1 / 10
prolog
しおりを挟む
紙飛行機を飛ばす――
ソレは大空を自由に飛び回っている様に見えて、その実「飛ばされてる」だけ。だからいずれソレは飛べなくなって地面に墜ちる。なぜならソレは最初から飛ぶことの出来ない欠陥品。
僕と同じ欠陥品――
あぁ、僕はどこまで飛んでいけるのだろうか? そして、僕は何時墜ちるのだろうか?
春が終わり、もう少しすると夏が来る。そんな季節と季節の間の季節。誰も居ない屋上の端。後一歩踏み出せば空、そして地面へと向かうギリギリ校舎の上に腰を下ろして紙を折る。何度も繰り返している為、特に集中せずともいつも通りの形に出来上がる。作り上げた紙飛行機を飛ばそうと構えたことで――
「紙飛行機を飛ばすと一緒に幸せも飛んでいくぞ」
凛としたやる気の無い声に止められた。今の表現は少し矛盾していただろうか? 声自体はとても良いのだが発した人間の感情にやる気の無さが有るというか、喩えるなら凄く高価な楽器を素人が弾くような物だ。
声の表現などどうでもいい。ココには入学してから何度も通っているが、人が来たのは初めてだ。元々こちらの屋上は立ち入り禁止だし、何より今自分が居る場所は学校のどこに居ても死角になって見えないのだ。
「コレは再生紙だ。地面に落ちても地球に優しい」
それだけ答えて再び紙飛行機を飛ばそうと腕を上げる。
「紙の材質も地球への影響もどうでも良いが、とりあえず止めろ。そもそもこんな所で何をしている?」
「オタクこそ何でこんな所に? 立ち入り禁止だぜ、ここ」
「知っててココに来ているのか。別に私も通ってる以上咎めはしないが」
と言って声の主は俺の横に腰を下ろす。今まで声だけ聞いていて相手の方を見ていなかったが、隣に来た顔を見てみると女だ。しかもかなりの美人。華奢な肩から始まり、細く美しい線がつま先まで続いている、少し小柄な身体。少しクセのある髪に包まれた小顔も、一つ一つ全てのパーツが、凜とその美しさを主張している。故に悔やまれるのは唯一目だろうか。いや目も大きくて可愛らしさを十分出しているだろう。只、まるで鏡で自分の顔を見ているようだ。それは希望の無い死人の様な目。他の全ては輝いているのに目だけは闇を写している。
「どうした? 私の顔に何か付いているか? それとも私に見蕩れていたか?」
文字通り目を奪われていたのだろう。そんな事を言われた。
「成る程。見蕩れられるのは慣れてるわけね。自信が有るようで」
「自信など無いよ。私は自分が美人などとは思わんし、何より私は私が嫌いだ」
照れでも謙遜でも無く素直な気持ちなんだろう。それが解ってしまう。
「だろうな」
「ん? なんだお前は私のことを醜い奴だと思って見てたのか?」
「当たらずとも遠からず。でもま、美人なのは確かだろう。ちょっといいか」
彼女の髪を軽くセットして、自分のネクタイを外してリボン代わりに結ぶ。
「ハイ、思いっきりの作り笑顔」
「作り笑顔言うな! 確かにそれしか出来ないが」
それを携帯のカメラ機能を使って撮影して彼女に見せる。
「なっ。可愛いだろ?」
「コレを見せられて私が可愛いなど言える訳無いだろう。お前はどう思う?」
それもそうだな。もう一度彼女の顔を見て。
「ああ。俺個人の意見だが可愛い」
「恋心も下心も無く、世辞でも無い、そんな言葉を言われたのは初めてだ。と言うかお前器用だな」
「ん? 髪か? 素材が良いだけだろう」
「お前それ誤解されないか?」
「誤解? 何で?」
美容師を目指してると思われるとかか?
「まぁいい。それより話を戻すぞ、何故こんな所に居る?」
「そんな事より何故隣に座る?」
俺は先ずそっちの方が気になる。何で初対面、と言うか顔も見ずにイキナリ恋人同士の距離に近づく?
