上 下
132 / 312
第3章

第131話

しおりを挟む
 ちなみにフォートレスロブスターのドロップアイテムだが、殻付きの焼きエビだった。
 その名も『要塞エビの甲羅焼き』……食べると生命力、腕力がボーナス成長……およそ2割も向上するらしい。
 シェアして食べた場合、効果も分散するらしいが、これは独り占めしたら家庭内に嵐が巻き起こりそうだ。
 カニは残念ながら魔石。
 期待していただけに残念だ。

 閑話休題まぁそれはともかく……

 再び訪れた第6層には異変が起きていた。

 だだっ広い雑な造りだったものが、見るからに丁寧なものに造り直されている。
 パッと見、いきなり古びた洋館の中に迷い込んでしまったような錯覚に陥りそうになるほどだ。
 通路も狭くなったし見るからに分岐も多そうで、これぞまさに迷宮といったところ。
 以前は真新しい人工建築物のようだったが、巨人でも暮らしているのか……といった印象を受けた前回とは全く違うコンセプトに思える。
 ……さすがに前のはアレだったからなぁ。
 こうなると出現モンスターの構成も変わっていそうだし、第6層のモンスターはスタンピードに参加していなかったものがほとんどだ。
 つまりはスタンピード時に消費されなかったモノ(魔素?)が滞留している可能性は高く、それなりの数の敵が居そうではある。
 初めて来たつもりで慎重に探索を進めていく必要が有るだろう。

 またマッピングをやり直す必要が有るが、これは仕方ない。
 ボス部屋の位置が変わっている可能性も考慮して、先入観は全て捨てて掛かろう。
 まず、問題になるのが扉の多さだ。
 目に見える範囲だけでも7つの扉がある。
 こうも扉が多いと、そもそもの深部に通じる道筋というものが見えて来ない。
 面倒でも扉の先が通路なのか、それとも小部屋なのかを丹念にチェックしていく必要がある。
 まず左右対照に有る扉の右から開けることにした。
 さしたる理由は無い。
 どうせ手当たり次第なのだ。
 警戒しながらもドアノブに手を掛けるが、特に【危機察知】も【罠解除】も反応しない。
 ドアを開けて中を確認すると、古ぼけた置時計が見えた。
 逆に言えば他には何も見当たらない。
 アレが時計に擬態しているモンスターの可能性はあるが、特に気にせず次の扉を調べることにする。
 ミラークラブなんかが居たせいで、フォートレスロブスター戦に余計な時間を取られたうえ、第6層のこの変わり様だ。
 不必要な戦闘ならば避けたい。
 左手の部屋も同じ造り。
 こちらにはポツンと小さな宝箱が置かれている。
 ミミックを警戒したが、特にスキルの反応は無かった。
 中にはビー玉サイズの宝石。
 念のため【鑑定】したが、単なるルビーの様だ。
 世間がなる前なら、かなりの価値が有ったのだろうが、今となっては単に綺麗な石といった価値しかない。
 もちろん、それでも欲しがる人はいるだろうが……。

 ◆

 淡々と探索を進めていたオレだが、なんだかここは妙だ。

 ダンジョン産らしくない宝石や金貨のような宝物ばかりが置かれているうえ、かなり奥まで来ているが未だにモンスターのの字も無い。
 最初にこちらを油断させておいて、いきなりの襲撃……などということも考えていたのだが、肩透かしも良いところだ。
 例えば……机の上に金貨と真珠のネックレスが置かれていた場面など、前回の経験からコインイミテーターやジュエルイミテーターが擬態していることを疑ったが、全く何の変哲も無い本物だったし、扉も宝箱も彫像も西洋鎧もサーベルもカーペットも、もう何もかもが怪しいのに、どれ1つとしてオレに襲い掛かって来ない。
 それでもダンジョンか、と言いたいぐらいだ。

 まぁ、途中から何となく意図は分かっていた。
 今回はオレを素通りさせたいのだろう。
 次回からは、本物とモンスターが入り交じったような厄介な階層になるのだと思おう。
 明らかに他とは違う意匠の扉が目の前に有るのだ。
 もう、そうに違いない。
 ボス部屋内まで何も無いことは無いだろうが……。

 意を決して扉を開けると、中には階層ボスらしきワーウルフが待ち構えていた。
 否が応にも、あの陽気な人狼のことが頭をよぎるが、今回のワーウルフは全く別物のようだ。
 有無を言わさず猛然と襲い掛かって来たし、何より……遅い。
 つたない。
 そして……弱い。

