上 下
2 / 21

第2話 運命はダーツで

しおりを挟む
「申しわけなし!」

「あなた、本当に謝る気あるんですかっ!? このくそセクハラ野郎が……」

 俺は両膝をそろえて土下座をしていた。
 勿論額を白い地面に擦り付けている。
 ただ空間の座標が違うのかよく分からんが、俺が土下座しているより下に女神様が立っているのが非常に奇妙な構図だ。

 しかし一体どういう原理なのだろうか。
 地面(?)は触ると固い。体が靄で覆われて埋まっているという訳ではない。
 なのに立っている場所が違うのだ。

 しかし、それも一瞬の事。

 俺の事を軽蔑の眼差しで見上げてきてから手で下におろすようなポーズをすると、立つ座標が同じ位置に変化した。

「うぉ! って、あるある、ありありよ、大あり! んで、ここどこなの? グラマー姉さん」

 俺は先ほどまで高校に通う一生徒だった。
 彼女いない歴と年齢が等しい17歳。
 勉強上の中。運動中の上。友達中の下。容姿上の下……だと俺は思っている。

 昨晩の間に校庭に落とし穴を掘っておき、先ほど悪友という名の実験台をそこに叩き落としてきたはずなのだ。
 その瞬間光と浮遊感に包まれ、俺はこの白い空間にいた。
 最初に叫んだ台詞は「普通は落ちたほうだろーーーーーー!」だった。

 勿論そんなことはどうでもいいことではあるが、なぜ俺はこんなとこに飛ばされてしまったのか疑問だ。
 
 悪友の落ち行くときの絶望顔がまだ頭に残っている。
 腹の底から笑いが込み上げてきたのも覚えている。
 だが不可思議な現象に巻き込まれたのは俺の方。
 もしかしたら今頃は悪友が俺の事を笑っているかもしれない。

「はぁぁぁぁ。また時の迷い子ですか。しかもめんどくさげな感じのが来ちゃったわね」

「め、めんどくさいとは失敬な! 我、客人なるぞ。丁重に扱えい!」

「地獄に落とすわよ?」

「ごめんなさい、俺が悪かったです許してくださいメンゴ」

 再度しゅぱっと土下座をかました。
 我ながら俊敏な動きだ。
 チラを顔を上げると美しい脚線美が覗く。

「ま、いいわ。しっかし新しい上司になってからミスが多すぎる! あんたもミスでここに連れてこられたわけ。存在がミスみたいな感じだけど」

「ひどい! なんですかその言い様は! 俺だって必死に生きているんです!」

「揺蕩っている」

「え……?」

「あなたの命は揺蕩っているって言ったの。生きているのはさっきまで。ここでは死んでるのと変わりはないわ」

「そんな酷いことを呆れたような顔で言わんといてくださいよ……。てか! ミスでここに連れてこられたんなら何とかして欲しいんですけど……」

 グラマー姉ちゃんは小さくため息をついて、虚空を手でつかむような動作を行う。
 するとどこからともなく大きな丸い円盤があらわれ、そこには円グラフのような記載がされていた。
 色々と文字が書かれているみたいだけど、何だろうか。

「一度生きた世界にはもう戻れないのがこの世の理。あなたたちがいう輪廻ってものは別の世界に生まれ変わること。
 あなたは生まれ変わるわけじゃないけれど、その理から外れることはできない。
 だから二つの選択肢を選ばせてあげるわ。虚無へ落ちるか異世界に行くか」

「異世界行きで!」

 俺は迷うことなくそちらを選んでいた。
 というより選択肢になっているのか疑問だ。
 虚無って絶対やばいやつだろ。記憶では地獄の一種だったような気がする。
 虚無行くくらいなら俺はここでグラマー姉ちゃんと添い遂げたいと誰もが思うことだろう。

「迷うことなく選ぶわね。地獄よりも地獄かもしれないというのに」

「え、まって。それはヤダ。虚無か地獄で選ぶって……そっちのミスだったんでしょうに?」

「例えよ、例え。もう少し慎重に生きなさいと言っているの。ま、別にあなたが今後どうなろうと知ったこっちゃないけどさ」

「そんな! ええと、女神様ってまじで美人で美しくてスタイル良くて肌綺麗で顔ちっちゃくて、ええと、ええと、顔のパーツが整っててもろ好みで」

「全部似たような誉め言葉じゃないのそれ、それにあんたの好みはどうでもいいし」

 と言いつつも顔は少しだけほころんでいた。
 おべんちゃら作戦は大成功というわけだな。
 だが本当に思ったことしか言ってない。
 確かに俺が妄想した姿に限りなく近い好みど真ん中であるし、凄まじい容姿を誇っている。
 人間ではないと思う程に、と言いたいところだが本当に人間ではないのだから複雑だ。

「まぁいいわ。はい、これ」

 手渡してくれたのはダーツの矢が三本。
 黒光りするボディーが妙に手になじむ。
 どうやら円盤はダーツ盤だったということで、それでダーツをしようということなんだろう。

