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出会い

再会(2)

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森の中の木々を縫うように整備された「フォレスト」の敷地には、レストラン棟が3棟ある。

隠れ家のようなたたずまいで、懐石やしゃぶしゃぶなどを出す和食専門の「杉」。
山の斜面に建てられたクラシックな洋館でフレンチのコースを提供する「ル・ソレイユ」。
バーベキューを楽しむテラス席がメインの巨大なログハウス風レストラン「インザウッド」。

「インザウッド」の責任者である私は、店の開店中はほとんど勤務している。

人員の配置は人事部門の担当者が行うので、食材の発注計画と営業中のオペレーション管理が、私の主な仕事だ。

朝食バイキングの時間は、調理と客席の進行管理。バイキングエリアの料理は絶えずできたてが並んでいるか、座席への案内に滞りがないか、裏にも表にも目を配る。

朝食の時間を終えると、厨房は夜の仕込みに入り、私は翌日の食材の残量を予測して発注計画を立てる。

ディナータイムは家族連れの宿泊客がバーベキューをしに押し寄せるので、サイドメニューの提供、肉や野菜といった食材の補充、アルコールドリンクやデザートの提供であっという間に時間が過ぎていく。

午後九時にはオーダーストップとなり、閉店作業が始まる。

客席を清掃し、翌日の朝食に出すフレンチトーストやスープの仕込みなどのあとは、厨房の火の元を確認し、裏口を施錠して終了だ。


無事一日のオペレーションを終え、レストラン棟の鍵を持ってフロント棟の裏口からスタッフルームに入った。

休憩室に隣接した執務室で、恵と人事担当の荘司が打ち合わせをしていた。恵は私に気づくと荘司との話を切り上げて近づいて来る。

フォレストの運営会社「鳥居リゾート」の社長夫人となった恵だが、現場に出ないと感覚が鈍ると話す彼女は、今日はフロントのスタッフと同じブレザーを着て接客していたようだった。

今や重役のひとりとして活躍する雲の上のような存在だけど、私の前ではやんちゃな高校時代そのままの言動で接してくるのが可愛らしかった。

「ちょっと咲良、さっき陸翔くんから、昨日は妹が世話になりました、って言われたんだけど」

恵にじっと見つめられ、私は気まずさにうつむいた。

「ごめん」

「大丈夫。大事な咲良をちゃんとお預かりしてましたよ、って言っといた。で、どこいってたの昨夜?男?」

恵が肩を回して壁際に私を誘導し、耳元で問い詰める。

「まあ、そう」

「ついに?どんな男」

高校時代から知っている恵が、私の唇の端が緩んで頬が赤くなるのを見逃すはずがなかった。恵にはごまかせないと思って白状する。

「それがさ、その、相性っていうのかな、すごくよくて」

呟くと恵は身悶えして見せた。

「やーん、まじで、その話詳しく」

昴は、多くを話さなくてもこちらの意図を汲む察しの良さがあった。

初めはそれは多くの人が昴に対して感じる印象なのかとも思ったが、私と昴との間にだけ特別に通じ合う何かがあるのだと感じたのはベッドで抱き合った時だった。

何も言わなくても昴は、私が求めるものを感じ取って与えてくれた。それはこれまでの数少ない経験の中でも初めてのことだった。


昴とのセックスでは、相手がちゃんと感じているかと不安になる瞬間は一時たりともなかった。相手が最後まで無事に到達できるか、とか、自分も絶頂を迎えなければ、といった、相手への気遣いから生まれるかすかなプレッシャーめいた感情などは一切不要だった。

お互いが心底快感に溺れているのを肌で感じられたし、体の奥からあふれ出るように湧き起る衝動に任せているだけで、みるみる頂点に上り詰めてしまった。しかもそれも、昴も私もほぼ同じタイミングで、だ。

