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第2章

第66話

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『派生スキル……師事効果増大・教導の心得・心身成長補正・読得の骨子・観察会得の心得・記憶力補正・種族限界突破・文章理解力補正……各種初期階梯を開放しました』

『スキルレベル上昇に伴い、解析者スキル追加能力……啓蒙促成を取得しました』

 ……え?…………は?

 何だ?

 何なんだ!?

 ……このスキル性能は、まさに壊れ性能だ。

 少し聞き慣れてきてしまった、硬質かつ機械的な脳内アナウンスが聞こえると同時に、これら派生スキルやら追加能力やらの、具体的な効果が理解出来てしまう。

 派生スキルの大半は、既に得ていた自習自得の心得という派生スキルに、その概要は近い。

 師事……つまり、人から技を習う際の効果が劇的に向上するのが、師事効果増大。
 反対に人に教える際の効果を高めるのが、教導の心得。
 心身成長補正は、精神的、肉体的な成長率を爆発的に上げる。
 読得の骨子は、スクロール系アイテムや、一般的に流通している書物の効能を十全に吸収するためのスキル。
 観察会得の心得は、見るだけでも徐々に技を盗むことさえ可能にする。
 記憶力補正は、字面を見たまんまかもしれないが、記憶力自体を高め、同時に記憶容量を明確に拡張するスキル。
 種族限界突破は、人間の限界を超えての成長すらも可能とする、潜在能力を大幅に高めるもの。
 文章理解力補正は、まさに見たまんま。

 1つ1つの派生スキルで、充分に立派な独立スキルとして通用する性能だ。
 しかも、該当する行動……つまり、読書をするとか、妻から薙刀を習うなどすれば、新しくそれらに関するスキルを得たり、派生スキル自体の階梯を上げたりすることが、可能であるというのだから、規格外にも程がある。

 さすがにここまで図抜けた効果を持つスキルは、他に思い当たらない。
 逆に言えば、ただ持っているだけでは何の効果も発揮しないスキルでもあるが、日常的にダンジョンに潜り、留守居している時には鍛練をするようになった今のオレには、非常に有益なスキルだと思う。

 そして……【啓蒙促成】はヤバい。
 ヤバ過ぎる。

 何せ、スキル熟練度が一定以上の水準にある場合にこそ限られるが、該当するスキルの取得や、スキルレベル上昇を意図的に促すことが出来てしまうのだ。
 つまり……今すぐにでも、父の卓越した杖術の技を、正式に【杖術】スキルとして与えることが出来るということになる。

 もちろん、その武器を触ったことも無い人に、いきなり【剣術】スキルだったり【弓術】スキルなんかを与えたりすることは出来ないし、ちょうど今の妻の様に【薙刀】スキルを得たばかりで、それから1匹もモンスターを討伐していないような場合に、スキルレベルを上げてあげたりは出来ない。

 斯様かようにおよそ万能とは言えないかもしれないが、スキルブックに頼らないスキル取得の手段として、今後は大いに役に立ってくれるだろう。
 スキルレベルが上がるとかは、未だに未確認情報なのだし、その一事だけでも大事おおごとになるのは想像に難くない。
 これは【鑑定】とは違い、ダン協などには秘匿しておくに限るのだろうが……実は、どうしても試したいことがある。
 それでバレたら、バレたで良いぐらいだ。
 リスクよりもメリットが明らかに勝るのが分かっている場合にまで、自分の精神的安寧を優先するつもりは全くない。

 早速、息子の寝顔を見守っているだろう妻の元へ。
【啓蒙促成】の副産物で、人のスキル熟練度を見ることが出来るようなのだ。
 妻はオレに気付くと、不思議そうな顔をして小首を傾げる。
 そうした仕草は、化粧を落とすと途端に幼く見える容姿と相まって、非常に可愛らしい。
 ……相変わらず、良い意味で年齢不詳だ。

【スキル熟練度解析】

『取得済みスキル』

 薙刀術:レベル1(熟練度0)
 長柄武器の心得:レベル1(熟練度23)

『未取得スキル筆頭』

 敏捷強化:熟練度76

 お……あと少しで【敏捷強化】をスキル化することが出来そうだ。

「良く寝てるね……もう少ししたら寝るから」

「分かった……壮ちゃん、可愛いでしょ~?」

「うん」

 お互い小声ではあるが、思わずほっこりしてしまう。
 軽く手を振り、今度は兄の元へ。

 兄は自室で正座のまま、刀の手入れをしていた。

【スキル熟練度解析】

『取得済みスキル』

 短転移:レベルーー

『未取得スキル筆頭』

 刀術:熟練度100

 さすが……兄には刀術をスキル化することが可能なようだ。
 兄に事情を話す。
 これには、僅かばかり訝し気な表情を浮かべていたが……実際にスキル化してあげると、物は試しとばかりに鞘に納めていた刀を抜き払い、いくつか型のようなモノを見せてくれた…………って、いきなり危ないなぁ、もう!

 他にはスキル化出来るものは、どうやら無いらしかったので、もう既に寝ている父は明日に回すことにして、オレも今日は早めに休ませて貰おうかな。

 部屋に戻ると、どうやらオレが兄と話している間に寝てしまっていたらしい妻は、息子と同じような寝顔で、静かな寝息を立てていた。

 2人を起こさないように、オレも静かに横になり、目を閉じ眠りの世界へと旅立つ……寸前だった。

【危機察知】に感あり。

 ……とは言うものの、反応はそこまで強いものでもない。

 余計な騒ぎにはしたくない。
 そっと起き上がり、予備武器の槍を持って部屋を出る。

 居間に到達すると、酷く眠たそうな顔をしている父と、まだ起きていたらしい兄とが、簡単にだが防具を身に付け、窓から外の様子をうかがっていた。

「お……ヒデも起きて来たか。何だと思う?」

 いくらか目が醒めてきたのか、思いの外ハッキリとした口調で、父が問いかけてきた。

「さぁね……オークよりは弱そうだなぁ、ぐらいしか分からない」

「カズ、ヒデ、これ、ウチに入ってくると思うか?」

「アンデッドなら家屋への侵入も有り得るっていう話だよね。とりあえず順番に周辺警戒しよっか。オレ、まず行こうか?」

「いや、ヒデは武器のこともあるが、もしアンデッドなら親父かオレだろ。親父は、まだ眠そうだし、オレが行く」

 兄が榊で作った簡易的な祓い串と、愛用する白鞘の御神刀を持って身を翻した。

 ……しばらくのち

「最悪だ……エマ(飼い猫)の喧嘩相手だった野良猫のブチ。もちろんゾンビな。アイツ、腹を何かに喰われてたみたいな傷が有ったぞ。昼間のハクビシンといい、これ何か危ないヤツが居るんじゃないか?」

 兄が憔悴した様子で帰って来た。

 顔に似合わず、極度の猫好きな兄にとって、ゾンビ化していたとはいえ、見知った猫の介錯は精神的にキツいものがあったようだ。
 簡易装備のため、無慈悲のチェーンアンクレットまでは所持していなかったのも、悪い方に転んでしまった。

 何とも言えない空気が漂ってしまったが、既に【危機察知】に掛かるような存在は、近くに居ないようだ。

 解散した後も、すぐに眠りにつけるような精神状態では既にないが、明日に備えて身体を休める必要は有る。

 横になって、我慢強く眠くなるのを待つが、今夜は中々、寝付けそうにない。

 あ……父のスキルのこと、すっかり忘れてたなぁ。

 もう少しで寝られそうな時に限って、余計なことを思い出すクセは、なかなか直らないようだった。
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