「それは簡単だ。たまたまお前がそこに座っていただけで、私はお前の隣に座ったのでは無く、いつもの定位置に座っただけの事。その隣でお前が座っていただけだ。嫌ならお前が離れろ」
「左様ですか」
「納得したならいい加減答えろ。ココで何をしている?」
別に隠していた訳じゃないし、そんな大した理由じゃないんだがな。
「今日この前の中間テストが全部帰って来たんだ。だからそれで紙飛行機作って飛ばそうかと思ってココに来ました。まる」
「良く出来ました。所で今更だが貴様名前は?」
「ホント今更だな。別にもう名前なんざどうでも良いだろう」
「どうでもいいのなら、名乗れ」
さっきから強引だな。別に名前を名乗る位やぶさかでは無いが。
「東条七海。(とうじょう ななみ)東の条約に七つの海」
「ナナミ? 女みたいな名前だな」
「よく言われるよ。何でも俺を女にするか男にするか迷いっていて、とりあえずどっちでも行けそうな名前にしたんだとか」
「何の話だ?」
「俺の名前の由来だけど」
俺は嘘偽り無く言ってるのに「何を言っている貴様は」見たいな顔をされてしまう。
「私は清見雪那(きよみ せつな)だ」
「清見雪那……?」
初めて聞いた名前の筈なのにその名前は何処かで聞いたような気がした。
「私の名前に憶えがあるのか?」
いや、考えても出てこない。たぶん聞いた事があったとしてもくだらない噂程度の事だろう。
「あぁ。確かテロリストの名簿に――」
「言っておくが私はマイ○ターじゃないからな」
「気のせいだった」
何も思いつかなかったので軽くボケてみたがこの人以外とツッコミ出来るんだ。
「話を戻すが、テストの結果は納得いかなかったのか?」
「あぁ。おもしろくないったらなくてな。飛ばそうと思って」
そう言う俺を見てフッと一つ笑うと、清見雪那はイタズラでも思いついた子供のような顔をして提案してきた。
「そのテストで一つ勝負しないか?」
「勝負?」
「丁度私もココにテストを持ってきていてな。国、数、英、理、社の五教科の合計で勝負して、負けた方は勝った方の言うことを聞く。どうだ?」
清見雪那は自分の持つ数枚のプリントの束と、俺の持つプリントの束を指して言う。
「辞めとく。そんな自信満々なんだ、さぞいい点数なんだろう?それに俺は面白く無い点数だと言っている。そんな奴に勝って嬉しいか?」
俺の意見に対して、「そう言うと思っていた」とでも言いたげな顔で返答する。
「面白い事言うな君は。我が校の入学式、新入生代表の挨拶は、毎年入試の最高得点者に任命される。今年の代表は東条七海。入学式からそう日が経ってない最初の中間テストならば勉強していなくても学年順位の一桁には入ってる筈だが?」
こっちの能力はお見通しって事かよ。
「あんた俺の事知ってたのかよ。何で名前聞いたんだよ?」
「油断させる為だ。それで受けてくれるんだろ?」
「断る。新入生代表を知ってて挑むって事は相当な勝算があるんだろう? 俺にどうしても聞かせたい願いでもあるのか?」
初対面である俺に出来る事なんて他の人でも出来る事だろう。何故この清見雪那は俺に拘る?
