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第3章
第126話
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鈴木さんや、星野さん一家の葬儀が終わった日の夜のことだ。
……警察官の捜索により、またも遺体が発見された。
無惨に食い散らかされていて、見る影も無いらしい。
真新しいマンションの住人達で、この付近に身寄りの無い人達だ。
あの日、防衛陣の背後を襲ったモンスター達の犠牲になったのだろう。
アレが無ければもう少し楽な展開だった筈なので、どこまでも憎らしいモンスターどもだ。
……ただ、駐在所の台帳に記載された人数と、犠牲者の数が合わないらしい。
完全にモンスターの腹の中に収まったのか、それとも……。
まぁ、何はともあれ葬儀は行わなければならない。
夕食も終わったところで、兄と父は少しばかり酒も入っているが、これはもう仕方ないだろう。
喪主を務める人も居なければ、故人の人となりも分からない状態なため、最低限のものにならざるを得ない。
アンデッドモンスター化を避けるため、それでも真心を込めて火葬、葬儀は行われた。
警察官立ち会いの元、葬儀が終わると既に深夜と言っても良い時間になっていたので、さっさと就寝する。
この日も夜中にモンスターが現れることは無かった。
◆
翌朝……今日は全員が普段通りの時刻に起きて来たため、今後の方針について話し合う。
警察の捜索によって、また遺体が発見される可能性も考慮しなくてはならないが、そればかりに気を取られていては何も進まない。
最寄りのダンジョンも閉まっていることだし、周囲の状況を少しずつでも調べていくべきだろうということに決まる。
まずは……ド田舎ダンジョンのある地域からだ。
これは兄が単独で向かうことになった。
防衛戦が激戦になったのと、昨日の葬儀で負担が大きかったオレと父とを気遣ってくれたのだろう。
素直に好意に甘えて、骨休め……と言いたいところだが、体力的には問題無いので、息子や甥っ子達、飼い猫に癒されることにする。
あ、そうだ!
モンスターが現れる兆候も無いことだし、皆でボール遊びでもしようか。
外遊びが久しぶりな、おチビ達は嬉々として遊んでいる。
一緒に遊んでいる妻や義姉、見守る両親と年寄り猫……平和な時間。
父は野球の方が好きらしいが、あいにくオレの特技はサッカーだった。
見た目の派手なヒールリフトや曲芸じみたリフティングを披露してやると、おチビ達は目をキラキラさせている。
上の甥っ子などは真似しようとして転んでしまったが、泣きもせずケラケラ笑っている。
強い子だな……小さい頃の兄みたいだ。
義姉の方がよほど動揺していたぐらいだった。
下の甥っ子と、ウチの息子は何故かボールを投げ合っている。
サッカーやろうよ……。
しばらくそうしておチビ達と遊んでいたのだが、それも決して長い時間では無かった。
午前9時26分……またしてもダンジョンの蓋が開いたのだ。
それを見ていたのは奇しくもあの日、最初のワーラットに向かって発砲した若い警察官だったという。
オレに報せてくれたのは、出勤していた柏木さんから連絡を貰ったらしい、右京君と沙奈良ちゃんだった。
2人はダンジョンが開いたということは、またモンスターも出現し始めるのでは無いかという懸念から、外でボール遊びに興じるオレ達に、そのことを報せに来てくれたのだろう。
そして、その懸念は尤もだ。
まだ外で遊びたがっている子供達を妻や母達がどうにかなだめ、家の中へ連れていく。
立ち話もなんだし……ということで、柏木兄妹も家の中へ招き入れる。
詳しく話を聞きたい。
話を聞く限り……どうやら、すぐに再度のモンスターの侵攻が再開されるということでは無いらしかった。
ダンジョン前のバリケードは多少の修繕が加えられそのままになっているが、そこに警官隊が詰めて待ち構えたが、今のところ肩透かしを食らった状態でいるらしい。
すぐにダン協にも報せられて柏木さん達も待避準備はしたものの……ということだった。
自宅に戻って念のための備えをしておくという柏木兄妹を見送り、そのまま玄関でしばらく考え込んでいると、兄の車が戻って来るのが見えた。
思っていたよりも早い……ということは、あまり状況が良くないのだろうか?
「ただいま。ヒデ、とりあえず相談だ」
「……うん」
「橋を越えてしばらく行くと、そんなに強いモンスターじゃないがウジャウジャ居た」
「……ってことは」
「あぁ、負けたってことだろ。残念な話だが」
「こちらに来る気配は?」
「それがな。妙なんだよ。ヤツら、オレの車に気付いて騒いでたクセに、いつまで経っても向かって来ない。素手で車を降りて挑発しても、見えない境界線でも有るみたいに、あるラインから前に出て来ないんだ」
「境界線?」
「ああ、そうとしか思えない。その証拠にこっちからそれっぽいラインを越えて向かって行くと、ワラワラと普通に襲い掛かって来たからな」
「ラインって、どのあたり?」
「ちょうど、牛とか鶏たくさん飼ってる親戚の小山さん家あたりだ。帰りに寄って来たけど無事だったから、ほんとスレスレのところなんだろうな」
小山さんはウチの曾祖母の実家で、かなり遠い親戚……小さい頃に祖父と遊びに行って、当時でも非常に珍しかったらしい純国産馬の背に乗せて貰った記憶がある。
ここから大体2Km弱……ド田舎ダンジョンからだと、3Km強といったところだ。
ダンジョンから3Kmに境界線……?
……待てよ?