 あっという間に白い光に包まれて消えていくワーウルフ。
 後には宝箱。
 オレに流れ込んで来る力は、彼女の時とは比べ物にすらならないぐらい微弱だ。
 宝箱の中身は見覚えのあるワンド……翠玉の魔杖だった。
 周りを見回すが特に変化は無い。
 どうやら、先ほどのワーウルフが階層ボスで間違い無さそうだ。

 ここまで来れば、得体の知れない衝動の正体が何か分かるかと思ったが、結局は何も分からなかった。
 思わず、ため息が出てしまう。
 答えを求めて先に進むには、既に時間が掛かり過ぎていた。
 まぁ……せっかくここまで来たのだし、第7層を覗いてみるぐらいは良いか。
 先に進めという衝動は、抗い難いものになっている。
 奥に通じる扉に目を向けた……その時だった。
 彼女が……あの時と全く同じ様子で、扉を開けてこちらを見て微笑んだのは。

 そして扉を後ろ手に閉め、こちらにゆっくりと歩いてくるではないか……。
 顔は微笑みを湛えたまま、だ。

 彼女の顔を見た途端……スッと憑き物が落ちたかのように、オレの中の得体の知れない衝動は治まっていた。
 次に訪れたのは疑問と困惑。

 オレをのは彼女で間違いない。
 しかし彼女を殺したのは間違いなくオレだ。

 何故、生きている?
 何故、オレを呼んだ?

 何故……オレは彼女に微笑み返してしまっているのだろう?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

土方の性処理

熊次郎
BL
土方オヤジの緒方龍次はある日青年と出会い、ゲイSEXに目醒める。臭いにおいを嗅がせてケツを掘ると金をくれる青年をいいように利用した。ある日まで性処理道具は青年だった、、、

[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石
BL
 その町で由緒ある神社に仕えてきた家に産まれた高校2年の宝利 楓矢(ほうりふうや)は夢を見る。  それは紫の眼をした少女達が決まって1人の男に殺される夢。  殺される前の少女は言った。望まぬ未来に絶望を感じて。 "もういいと言うまで、私を殺してほしい" と……  その時に楓矢が感じるのは、刀を突き立てる男の胸を貫く様な激しい後悔と悲しみだった……反対に殺される少女からは不思議なほどに男に対する恐怖も嫌悪も感じない…  けれど何度も見る夢に耐えきれず、ある日楓矢は夢で叫ぶ。 "もう、殺さなくていいから!"……と。  殺される側の恐怖よりも、刀を持つ男の背負ったものに耐えきれずに…… 妖刀紫を持ち、今も殺し続けようとする男に…   *本編完結まで書き上がっています。 ※主に現代を舞台に話を展開させますがファンタジーです ※女の子が殺される設定ですので、苦手な方は※マークを飛ばしてください ※18禁箇所には*を入れます ※設定にΩバース的なものを出しますが、既存のものとは違いますのでご注意ください  

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【書籍化決定! 引き下げ予定】私を嫌う公爵令息がツンから極デレに進化して溺愛してくる ~一夜限りのはずなのに、媚薬の効果が切れません!~

宝羽茜
恋愛
※書籍化決定しました。10/25にKADOKAWAジュエルブックス様より発売予定。 書籍化にあたって、アルファポリスからは引き下げる予定です。 「俺に助けられるのが嫌なら――おまえが俺を助けろ」 騙されて媚薬を飲んだシェリイ・ロット男爵令嬢に手を差し伸べたのは、初恋の公爵令息オリヴァー。 嫌われているのはわかっていたが、自身も媚薬を飲んだオリヴァーを救うために一夜限りの関係を持つ。 しかし翌朝、元通り嫌われて終わりのはずが、オリヴァーがとんでもないことを言い出した。 「正式にロット男爵に婚約を申し込んだ。これでシェリイは俺の婚約者だ」 媚薬の効果が切れていないことに焦ったシェリイは元に戻す方法を模索するが、オリヴァーはそれまでの態度が嘘のようにデレデレに……いや、極デレに進化して溺愛してきた。 媚薬で極デレ進化した公爵令息と効果が切れないことに焦る男爵令嬢の、すれ違いと勘違いのお話です。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルス)にも掲載しています。

処理中です...