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第3章
第154話
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まだ早朝と言える時間帯……メッセージアプリで右京君と連絡を取り、既に柏木さんが起きていることを確認したオレは、月牙の欠けた鎗と天使の遺した槍とを手に、この頼もしい鍛冶師の下を訪れていた。
戦利品の槍については既に昨夜のうちに【鑑定】を済ませてある。
穂先の材質は予想通りのオリハルコン。
柄については『神使樹』という名前らしかったが、オレの【鑑定】で判明したのは残念ながら材質の名称だけだ。
柏木さんはまず傷んだ鎗から見てくれているが、盛大に眉間のシワが寄っている。
柏木さんの渋面を見る限り、月牙の損傷以外の部分でも鎗の状態は良くないのだろう。
「……作ってから10日やそこらしか経っていない武器にはとても見えないな。短期間でこれだけ酷使出来る状況を、君が生き延びて来たことの方が驚きなのかもしれないが」
「あはは……」
思わず乾いた笑いが漏れてしまう。
「結論だけ言うと、既に寿命が近い状態だ。さすがに、この間の金砕棒の分解は済んでいないしね。そっちの槍は?」
「たまたま昨日、手に入った物です。その月牙を容易く斬り裂いたのも、コレの仕業です」
ひとまず鎗を受け取り、天使が持っていた方の槍を柏木さんに渡す。
「……この穂先はオリハルコン、だね? 君が得意とする間合いには合わないと思うが、取り敢えずはそれを?」
「ええ、もし今の鎗が駄目なら……とは思っています」
「……ん? この柄の素材は、何だろう? 木の様に見えるが表面硬度がおかしい」
軽く拳を作って槍の柄を叩いた柏木さんは、痛みからか軽く顔をしかめながら、今度は両手で槍を持ち上下に振っている。
やはり、よく撓るようだが、重さは今の鎗と比べても非常に軽く、オレには少し物足りないぐらいだ。
「撓りも凄い……が、撓り過ぎるということも無いようだ。理想的な素材だね。さほど重くも無いようだし」
「どうやら『神使樹』と言うらしいです。ダンジョンのモンスターが持っていた槍なんですが……」
天使……というワードは出しにくいため敢えて伏せる。
柏木さんならあるいは……と思ったのだが『神使樹』の名前を聞いた柏木さんは、聞く前と変わらず首を傾げていた。
「うーん、聞き覚えが無いなぁ。裁断して長さだけでも調節出来たら、それに越したことは無いんだけどね」
「試してみて貰えますか?」
「それぐらいはお安い御用だが……少しだけ、時間は貰うよ?」
「お願いします。では朝食を済ませてから、出掛ける前に、またお邪魔します」
「了解した。それくらいまでには結果が出ていると思うよ」
◆
朝食を済ませ、兄の見つけて来た生存者達をどう扱うかの話し合いに出掛ける前に、柏木さんを再び訪ねる。
オレを待っていてくれたらしい柏木さんの顔は、晴れやかな表情を浮かべていた。
どうやら調整は上手くいったらしい。
「宗像君、辛うじて裁断は出来たのだが……ちょっと提案を聞いて貰えるかな?」
柏木さんの提案を要約すると……
『裁断して研磨しただけなので、改めて今夜にでも石突きをしっかりと整えさせて欲しい。
以前の鎗と同様に使えるようにするために、ファハンの金砕棒から取り外した分のオリハルコンで、槌頭と月牙を追加していこう。
同じくファハンの金砕棒に使われていた魔鉛で芯材を造り、重さも調節しないか?』
……といった内容になる。
もちろん、オレに異論など有ろう筈は無かった。
柏木さんの職人気質と誠意に、深く感謝をするばかりだ。
今後、順を追って調整して貰うため、しばらくの間は帰宅してすぐに柏木さんに槍を預けることになった。
……と、ふと気になって柏木さんのスキル熟練度を解析したところ、既にスキルレベルが上がるほどの熟練度が貯まっている。
この間、ファハンの金砕棒を預けた時にも実は見させて貰っていたが、その時はまだ半分を少し過ぎた程度だった。
もしかすると魔鉛やオリハルコンなど、高位の素材を加工することで、劇的に熟練度が急上昇したのかもしれない。
本人の了解を得たうえで【啓蒙促成】で、柏木さんの【鍛冶】スキルのレベルを上げさせて貰った。
これで少しでも柏木さんの作業が捗れば、結果として得をするのは、誰よりもオレだろう。
今さら躊躇する理由は何も無い。
◆ ◆
兄が見つけた生存者達を受け入れるべきか否かの話し合いは、この別荘地のオーナーである筒井の家で行われた。
金銭の価値や、不動産の所有権など、既に保証する政権も何も無い……というよりは、まだ存在していたとしても、その影響下に既にオレ達はいないわけだが、だからといって積極的にそれを無視するのも憚られるためだ。
