上 下
166 / 312
第3章

第165話

しおりを挟む
 有難いなぁ……素直にそう思う。

 完全にオレを殺すつもりで配置していたのであろう、強大なモンスターの群れ。
 天使や悪魔は、第7層で苦労して倒した中ボスクラスのものが普通に混ざっているし、機械の女神も第7層の階層ボスと全く同じものが確認出来た。
 極めて珍しいとされるトロルメイジや、マチルダを上回る強さのライカンスロープ……ワータイガーやワーベアーさえも立ち塞がったし、他の系統のモンスターより明らかに数の多いアンデッドモンスターの中には、あの凶悪なワイトまでもが含まれている。
 さすがにバンパイア以上の存在まではいなかったが、他のダンジョンなら守護者として最深層に君臨していても不自然では無いほどの強者達が、ここでは一兵卒として扱われていた。
 質量ともに今まで経験したことの無いほどのレベルの魔物の大群がオレの行く手を阻む。
 少し前のオレなら衆寡敵せず……数の暴力の前に不覚を取っていたかもしれない。
 しかし、その少しの時間でオレの戦力は飛躍的に上昇している。
 そのため、バンパイアが配した確実にオレを殺し得た筈のモンスター達は、むしろオレの成長を助ける糧にしかなり得なかった。

 今朝は先を急ぐあまり、戦うこと自体を避けたミスリルゴーレムの群れさえも、今度は丁寧に1体残らず倒し尽くす。
【存在強奪】の副作用なのかもしれないが、今のオレは常にモンスターの存在力を大量に喰らわないと飢えたような感覚に悩まされるようになってしまっている。
 いや……それは正確な表現では無いのかもしれない。
 いくら喰らっても、このは消えて無くなりはしないのだ。

 倒しても倒しても、次々と現れ続けるモンスター達。
 奥に進めば進むほど、一度に現れる数も増えていった。

 集中していく。
 依然として脆弱なままの身体は、これら強敵の一撃を急所に貰えば、一瞬にして事切れてしまうことだろう。
 HP(ヒットポイント)なんて不可思議なものは存在しない。

 没頭していく。
 強いモンスターを倒せば倒すほど、強化されていく身体能力と魔力保有量。
 HPとは違い、こちらは明らかに増えていくMP(マジックポイント)とでもいうべきもの。

 最適化していく。
 バンパイアが弱者を好まない性格をしているせいか、一体一体の強さは恐ろしいほどだが、その分バリエーションには富んでいるとは言い難い。
 幾ら強いモンスターでも、攻撃パターンを無限に持ち合わせているわけでは無いのだ。
 モンスターごとに、得手不得手というべきものは確実に有って、オレの動きの無駄を省いていくことで、徐々に効率よく殲滅することが出来るようになっていった。

【解析者】の声が脳内に響くたび、オレの強さは増していく。

『スキル【身体能力強化】のレベルが上がりました』
『スキル【光属性耐性】を自力習得しました』
『スキル【パリィ】のレベルが上がりました』
『スキル【餓狼操躰】のレベルが上がりました』
『スキル【魔力消費軽減】を自力習得しました』
『スキル【火魔法】のレベルが上がりました』


 今朝、訪れた際にモンスターハウスの様相を呈していた部屋。
 そこにひしめいていた、今朝を上回る数のモンスター達さえも、あっという間に白い光に包まれて次々に消えていく。

 殺すたび、奪うたび……その存在をたび……オレの勝率は確実に上がっている筈だった。

 正直なところ、マチルダの首筋に噛み付く吸血鬼の姿を見た時、怒りより先に恐れを感じたのも事実だが、今なら恐らく勝率は五分五分といったところだろう。

 あと少し……あとほんの少し…………そう思いながら、自ら敵の姿を求め戦い続けていたオレだったが、突然パタリとモンスター達が現れなくなってしまった。
 これの意味するところは、ただ1つ。
 どうやらオレの成長速度の異常さ……そのカラクリに気付かれてしまったようだ。
 欲を言えば、もう少しだけ力を付ける猶予が欲しかったところだが、気付かれてしまったものは仕方がない。

