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第1章

第41話

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 ……これは思っていたより、数段ヤバい。

 あの直後、それなりに覚悟を決めたつもりで階層ボスに挑んだオレは、残像が霞むほどの速さで繰り出された致死の一撃を寸でのところで避け、盛大に冷や汗をかくことになった。
 見通しが若干、甘かったと言わざるを得ない。

 第3層のボス……デスサイズは、簡単に説明するなら、巨大かつ凶悪なカマキリだ。
 死神の鎌を意味する名を冠するに相応しく、ジャイアントマンティスに数倍する速度で、連続して斬擊を繰り出してくる。

『回避が無理ゲーに近い。しかも回避が無理なら、ほぼ即死確定』

 かつてこのダンジョンに挑んだ、当時の日本トップクラスの探索者の言葉だ。

 オーストラリアのメルボルン近郊のダンジョンで、世界で初めてこのモンスターを発見し、デスサイズの名を付けた探索者も、同様の気持ちだったのだろうか。
 彼は片腕を失いながらもどうにか撤退には成功し、デスサイズの命名と生きたままの引退を同時に行えただけ幸運なのだと、しばらく後に語った。
 彼のパーティに他の生存者は誰一人居なかったという。

 鋼鉄さえも容易に切り裂く鎌の一撃は、鎌で獲物を捕まえてからかじるというカマキリの習性すら、自ら否定してしまうほどの威力を誇る。
 獲物が捕まる前に、そもそも裁断されてしまうのだ。
 それでいて、カマキリとしての本能で自然と二刀流を使いこなすのだからタチが悪い。
 体長もジャイアントマンティスを優に上回り、インド象のそれに匹敵する。
 本体の動きはヘルスコーピオンと同程度だが、斬擊の速さは比較にもならないほどだ。
 さらには、取り巻きのジャイアントマンティスの頭越しに斬擊を放ってくるため、取り巻きの排除だけでも命懸けの作業となる。
 こちらが、ようやく一撃を喰らわせても、なんと取り巻きのカマキリを食って回復までするという、ちょっと洒落にならない化け物なのだ。
 取り巻きの数自体も非常に多く、最初はデスサイズとジャイアントマンティスを合わせて、18体との戦いだった。

 ◆

 今、オレは四苦八苦しながら、どうにか7体まで数を減らしたカマキリの群れと距離を取り、すっかり荒くなった息を整えながら、一時撤退か、戦闘続行か……真剣に検討していた。

 まだ取り巻きのジャイアントマンティスが残っているからこその、束の間の猶予時間だ。
 デスサイズは、手下のカマキリどもの後ろから、恐らく久方ぶりの獲物であるオレを、心なしか余裕すら感じさせる態度で見下みおろしている。
 いや……見下みくだしているのか?

 取り巻きが全滅した時に存分に発揮されるだろうデスサイズの本気……果たして今のオレに捌ききれるだろうか?

 ここで退くのは簡単だ。
 退いてじっくり腕を磨き、マジックアイテムを集めて武装を強化し尽くして……そんな作業にしばらく従事すれば、それこそ鎧袖一触。
 簡単にデスサイズを葬り去ることも出来るかもしれない。
 最悪、兄に頼めば……うん、相性的に余裕だろうな。

 いや……ダメだ…………肚を決めろ!

 石橋を叩くだけ叩いて結局渡らない……生憎そんなタイプじゃないんだ、オレは。
 今まで、ギリギリの戦いの中でこそ研ぎ澄まされてきたものは、確かにオレの中に根付いている。
 ここで簡単に勝ち負けの分からない戦いから逃げるようなら、今まで積み重ねてきたものが、
 あたかも砂上の楼閣の様に崩れ去るのが、目に見えるようだ。

 挑め!
 超えろ!
 闘え!

 錆びた鉄のような味のする唾液を無理やりに飲み込み、まだ6体いる三下カマキリを一気呵成に突き倒していく。
 デスサイズは、急に目の色を変えたオレに驚いたかのように、高速で羽ばたいて自ら距離を空けた。
 手下を置き去りにして。

 ……あと4……3、2…………残り1匹!

『スキル【勇敢なる心ブレイブハート】を自力習得しました』

 まるで……覚悟を決めたオレを祝福するかのように、しかしやたらと硬質な【解析者】の声が、高らかに脳裏になり響く。

 さぁ……決着をつけようか。

 最後に残された取り巻きのジャイアントマンティスを瞬殺し、オレはデスサイズを睨み付けた。
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