思い出すだけで顔が熱くなってくる。

今度あらためてじっくり話すと答えると、恵は爛々とした目を向けてうなずいた。


「その彼にこれからまた会うんだけど、まだ兄ちゃんには言わないで」


「そだね。あのシスコンには黙っといたほうがいいね。今の発言聞いたらぶっ倒れるよ」


私は笑ってうなずくと鍵を収納し、更衣室で私服のTシャツとジーンズに着替えてスタッフ通用門から出た。


路肩に停まっていたトラックがパッシングして、ゆっくりと近づいてきた。

「カイロジスティクス」と書かれたトラックが止まって、運転席から昴が顔を出した。


助手席に引き上げられて乗り込む。

車は山道をさらに上に上った。フォレストまでの整備された道とは一変、少しでもハンドル操作を間違えば崖を転げ落ちてしまいそうな細道だ。街灯もないけもの道を、昴は慣れた様子で付き進んでいく。


「昴はこの辺が地元なの?」

「三か月前に引っ越してきた。この道はこの前たまたま見つけたんだ」


しばらく山道を登ると、視界を遮っていた木々が途絶えた。視界が開けた山頂にほど近い場所で、昴は車を停めた。

道路の脇を平らにならした、車が数台止められそうな場所に、木製の柵が渡されている。

見下ろすと「フォレスト」の敷地の横に大きく広がる遊園地「スカイパーク」の灯りが輝いて見えた。その上空には星。人工的な夢の国の灯りなどとは比べ物にならないくらいの無数の光が濃紺の空で煌めいている。

眺めがいい場所だけど、わざわざここまで足を運ぶ観光客は少ない。フォレストの敷地を通り過ぎない限りは、長いけもの道を上ってこなければたどり着けない場所なので、地元民も、スーパームーンなど特別な夜空が広がるような晩でないかぎり滅多に上がってくることもない場所だ。

星が眩しいくらいに輝いている。まるで星の光のシャワーだ。

昴が私の手を引いて、抱き上げるようにして幌を外した荷台に乗せた。

ビール樽が一つあるだけでがらんとした荷台は、滑り止めのゴムシートが敷いてあって、昴はその上に分厚い毛布を何枚も敷いて仰向けに寝転んで空を仰いだ。

腕を引かれて隣に寝転び、優しい光を落とす濃紺の夜空を見上げた。

胸の鼓動が、激しく鳴り響いている。私は今、ときめいてしまっている。

体を横に向けて向かい合わせになって、引き寄せ合って見つめ合って、頬の香りがするくらいまで近づいて、そしてキスした。もう二度とできないと思っていた口づけを、また、した。

首筋に手を伸ばし、指でうなじをなぞる。愛おしい体温が指を伝わって、体の芯をジワリと温める。昴の匂いをいっぱいにかいで、柔らかい唇を唇でなぞって、キスをしながら、絡める指を、もっと絡めて、ぎゅっと掴んだ。