「新入生代表の挨拶に対して、歓迎の挨拶をするのは毎年生徒会長と決まっていてな。今年度の生徒会長の名前が清見雪那だったと言う話で」
思い出した。生徒会会長、清見雪那。聞き覚えがあったのはこれか。
「成る程。つまり代表挨拶どころか入学式自体バックレた俺を恨んでいると。やっぱ挨拶だけでもしとくべきだったか」
「そんな事はどうでもいい。些細な事だ気にするな。私も入学式バックレたしな」
おいおい生徒会長だろう。
「じゃあ何でだよ?」
「私はなお前が嫌いだ。たぶん大嫌いなんだ。一目見た時からな」
「俺も嫌われたもんだね。初対面の人にまでとは」
「気を悪くしないでくれ。お前に興味はあるんだがな。だがお前は私と同じ目をしているだろう。まるで生きてない目だ。だからどんな手を使おうとも私の言うことを聞いて貰う」
それは俺も思っていた。同族嫌悪とでも言うのだろうか、最初見た時からこの人は苦手だなと感じてたのだ。それを言われるとこの勝負受けるしか無いか。負ける気はしないしな。
「分かった。受けるよその勝負。ただし条件がある」
「条件?」
「ハンデだよ。先輩なんだそれぐらい認めてくれ」
「お前私の事上級生だと思っていたのか? 驚きだよ」
「悪い。敬語使えないんだ。直した方が良いか?」
「いや。そのままでいい。親しい感じがするしな。それでハンデは?」
「同点の場合は俺の勝ちでいいか?」
「構わんぞ。その程度なら勝敗は変わらんしな」
勝った。これで俺が負ける事は無くなった。
「そうか。ならこの勝負受けよう」
「それでお前は勝ったら私に何をさせたいんだ?」
別に初対面の会長さんにして貰いたい事なんか無いんだがな。
「そうだな。俺が勝ったらキスでもして貰おうか。構わないか?」
「構わんぞ。元より敗者に拒否権は無い。私のは、まぁ勝ってから言うよ」
強気だね。俺が負ける事は無いんだけどさ。美人のキスが棚から振ってきたと思いますか。
「一桁目から順に言っていって最後に百の位を言うでいいか?」
「良いだろう。勝負事を盛り上げるのが美味いじゃ無いか」
「行くぞ?」
「2」
「0」
勝った。清見雪那の一の位は二点この時点で俺の勝ちは確定した。まぁ勝負を仕掛けられた時から俺の負けは無かったのだが。
「次、十の位」
「0」
「0」
どちらも十の位は零点。以外だな「8」か「9」が来ると思っていたのだが。生徒会長と言っても平均点前後なのか。
「最後だ」
「5」
「5」
俺は満点。最初から勝ち戦だったのだ。さらにダメ押しで同点も俺の勝ちにした以上俺に負けは……え?
「ちょっと待て。合計何点だって?」
「502点」
「五教科?」
「ダー」
何故ロシア語?
「なんでロシア後? じゃなくてなんで百点満点のテスト五つで500点オーバーするんだよ?」
「英語のテストの中に一つ、教師のミスでロシア語の問題が有ってな。空白でも全員がその問題の得点を得られる要になったんだが、私はその問題も解いたらさらに得点をくれてな。ほら」
と言って件の英語のテストを出してくる。確かに名前の横には102と書いてあるし。ロシア語の問題もちゃんとあり尚且つ正解している。
「ずりぃ。最初から俺は何をやっても勝てねぇじゃねぇか」
「よく言う。自分も満点で尚且つ。同点の権利も取ったくせに」
それ言われると弱いけど、でも俺のはハメワザのレベルだが向こうは完全にチートだ。まっ、勝負を受けた以上何を言っても無駄か。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
素直に勝者に従うとしよう。
「あぁ。生徒会に入れ」
「は?」
「だから負けたら言うことを聞く。お前は今日から生徒会に入れ」
「断る!」
「役職に希望はあるか? できる限り聞くが」
拒否権無しとは言っても無視はないだろう。
「早く希望を言え」
「副会長」
「なんやかんや言って、会長の次の席を取るのだな」
「副とか、サブとか好きなんだよ。気楽だろ」
会計や書記より上の席かも知れんが、言わば会計「長」や書記「長」な訳だからそれなら副が付いた役職がいい。
「お前は本当に私に似ているよ。つくづく嫌気がする」
「それだよ。なんで大嫌いな俺を側に置く?」
「勘違いするな。私はお前の事は好きだよ。初めて一目惚れというのをしてしまったかも知れない。だがお前は私に似ている。私は自分が嫌いなんだ。だから私がお前を変えてやる」
それはきっと俺に言われていたことで、それが解らなくなるような。まるで自分が消えて。清見雪那が主役の映画を見ているような。それぐらい格好良かった。
