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ずっとそばにいて

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数日ぶりに山荘に戻った私は、深夜帰宅してきた陸翔を出迎えた。


「なんだ、帰ってたのか」


ムスッとした表情で玄関に立った兄を、リビングのソファに座らせた。



「昴を殴ったのお兄ちゃんでしょう?…ひどすぎる」

「お前と絶対に離れないって聞かないからだ」

「だからって殴っていいの?…お兄ちゃん、おかしいよ」

「あいつは、やめた方がいいんだ。これは、お前を思ってのことなんだよ」

「私を思って、ってどういうこと」

「それは」


陸翔は言い淀んだ。


「私のことを思ってるなら応援してくれればいいじゃない」


懇願の意を込めて兄を見つめてみたけれど、陸翔は頑なな表情で横を向いたままだ。


「私をモテない女呼ばわりして、恋愛から遠ざけてるのは兄ちゃんなんだよ?
 昴のことを話した時だって『病気のことは話したのか』って言って尻込みさせて…病気に捕らわれていたら私、いつもまでも前に進めない。
 兄ちゃんといるとまるで、お前は病気だから、子供が生めない体だから、誰かと付き合う資格なんてないって言葉の裏で言われている気がするの。
 誰かを好きになって幸せな気分になっているところで、「お前は欠陥品だ」って言われるの、どんな気持ちかわかる?
 あたしは欠陥品じゃない。赤ちゃんを産めなかったとしても、それがなに?あたしにはあたしの幸せがあるの。『お前を思って』なんて言ってるけど、あたしの幸せを遠ざけているのは兄ちゃんなんだから」


「…言いたいことはそれだけか」


激高する私とは反対に、陸翔は深く沈んだ様子で呻くようにつぶやいた。


「え?」

「もう行けよ。あいつんとこに」

「いいの?」

「いいもなにも、お前は自分で決めるんだろ」

「兄ちゃん?」


陸翔は硬い決心をしたように唇を引き結び、遠くの壁をじっと見つめている。兄の顔つきに、ただならぬ奇妙な感じを覚えた。

一刻も早くここを出て行きたい。これ以上、身勝手で横暴な兄と一緒に暮すことはできないと思った。自室に置いてあった生活用品などをバッグに詰め込んで、家を出た。



軽自動車で山を下り、畑が続く道をたどって昴の住む倉庫に着いたころには、もう空は白み始めていた。

アルミサッシの扉を開けて中に入ると、小さなラジオから軽快な音楽が流れ、頭上の窓からは朝日が差し込んでいた。

鬱蒼と茂った木々が日差しをさえぎる薄暗い山荘とは違って、昴の部屋には燦燦と日が差し込んでいる。
私が背後に引きずっていた影すらも、真っ白に打ち消してしまうほど明るかった。


歯を磨いていた昴は、私の方を振り返ると、思い出したように目を見開き、シンクの脇に置かれたプラスチックのコップから、新品のピンク色の歯ブラシを取って差し出した。私のために用意してくれていたようだった。


「一緒に歯、磨こうよ」


壁に掛けられた、茶ばんで汚れた小さな鏡に向かって、並んで歯を磨く。ただそれだけのことなのに、こみ上げてくる嬉しさが、涙になって滲んだ。


「こうしてると、一緒に住んでるって感じ」


歯ブラシを口に咥えたまま昴が言った。茶色い瞳が優しく微笑んで見下ろしてくる。私の帰る場所はここにある、そう思った。


抱きしめられて目を閉じると、昴が耳元で囁いた。


「ずっとここにいて?」


昴は、私をあの山荘から引っ張り出すのと引き換えに殴られたのだとわかった。

兄の横暴さにかすかな恐怖を覚えると同時に、木陰に隠れて日の当たらない山荘から引きずり出してくれた昴を、かけがえのない存在だと思えた。


「今日は休みだよね?咲良が休みだって言ってたから、俺もそうした」


二本の歯ブラシをコップに立て、ミントの味のキスを交わしてから、私はせがんだ。


「ずっとこうしていたい」


昴の背中に腕を回し、胸に顔をうずめた。

昴の右手が、背中を撫でた。左手で、私の右手を取る。


「ネヴァー・キャン・セイ・グッドバイ」というエモーショナルなバラードが、ラジオから流れている。ゆったりとしたリズムのその曲に、身を委ねた。体を寄せ合って、甘く切ないメロディに合わせて揺れながら、何度もキスをした。


抱き上げられ、ベッドにあおむけになって、服を一枚一枚脱がされた。昴も服をすべて脱ぎ捨てて、私に覆いかぶさるようにして見下ろしてくる。
朝日に晒される明るい部屋で、全身をくまなく見つめられ、体を隠したくなる。

