 危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。 そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。 妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

処理中です...