「まず行く世界を決めて、次にあなたの職業を決めて、最後に持参物を決める。さっさと行ってもらうから」

「ダ、ダーツで俺の運命が決まるってことですか? そんなせっしょうな……」

「人の運命なんてそんなものなのでしょう? 投げて当たれば成功し、投げて外れれば失敗し、ただそれを分かりやすくしただけじゃない」

「いや、そうかもしんねーけど……。でも、そっちのミス……」

「はいはい、さっさとやる。いくわよ!」

 俺に異を唱えることは許可されていないようだ。

 姉ちゃんが円盤を回すと何の支えもないというのに空中で見事に回りだす。
 と言ってもその速度は遅い。

 実は俺はダーツの腕には相当に自信がある。
 カウントアップのハイスコアが966。
 悪友と連日通い詰めたのも今や過ぎ去りし過去の思い出。
 最後が20のトリプルに入っていれば1000越えてたんだがな。

 だがそんなことはどうでもいい。
 今は目の前の現実に直面するべき。
 つまり回転する円盤だ。

 ゆっくりと回転している文字を俺はじっと見つめた。
 俺は視力も動体視力もいいのだ。


異世界ハイレンシア
 神と悪魔が世界戦争を行っている終末世界。店長のおすすめ。

はい却下。そんなとこに人間の俺が行ってどうにかなるわけがない。つか店長て誰だよと言いたい。
おすすめしてるからにはちゃんと自分で体験してるんですよね?


異世界シーレンシア
 世界全てが海の美しき蒼の世界。海神ポセイドンのおすすめ。

はい却下。美しかろうが何だろうが海に行ったら死んでまう。俺はお魚さんではないので、本当に海の藻屑と消えてしまう。
海神におすすめされても無理なものは無理なのです。餌としておすすめしてるのならノーサンキューです。


異世界ロンレンシア
 人間のいない世界。野生生物と緑豊かな大地。私のおすすめ。

はい……ちょっと迷ったけど却下。女の子がいない世界なんて滅びればいい。
俺は進化を待てるほど気長ではないのです。


異世界ファレンシア
 剣と魔法のファンジーの世界。普通すぎておすすめしません。

いや、最初からこれを見せろよ。見たのは俺なんだけどさ。


 当然狙うものは決まっているので、俺は狙いをつけて矢を放つ。
 シュバッっとゆるやかな放物線を描き、矢が刺さったのは狙い通り異世界ファレンシア。

 完璧だ。

 他の選択肢は論外。
 あーダーツが得意でよかったよかった、といったところだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした

あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を 自分の世界へと召喚した。 召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと 願いを託す。 しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、 全く向けられていなかった。 何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、 将来性も期待性もバッチリであったが... この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。 でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか? だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし... 周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を 俺に投げてくる始末。 そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と 罵って蔑ろにしてきやがる...。 元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで 最低、一年はかかるとの事だ。 こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から 出ようとした瞬間... 「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」 ...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

男装バレてイケメン達に狙われてます【逆ハーラブコメファンタジー】

中村 心響
ファンタジー
☆タイトル「天地を捧げよ~神剣伝説~」から変更しました。改稿しなければならない箇所多数ですが、手間がかかる為、どんどん更新致します。修正は完結後に。 ・中世を舞台に繰り広げられるハチャメチャ逆ハーラブコメファンタジー! 「お前、可愛いな? 俺様の情夫になれよ……」 強引なレオに狙われたアルは一体どうなってしまうのかーー * 神に見初められし者だけに与えられ、その者だけに使い熟すことのできる剣ーー。 今や伝説さえも忘れさられ、語り継がれることもなくなった「神剣レイブレード」それを手にする者が現れた時、悪しき者が天地を紅く染める……。 [あらすじ] 生き延びるために故郷の村を出たアル達が辿り着いたのは王都ルバール大国だった……。生きて行く生活費を稼ぐために、アルはその国で開催される拳闘技大会の賞金を狙って出場を申し込みに行くが…… 笑い、感動逆ハーラブコメファンタジー! どんな展開になるのか著者も予想出来ません。 著者の書きたい放題ファンタジーでございます。 一部…出会い編 二部…闘技会編 三部…恋愛編 四部…伝説編 五部…冒険編 女子向けラブファンタジー ※空白効果や、記号等を多々利用して書いてあります。読み難い箇所、誤字脱字は後から修正致します。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

支援者ギルドを辞めた支援術士の男、少年の頃に戻って人生をやり直す

名無し
ファンタジー
 30年もの間、クロムは支援者ギルドでひたすら真面目に働いてきた。  彼は天才的な支援術士だったが、気弱で大のお人よしだったため、ギルドで立場を作ることができずに居場所がなくなり、世渡りが上手かった狡賢いライバルのギルドマスターから辞職を促されることになる。  ギルドを介さなければ治療行為は一切できない決まりのため、唯一の生き甲斐である支援の仕事ができなくなり、途方に暮れるクロム。  人生をやり直したいが、もう中年になった今の自分には難しい。いっそ自殺しようと湖に入水した彼の元に、謎の魚が現れて願いを叶えてくれることに。  少年だった頃に戻ったクロムは、今度こそ自分の殻を破って救えなかった人々の命を救い、支援者としての居場所を確保して人生を素晴らしいものにしようと決意するのだった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...