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第4章

第187話

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【神々の鍛冶師】

 ……もはや見慣れた筈のスキルブックの表紙には、そんな耳慣れないスキルの名前が記されていた。

 おそらくは取得条件として、前段階スキル【鍛冶】の習熟が設定されているのだろう。
 もしそうなら、オレがそのまま奪っても使える道理は無い。
 柏木さんならあるいは……といったところだろうが、それも設定されている取得条件次第だ。
【鍛冶】スキルを持っているだけで良いのなら全く問題無いし、一定以上のスキルレベルが求められているなら、今すぐ柏木さんが取得できるかどうかは正直分からない。

 オレもダメ元で読もうと試みたが内容が全く理解出来ず、当然ながらスキル取得にも至らなかった。
 持ち帰って試してみるしか無いだろう。

 周辺からモンスターが近寄って来ることも無くなった。
 サイクロプス討伐に時間が掛かったため、今から目的のダンジョンを踏破出来るかまでは何とも微妙なところだが、ここで引き返すと後が怖い。
 明日になったら、ダンジョン前にサイクロプスが何匹も居ました……なんてことになったら億劫だし、未知のモンスターが現れないとも限らないのだ。
 サイクロプスなら、エネアに眠らせて貰えば良いだけかもしれないが、相性的に手に負えないモンスターが出現する可能性も否定しきれない。
 こんな近隣にある魔素の濃いエリアを放置するのは、たとえ今は間に安全地帯が有るとは言えども、この先どのように『ルール』を変えられるか分からない以上、とても得策とは言えないだろう。

 帰りが遅くなってしまう可能性も考慮し、あらかじめ妻にメッセージを送っておく。
 ダンジョンの中はスマホの電波も届かないが、それ(ダンジョン内での通信機器の利用)を目指して技術革新が積極的に行われた甲斐もあり、世の中がなってからもスマホ自体は使える状態であるのは、こうした時には非常に有難いことだった。

 サイクロプスと戦いながら後退して来た道を急いで引き返す。
 今度は襲って来るモンスターもおらず、無事にダンジョンへと到達した。

 このダンジョンは、ある程度は利用したことのあるダンジョンだ。
 サラリーマン時代……オークにも苦戦する程度の実力しか無かった当時のオレでも、それなりには通用したのだから、難易度は推して知るべしといったところか。
 この温泉街のダンジョンの特徴として、まず階層面積が狭いことが知られている。
 地下へ潜っていくタイプのダンジョンで、基本的な造りは人工的な建築物の中を探索しているように感じるものだ。
 石壁はどこか、打ちっぱなしのコンクリートのような色合いだし、床はフローリングのようにも見える。
 硬さはオリハルコン製の武器でも破壊不可能なほどに硬いので、単なるコンクリートや木材では絶対に無いのだが、だからといってそれが何なのかまでは分からない。
 天井も低く、照明代わりなのか天井そのものが発光している。

 出現するモンスターは、本来なら動物型と魔法生物型の2種類のみ。
 ゴブリンなどの亜人型モンスターや、虫型、爬虫類型、両生類型モンスターを相手にするよりは、よほど精神的な負荷が軽いため、かなりの人気を博していた。
 わざわざ近くに住居を構えてまで、日参していたプロ探索者も多かった筈で、あるいはここなら第1次スタンピードの防衛にも成功しているのでは無いかと期待を掛けていたのだが……ダンジョンから出撃してくるモンスターが大して強くないうえ、防衛側の探索者がプロ揃いだからといって、ダンジョン外部に出現するようになったサイクロプスやワイバーンに背後から襲われては、恐らくひとたまりも無かったことだろう。
 有力な探索者がどこかに避難してくれていたら良いが、この分だと望み薄かもしれない。
 いわゆる『戻り』だろうモンスターの数々が、意気揚々とダンジョンに入ったオレ達を待ち構えていた。

 普段の第1層にも出現するファングラビットや、イビルバット、リビングクラブ(浮遊する棍棒)……このあたりはまぁ良いのだが、問題は思っていた以上に多かった探索者達だ。
 ゾンビはゾンビなのだが、生前がそれなりの強さを有していた探索者達の成れの果ては、とてもゾンビとは思えないような鋭い動きで迫って来た。
 ゾンビも素体によって個体性能に差があるのは、ドラゴンのゾンビなどがドラゴンそのものとあまり変わらない強さを有していることを思い浮かべて貰えば分かりやすいかもしれない。
 ダンジョンを探索し、モンスターを討伐することによって得られる力の源を、仮に魔素だとした場合、プロ探索者達の死体はかなり条件の良いゾンビの材料だと言えるだろう。
 生前の知能まで完全には引き継がれないのかもしれないが、それでも拳銃やボウガンぐらいは普通に使えるようだし、弓や槍を巧みに操っているゾンビまで居た。
 いわゆる身体が覚えている、というヤツなのかもしれない。
 魔法の発動体の杖を構えているゾンビもいたが、さすがに魔法の使い方は忘れてしまっているらしい。
 杖を鈍器代わりに殴り掛かって来たが、これは難なく避けて光に還す。
 しかし大半のゾンビは使い慣れた得物を、きちんと生前同様に使いこなしている。
 そして生きている人間なら必ず無意識に掛けているリミッターが外れているため、腕力などは生前以上だろう。
 これは……知らずに右京君や沙奈良ちゃんあたりを連れて来ていたら危なかったかもしれない。

 死後もアンデッドモンスターとして尊厳を冒涜される苦行から、どうにか全ての探索者達を解き放つことが出来たものの……もしどこかで一歩間違えていたら、オレや兄がこうなっていてもおかしくは無かったのだと考えると、何とも複雑な気持ちにさせられてしまった。
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