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第1章

第55話

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 それにしても膨大な量の戦利品なのだが、もちろん全てがポーションや素材アイテム、マジックアイテムという訳ではない。
 今回、兄は魔石の果てまで全てインベントリーに入れて持って帰ってきたのだが、これにはちゃんとした理由があるのだそうだ。

 実は7層で1種。12層でも同じく1種、かなり有用なマジックアイテムを手にいれたというのが、その理由なのだった。

 まずは、魔力式の結界柵4枚セット。
 これは本来ならダンジョン内で野営するためのアイテムで、1枚の柵がカバー可能な範囲は5メートル。
 野営する時に使うなら、四方を覆うように使うのだろうが、兄はこれを玄関や勝手口などに上手く配置して使うことを提案してきた。
 野営に使用するならば、そのパーティの方針にも依るだろうが、概ね6~8時間を安全に過ごせれば良い。
 しかし、今回これを常設するという話だ。
 結界維持に消費する魔石の量がハンパでは済まないものになるだろう。
 今のところ、ダンジョン外で発生したモンスターはダンジョンにまっすぐ向かう行動パターンを持つため、家屋をわざわざ破壊しに来たとか、家の中に侵入してきたという報道はされていないが、たまたま進行ルート上に位置した建物が破壊されたとか、中に居た人が死傷したというニュースになると、枚挙にいとまがないほどだ。
 安全を今まで売却していた分の魔石であがなえるのなら、安いものだと思おう。

 もう1種は、魔力式の小型発電機。
 従来の屋外用の携行可能な発電機と比べれば非常に軽くて、エンジン音も全く気にならないレベル。
 その発電可能な電力に至っては、それこそ比較にすらならない。
 これ1つあれば、この家の必要電力量を優に超えてしまうのだ。
 もちろん結界柵ほどではないが、これも動かすには魔石をそれなりに必要とする。
 しかし、いつ電力供給が断たれるか分からない現状、非常に心強いアイテムだ。
 近隣の発電所が無事なため、今のところ出番はないが、それでも貴重な収穫だと言えるだろう。

 そういったわけで、家に貯蔵する魔石の量が現状設定している量では、とても足りなくなってしまうわけだ。
 しばらくの間、売却に回す魔石については少なくして、代わりにポーションを多く売りに出すことになるだろう。
 中級に分類されるポーション類が多く入手できたし、中にはギリギリ上級と言えるポーションも含まれていたのだから、最寄りのダンジョンで手に入るポーションは、今ストックしてある分だけでも充分なほどだ。

 素材アイテムだが、これはかなりの質と量なのだが、ざっと代表的なものを挙げていくならば、イビルボアの肉、イビルエイプ(魔物と化したサル)の毛皮、イビルウルフ(同じくオオカミ)の牙などの動物型モンスター由来の素材と……魔木の木片、ミスリルの欠片、魔鉄の破片などの魔法生物型モンスター由来の品々とに分類される。
 これらは基本的に、生産系スキルの持ち主に依頼して、武器や防具を補強して貰ったり、作成して貰ったりするのが、主な用途だ。
 ごく一部のモンスターが落とす肉は、普通に食用となる。
 市販されている普通の牛、豚、鶏、羊より美味いモノも有れば、もちろん反対に味が劣るモノもあるが、このところ度重なるモンスター災害で、畜産を営む農家の方々や、加工や流通を担う業者、工場などにも被害が出ている今、貴重なタンパク源として扱われるようになるだろう。

 ドーピングアイテムに関しては、最寄りのダンジョンと、ドロップするアイテムの傾向が異なっているようで、バイタリティ(生命力)ムース、マインド(精神力)チョコレート、デクステリティ(器用さ、技量)マシュマロ、ランダムフォースマカロンなど、お菓子系アイテムからして、成長を促進する能力が違う。
 ランダムフォースマカロンは、味によって効果が異なるようだが、基本的には他の菓子類と同程度の効力だ。
 お菓子系アイテムと似たような傾向で、ダンジョンごとにドロップする種類が変わるのがドーピング剤。
 兄が持ち帰ったものの中には生命力向上剤、精神力向上剤、技量向上剤なども豊富に有って、今後の探索頻度次第では能力的な偏りを防げそうなのも非常に有難い。
 もちろんゲームじみたHP、MP、防御力などの謎数値に支配された世の中では無いのだが、身体の頑丈さ、精神的な強さみたいなものは、これらのアイテムで実際に補強出来ることが、既に数々の上位探索者などの先例で分かっている。
 まぁ、そういった人達でも首を落とされでもしたら死んでしまうのは、オレ達と何も変わらないわけなので、ドーピングが万能では無いということにもなるのだが……。

 このダンジョンごとの傾向というのは、アクセサリー系のマジックアイテムにも影響を与えるようで、兄は今回の探索で、頑健の腕輪、マインドの指輪を、それぞれ1つずつ。
 バイタリティの指輪、デクステリティの指輪は2つずつ手に入れて来てくれた。
 他にも、耐眠のバンダナ、耐暗のモノクルといった耐性系アイテムも嬉しい。

 そして今夜の最大の収穫は【長柄武器の心得】というスキルが籠められたスキルブック。

 このスキルは【槍術】・【剣術】・【刀術】などの専門スキルではなく、槍や矛は言うに及ばず、戦斧、偃月刀えんげつとうなど、長柄の武器なら幅広くカバーしてくれる武術系スキルだ。
 残念ながら専門スキルよりは、効力が下回るというが、無いより遥かに有利と言えるだろう。
 もちろん、父が得意とする杖や槍、妻の得物である薙刀も長柄武器である。
 どちらに使ってもらうかだが、恐らくは妻になるかなぁ……といった予想が成り立つ。
杖術じょうじゅつ】のスキルブックの方が、何故か【薙刀術】のスキルブックよりも、異変発生前のオークションなどの流通量から見ても出やすいらしいからだ。

 結果として……深夜まで起きて待っていたにも関わらず、今夜中に分配案はまとまりそうになかった。
 あまりに量と種類が多いのも有るが、それ以上に兄が今にも寝そうだ。
 先ほどから、うつらうつらと舟を漕いだりしている。

 ……それに、オレも留守番中に【鑑定】を試し過ぎたせいか、とても全てのアイテムを鑑定しきれなかった。
 まだ凄そうなモノも有るのに少し残念だ。
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