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第1章

第34話

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 思っていた以上に硬い!

 行く手を阻むジャイアントスコーピオン達を突き倒しながら、何とかヘルスコーピオンに短鎗の一撃を入れたオレだったが、その甲殻の余りの硬さに閉口していた。

 ボス部屋の扉を開けたオレを出迎えたサソリの群れは、全部で11匹。
 長らく放置されていただろう状況をかんがみれば、恐らくはこれが最大数と見て良いだろう。
 何とか包囲されないよう駆け回り、サソリ達の分断に努め、根気強く1匹ずつ排除していく。
 サソリが4匹減ったところで、先ほどようやく本命のヘルスコーピオンに、短鎗を喰らわせたところだったのだが、その狙いすました刺突は、上手く甲殻の分厚いハサミで受けられてしまったのだ。

 モタモタしていたらハサミに捕まって滅多刺しにされてしまうし、それがヘルスコーピオンのハサミなら、オレの身体自体をし切ることすら、出来ても不思議ではない。
 いったん素早く距離を空け、集団の最左翼に位置しているジャイアントスコーピオン目掛けて突進。
 首尾良く一撃で屠り、すぐさま離脱。
 これでようやく、残り6体。
 事前に参照していた撃破報告の例では、6体から討伐開始していたので、まだやっとその時の状態に並んだだけだとも言える。

 ヘルスコーピオンは、どうやら用心深い性格をしているのか、無理に突出して来たりはしない。
 それでいて、オレが取り巻きのジャイアントスコーピオンに攻めかかると、横合いから鋭くハサミや毒針を持った尾を伸ばしてくるのだから、まったくタチが悪いヤツだ。
 そして、何とかボスの攻撃を受け流したりしている間に、取り巻きを逃がしたり、危うく取り巻きのハサミに捉えられたりしそうになりながらも、オレはじわりじわりと数の不利を縮めていった。

 そして、ついに訪れたヘルスコーピオンとの一騎討ちの時……ヤツは今までのスピードが何だったのかと思うほど、苛烈な連撃で攻め立ててくる。
 この動きの変化は、事前に調べておいた時の想定を軽く上回っていた。
 今のところ、ギリギリ避けられてはいるものの、これ以上の長期戦はマズい。
 父や兄よりは若いが、既にオジサンと呼ばれかねない年齢のオレのスタミナには、やはり限界が有るのだ。

 このまま守勢に回っていては、いつかその限界が来てしまう。
 致命的な攻撃以外は、多少かすられたり、出血を伴うものでも許容して、攻めに転じる。
 つくづく【敏捷強化】スキルを得られて良かったと思う。
 素の能力のままだったら、直撃しそうな攻撃が幾度も有ったのだ。
 どうにかサソリの攻撃を掻い潜りながら、オレは少しでも柔らかそうな部分を狙って、刺突を当てていく。
 刺す、突く、受け流す、回避、刺す、突く、突く、受け流す……パリィアミュレットの能力にも遠慮なく頼りながら、どうにか互角以上に渡り合う。

 ギリギリの戦い。
 戦闘が佳境に入ってから、随分と時間が経っているように思えてきた……その時だった。

『スキル【槍術】のレベルが上がりました』

 今まで都市伝説と思われていた、スキルレベルの上昇。
 それが事実であったことを告げる【解析者】の声が脳内に響いたのだ。

 それからの戦いは、俄然オレ有利に展開し始めた。
 目に見えて、有効打が増えているのが分かる。
 甲殻と甲殻の隙間を穿つ回数が多くなっていく。
 それに伴い、ヘルスコーピオンの動きは徐々に鈍り始めていった。
 回避や受け流しに割いていた分の力を、ここぞとばかりに遠慮なく攻撃に傾けていく。
 動きに精細を欠きながらも、隙を見せようものなら、一撃で勝負を引っくり返す攻撃力を持ったボスだ。
 勝ち目が見えても気を緩めることなく、そして根気強く、攻撃を続行していかなくてはならない。
 勝負を焦ったら、それで終わる。

 そして戦いの幕は、唐突に降りた。
 横合いに回り込んでからの短鎗の刺突が、見事に致命の一撃になったようだ。
 あんなにしぶとかったヘルスコーピオンの姿が、やけにアッサリと光に包まれ消えていく。

 どうにか終わったな。
 サソリの消えた後に遺された、いくぶん暗い色をした赤い宝箱を前にして、オレはようやく長い息を吐きだしたのだった。
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