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第2章

第62話

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 これは事前に調べた情報にも無かった動きだ。

 見る見るうちに10本も有ったタコ足が2本まで減り、減った分だけ……いや、それ以上に胴体が長くなっていく。
 もはやタコには見えない。
 石距てながだこの正体であるところの蛇の姿だ。
 しかもクジラ並みの体長を誇る大蛇……いや、これはオロチとでも言うべきか。

 ……もしや?
 オレがソロで挑戦しているうえ、足を落とすのに適さない鎗使いだからだろうか?

 大体の場合、パーティで挑むのが普通なのだし、その場合は役割分担で足を斬り落とす斧使いだの剣を得物にする者が四苦八苦しながら、タコ足を減らしていくという攻略法が、探索者達がよく閲覧するサイトに書かれていた。
 取り巻きを減らすのに苦労したのもあって、戦闘時間そのものも長くなって来ている。
 それらの条件が重なったことで、こうした今まで誰も見たことの無い行動パターンを、目にすることになってしまったのだろう。

 二岐ふたまたのオロチ……日本神話に出てくるヤマタノオロチは、頭が8つで尾も8本なので、目の前のコレとは大きく異なるのだが、なぜかそんな名を想起させられてしまう。

 頭だけでも象のようなサイズなので、かなりの迫力だ。
 しかも、こちらが与えたダメージは無かったかのように、見るからに元気だし傷口も見当たらない。

 そして、変形を終えた石距てながだこは、こちらが状況の変化に対応しきれていないのを見て取ってか、先ほどまでのノロマぶりが嘘だったかのように、蛇そのものの動きを見せ恐ろしい速さで迫って来た。

 たちまち迫り来るオロチ。
 危ういところで回避自体は成功したが、大きく開かれた口から漏れる瘴気を、僅かながら浴びてしまったように思う。

 全てが金属で出来ているオレの鎗は、すぐさまダメになるようには造られていないし防具も皮製が主体で、金属質な物は大力のブレストプレートはじめマジックアイテムこそあれ、普通の金属のものは無いので、恐らくすぐに継戦能力に影響が出ることはないとは思う。
 しかしただ避けているばかりでは、そのうち何かしらダメになる装備品も出て来かねないのだ。
 素早く、さらに曲線的な動きも出来るようになった厄介な相手だが、逆に言えば頭部が攻撃のメインになったのは明確でもあるし、こちらはギリギリまで引き付けて痛撃を与えるカウンタースタイルで立ち向かうことにする。

 時折、猛スピードで突進してくる石距てながだこの胴体がかすめ裂傷や擦過傷を作りながらも、どうにか片目を潰し頭部への攻撃も多く成功させることが出来た。
 しかし、こちらの体力も限界が近い。
 そろそろ距離を離して、スタミナポーションをあおりたいところだが、息つく間もなく襲い掛かって来る石距てながだこには、こちらの意図が分かっているかのように思えた。

 いや……本当に分かっていても不思議は無いか。
 単なる巨大なヘビでも、タコでもない。
 石距てながだことは伝説上の妖怪なのだから、知恵も充分に備わっていると思うべきだろう。
 だとすれば、今のままワンパターンな戦いに終始しているだけでは、いつか致命的な隙を晒してしまう可能性もある。

 覚悟を決めたオレは、ギリギリ回避してすれ違いざま鎗を突き出すスタイルを捨て……回避してそのまま石距てながだこに追いすがって行った。
 そして、ヤツが向きを変える前に尾の攻撃を掻い潜り、長大なオロチの身体を駆け上がっていく。
 この時ばかりは金ヤスリの様な鱗で覆われた身体が有難い。
 幸い本物のタコが元になったわけでもないせいだろうかヌメヌメとした粘液も無いので、容易に登ることが出来た。

 そしてそのまま、残された眼球に全力で短鎗を突き入れ、痛みに暴れる石距てながだこから振り落とされないように、深々と突き刺さったままの鎗を両手で全力で掴む。

 そして石距てながだこは頭を大きく振るうたび、尾でオレを払おうと暴れるたび、結果的に鎗ごとオレを振り回してしまったことで、自らダメージを拡大させていく。

 いよいよオレの握力が限界を迎えようとしたタイミングで、暴れるヤツの動きは既に弱々しいものへと変わっていた。

 これならば……!

 ここがトドメを刺す最大のチャンスと見たオレは、石距てながだこが大きく上方向に頭を振るったタイミングで、敢えて短鎗を掴んでいた手を自ら離し、放り上げられ天井にぶつかるギリギリのタイミングで、クルリと身をひるがえし全力で天井を蹴った。
 そのまま、鎗の刺さったところを目指して飛んでいき、両の手のひらで思いっ切り鎗を引っ掴む。
 反動でグワンと大きく硬いハズの鎗がしなったが、さすがに折れることはなく思惑通り大きく傷口を拡げながら、役目を果たした鎗は石距てながだこから引き抜かれた。

 危うくバランスを崩して地面に衝突しそうになりながらも、どうにかこうにか受け身を取ることには成功し、そのままゴロゴロ回転していく。
 壁にぶつかって、何とか止まったが、もう身体中が痛くてたまらない。
 打ち身やり傷……軽い肉離れなんかも有るだろう。
 しかし、悲鳴を上げる身体に鞭打ち、油断なく石距てながだこに向き直ると、ちょうど巨大な全身が光に包まれ出したところだった。

 想定外の激戦だったが、何とか勝利を収めたオレは大きく息を吐き出し、腰に付けたポーションストッカーから、中級スタミナポーションと、回復ポーションをようやくにして飲むことが出来たのだが…………そのタイミングで瘴気を浴びてダメになっていたらしいポーションストッカーの留め具が外れて地面に落ちてしまう。
 まだストッカーに残っていた貴重な中位ポーションの瓶が割れる音が、激戦の後の静寂に包まれた階層ボスの部屋に嫌になるほど、それはそれは高らかに響いたのだった。
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