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第3章
第129話
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「……おい」
「ははは……早速で済まないな」
◆
結局、最寄りのダンジョンの探索自体は、スタンピード後のダンジョンがどうなっているかを知るため……という建前で、兄や妻の了承を得ることが出来た。
ただ、兄にも即座に動いて貰いたい案件が有ったため、オレ達は挙って筒井宅を訪問。
父を筆頭に、母、妻、義姉、息子、甥っ子達を下見と称して早速、筒井の所有する別荘地へと案内するべく連れて来ていた。
「いや、了承したのはオレだから良いんだけどさ。早すぎじゃね?」
「まぁな。それだけ状況が微妙なんだよ」
「久しぶりね、筒井君。お世話になります」
「あ、おばさん……お久しぶりです。全然、アレです。税金対策で買っただけの無駄な物件なんで、是非とも有効活用してやって下さい」
筒井は何故か、昔からウチの母に弱い。
幼くして母を亡くし、先年は父も亡くしている筒井は、どこかウチの母に親しみ以上のものを持っているようだし、母も不憫に思ったからか何かと筒井の面倒を見てやっていた。
オレに対する態度とは大違いではある。
筒井への挨拶を無事(?)に終えたオレ達は、筒井から割り当てられた家の鍵を使い、概ね画一的な造りの別荘地の中でも、特に眺望が良く庭も広いその仮住まいに感嘆していた。
「家具まで付いてる……ヒデちゃん凄いね、ここ」
「キッチン広~い。あ、これ欲しかったヤツ!」
妻も嬉しそうな顔をしているし、菓子作りが趣味の義姉もキッチンの充実ぶりには大喜びのようだ。
両親は早速とばかりに広い庭に出て、孫達を遊ばせてニコニコしている。
エマ(飼い猫)はスンスンあちこち匂いを嗅いで落ち着かない様子だが、じきに慣れてくれるだろう。
本宅に何か有った時に備えて、筒井が目を付けていたという建物なだけあって、不備らしい不備は全くと言って良いほど無かった。
これなら安心して行動が出来る。
兄には今から温泉街のダンジョン方面と、仙台駅方面、青葉城址ダンジョン方面が、それぞれどうなっているかを調査して貰う。
周囲が全てモンスターの領域になっているのか、それとも協力関係を築けるような有力なコミュニティが残っているのかで、今後の行動予定が大きく変わるからだ。
オレは最寄りのダンジョンの内部調査……という建前で、出来たら第6層のボス部屋まで行ってみようと思う。
やはり気になって仕方ないのだ。
◆
ダンジョン前に到達。
バリケード前で警備体制を敷いている警官隊の面々が何人か見える。
残りはダン協内で休憩中といったところだろうか?
「宗像さん、こんにちは。ダンジョン内に入られるのですか?」
亡くなった小田巡査長の恋人だった婦警さん……たしか菅谷巡査という筈だ。
「はい、あの後のダンジョンがどうなっているのか……これを知らないままというのは、やはり怖いものが有りますので」
「宗像さんなら大丈夫でしょうが……くれぐれも、お気をつけて」
「ありがとうございます。では……」
引き留められる可能性も考慮していたが、思ったよりは簡単に通してくれた。
余計な面倒が無くて何よりだ。
ダンジョン内に入る。
大量の海水が通過した筈だが、特に磯臭かったり床や空気が湿っていたりはしない。
……不思議なものだ。
改めてダンジョンが理外の存在で有ることを強く認識させられる。
一度もモンスターと遭遇しないまま、第1層のボス部屋に到達。
ギガントビートルの姿すら無い。
うーん、スタンピードでダンジョン内の魔素が枯れた……とかだろうか?
調査は当然、継続だ。
第2層も素通りになるかと思ったが、途中でクリーピング・クラッド(動くヘドロ)が1体だけ襲ってきた。
火属性魔法では最弱の着火の魔法でアッサリ撃退。
これは地味に便利だ。
ボス部屋の中にヘルスコーピオンの姿は無かった。
今のところ、ただの散歩だ。
第3層では、ところどころでゼラチナス・キューブが出迎えてくれた。
スタンピードに出てこなかったモンスターだからだろうか?
……となると、第2層で遭遇したクリーピング・クラッドも留守番してたクチかもしれない。
ボス部屋に入るが案の定、そこにデスサイズは居なかった。
第4層にも、いつもうるさい巨大なセミや、その他のモンスターの姿は無く、居るのはせいぜいがゼラチナス・キューブなどのスライム系モンスターぐらいだった。
爬虫類系モンスターは僅かに1体、ジャイアントタートルが居たぐらい。
これらのモンスターは、居残り組がほとんどなのだろう。
僅かにジャイアントタートルにリポップした可能性があるが……カメだし、出遅れただけの可能性も高い。
ボス部屋に新しい石距は現れておらず、ここまでを見る限りモンスターがスタンピード後に再出現した可能性というのは、限りなく低いように思われる。
第5層には、そこそこの数のモンスターが居た。
とは言うものの、レクレスシュリンプ(無謀エビ)、ホッパーシーアーチン(跳躍ウニ)、スピニングスターフィッシュ(旋回ヒトデ)、ジャイアントシーキューカンバ(巨大ナマコ)らの数は少なく、レギオンシースレーター(軍隊フナムシ)や水夫風のゾンビ、海賊風スケルトンに至っては全く見ていない。
多かったのは壁や天井に貼り付いて海水に流されなかったらしいバレットバーナクル(弾丸フジツボ)。
まぁまぁ居た……というのが、ジャイアントハーミットクラブ(巨大ヤドカリ)、サイレントローパー(隠密イソギンチャク)あたりだ。
やはりここでも、スタンピードの時に多く見掛けたモンスターほど、ダンジョン内部では数が少ない傾向に有るようだった。
さて……問題はこの後だ。
ボス部屋に待ち構えているフォートレスロブスター(要塞エビ)は、通常時と同じく1体なのか……それともスタンピードで出撃し損なった推定11体の大型バスの様なサイズのエビがズラリと並んで居るのか……?
「ははは……早速で済まないな」
◆
結局、最寄りのダンジョンの探索自体は、スタンピード後のダンジョンがどうなっているかを知るため……という建前で、兄や妻の了承を得ることが出来た。
ただ、兄にも即座に動いて貰いたい案件が有ったため、オレ達は挙って筒井宅を訪問。
父を筆頭に、母、妻、義姉、息子、甥っ子達を下見と称して早速、筒井の所有する別荘地へと案内するべく連れて来ていた。
「いや、了承したのはオレだから良いんだけどさ。早すぎじゃね?」
「まぁな。それだけ状況が微妙なんだよ」
「久しぶりね、筒井君。お世話になります」
「あ、おばさん……お久しぶりです。全然、アレです。税金対策で買っただけの無駄な物件なんで、是非とも有効活用してやって下さい」
筒井は何故か、昔からウチの母に弱い。
幼くして母を亡くし、先年は父も亡くしている筒井は、どこかウチの母に親しみ以上のものを持っているようだし、母も不憫に思ったからか何かと筒井の面倒を見てやっていた。
オレに対する態度とは大違いではある。
筒井への挨拶を無事(?)に終えたオレ達は、筒井から割り当てられた家の鍵を使い、概ね画一的な造りの別荘地の中でも、特に眺望が良く庭も広いその仮住まいに感嘆していた。
「家具まで付いてる……ヒデちゃん凄いね、ここ」
「キッチン広~い。あ、これ欲しかったヤツ!」
妻も嬉しそうな顔をしているし、菓子作りが趣味の義姉もキッチンの充実ぶりには大喜びのようだ。
両親は早速とばかりに広い庭に出て、孫達を遊ばせてニコニコしている。
エマ(飼い猫)はスンスンあちこち匂いを嗅いで落ち着かない様子だが、じきに慣れてくれるだろう。
本宅に何か有った時に備えて、筒井が目を付けていたという建物なだけあって、不備らしい不備は全くと言って良いほど無かった。
これなら安心して行動が出来る。
兄には今から温泉街のダンジョン方面と、仙台駅方面、青葉城址ダンジョン方面が、それぞれどうなっているかを調査して貰う。
周囲が全てモンスターの領域になっているのか、それとも協力関係を築けるような有力なコミュニティが残っているのかで、今後の行動予定が大きく変わるからだ。
オレは最寄りのダンジョンの内部調査……という建前で、出来たら第6層のボス部屋まで行ってみようと思う。
やはり気になって仕方ないのだ。
◆
ダンジョン前に到達。
バリケード前で警備体制を敷いている警官隊の面々が何人か見える。
残りはダン協内で休憩中といったところだろうか?
「宗像さん、こんにちは。ダンジョン内に入られるのですか?」
亡くなった小田巡査長の恋人だった婦警さん……たしか菅谷巡査という筈だ。
「はい、あの後のダンジョンがどうなっているのか……これを知らないままというのは、やはり怖いものが有りますので」
「宗像さんなら大丈夫でしょうが……くれぐれも、お気をつけて」
「ありがとうございます。では……」
引き留められる可能性も考慮していたが、思ったよりは簡単に通してくれた。
余計な面倒が無くて何よりだ。
ダンジョン内に入る。
大量の海水が通過した筈だが、特に磯臭かったり床や空気が湿っていたりはしない。
……不思議なものだ。
改めてダンジョンが理外の存在で有ることを強く認識させられる。
一度もモンスターと遭遇しないまま、第1層のボス部屋に到達。
ギガントビートルの姿すら無い。
うーん、スタンピードでダンジョン内の魔素が枯れた……とかだろうか?
調査は当然、継続だ。
第2層も素通りになるかと思ったが、途中でクリーピング・クラッド(動くヘドロ)が1体だけ襲ってきた。
火属性魔法では最弱の着火の魔法でアッサリ撃退。
これは地味に便利だ。
ボス部屋の中にヘルスコーピオンの姿は無かった。
今のところ、ただの散歩だ。
第3層では、ところどころでゼラチナス・キューブが出迎えてくれた。
スタンピードに出てこなかったモンスターだからだろうか?
……となると、第2層で遭遇したクリーピング・クラッドも留守番してたクチかもしれない。
ボス部屋に入るが案の定、そこにデスサイズは居なかった。
第4層にも、いつもうるさい巨大なセミや、その他のモンスターの姿は無く、居るのはせいぜいがゼラチナス・キューブなどのスライム系モンスターぐらいだった。
爬虫類系モンスターは僅かに1体、ジャイアントタートルが居たぐらい。
これらのモンスターは、居残り組がほとんどなのだろう。
僅かにジャイアントタートルにリポップした可能性があるが……カメだし、出遅れただけの可能性も高い。
ボス部屋に新しい石距は現れておらず、ここまでを見る限りモンスターがスタンピード後に再出現した可能性というのは、限りなく低いように思われる。
第5層には、そこそこの数のモンスターが居た。
とは言うものの、レクレスシュリンプ(無謀エビ)、ホッパーシーアーチン(跳躍ウニ)、スピニングスターフィッシュ(旋回ヒトデ)、ジャイアントシーキューカンバ(巨大ナマコ)らの数は少なく、レギオンシースレーター(軍隊フナムシ)や水夫風のゾンビ、海賊風スケルトンに至っては全く見ていない。
多かったのは壁や天井に貼り付いて海水に流されなかったらしいバレットバーナクル(弾丸フジツボ)。
まぁまぁ居た……というのが、ジャイアントハーミットクラブ(巨大ヤドカリ)、サイレントローパー(隠密イソギンチャク)あたりだ。
やはりここでも、スタンピードの時に多く見掛けたモンスターほど、ダンジョン内部では数が少ない傾向に有るようだった。
さて……問題はこの後だ。
ボス部屋に待ち構えているフォートレスロブスター(要塞エビ)は、通常時と同じく1体なのか……それともスタンピードで出撃し損なった推定11体の大型バスの様なサイズのエビがズラリと並んで居るのか……?
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