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4章 魔法士小隊
4章ー13:模擬戦闘訓練2戦目、砲撃戦
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舞子の視線に気付いた命彦が、ミサヤに問う。
「舞子の接近戦、見ててどうだったミサヤ?」
『少し驚きましたね? 迷宮で会った時、ツルメの奇襲を受けて、彼女だけが軽傷で済んでいたのも、単に運が良かっただけかどうか、迷う程度にですが』
「まあ、あの時放って置いたら他の子達と一緒に食われてただろうから、軽傷だろうが重傷だろうが結果は同じだが、それでもツルメの奇襲を受けて、舞子がもし自力で生き残ってたとすれば、面白い素材ではある」
『はい』
「身体能力もそこそこ高いし、荒削りだが体捌きも良い。筋がいいのか師がいいのか。それとも、オママゴトの訓練が多少は役に立ってたのか。いずれにしても、しっかり育てればそこそこ使えると思う。一から育てるのは面倒だったが、アレだったら案外良い拾い物かも……」
『育てる気ですか、我が主よ?』
「怖い目付きしてるぞミサヤ、妬いてるのか?」
『まさか。ただ、我が主の周りに異性が増えるのを危惧しているだけです。マイトがどう言うか……』
つーんと澄まし顔をするミサヤの喉をくすぐり、命彦が笑った。
「心配いらねえって。育成はできる限りメイア達に任せるつもりだ。基本的に見てる方が面白い」
命彦はそう言うと、ミサヤを肩に乗せ、椅子から立ち上がって歩き出した。
ミサヤはどこか苛立った様子で、舞子を見ている。
舞子と、その後に続いて歩いて来るメイア達。4人と合流した命彦は、開口一番に告げた。
「接近戦の立ち回りは確認した。舞子としては、良いように一方的にあしらわれて不満もあるかと思うが、俺の感想としては意外に良かったと思う。主に受け身と身体の使い方の面で。多分メイア達も同意見だろ? 次の砲撃戦も、良い意味で予想を裏切ってくれることを願うぞ」
「ありがとうございます。引き続き全力を尽くします!」
「うむ。ところで舞子、精霊攻撃魔法以外に、魔法による遠距離攻撃手段を持ってるか?」
「いえ、持ってませんが……あの、何か問題があるのでしょうか?」
「いや、聞いてみただけだ。精霊付与魔法でも、やろうと思えばそういう魔法攻撃もできるんだが、まあ本来は攻撃魔法の領分だし、例外的使用法だ。今は置いておこう。さて、遠距離攻撃手段をろくすっぽ持ってねえ場合、次の砲撃戦は、いかにして自分の攻撃が届く間合いまで距離を詰めるか。その一点が重視される」
命彦が舞子を見据え、厳かに言う。
「俺は遠間から攻撃魔法を連発する。舞子はどういう手段を使ってもいいから間合いをつぶし、とにかく俺に触れてみろ」
「はい!」
「空太、審判役をくれぐれも頼む。メイア、それに勇子も、砲撃戦では2人がかりで助言役をしろ。しっかり教えてやれ。メイアは攻撃魔法の性質を、勇子は間合いのつぶし方、動き方をきっちり指示すること。俺も多少は手加減するが、基本的に当てるつもりで行く。空太、マズいと思ったらすぐ合図するか防げよ?」
「まったく、命彦はいっつも難しい役割を僕に振るよねえ……まあ、任されたよ」
「ウチも、わかったで」
「私も了解したわ」
「それじゃあ、舞子。訓練場の端まで行け。舞子が端に着いた時点で空太は開始の合図を。空太の合図の後、俺は攻撃魔法を使う。端に着くまでに付与魔法を使ってもいいぞ?」
「あ、はい! それでは……行ってきます」
舞子がぎくしゃくと歩きつつ、精霊付与魔法を詠唱した。
「其の地礫の天威を衣と化し、我が身に地の加護を与えよ。包め《地礫の纏い》」
薄黄色の魔法力場が舞子の身体を包み込み、全身の自己治癒力が活性化する。
嘘のようにフラつく足取りがしっかりして、身体の芯に疼いていた倦怠感が治まった。
精霊付与魔法《地礫の纏い》。地の精霊達を魔力に取り込んで使役し、肉体の自己治癒力を活性化する薄黄色の魔法力場を作って、魔法の対象である生物や無生物を、その力場で包む魔法である。