「性別が逆だったら惚れてるぜ」
「それは良かった。お前には女として私を見て欲しいから。こんな気持ちを人に思うのは初めてだよ」
「っー。ホントアンタは苦手だ。大嫌いだぜ」
俺がこんなにも人に勝てないと思うなんてな。たぶんこの人には一生勝てないんだろうな。
「ああ。私も今は大嫌いだよ。だからコレはズルをしたお詫びと満点を取ったご褒美だ」
そう言って隣に座っていた。美少女の今まさにそのセリフを言った唇は、俺の頬に触れていた。
「なっ」
「私はきっとお前を惚れさせてやる。私に惚れたら告白してこい。そしたらちゃんとしたキスをしてやろう。それまで私の初めては取って置いてやるよ」
イタズラっぽい、ここに来て初めて見た少女の笑顔で彼女はそう言った。
「ほら行くぞ」
それはすぐに見えなくなってしまい。立ち上がって俺を促した。
「行くって何処へ?」
「生徒会室に決まってるだろう。お前を他の皆に紹介せねばならん」
「今の出来事の後に顔を合わせて仕事するのかよ? 文字通り合わせる顔が無いんだが」
隣に立ってみて初めて気付いた。見取れていた俺に気付いたのか疑問を浮かべて聞いてくる。
「どうかしたか?」
「いや意外と小さいんだなって。て言うか細い」
「なんだ線の細い女は嫌いか。少し肉付きの有る方が好みだったか?少し残念だ」
「そうじゃくて、一つ提案なんだがいいか、セツナ?」
「イキナリ呼び捨てか。まぁお前だから許そう。提案ってなんだナナミ?」
「いや、イキナリ呼び捨てかよ」
「当然だ。私はお前の先輩であり、上司であり、勝者だ。それで提案って?」
まぁ呼び方なんて何でもいいか。俺はダメでも勝手に呼ぶつもりだったし。
「今、後ろから抱きついていいか?」
「ふむ。それは私の身体が思わず抱き締めたくなるほど魅力的と言うことか?」
「ダー」
「嬉しいが、答えはニエットだ。私はお前が大嫌いだからな」
左様ですか。さっきのは反則並に可愛さ見せたくせに。
「一気に冷めそうだわ」
「お前も私が大嫌いだからな。まぁでも大嫌いな奴の了解など聞く必要は無いんじゃ無いか?」
と挑発的な笑みを向けられた。
あー成る程。俺はこの人には勝てないんだ。この人は常に俺に対して反則を使ってくるんだ。それでは勝ちようがない。
「我慢しとく。生徒会室行けば解決するし」
「皆の前でやる気か? 意外と大胆だな」
そんな事を話ながら俺達は生徒会室へと向かった。
ソレは大空を自由に飛び回っている様に見えて、その実「飛ばされてる」だけ。だからいずれソレは飛べなくなって地面に墜ちる。なぜならソレは最初から飛ぶことの出来ない欠陥品。
僕と同じ欠陥品――
あぁ、僕はどこまで飛んでいけるのだろうか? そして、僕は何時墜ちるのだろうか?
春が終わり、もう少しすると夏が来る。そんな季節と季節の間の季節。誰も居ない屋上の端。後一歩踏み出せば空、そして地面へと向かうギリギリ校舎の上に腰を下ろして紙を折る。何度も繰り返している為、特に集中せずともいつも通りの形に出来上がる。作り上げた紙飛行機を飛ばそうと構えたことで――
「紙飛行機を飛ばすと一緒に幸せも飛んでいくぞ」
凛としたやる気の無い声に止められた。今の表現は少し矛盾していただろうか? 声自体はとても良いのだが発した人間の感情にやる気の無さが有るというか、喩えるなら凄く高価な楽器を素人が弾くような物だ。
声の表現などどうでもいい。ココには入学してから何度も通っているが、人が来たのは初めてだ。元々こちらの屋上は立ち入り禁止だし、何より今自分が居る場所は学校のどこに居ても死角になって見えないのだ。
「コレは再生紙だ。地面に落ちても地球に優しい」
それだけ答えて再び紙飛行機を飛ばそうと腕を上げる。
「紙の材質も地球への影響もどうでも良いが、とりあえず止めろ。そもそもこんな所で何をしている?」
「オタクこそ何でこんな所に? 立ち入り禁止だぜ、ここ」
「知っててココに来ているのか。別に私も通ってる以上咎めはしないが」
と言って声の主は俺の横に腰を下ろす。今まで声だけ聞いていて相手の方を見ていなかったが、隣に来た顔を見てみると女だ。しかもかなりの美人。華奢な肩から始まり、細く美しい線がつま先まで続いている、少し小柄な身体。少しクセのある髪に包まれた小顔も、一つ一つ全てのパーツが、凜とその美しさを主張している。故に悔やまれるのは唯一目だろうか。いや目も大きくて可愛らしさを十分出しているだろう。只、まるで鏡で自分の顔を見ているようだ。それは希望の無い死人の様な目。他の全ては輝いているのに目だけは闇を写している。