……ってことは、だ。
「オレ、ちょっと行ってみたいところが出来た! 兄ちゃん車借りるね!」
「あ、おい! どこ行くんだ!?」
「すぐ戻るから!」
兄の制止を聞かなかったことにして、乗り込んですぐに車を走らせる。
この勘が正しければ……様々な問題が解消されていく筈だった。
……警察官の捜索により、またも遺体が発見された。
無惨に食い散らかされていて、見る影も無いらしい。
真新しいマンションの住人達で、この付近に身寄りの無い人達だ。
あの日、防衛陣の背後を襲ったモンスター達の犠牲になったのだろう。
アレが無ければもう少し楽な展開だった筈なので、どこまでも憎らしいモンスターどもだ。
……ただ、駐在所の台帳に記載された人数と、犠牲者の数が合わないらしい。
完全にモンスターの腹の中に収まったのか、それとも……。
まぁ、何はともあれ葬儀は行わなければならない。
夕食も終わったところで、兄と父は少しばかり酒も入っているが、これはもう仕方ないだろう。
喪主を務める人も居なければ、故人の人となりも分からない状態なため、最低限のものにならざるを得ない。
アンデッドモンスター化を避けるため、それでも真心を込めて火葬、葬儀は行われた。
警察官立ち会いの元、葬儀が終わると既に深夜と言っても良い時間になっていたので、さっさと就寝する。
この日も夜中にモンスターが現れることは無かった。
◆
翌朝……今日は全員が普段通りの時刻に起きて来たため、今後の方針について話し合う。
警察の捜索によって、また遺体が発見される可能性も考慮しなくてはならないが、そればかりに気を取られていては何も進まない。
最寄りのダンジョンも閉まっていることだし、周囲の状況を少しずつでも調べていくべきだろうということに決まる。
まずは……ド田舎ダンジョンのある地域からだ。
これは兄が単独で向かうことになった。
防衛戦が激戦になったのと、昨日の葬儀で負担が大きかったオレと父とを気遣ってくれたのだろう。
素直に好意に甘えて、骨休め……と言いたいところだが、体力的には問題無いので、息子や甥っ子達、飼い猫に癒されることにする。
あ、そうだ!
モンスターが現れる兆候も無いことだし、皆でボール遊びでもしようか。
外遊びが久しぶりな、おチビ達は嬉々として遊んでいる。
一緒に遊んでいる妻や義姉、見守る両親と年寄り猫……平和な時間。
父は野球の方が好きらしいが、あいにくオレの特技はサッカーだった。
見た目の派手なヒールリフトや曲芸じみたリフティングを披露してやると、おチビ達は目をキラキラさせている。
上の甥っ子などは真似しようとして転んでしまったが、泣きもせずケラケラ笑っている。
強い子だな……小さい頃の兄みたいだ。
義姉の方がよほど動揺していたぐらいだった。
下の甥っ子と、ウチの息子は何故かボールを投げ合っている。
サッカーやろうよ……。
しばらくそうしておチビ達と遊んでいたのだが、それも決して長い時間では無かった。
午前9時26分……またしてもダンジョンの蓋が開いたのだ。
それを見ていたのは奇しくもあの日、最初のワーラットに向かって発砲した若い警察官だったという。
オレに報せてくれたのは、出勤していた柏木さんから連絡を貰ったらしい、右京君と沙奈良ちゃんだった。
2人はダンジョンが開いたということは、またモンスターも出現し始めるのでは無いかという懸念から、外でボール遊びに興じるオレ達に、そのことを報せに来てくれたのだろう。
そして、その懸念は尤もだ。
まだ外で遊びたがっている子供達を妻や母達がどうにかなだめ、家の中へ連れていく。
立ち話もなんだし……ということで、柏木兄妹も家の中へ招き入れる。
詳しく話を聞きたい。
話を聞く限り……どうやら、すぐに再度のモンスターの侵攻が再開されるということでは無いらしかった。
ダンジョン前のバリケードは多少の修繕が加えられそのままになっているが、そこに警官隊が詰めて待ち構えたが、今のところ肩透かしを食らった状態でいるらしい。
すぐにダン協にも報せられて柏木さん達も待避準備はしたものの……ということだった。
自宅に戻って念のための備えをしておくという柏木兄妹を見送り、そのまま玄関でしばらく考え込んでいると、兄の車が戻って来るのが見えた。
思っていたよりも早い……ということは、あまり状況が良くないのだろうか?
「ただいま。ヒデ、とりあえず相談だ」
「……うん」
「橋を越えてしばらく行くと、そんなに強いモンスターじゃないがウジャウジャ居た」
「……ってことは」
「あぁ、負けたってことだろ。残念な話だが」
「こちらに来る気配は?」
「それがな。妙なんだよ。ヤツら、オレの車に気付いて騒いでたクセに、いつまで経っても向かって来ない。素手で車を降りて挑発しても、見えない境界線でも有るみたいに、あるラインから前に出て来ないんだ」
「境界線?」
「ああ、そうとしか思えない。その証拠にこっちからそれっぽいラインを越えて向かって行くと、ワラワラと普通に襲い掛かって来たからな」
「ラインって、どのあたり?」
「ちょうど、牛とか鶏たくさん飼ってる親戚の小山さん家あたりだ。帰りに寄って来たけど無事だったから、ほんとスレスレのところなんだろうな」
小山さんはウチの曾祖母の実家で、かなり遠い親戚……小さい頃に祖父と遊びに行って、当時でも非常に珍しかったらしい純国産馬の背に乗せて貰った記憶がある。
ここから大体2Km弱……ド田舎ダンジョンからだと、3Km強といったところだ。
ダンジョンから3Kmに境界線……?
……待てよ?
……ってことは、だ。
「オレ、ちょっと行ってみたいところが出来た! 兄ちゃん車借りるね!」
「あ、おい! どこ行くんだ!?」
「すぐ戻るから!」
兄の制止を聞かなかったことにして、乗り込んですぐに車を走らせる。
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