53 / 312
第1章
第53話
しおりを挟む
今から兄が探索に向かうのは、いつものダンジョンではない。
まずは以前から行き慣れた温泉街のダンジョンを、手始めに攻略することにした様だ。
例の温泉地には今のところ、オーガ以上の強さを持つモンスターが出現したという情報も無いので、これ以上の高位モンスターの発生が頻発するようにならないうちに、攻略を開始しておきたいということのようだ。
既に近隣で竜種のモンスター等が跋扈し始めた青葉城址のダンジョンや、仙台駅東口付近のダンジョンなど、市内中心部に近い場所は、さすがに敬遠されることになった。
『ドラゴンは刀で斬って倒せるイメージが湧かないからな。山ほどミサイルでも食らわせない限り、アレを殺すなんて無理だろ』
そう言って悔しげな顔をした兄だが、ドラゴン相手に普通の武器で勝てる人間なんて、そもそも居る筈がないのだから、それは仕方ないだろうに……。
さて、兄を見送ってしばらくした後、オレは少し思うところが有り、最近すっかり新しい茶の間と化した広間で、既知のアイテムを鑑定していた。
『スクロール(魔)……魔力の扱いについての理解を深める。効果(小)』
『アジリティの指輪……所持することで凡およそ2割ほど敏捷性を向上させる。必ずしも指に嵌はめる必要は無い』
『甲殻の護符……防具の内側に貼り付けることで、ギガントビートルの甲殻と同程度の防御力を、元々の防具性能に付与する。着脱自在』
『スタミナポーション1……使用者の持久力を服用後すぐに回復する。名称の後の数字が大きいものほど効果が高い』
……こうして、簡易鑑定に出した場合に発行されるアイテム説明と、全く同じ文章が脳裏に浮かんで来るわけなのだが、実際どうやってダン協所属の【鑑定】スキル持ちの人達が、鑑定結果を文章化しているのか気になったのだ。
案ずるより産むが易し……って、こういう時に使うのかもしれないな。
タネを明かせば何のことはない。
鑑定結果を紙に書こうとすると、自分の身体が自動書記機にでもなったかのごとく、一言一句逃さずに、書き写すことが出来るのだ。
それは、ちょうどパリィアミュレット頼りに、スキルの【パリィ】を使用するのと同じ感覚だった。
初めて【パリィ】を試した時のことは、今でも忘れていない。
自分の身体が一瞬では有るが、自分のもので無くなる心地なのだ。
気になったことは、どんどん試してみるに限るな。
ポータブルDVDプレイヤーで、ネコとネズミが仲良くケンカしているアニメを見ながら、ご機嫌な息子を【鑑定】してみる。
ーーパチッ!ーー
目の前に火花が飛んだような感覚に見舞われ、鑑定結果が脳内に投影されることも無かった。
これはダン協の公式発表が裏付けられた格好だ。
曰く……
『人間やモンスターなど、生命体の鑑定は出来ない』
……というのは、どうやら本当らしい。
ただ、抜け道というか、何と言うか……何かしらの条件次第かもしれないので、その辺りは要検証といったところだろう。
さて次は……だ。
『槍……総金属製の短槍。材料は大半が鉄で、一般に鋼鉄と呼ばれる物。穂先が柄と一体化しており、先端の尖った杭にも見える』
お……いけた。
オレの得物を試しに鑑定してみたが、ダンジョン産のマジックアイテムに限らず、一般的な品物でも鑑定可能なようだ。
そこからは手当たり次第に【鑑定】していく。
いつの間にかオレの横で香箱を組んでいた、飼い猫のエマ(16才、メス)にも弾かれたので、やはり人間やモンスターに限らず全ての生き物に対して、現状の【鑑定】スキルでは通用しないようだった。
そして……甥っ子のオモチャを鑑定していた時のことなのだが、少しだけクラっと来たのだ。
……?
まるで貧血を起こした時のような?
あれ?
これじゃあ兄が【短転移】を連発した時に起きる症状みたいじゃないか。
ん?
まさかMP(マジックポイント)とか、SP(スキルポイント)みたいなものが、存在するっていうのか?
【鑑定】で昏倒した人の話など聞いたことは無いのだが……これは、もしかすると有り得るのかもしれない。
もう一度……今度は、ヘソ天(仰向け)状態で無防備に寝ているエマの首輪に【鑑定】してみる。
【鑑定】自体は出来たのだが、今度はより明確に貧血の様な症状に見舞われた。
次は首輪に付いてるペット用の肉球マークのお守りを【鑑定】する。
……鑑定結果は見られたのだが、強烈な吐き気と頭痛までし始めてしまう。
これ以上はヤバい!