「どうした? 私の顔に何か付いているか? それとも私に見蕩れていたか?」
文字通り目を奪われていたのだろう。そんな事を言われた。
「成る程。見蕩れられるのは慣れてるわけね。自信が有るようで」
「自信など無いよ。私は自分が美人などとは思わんし、何より私は私が嫌いだ」
照れでも謙遜でも無く素直な気持ちなんだろう。それが解ってしまう。
「だろうな」
「ん? なんだお前は私のことを醜い奴だと思って見てたのか?」
「当たらずとも遠からず。でもま、美人なのは確かだろう。ちょっといいか」
彼女の髪を軽くセットして、自分のネクタイを外してリボン代わりに結ぶ。
「ハイ、思いっきりの作り笑顔」
「作り笑顔言うな! 確かにそれしか出来ないが」
それを携帯のカメラ機能を使って撮影して彼女に見せる。
「なっ。可愛いだろ?」
「コレを見せられて私が可愛いなど言える訳無いだろう。お前はどう思う?」
それもそうだな。もう一度彼女の顔を見て。
「ああ。俺個人の意見だが可愛い」
「恋心も下心も無く、世辞でも無い、そんな言葉を言われたのは初めてだ。と言うかお前器用だな」
「ん? 髪か? 素材が良いだけだろう」
「お前それ誤解されないか?」
「誤解? 何で?」
美容師を目指してると思われるとかか?
「まぁいい。それより話を戻すぞ、何故こんな所に居る?」
「そんな事より何故隣に座る?」
俺は先ずそっちの方が気になる。何で初対面、と言うか顔も見ずにイキナリ恋人同士の距離に近づく?
「それは簡単だ。たまたまお前がそこに座っていただけで、私はお前の隣に座ったのでは無く、いつもの定位置に座っただけの事。その隣でお前が座っていただけだ。嫌ならお前が離れろ」
「左様ですか」
「納得したならいい加減答えろ。ココで何をしている?」
別に隠していた訳じゃないし、そんな大した理由じゃないんだがな。
「今日この前の中間テストが全部帰って来たんだ。だからそれで紙飛行機作って飛ばそうかと思ってココに来ました。まる」
「良く出来ました。所で今更だが貴様名前は?」
「ホント今更だな。別にもう名前なんざどうでも良いだろう」
「どうでもいいのなら、名乗れ」
さっきから強引だな。別に名前を名乗る位やぶさかでは無いが。
「東条七海。(とうじょう ななみ)東の条約に七つの海」
「ナナミ? 女みたいな名前だな」
「よく言われるよ。何でも俺を女にするか男にするか迷いっていて、とりあえずどっちでも行けそうな名前にしたんだとか」
「何の話だ?」
「俺の名前の由来だけど」
俺は嘘偽り無く言ってるのに「何を言っている貴様は」見たいな顔をされてしまう。
「私は清見雪那(きよみ せつな)だ」
「清見雪那……?」
初めて聞いた名前の筈なのにその名前は何処かで聞いたような気がした。
「私の名前に憶えがあるのか?」
いや、考えても出てこない。たぶん聞いた事があったとしてもくだらない噂程度の事だろう。
「あぁ。確かテロリストの名簿に――」
「言っておくが私はマイ○ターじゃないからな」
「気のせいだった」
何も思いつかなかったので軽くボケてみたがこの人以外とツッコミ出来るんだ。
「話を戻すが、テストの結果は納得いかなかったのか?」
「あぁ。おもしろくないったらなくてな。飛ばそうと思って」
そう言う俺を見てフッと一つ笑うと、清見雪那はイタズラでも思いついた子供のような顔をして提案してきた。
「そのテストで一つ勝負しないか?」
「勝負?」
「丁度私もココにテストを持ってきていてな。国、数、英、理、社の五教科の合計で勝負して、負けた方は勝った方の言うことを聞く。どうだ?」
清見雪那は自分の持つ数枚のプリントの束と、俺の持つプリントの束を指して言う。
「辞めとく。そんな自信満々なんだ、さぞいい点数なんだろう?それに俺は面白く無い点数だと言っている。そんな奴に勝って嬉しいか?」
俺の意見に対して、「そう言うと思っていた」とでも言いたげな顔で返答する。
「面白い事言うな君は。我が校の入学式、新入生代表の挨拶は、毎年入試の最高得点者に任命される。今年の代表は東条七海。入学式からそう日が経ってない最初の中間テストならば勉強していなくても学年順位の一桁には入ってる筈だが?」
こっちの能力はお見通しって事かよ。
「あんた俺の事知ってたのかよ。何で名前聞いたんだよ?」
「油断させる為だ。それで受けてくれるんだろ?」
「断る。新入生代表を知ってて挑むって事は相当な勝算があるんだろう? 俺にどうしても聞かせたい願いでもあるのか?」
初対面である俺に出来る事なんて他の人でも出来る事だろう。何故この清見雪那は俺に拘る?
