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第4章

第192話

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 結論から言えば柏木さんに無事、サイクロプスから得た【神々の鍜冶師】のスキルブックを使って貰うことが出来た。

 単眼の粗暴な巨人……おそらく一般的なイメージのサイクロプスとは、そんなモンスターだと思う。
 しかし、ギリシャ神話に登場するサイクロプスは、鍜冶ばかりでなく、建築や造船にも造詣が深く、鍜冶の神と伝わるヘパイストスに仕え、ゼウスの雷霆らいていや、ポセイドンのトライデント、アポロンの弓、アテネの鎧……これらを作製した匠の半神なのだ。
 実際に戦った感想からすると、それらの偉業も疑わしく思える戦闘スタイルだったが、実際それを裏付けるスキルブックを得られたからには、最大限に有効活用させて貰うべきだろう。

 それはさておき……新たなスキルを得た柏木さんは、それによって出来ることが増えたからと言って、オレの槍を預かると奥の自室に入って行き……そして、すぐに戻って来た。
 この間、5分も経っていない。
 沙奈良ちゃんの用意してくれた紅茶を、オレは飲み終わってさえいなかった。
 それなのに……オレの槍は、この短時間で見違えるような変化を遂げている。

 まずは切断されたきり放置されていた石突き部分が綺麗に整えられていた。
 しかも金属板で補強するのでは無く、柄の素材となっている神使樹を磨きあげた、鋭利な先端面を構築している。
 もともとオレが依頼していた両側面の月牙は、片側がバルディッシュのようなシャープな斧頭に。
 そして、もう片側はイメージ通りの月牙になっていた。
 これなら敵のサイズやウェイトに合わせて、使い分けることが出来そうだ。
 それらの改造よりもオレの眼を惹いたのが、完全に別モノになってしまったかの様な穂先の刃の鋭利さだった。
 明らかに貫通力が上がっているだろう。

「柏木さん……これ」

「色々と勝手をして悪かったね。イメージが次々と湧いて来るし、今までとは作業速度が段違いだ。そして宗像君も何となく察しているようだけど、純粋な強化もさせて貰ったよ。恐らく比較にならないぐらい槍としての刺突力が改善された筈だ。気に入らないようなら、すぐにでも戻せるが……どうだろうか?」

「気に入らない筈は有りません! ありがとうございます」

 思わず大きな声が出てしまった。
 元に戻されたりしたら困る。
 先ほどは見た目の変化にばかり気を取られていたが、重量もかなり増加していた。
 これは芯材にファハンの金砕棒から取った魔鉛も加わっているようだ。
 最近、以前とは比べるべくも無いぐらい、オレの腕力が上がっているせいで、槍が軽すぎるように感じていた。
 今オレの手元にある槍は、何というべきか……とてもくる仕上がりになっている。

「気に入ってくれたようで何よりだ。あぁ、忘れるところだったが、前に頼まれた投擲用の武器も出来ている。余計なことかもしれないとは思ったのだが、こちらも改めてさせて貰ったからね?」

 そう言って、柏木さんはミスリルで作られたスローイングナイフやチャクラムを、次々に自前のライトインベントリーから取り出し、テーブルの上に置いていく。
 こちらも想定していた物より明らかに性能が良さそうだ。
 何というか……キラキラと輝いて見える。
 恐らく相当な魔力が込められているのだろう。
『強化』と先ほどから柏木さんが口にしているが、それこそがこの魔力の煌めきのタネなのかもしれない。
 だとすれば……

「柏木さん、不躾なお願いながら私の兄の刀も同様に強化して頂くことは可能でしょうか?」

「あらたまって何を言うのかと思えば……もちろんだよ。後で寄るように言ってくれるかな?」

「ありがとうございます。きっと喜ぶと思います。あ、そうだ! 柏木さん、コレ使って下さい」

「これは……凄い量の素材だね。スクロールもこんなに。本当に良いのかい?」

「もちろんです。足りなければ、いくらでも言って下さい。お金でお支払いっていうわけにも、今はいきませんし」

「何だか悪いなぁ。そもそも、君の持ってきたスキルブックのおかげなのに……」

「それでも、です。これからもよろしくお願いします」

「それこそ、こちらこそだね。そう言えば時間は大丈夫なのかい? 右京と沙奈良は行ってしまったようだけど」

 ◆

 柏木さんに言われて気付いたから良かったものの、妻達と約束していた時間は目前に迫っており、結局オレは慌てて柏木さんの元を後にすることになってしまった。
 車を自宅の玄関前に回すと、ちょうど皆が家を出てきたところで、まさにギリギリといったところだったらしい。
 見送りに出てきた母の腕に抱かれている息子がオレの顔を見て……にぱぁっと笑ってくれた。
 そう言えば最近は、じっくりと息子と向き合うことが出来ていなかった気がする。
 もう少し状況が落ち着いたら……そう思いながらも、中々オレ達を取り巻く環境は変わる気配が無かったのだ。
 いや……そうとばかりも言っていられないな。

 もっと強くなろう。
 人の枠からはみ出すことも、必要以上には恐れまい。
 何者にも脅かされることの無い平和を……それを実現する力を必ず手に入れなくては。

 兄や妻と今日の行動予定について必要事項を話しながらも、一方でオレはそんなことを考えていた。
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