 遮る者の居なくなってしまった迷宮を、ゆっくりと進んでいく。
 自分でも気付かない間に、すっかり上がってしまっていた息を整える意味でも、そうしたのんびりとした移動は良かったと思う。
 だからといって疲れまで全て消えて無くなるわけでもないので、階層ボスの部屋を目前にして立ち止まったオレは、『空間庫』から取り出したスタミナポーションを一気に呷る。
 今日のオレは、集中力を保つため、傷を負うたびに魔法で癒していたが、傷を負うということは血液を失うことと同義だ。
 午後からの探索では、それほど負傷する場面も無かったが、午前中はそれなりに危ない橋を渡った分だけ、血液を失ってしまっている。
 念のため、作ったばかりの造血ポーションも同じく『空間庫』から取り出して飲み干す。
 こうして、気力、体力ともに整い、身体能力や武器にエンチャント(補助魔法)も掛け直したオレは、意を決して階層ボスの部屋の扉を開ける。

 中には散々オレに虚仮にされて怒り心頭といった様子の腐れバンパイアと、よくもまぁここまで……と、思わざるを得ない本気の布陣を整えてオレを待ち構える取り巻きモンスター達の姿があった。

 そして……今度は無言のまま放たれたオレの先制の一撃によって、激戦の幕が切って落とされる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

土方の性処理

熊次郎
BL
土方オヤジの緒方龍次はある日青年と出会い、ゲイSEXに目醒める。臭いにおいを嗅がせてケツを掘ると金をくれる青年をいいように利用した。ある日まで性処理道具は青年だった、、、

[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石
BL
 その町で由緒ある神社に仕えてきた家に産まれた高校2年の宝利 楓矢(ほうりふうや)は夢を見る。  それは紫の眼をした少女達が決まって1人の男に殺される夢。  殺される前の少女は言った。望まぬ未来に絶望を感じて。 "もういいと言うまで、私を殺してほしい" と……  その時に楓矢が感じるのは、刀を突き立てる男の胸を貫く様な激しい後悔と悲しみだった……反対に殺される少女からは不思議なほどに男に対する恐怖も嫌悪も感じない…  けれど何度も見る夢に耐えきれず、ある日楓矢は夢で叫ぶ。 "もう、殺さなくていいから!"……と。  殺される側の恐怖よりも、刀を持つ男の背負ったものに耐えきれずに…… 妖刀紫を持ち、今も殺し続けようとする男に…   *本編完結まで書き上がっています。 ※主に現代を舞台に話を展開させますがファンタジーです ※女の子が殺される設定ですので、苦手な方は※マークを飛ばしてください ※18禁箇所には*を入れます ※設定にΩバース的なものを出しますが、既存のものとは違いますのでご注意ください  

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【書籍化決定! 引き下げ予定】私を嫌う公爵令息がツンから極デレに進化して溺愛してくる ~一夜限りのはずなのに、媚薬の効果が切れません!~

宝羽茜
恋愛
※書籍化決定しました。10/25にKADOKAWAジュエルブックス様より発売予定。 書籍化にあたって、アルファポリスからは引き下げる予定です。 「俺に助けられるのが嫌なら――おまえが俺を助けろ」 騙されて媚薬を飲んだシェリイ・ロット男爵令嬢に手を差し伸べたのは、初恋の公爵令息オリヴァー。 嫌われているのはわかっていたが、自身も媚薬を飲んだオリヴァーを救うために一夜限りの関係を持つ。 しかし翌朝、元通り嫌われて終わりのはずが、オリヴァーがとんでもないことを言い出した。 「正式にロット男爵に婚約を申し込んだ。これでシェリイは俺の婚約者だ」 媚薬の効果が切れていないことに焦ったシェリイは元に戻す方法を模索するが、オリヴァーはそれまでの態度が嘘のようにデレデレに……いや、極デレに進化して溺愛してきた。 媚薬で極デレ進化した公爵令息と効果が切れないことに焦る男爵令嬢の、すれ違いと勘違いのお話です。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルス)にも掲載しています。

処理中です...