「新入生代表の挨拶に対して、歓迎の挨拶をするのは毎年生徒会長と決まっていてな。今年度の生徒会長の名前が清見雪那だったと言う話で」
思い出した。生徒会会長、清見雪那。聞き覚えがあったのはこれか。
「成る程。つまり代表挨拶どころか入学式自体バックレた俺を恨んでいると。やっぱ挨拶だけでもしとくべきだったか」
「そんな事はどうでもいい。些細な事だ気にするな。私も入学式バックレたしな」
おいおい生徒会長だろう。
「じゃあ何でだよ?」
「私はなお前が嫌いだ。たぶん大嫌いなんだ。一目見た時からな」
「俺も嫌われたもんだね。初対面の人にまでとは」
「気を悪くしないでくれ。お前に興味はあるんだがな。だがお前は私と同じ目をしているだろう。まるで生きてない目だ。だからどんな手を使おうとも私の言うことを聞いて貰う」
それは俺も思っていた。同族嫌悪とでも言うのだろうか、最初見た時からこの人は苦手だなと感じてたのだ。それを言われるとこの勝負受けるしか無いか。負ける気はしないしな。
「分かった。受けるよその勝負。ただし条件がある」
「条件?」
「ハンデだよ。先輩なんだそれぐらい認めてくれ」
「お前私の事上級生だと思っていたのか? 驚きだよ」
「悪い。敬語使えないんだ。直した方が良いか?」
「いや。そのままでいい。親しい感じがするしな。それでハンデは?」
「同点の場合は俺の勝ちでいいか?」
「構わんぞ。その程度なら勝敗は変わらんしな」
勝った。これで俺が負ける事は無くなった。
「そうか。ならこの勝負受けよう」
「それでお前は勝ったら私に何をさせたいんだ?」
別に初対面の会長さんにして貰いたい事なんか無いんだがな。
「そうだな。俺が勝ったらキスでもして貰おうか。構わないか?」
「構わんぞ。元より敗者に拒否権は無い。私のは、まぁ勝ってから言うよ」
強気だね。俺が負ける事は無いんだけどさ。美人のキスが棚から振ってきたと思いますか。
「一桁目から順に言っていって最後に百の位を言うでいいか?」
「良いだろう。勝負事を盛り上げるのが美味いじゃ無いか」
「行くぞ?」
「2」
「0」
勝った。清見雪那の一の位は二点この時点で俺の勝ちは確定した。まぁ勝負を仕掛けられた時から俺の負けは無かったのだが。
「次、十の位」
「0」
「0」
どちらも十の位は零点。以外だな「8」か「9」が来ると思っていたのだが。生徒会長と言っても平均点前後なのか。
「最後だ」
「5」
「5」
俺は満点。最初から勝ち戦だったのだ。さらにダメ押しで同点も俺の勝ちにした以上俺に負けは……え?
「ちょっと待て。合計何点だって?」
「502点」
「五教科?」
「ダー」
何故ロシア語?
「なんでロシア後? じゃなくてなんで百点満点のテスト五つで500点オーバーするんだよ?」
「英語のテストの中に一つ、教師のミスでロシア語の問題が有ってな。空白でも全員がその問題の得点を得られる要になったんだが、私はその問題も解いたらさらに得点をくれてな。ほら」
と言って件の英語のテストを出してくる。確かに名前の横には102と書いてあるし。ロシア語の問題もちゃんとあり尚且つ正解している。
「ずりぃ。最初から俺は何をやっても勝てねぇじゃねぇか」
「よく言う。自分も満点で尚且つ。同点の権利も取ったくせに」
それ言われると弱いけど、でも俺のはハメワザのレベルだが向こうは完全にチートだ。まっ、勝負を受けた以上何を言っても無駄か。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
素直に勝者に従うとしよう。
「あぁ。生徒会に入れ」
「は?」
「だから負けたら言うことを聞く。お前は今日から生徒会に入れ」
「断る!」
「役職に希望はあるか? できる限り聞くが」
拒否権無しとは言っても無視はないだろう。
「早く希望を言え」
「副会長」
「なんやかんや言って、会長の次の席を取るのだな」
「副とか、サブとか好きなんだよ。気楽だろ」
会計や書記より上の席かも知れんが、言わば会計「長」や書記「長」な訳だからそれなら副が付いた役職がいい。
「お前は本当に私に似ているよ。つくづく嫌気がする」
「それだよ。なんで大嫌いな俺を側に置く?」
「勘違いするな。私はお前の事は好きだよ。初めて一目惚れというのをしてしまったかも知れない。だがお前は私に似ている。私は自分が嫌いなんだ。だから私がお前を変えてやる」
それはきっと俺に言われていたことで、それが解らなくなるような。まるで自分が消えて。清見雪那が主役の映画を見ているような。それぐらい格好良かった。
「性別が逆だったら惚れてるぜ」
「それは良かった。お前には女として私を見て欲しいから。こんな気持ちを人に思うのは初めてだよ」
「っー。ホントアンタは苦手だ。大嫌いだぜ」
俺がこんなにも人に勝てないと思うなんてな。たぶんこの人には一生勝てないんだろうな。
「ああ。私も今は大嫌いだよ。だからコレはズルをしたお詫びと満点を取ったご褒美だ」
そう言って隣に座っていた。美少女の今まさにそのセリフを言った唇は、俺の頬に触れていた。
「なっ」
「私はきっとお前を惚れさせてやる。私に惚れたら告白してこい。そしたらちゃんとしたキスをしてやろう。それまで私の初めては取って置いてやるよ」
イタズラっぽい、ここに来て初めて見た少女の笑顔で彼女はそう言った。
「ほら行くぞ」
それはすぐに見えなくなってしまい。立ち上がって俺を促した。
「行くって何処へ?」
「生徒会室に決まってるだろう。お前を他の皆に紹介せねばならん」
「今の出来事の後に顔を合わせて仕事するのかよ? 文字通り合わせる顔が無いんだが」
隣に立ってみて初めて気付いた。見取れていた俺に気付いたのか疑問を浮かべて聞いてくる。
「どうかしたか?」
「いや意外と小さいんだなって。て言うか細い」
「なんだ線の細い女は嫌いか。少し肉付きの有る方が好みだったか?少し残念だ」
「そうじゃくて、一つ提案なんだがいいか、セツナ?」
「イキナリ呼び捨てか。まぁお前だから許そう。提案ってなんだナナミ?」
「いや、イキナリ呼び捨てかよ」
「当然だ。私はお前の先輩であり、上司であり、勝者だ。それで提案って?」
まぁ呼び方なんて何でもいいか。俺はダメでも勝手に呼ぶつもりだったし。
「今、後ろから抱きついていいか?」
「ふむ。それは私の身体が思わず抱き締めたくなるほど魅力的と言うことか?」
「ダー」
「嬉しいが、答えはニエットだ。私はお前が大嫌いだからな」
左様ですか。さっきのは反則並に可愛さ見せたくせに。
「一気に冷めそうだわ」
「お前も私が大嫌いだからな。まぁでも大嫌いな奴の了解など聞く必要は無いんじゃ無いか?」
と挑発的な笑みを向けられた。
あー成る程。俺はこの人には勝てないんだ。この人は常に俺に対して反則を使ってくるんだ。それでは勝ちようがない。
「我慢しとく。生徒会室行けば解決するし」
「皆の前でやる気か? 意外と大胆だな」
そんな事を話ながら俺達は生徒会室へと向かった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる