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第1章

第36話

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 その後……特に波乱もなくダンジョンを出たオレはそのままダン協の建物に入り、いつもの受付のお姉さんに戦利品を提出した。

 やはり製パン機には、かなりのインパクトがあるのだろう。
 他にも様々なマジックアイテムを提出しているというのに、どこか物欲しそうな表情を隠せないでいる受付のお姉さんの目線は、チラチラと製パン機に向けられていた。
 今回の探索で得られたアイテムは非常に多いが、鑑定の必要なものは6種のみ。
 うち1つが製パン機(見込み)だ。

 例によって例のごとく、ガラガラの待合室で待つこと数分後。
 番号札1番で呼び出された。
 番号札4番以降は、かなりの長期間、使われていないのでは無いのだろうか?
 魔石の買い取り価格は、またも上がっている。
 若干、緩やかな上がり幅になったのは、復帰したレジェンド探索者達の活躍が影響しているのかもしれないな。

 さて、お楽しみの鑑定結果を見てみよう。

『幸運向上剤……およそ1割ほど、永続的に幸運が向上する。また不運に見舞われる確率については、幸運の向上に伴い低下する』

『獄蠍尾の護符……刺突武器の柄に貼ることで、ヘルスコーピオンの毒針と同程度の貫通力を、元々の武器性能に追加で付与する。着脱自在』

 この2つは、それぞれギガントビートル、ヘルスコーピオンの遺した宝箱から得た品物だ。
 どちらも今のオレにとっては、大当たりのアイテムで、これは分配会議にも力が入りそうだ。

 その他に……

『パワーチョーカー……所持することでおよそ2割ほど腕力を向上させる。必ずしも首に着用する必要は無い』

『ストレングスクッキー……食べると腕力をはじめとする筋力の成長率が高まる。限界値には寄与しない。効果(僅少)間違っても食べる前に砕いてはいけない』

『技巧のタリスマン……使用者の技術習得、技能向上を助けるタリスマン。必ずしも首から下げる必要性は無い』
 ※ダンジョン探索者協同組合脚注……現在のところ、スキルのスキルブックに依らない習得や、スキルレベル向上といった効果は報告されていません。

 これらに加えて、既知のアクセサリーやドーピング剤、そして例のネタスクロールが何と5つも……いや…………待てよ?

 盛運の腕輪、ラックの指輪、どちらもかなりの高性能というか、今までのダンジョン探索では得られなかったアイテムが、どんどん手に入っていることから、毎日のように効果を実感している。
 今日のヘルスコーピオン戦でも、実はかなり際どい場面が有ったが、偶然にも汗が目に入りそうになったのを拭う過程で、身を捩よじったことが幸いして、運良く致命傷を避けることが出来てしまった。
 あれは本当に偶然なのか?
 幸運な出来事だと言えないか?
 ……これは何かしら、この20年に渡って解き明かされていない謎があるのではないだろうか?

 今までも散々オレは、マジックアイテムという単語を述べてきた。
 モンスターの中には当たり前のように、魔法を使う種も存在している。
 ドラゴンしかり、バンシーしかり、デーモンしかり、エンジェルしかり……ゴブリンでさえ、上位種にシャーマンやソーサラーが確認されているのだ。
 今まで地球上の誰1人、魔法が覚えられていないのには、何らかの理由が有るのかもしれない。
 この可能性に気付けたのは、製パン機という歴れっきとしたマジックアイテムの取得と、技巧のタリスマンの説明文、そしてネタスクロールに次いで二度目となるダン協からの脚注、さらにはオレの盛運の腕輪やラックの指輪に対する信頼感。
 どれかピースが1つでも欠けていたなら、繋がらなかっただろう考えだ。
 今すぐ、どうこうなることはないのかもしれない。
 だがこれは、もしかしたらもしかするぞ。
 半ば確信めいた予感に震えながら、オレはダン協を後にし、帰路を急いだ。

 背後に、受付のお姉さんの、どこか恨めしげな視線を感じながら……。
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