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第3章

第144話

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 マイコニドは本来的には人間のような姿をした、しかしあくまでもキノコのモンスターということになっている。
 しかし今、オレ達の目の前に居るマイコニドは、原種の人間型キノコよりも圧倒的に、いわゆる『感染者』が占める割合が多いように見える。

 原種のマイコニドはともかく、マイコニドにしまったモノ達は、グロテスクという表現がピッタリ来る。
 ……ゾンビもグロテスクと言えばグロテスクなのだが、オレが生理的な嫌悪感をより強く覚えてしまうのはマイコニドの方だ。
 
 ……眼や鼻の穴などは言うに及ばず、身体中至るところから毒々しい色合いのキノコを生やした若い女性。
 ……頭部や顔面全体からおびただしい数の黒く小さなキノコを生やした老爺ろうや
 ……もはやキノコというよりカビに近い形状の物が全身を白く覆っている、性別不詳の小さなマイコニド。
 さまざな色合い、形状、大小の入り交じったキノコに身体を乗っ取られた老若男女……それに加え、家畜や愛玩動物だったろう動物達の姿に、オレは思わず込み上げて来た吐き気を堪えるので精一杯だった。
 兄から聞いた話だけでは、マイコニドがこんなにもバリエーション豊かで、しかもおぞましいモノだとは思わなかったというのもあるが、元になった人達や動物の原形が残り過ぎている。

 これは、マイコニドの攻撃方法が関係しているのだろう。
 メインの攻撃手段は上位個体のマイコニドほど厄介な効果を持つ胞子だが、それが猛毒にしろ、麻痺にしろ、睡眠にしろ、腐食にしろ、呪殺にしろ……行き着く先は変わらない。
 最終的には胞子の効果で身動きが取れなくなった時点で、マイコニドに脳漿のうしょうを吸われて死亡してしまう。
 その際、眉間だとか頭頂だとか耳の穴だとかに触手を挿し込まれることになるが、よほどのイレギュラーが無ければ外傷はそれきり……つまり綺麗な死体が残り、あとは胞子が死体をマイコニドに変えていくことになる。
 ひとたびマイコニド化したら、もはや生前の人格は関係ない。
 ただただ、種族の拡大と繁栄のみを目指すキノコ人間になってしまうわけだ。

 マイコニドには近接戦闘は禁物とされている。
 先に述べた通り、マイコニドの胞子には猛毒や腐食、呪殺などの厄介な特性があるし、肺の中に入ると内部で爆発的な勢いでキノコが増えていくという。
 胞子は眼にも見えないほど細かい粒子だが、すぐに中位以上の解毒ポーションを飲むなどの対処が遅れれば、あっという間に窒息死からのマイコニド……というわけだ。
 遠距離から攻撃する場合でも、そういったリスクは完全には無くならないが、それでも近接戦闘よりは圧倒的にマシというものだろう。


 閑話休題それはともかくとして……


 マイコニドらのモンスターは、ド田舎ダンジョンから3Km地点のライン上に密集している。

 幸い未だにルールの改変は行われていないようで、同ライン上からは決して近寄って来ないが、こちらからも近付くつもりはない。
 弓やボウガンを持ったまま、戦闘開始の合図を待つ人々の顔にも、緊張や恐怖ばかりではなく、やはり嫌悪感がありありと浮かんでいる。
 マイコニドを放置したままならどうなるか?
 ……そんなことは、火を見るよりも明らかだ。
 そのうち風に乗ってマイコニドの胞子が飛んできて、安全圏だと思っていた地元があっという間にキノコ地獄に成り果てるだろう。

 まずオレが、景気付けに【火魔法】で攻撃の口火を切る。
 これが攻撃開始の合図だ。
 オレから見て左右に控える妻と沙奈良ちゃんも、火と風それぞれの魔法の発動体を持っている。
 妻が持っているのが風魔法……沙奈良ちゃんが持っているのが火魔法の発動体となる杖。
 2人も、オレから遅れること数瞬……それぞれウインドライトエッジ、ファイアボールの魔法を放った。
 佐藤さん率いる地元有志のメンバーや、右京君、兄も一斉に矢を放つ。
 猛威を振るう魔法に比べると、矢は非効率かもしれないが、それでも第一斉射で何体かのマイコニドは倒れたのだから上出来だろう。

 倒しても倒しても押し寄せるマイコニド……中には熊や猪など野生動物だったろう動物に寄生したヤツらの姿も見える。
 大半のマイコニドは、何の抵抗も出来ずに宿主の遺体ごと白い光に包まれて消えていく。
 これはゾンビ化した遺体も同じだ。
 ひとたびモンスター化したら遺体すら残らないのだから、何とも悲惨な話だと言えるだろう。
 上位のマイコニドの中には魔法を放つ個体も居て、さすがに完全なワンサイドゲームとは言えなかったし、実際に負傷した人も何人かは居たが視界に入る範囲には既にモンスターの影は見えなくなった。
 取り敢えず緒戦に限って言えば、オレ達の完勝と言って良いだろう。
 魔法による負傷者は3人。
 それも軽い切り傷が2人と、打撲が1人。
 すぐにポーションで完治する程度の軽傷だった。
 問題は胞子だが、呪殺や細胞腐食といった厄介な能力を持つ胞子を吸い込んだ人はいなかったようだし、毒や麻痺による不調を訴える人も居ない。
 1人だけ戦闘中に眠ってしまった若者が居たが、兄に容赦なく叩き起こされすぐに中位の解毒ポーションを飲まされた。
 今は問題なく友人と喋っているようで一安心といったところだ。
 戦闘終了後、オレや兄も含めて全員が念のためにと中位の解毒ポーションを飲んでいる。
 中位以上のポーションは貴重ではあるが、安全には換えられない。

 あとは境界線付近に来なかったマイコニドをはじめとするモンスターを、丹念に倒していく作業が残っている。
 敵地に入っていくことになるわけだから、当然だがメンバーは絞る。
 オレと右京君。
 妻と沙奈良ちゃん。
 兄と佐藤さんを中心にして、各組に若干名のダンジョン探索経験者で班を構成する。
 オレと右京君の班に来たのは上田さんと、亡くなった星野さんの弟さん。

 さぁ……本当に気の重い作業はこれからだ。
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