本能の鳴らす警鐘に従い、すぐさま目を瞑り、しばらくそのまま回復を待つ。
……次第に落ち着いて来た。
なるほどなぁ。
鑑定料金が高いとか思っちゃってて、ホントごめんなさい……という気持ちだ。
兄の【短転移】に限らず、能動的に使用する類のスキル発動には、何かしらの代価が必要になっているのは間違い無いだろう。
まずは以前から行き慣れた温泉街のダンジョンを、手始めに攻略することにした様だ。
例の温泉地には今のところ、オーガ以上の強さを持つモンスターが出現したという情報も無いので、これ以上の高位モンスターの発生が頻発するようにならないうちに、攻略を開始しておきたいということのようだ。
既に近隣で竜種のモンスター等が跋扈し始めた青葉城址のダンジョンや、仙台駅東口付近のダンジョンなど、市内中心部に近い場所は、さすがに敬遠されることになった。
『ドラゴンは刀で斬って倒せるイメージが湧かないからな。山ほどミサイルでも食らわせない限り、アレを殺すなんて無理だろ』
そう言って悔しげな顔をした兄だが、ドラゴン相手に普通の武器で勝てる人間なんて、そもそも居る筈がないのだから、それは仕方ないだろうに……。
さて、兄を見送ってしばらくした後、オレは少し思うところが有り、最近すっかり新しい茶の間と化した広間で、既知のアイテムを鑑定していた。
『スクロール(魔)……魔力の扱いについての理解を深める。効果(小)』
『アジリティの指輪……所持することで凡およそ2割ほど敏捷性を向上させる。必ずしも指に嵌はめる必要は無い』
『甲殻の護符……防具の内側に貼り付けることで、ギガントビートルの甲殻と同程度の防御力を、元々の防具性能に付与する。着脱自在』
『スタミナポーション1……使用者の持久力を服用後すぐに回復する。名称の後の数字が大きいものほど効果が高い』
……こうして、簡易鑑定に出した場合に発行されるアイテム説明と、全く同じ文章が脳裏に浮かんで来るわけなのだが、実際どうやってダン協所属の【鑑定】スキル持ちの人達が、鑑定結果を文章化しているのか気になったのだ。
案ずるより産むが易し……って、こういう時に使うのかもしれないな。
タネを明かせば何のことはない。
鑑定結果を紙に書こうとすると、自分の身体が自動書記機にでもなったかのごとく、一言一句逃さずに、書き写すことが出来るのだ。
それは、ちょうどパリィアミュレット頼りに、スキルの【パリィ】を使用するのと同じ感覚だった。
初めて【パリィ】を試した時のことは、今でも忘れていない。
自分の身体が一瞬では有るが、自分のもので無くなる心地なのだ。
気になったことは、どんどん試してみるに限るな。
ポータブルDVDプレイヤーで、ネコとネズミが仲良くケンカしているアニメを見ながら、ご機嫌な息子を【鑑定】してみる。
ーーパチッ!ーー
目の前に火花が飛んだような感覚に見舞われ、鑑定結果が脳内に投影されることも無かった。
これはダン協の公式発表が裏付けられた格好だ。
曰く……
『人間やモンスターなど、生命体の鑑定は出来ない』
……というのは、どうやら本当らしい。
ただ、抜け道というか、何と言うか……何かしらの条件次第かもしれないので、その辺りは要検証といったところだろう。
さて次は……だ。
『槍……総金属製の短槍。材料は大半が鉄で、一般に鋼鉄と呼ばれる物。穂先が柄と一体化しており、先端の尖った杭にも見える』
お……いけた。
オレの得物を試しに鑑定してみたが、ダンジョン産のマジックアイテムに限らず、一般的な品物でも鑑定可能なようだ。
そこからは手当たり次第に【鑑定】していく。
いつの間にかオレの横で香箱を組んでいた、飼い猫のエマ(16才、メス)にも弾かれたので、やはり人間やモンスターに限らず全ての生き物に対して、現状の【鑑定】スキルでは通用しないようだった。
そして……甥っ子のオモチャを鑑定していた時のことなのだが、少しだけクラっと来たのだ。
……?
まるで貧血を起こした時のような?
あれ?
これじゃあ兄が【短転移】を連発した時に起きる症状みたいじゃないか。
ん?
まさかMP(マジックポイント)とか、SP(スキルポイント)みたいなものが、存在するっていうのか?
【鑑定】で昏倒した人の話など聞いたことは無いのだが……これは、もしかすると有り得るのかもしれない。
もう一度……今度は、ヘソ天(仰向け)状態で無防備に寝ているエマの首輪に【鑑定】してみる。
【鑑定】自体は出来たのだが、今度はより明確に貧血の様な症状に見舞われた。
次は首輪に付いてるペット用の肉球マークのお守りを【鑑定】する。
……鑑定結果は見られたのだが、強烈な吐き気と頭痛までし始めてしまう。
これ以上はヤバい!
本能の鳴らす警鐘に従い、すぐさま目を瞑り、しばらくそのまま回復を待つ。
……次第に落ち着いて来た。
なるほどなぁ。
鑑定料金が高いとか思っちゃってて、ホントごめんなさい……という気持ちだ。
兄の【短転移】に限らず、能動的に使用する類のスキル発動には、何かしらの代価が必要になっているのは間違い無いだろう。
1
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない
鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン
都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。
今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上
レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。
危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。
そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。
妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す
名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる