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第1章

第48話

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 満を持して足を踏み入れた第4層。

 無理ゲーダンジョンという異名が付くきっかけになったデスサイズこそ、既に突破してここに到達しているわけだが、こと探索することに於いては、むしろこの階層から無理ゲー感が更に増していくとさえ言われている。

 実際、先ほどから押し寄せるようにして現れているのは、武装の度合いを上げたオーク(しかも複数体が同時に現れる)や、強さはさほどでもないが動きが速く仕留めにくい飛行モンスターばかり。
 ジャイアントビー、イビルバット、ジャイアントフライあたりは既知のモンスターだが、新しく現れ始めた、ジャイアントシカーダ、ジャイアントバタフライが厄介だ。
 それぞれ、でっかいセミ、蝶々なのだが、ジャイアントサイズのセミは立派な騒音兵器だし、サイズがデカくなった蝶の鱗粉りんぷんは、特に有害物質が含まれていなくとも、視界や呼吸に多大な負担を強いる。
 警戒しながら慎重に探索する……とは、有り体に言えば『五感を研ぎ澄まして』いる状態なのだから、目(視覚)・耳(聴覚)・鼻(嗅覚)に頼れなくなるとすれば、途端に精度を落とすことになるだろう。
 先ほどから【危機察知】がフル回転状態で仕事をしている。

 オレがオークの集団(それぞれ斧、メイス、弓、槍持ち……)と戦っている最中、上空からジャイアントバタフライが鱗粉爆撃しながら飛来した時などは、鱗粉を盛大に吸い込んで咳き込むオーク達と……息を止めながらジャイアントバタフライを撃墜し、いまだ咳き込むオーク達にオレが突っ込むという、何とも凄惨な絵面になったりもした。

 しかし大半の飛行モンスターはオークと連携するわけでもないが、かといって仲違いもせず、互いにオレを殺すために向かってくるのだから、大いに手を焼くことになってしまう。

 どうにか敵の数を減らしていき、エンカウント回数も減ってきた頃、オレがオークの集団を相手取っている時に、今度はジャイアントシカーダが音響爆撃を……以下略。

 今は同族間の連携に留まっているモンスター達が、効率的に連携してくるようになると、一気に難易度が上がることだろう。
 今のうちにこうした模擬的な対集団戦闘経験が積めるのは、今後を考えると非常に有益だとは思う。
 しかしジャイアントバタフライはともかく、ジャイアントシカーダは、本当に嫌になるほど五月蝿うるさい。
 三月の蝉なのに五月蝿いとは、これ如何に。
 まぁ……ダンジョンに季節なんて関係ないと言ってしまえば、それまでだが。

 ボス部屋のある深奥に向かうと、また出てくるモンスターの種類も変わる。
 人によっては虫より苦手だろう爬虫類はちゅうるい系のモンスターが増えてくるのだ。

 ジャイアントリザード、ジャイアントタートル、ジャイアントゲッコ……デカいトカゲ、カメ、ヤモリ。
 それからグラトンコンストリクターという、意訳するなら……大喰らいの大蛇とでもいうモンスターも姿を現す。
 カメは硬いうえに意外と鋭い動きで噛み付いてくるし、トカゲやヤモリや大蛇は壁や天井から不意討ちしてくるし、オークや飛行モンスターの相手をしながら、これら爬虫類系モンスターの処理をすることは非常に大変な作業だった。

 そうして、苦労しながらモンスターの間引きと探索を続けていたオレだったが、小さな宝箱を小部屋で発見……【罠解除】スキルの出番だろうかと一瞬、身構えたが、どうも罠の気配は無いようだ。
 探知出来なければ解除も出来ないからなのか、【罠解除】スキル持ちには、罠の有無を見分ける感覚みたいなものが備わる。
 その感覚が罠の存在を否定していたので、遠慮なく宝箱を開けたのだが、中には用途や着用箇所が判然としない、何やらアクセサリーらしきものが入っていた。
 今すぐ【鑑定】のスキルブックを使用して、このアイテムが何なのか確かめたい衝動に駆られるが、どうにか堪えて探索を続ける。
 揉め事のタネは、わざわざ増やすべきでは無いだろう。
 【鑑定】クラスのスキルを、勝手に習得するようなことは、さすがに避けた方が良い。
 またしばらく探索を続けていくと、ボス部屋らしき重厚な扉に守られた部屋が見えてきた。

 とりあえず今日はこれまでだな。

 また悪い癖が、自分の中で暴れださないうちに、オレは今日の探索と間引きを切り上げ、ダンジョンを出るべく戻っていく。
 既に時間はギリギリ、もちろん不意を討たれないよう気を付ける必要は有るが、それと同時になるべく急ぐ必要もあった。

 今日の晩飯は何だろう?
 散々に蹴散らした大食いの蛇が乗り移ったのか、オレの腹は頻りにグーグーと鳴り始めていた。
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