筒井は既に無償で提供したものだから……というスタンスで、特にこれといった意見を言わない。
兄は発見した責任からか、それとも持ち前の正義感からか強く受け入れを訴えたし、オレや父、それから佐藤さんや警官隊のリーダー(今さらだが真壁さんというらしい……)も、受け入れを肯定した。
難色を示したのは意外にも真っ先に受け入れに賛成すると見られていた上田さんだった。
それから町内会の会長も反対に回る。
上田さんが受け入れに難色を示す理由も頷けるものだった。
32人もの避難を受け入れるとなると、現状で未だに自宅に残り、上田さん達が避難を促している人の分の住居を、避難民達が先に埋めてしまうような格好になるということ。
それから、彼ら生き残りの中に戦えそうな若者が極めて少ないため、食料を確保する量より消費する量が上回りかねないというのが、上田さんの提起した問題だった。
心情的には受け入れたいのは上田さんも同じようで、終始なんだか泣きそうな顔をしていたのだが……。
佐藤さんも上田さんの意見を聞いて、多少その主張に理解を示してしまった。
佐藤さんが中心になって、ド田舎ダンジョンでモンスター相手に食料となるドロップアイテムを集めたり、警戒に警戒を重ねて採集に勤しんでいるわけだから、それもある意味では当然かもしれない。
町内会長の意見は、まぁ……聞き流せるレベルのものだった。
新しく住人になる人と上手くやっていけるかどうとかだから、平時ならそれなりに耳を傾けるべきかもしれないが、今はそんなことを気にしている場合では無いだろう。
いや、こんな時だからこその発言なのかもしれない。
それでもやはり人道上、彼らを見捨てるという選択肢は軽々しくとれないのだ。
結論としては賛成多数で一応は承認となったわけだが、問題はむしろそれからだった。
どのように食料問題、住居問題を解消するかに尽きるのだが、これは中々の難題と言える。
結局、食料については、ド田舎ダンジョンのエリアや湖畔ダンジョンのエリアの住居や商店から集められるだけ集めて、あとはダンジョン探索で得られるものを増やしていくことで賄うことと、農業や漁労に避難民にも積極的に従事して貰うことを受け入れの条件に加えることになった。
避難民の住居については、最小限の使用に留め既存住民の権利を必要以上に圧迫しないことに決まる。
この問題については、オレのダンジョン探索の進捗も関係しているため、内心で早期の解決を誓った。
結局、昼食も自宅で摂ることになるぐらいには時間を消費してしまい、オレがダンジョン探索に向かったのは午後からになってしまう。
少しでも遅れを取り戻したいところだ。
戦利品の槍については既に昨夜のうちに【鑑定】を済ませてある。
穂先の材質は予想通りのオリハルコン。
柄については『神使樹』という名前らしかったが、オレの【鑑定】で判明したのは残念ながら材質の名称だけだ。
柏木さんはまず傷んだ鎗から見てくれているが、盛大に眉間のシワが寄っている。
柏木さんの渋面を見る限り、月牙の損傷以外の部分でも鎗の状態は良くないのだろう。
「……作ってから10日やそこらしか経っていない武器にはとても見えないな。短期間でこれだけ酷使出来る状況を、君が生き延びて来たことの方が驚きなのかもしれないが」
「あはは……」
思わず乾いた笑いが漏れてしまう。
「結論だけ言うと、既に寿命が近い状態だ。さすがに、この間の金砕棒の分解は済んでいないしね。そっちの槍は?」
「たまたま昨日、手に入った物です。その月牙を容易く斬り裂いたのも、コレの仕業です」
ひとまず鎗を受け取り、天使が持っていた方の槍を柏木さんに渡す。
「……この穂先はオリハルコン、だね? 君が得意とする間合いには合わないと思うが、取り敢えずはそれを?」
「ええ、もし今の鎗が駄目なら……とは思っています」
「……ん? この柄の素材は、何だろう? 木の様に見えるが表面硬度がおかしい」
軽く拳を作って槍の柄を叩いた柏木さんは、痛みからか軽く顔をしかめながら、今度は両手で槍を持ち上下に振っている。
やはり、よく撓るようだが、重さは今の鎗と比べても非常に軽く、オレには少し物足りないぐらいだ。
「撓りも凄い……が、撓り過ぎるということも無いようだ。理想的な素材だね。さほど重くも無いようだし」
「どうやら『神使樹』と言うらしいです。ダンジョンのモンスターが持っていた槍なんですが……」
天使……というワードは出しにくいため敢えて伏せる。
柏木さんならあるいは……と思ったのだが『神使樹』の名前を聞いた柏木さんは、聞く前と変わらず首を傾げていた。
「うーん、聞き覚えが無いなぁ。裁断して長さだけでも調節出来たら、それに越したことは無いんだけどね」
「試してみて貰えますか?」
「それぐらいはお安い御用だが……少しだけ、時間は貰うよ?」
「お願いします。では朝食を済ませてから、出掛ける前に、またお邪魔します」
「了解した。それくらいまでには結果が出ていると思うよ」
◆
朝食を済ませ、兄の見つけて来た生存者達をどう扱うかの話し合いに出掛ける前に、柏木さんを再び訪ねる。
オレを待っていてくれたらしい柏木さんの顔は、晴れやかな表情を浮かべていた。
どうやら調整は上手くいったらしい。
「宗像君、辛うじて裁断は出来たのだが……ちょっと提案を聞いて貰えるかな?」
柏木さんの提案を要約すると……
『裁断して研磨しただけなので、改めて今夜にでも石突きをしっかりと整えさせて欲しい。
以前の鎗と同様に使えるようにするために、ファハンの金砕棒から取り外した分のオリハルコンで、槌頭と月牙を追加していこう。
同じくファハンの金砕棒に使われていた魔鉛で芯材を造り、重さも調節しないか?』
……といった内容になる。
もちろん、オレに異論など有ろう筈は無かった。
柏木さんの職人気質と誠意に、深く感謝をするばかりだ。
今後、順を追って調整して貰うため、しばらくの間は帰宅してすぐに柏木さんに槍を預けることになった。
……と、ふと気になって柏木さんのスキル熟練度を解析したところ、既にスキルレベルが上がるほどの熟練度が貯まっている。
この間、ファハンの金砕棒を預けた時にも実は見させて貰っていたが、その時はまだ半分を少し過ぎた程度だった。
もしかすると魔鉛やオリハルコンなど、高位の素材を加工することで、劇的に熟練度が急上昇したのかもしれない。
本人の了解を得たうえで【啓蒙促成】で、柏木さんの【鍛冶】スキルのレベルを上げさせて貰った。
これで少しでも柏木さんの作業が捗れば、結果として得をするのは、誰よりもオレだろう。
今さら躊躇する理由は何も無い。
◆ ◆
兄が見つけた生存者達を受け入れるべきか否かの話し合いは、この別荘地のオーナーである筒井の家で行われた。
金銭の価値や、不動産の所有権など、既に保証する政権も何も無い……というよりは、まだ存在していたとしても、その影響下に既にオレ達はいないわけだが、だからといって積極的にそれを無視するのも憚られるためだ。
筒井は既に無償で提供したものだから……というスタンスで、特にこれといった意見を言わない。
兄は発見した責任からか、それとも持ち前の正義感からか強く受け入れを訴えたし、オレや父、それから佐藤さんや警官隊のリーダー(今さらだが真壁さんというらしい……)も、受け入れを肯定した。
難色を示したのは意外にも真っ先に受け入れに賛成すると見られていた上田さんだった。
それから町内会の会長も反対に回る。
上田さんが受け入れに難色を示す理由も頷けるものだった。
32人もの避難を受け入れるとなると、現状で未だに自宅に残り、上田さん達が避難を促している人の分の住居を、避難民達が先に埋めてしまうような格好になるということ。
それから、彼ら生き残りの中に戦えそうな若者が極めて少ないため、食料を確保する量より消費する量が上回りかねないというのが、上田さんの提起した問題だった。
心情的には受け入れたいのは上田さんも同じようで、終始なんだか泣きそうな顔をしていたのだが……。
佐藤さんも上田さんの意見を聞いて、多少その主張に理解を示してしまった。
佐藤さんが中心になって、ド田舎ダンジョンでモンスター相手に食料となるドロップアイテムを集めたり、警戒に警戒を重ねて採集に勤しんでいるわけだから、それもある意味では当然かもしれない。
町内会長の意見は、まぁ……聞き流せるレベルのものだった。
新しく住人になる人と上手くやっていけるかどうとかだから、平時ならそれなりに耳を傾けるべきかもしれないが、今はそんなことを気にしている場合では無いだろう。
いや、こんな時だからこその発言なのかもしれない。
それでもやはり人道上、彼らを見捨てるという選択肢は軽々しくとれないのだ。
結論としては賛成多数で一応は承認となったわけだが、問題はむしろそれからだった。
どのように食料問題、住居問題を解消するかに尽きるのだが、これは中々の難題と言える。
結局、食料については、ド田舎ダンジョンのエリアや湖畔ダンジョンのエリアの住居や商店から集められるだけ集めて、あとはダンジョン探索で得られるものを増やしていくことで賄うことと、農業や漁労に避難民にも積極的に従事して貰うことを受け入れの条件に加えることになった。
避難民の住居については、最小限の使用に留め既存住民の権利を必要以上に圧迫しないことに決まる。
この問題については、オレのダンジョン探索の進捗も関係しているため、内心で早期の解決を誓った。
結局、昼食も自宅で摂ることになるぐらいには時間を消費してしまい、オレがダンジョン探索に向かったのは午後からになってしまう。
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