今までは薄闇で触れ合っていただけだからさほど気にならずに済んだけど、今日はくっきりと線路のように下腹を走る傷跡が、日差しの下で丸見えになる。思わず両手で薄桃色の薄い皮膚の亀裂を覆い隠した。


「昴、そんなに見られたら、恥ずかしい」


特に下腹部の傷は、見る人に衝撃を与えかねない。


「隠さないで」


昴は私の手を優しく払いのけ、桃色の引き攣れの筋を舌でなぞった。


「あたしのここ、気持ち悪くない?」


恐る恐る尋ねると、昴は首を振った。唇が触れ合うほどに顔を近付けて、囁いた。


「たまらなく好きだよ、咲良のぜんぶが」


口づけに蕩かされながら、指先で乳首を弄ばれる。ふわふわしていた先端が、きゅっと硬く突き立った。


「昨日の夜までこうしてたのに、朝起きたらまた、咲良を抱きたくなってた」


舌を絡めあい、両手を握り合って、一つに繋がりあった。ずっとこうしたかった、と言うかのように私の秘所がぐじゅりと音を立てた。

時折よぎる陸翔の悲し気な固い表情を、打ち消すように私は言った。


「昴に、ずっとなかにいてほしい」

「俺も、ずっと咲良のなかにいたいよ」


見下ろしてくる昴が、瞳をかすかにうるませた。


腰を柔らかく前後させ、抽挿を繰り返しながら、頬を撫でられ、唇を唇で愛撫される。

ただただ欲しいものを求めているだけの昴の顔は、少年のように愛くるしい。

なのに、貫いて来る肉茎の逞しさは、そのあどけなさとは真逆だった。そのギャップがあまりに淫靡で、私を夢中にさせた。

昴に、すべてをあげたい。ふくらみも、くぼみも、柔らかい場所も、何もかも。日の光にさらされた、私のすべてを。


「昴、体まだ痛いよね」


聞くと昴はかすかに視線を左右に動かした。痛みを堪えてまで体を動かさせるのは、私も望んでいないことだった。


「今日はゆっくり、ずうっと繋がっていたいな」


私は言って一度昴から離れて体を横にした。昴のお腹に自分の背中をぴったりとくっつけて、お尻を突き出し、突き立つものを後ろから迎え入れた。

昴が私の片足を抱き寄せるように持ち上げると、赤くただれた接合部分が丸出しになる。昴はゆっくりと沈めたり引いたりしながら、振り返った私の唇をねっとりと食んだ。昴が腰の動きを止めたら、こんどは私が腰をくねらせて昴のものを恥唇で咥えこんで扱いた。


「溶けてるみたいに気持ちいよ」


昴は私の胸に指を埋めて付け根がら揉みしだきながら耳たぶを舐める。刺激を送り込まれるたびに、花壺がきゅん、と絞られて昴のものを締め付ける。
昴はそれに呼応するように、はぁっ、と私の耳に熱い吐息を吹きかけた。


「このまんま俺、咲良とほんとに溶けちゃいたい」


腰をゆっくり前後させ、私の淫裂からぐちぐちと出し入れしながら昴が囁いた。


「ずっとここにいていいの?」


傷口を熱い指先がなぞる。さらに下腹を滑り降り、ぱっくりと口を開いてくわえ込む淫裂の結び目で指が留まった。硬く突き立って蜜を纏った蕾を、こりこりと転がされ、私は思わずか細い声で啼いた。

指先をくちゅくちゅと動かしながら耳元で昴が囁く。


「いてほしい。毎日一緒に過ごそう、それで、こうやって、二人のときは、ずっとくっついていよう」


内側と外側から甘く捏ねられ、返事とも喘ぎともつかない声が漏れた。蜜が溢れだし、太ももの付け根を濡らすのが分かる。


「うん、ああっ」


びちゃびちゃといやらしい水音をつなぎ目からたてながら、一心に腰を動かし合った。


「時間の無駄だなんて言うな、俺にとっては一番大事な時間だよ」


体の芯が痺れだす、硬くて熱い先端で執拗に花蕾の裏側を愛撫され、外側からも指先で鋭い快楽を送り込まれるうち、下半身がじわじわとマヒするような、動きを乗っ取られるような感覚が襲い、わなわなと震え始めた。


「あああ、いく、いく」


穏やかなさざ波のような絶頂感が遠くに見える気がした。呼び寄せるように腰を動かし、はあはあと息を荒らげる。


「咲良、おれも…もう我慢できない」


昴は声を震わせて囁くと、私の中に熱いほとばしりを注ぎ込んだ。遅れて私の花芯がわなわなと震え出し、昴の白濁液を吸い上げるように襞が痙攣した。



私はずっと、昴と一緒にいよう。昴と幸せになろう。

昴の方を振り向いて、その唇に甘く吸い付きながら、私はゆったり目を閉じた。

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