昴が体を翻して覆いかぶさってくる。

唇を離して見つめ合うと、そこにはベルジャンホワイトの髪と茶色い綺麗な瞳がある。

その澄んだ瞳に自分だけが映り込んでいるのが、切ないくらいに嬉しくて、私は昴の頬を撫でてまた唇をせがんだ。



角度を変えて唇で触れ合いながら、服を脱がされ、全裸にされた。昴は私の首筋にキスを落とし、鎖骨、胸へと唇を滑らせていった。

昴の唇が触れるたび、私の体はヒクンと跳ねる。悦びを隠せない、はしたない肉体を昴に晒して、たまらない快感に打ち震えた。

星灯りの下で一糸まとわぬ姿にされた私は、全身にキスを浴びながら、濡れた。
昴にならば、何をされてもいいと思った。


「そこ噛んで」


食べられてもいい、そんな衝動が口をつく。

昴は口に含んでいた私の乳房の尖りに、歯を立てた。


「い・・・あぁっ」


切り込まれるような痛みに喘ぎながら、一層濡れるのが分かった。


腰をくねらせただけで、察したように昴の手が秘所に触れ、その指先が花弁の間を割り入って濡れた場所を撫でた。

唾液で濡らされた乳首は硬く突き立ち、昴の指先を包む花びらは熱をもって痺れ始める。

ふわふわしたベルジャンホワイトの髪に指を挿し入れ、昴の体温を感じながら、深く、昴の手技に堕ちていく。

───もっと、今までの私ができなかったことをさせて。

私は自ら両足を開いた。星空の下で。

ベルジャンホワイトの髪に、やたらキラキラした茶色い瞳。その後ろには無数に煌めく星が浮かんでいる。

何か美しいものが、自分に降り注いでいるような心地がする。


昴の舌が、私の秘部を捕らえた。


「あ・・・んっ」


花びらをめくるように舐め、尖り始めた蕾を舌先で突いた。

がくがくと腰を震わせる私の太ももを甘くつかんで、とめどなくあふれている蜜を舐めとり、蕾を舌先でぐりぐりと刺激し、花びらを吸った。

腰の痙攣が小刻みなものに変わって、私の体が一層敏感になったことを教えた。

目を細め、星を見上げる。涙が滲んで光がゆがんだ。愛され、慈しまれているのが分かる。

昴の舌が、絶頂へと導く。


「ふ・・・んあああっ」


震えが全身に広がって、蜜が噴き出るようにあふれた。


肩で息をする私を見下ろしたまま、昴がTシャツを脱いだ。ジーンズを下ろすと、昴のものが大きく揺れて躍り出た。


星空の下で裸で抱き合うなんて、恥ずかしくてバカみたいと頭では思うのに、冴え冴えした木々が吐き出す空気に包まれて、しっとりと濡れた肌をこすり合わせるうちに、この渇いた荒涼とした空気はお互いの湿度と温度を感じあうためにあるのだ、という気がしてくる。

昴の上気した肌からは、ムスクのようなヒノキのような香りがして、私をひどく安心させてくれる。ずっと昴に抱かれていたい。

肩にしがみつくと、昴が中にゆっくりと入ってきた。

茶色い瞳は私を包み込むように温かい眼差しで私を見つめるのに、両足の間では狂暴と言ってもいいほどに猛り狂ったもので私のなかを貪ってくる。

甘く優しい昴の表情と、激しい怒張のちぐはぐさが、私を強く惹きつける。

昴を離したくない。筋肉の引き締まった昴の尻に両足を回して、最奥まで招き入れた。

深く繋がりあって一つの生き物になったみたいに律動のリズムに揺られた。

乳房を掴まれ、頬を舐められ、なかを熱い肉茎で貪られ、目の前の景色が溶けるようにぼやけていく。意識が飛んでしまいそうなほどの快楽。

昴の肩を引き寄せて抱き合う。胸もお腹も、隙間なくぴったりと重ね合わせ、背中にぎゅっと腕を回した。

いくら口に含んでも味わいつくせないほどの、途方もなく甘美な接吻に溺れながら、両足のあわいの亀裂も、美味しそうな音を立てて昴にむしゃぶりついている。

熱い吐息を漏らしながら、迫りくる絶頂に徐々に支配されていく昴の甘い表情が愛おしい。

───私のナカで、思い切り、いって。

強く念じて、わざときつく締めあげた。

昴が快楽の絶頂へとひた走るように律動を速めた。甘く蕩けるようなねっとりした摩擦に、肉壺がむくむくと鬱血して昴の火柱に絡みつく。

噴き出して肌を滑り落ちる汗の粒の冷たさに、体が熱くなっていることを知る。

見つめ合い、茶色の瞳に映る上気した頬の自分を見届けながら、私は果てた。全身を震わせ、花びらのあわいから歓喜の涙をあふれさせる。

私から引き抜かれた昴のものが、熱いほとばしりを放った。私は昴の手を引いて顔をそばめ、勢いよくあふれるそれを、唇で受け止めた。

どろりとした粘液を喉の奥に流し込み、鼻の奥に抜ける昴の香りに目を閉じた。






毛布にくるまって、私たちは飽きずに夜空を見上げていた。

ふと半身を起こし、昴が私を見下ろした。その目はやけに嬉しそうで、私の気持ちまで浮つかせる。



「起きたら咲良が隣にいなくて、けっこうショック、デカかったんだよ?」


私は昴の唇を指でなぞった。カタチのいい、キレイな唇。


「ここさ、昨日出会った場所から200キロ以上離れてんだよ?」

「そうだね。もう、会えないと思ってた」



───なのにどうしてまた現れてしまったの?




私はなじるように昴を見つめるけど、私の事情などかまいもしない様子の昴は無邪気にほほ笑んで、私を抱きしめて囁いた。

「それなのに、また会えた」

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