《旋風の纏い》や《火炎の纏い》と同様、魔獣との接近戦を行う戦闘型前衛系学科魔法士に、必須の付与魔法であった。
舞子が薄黄色の魔法力場を纏ってすぐ、後ろを歩いていたメイアと勇子が口を開いた。
「身体の疲労は少しは抜けたようね? それじゃあすぐに《旋風の纏い》を詠唱しましょうか」
「え、あ、はい!」
「端まですぐや。さっさとメイアの言うとおりにし? 2つの付与魔法の重ねがけくらいできるやろ? 《地礫の纏い》は、今回は疲労回復のためと防御のために割り切り。本命は《旋風の纏い》や。この模擬戦では、《旋風の纏い》の機動力が絶対必要やから」
「了解です! 其の旋風の天威を衣と化し、我が身に風の加護を与えよ。包め《旋風の纏い》」
薄緑色がかった別の魔法力場が発生し、舞子を包み込む。身体が身軽に思えて、どこまでも飛んでいける感覚が、舞子を覆った。
すると、先に使っていた《地礫の纏い》の魔法力場が、舞子の思う通りに制御できず、突然減衰する。
魔法の効力はまだ残っているが、効力自体は相当弱まった感じがした。
薄緑と薄黄色の2重の魔法力場を見て、難しい顔をする舞子。その舞子にメイアが言う。
「あら、精霊付与魔法の多重展開は苦手? 《地礫の纏い》の魔法力場が弱体化してしまったけれど」
「えーと、そう言うわけではありませんが……白状しますと、実はこの付与魔法の扱いがやや苦手で。《地礫の纏い》と他の精霊付与魔法を一緒に使うと、どうしてもこの通り、いつも《地礫の纏い》が弱体化してしまうんですよ。《地礫の纏い》単体で使えば、普通に使えるんですが」
「魔法によって制御力に差があるんやね? 《地礫の纏い》に対する練度、修練不足が原因やわ。せやから、他の精霊付与魔法と多重展開した時、《地礫の纏い》だけが弱体化するんよ。《地礫の纏い》に割くべき意識と力が、他の精霊付与魔法を使った時に分散するんやろ」
勇子の言葉に、舞子も自覚があるのか、悔しそうに顔をしかめた。
「修練不足から来る問題は、今すぐにはどうこうでけへんもんや。まあ、多少でも魔法力場の効力が残っとれば、この場ではそこまで困らへんし、今はこれでええやろ。ウチらと一緒に訓練して、おいおい改善すればええ。メイアも手伝ってや?」
「分かったわ。ただ舞子、自分が認識できる精霊に関する精霊魔法は、平等に使えるようにしておいた方がいいわよ? 特定の精霊魔法の練度だけが高いのも1つの個性だけれど、自分が修得した全ての精霊魔法を等しい練度で使える方が、魔法士として遥かに有益だもの。理由は分かるわよね?」
「はい。精霊融合魔法の効力が上がるからですよね?」
「ええ。単体の精霊魔法を重ねて使う多重展開は、言わば足し算の効力。一方、複数の精霊魔法を融合させて相乗効果を得る融合展開、つまり精霊融合魔法は、かけ算の効力よ。だから精霊融合魔法の方が、使う魔法の練度に差があると、せっかく相乗された効力が激しく下がってしまうわけね」
「はい、しっかり頭に刻んでおきます」
「とにかく今は、《旋風の纏い》の魔法力場だけに絞って、効力を維持しましょう。精霊攻撃魔法も使えるでしょうけど、命彦が相手だと異常系魔法弾は無効化される可能性が極めて高いわ。使うだけ魔力の無駄よ。付与魔法の維持にだけ、全神経を傾けて。いいわね?」
「わかりました!」
「まずは命彦の攻撃魔法を避けるための、機動力が最優先や。《旋風の纏い》の効力は切らさへんこと。不意の魔法攻撃で魔法力場が減衰、消失したら、すぐに《旋風の纏い》を再展開するんやで?」
「あとは防御力ね。今回は触れたら勝ちだから、攻撃力は不要。割り切って魔法防御力と移動のみを考えて動いて。効力が弱体化してるとはいえ、少しの間2重の魔法力場を纏えてることは事実。外側の《地礫の纏い》の効力が残ってる間に、命彦に触れるのよ?」
「了解です」
「《地礫の纏い》の効力が残っている時間は、自分の感覚で把握できるやろ? その時間までにケリをつけ。短期決着や、全ては舞子次第やで?」
いつの間にか訓練施設の端が間近に迫っており、硬い表情を作る舞子。
その舞子の気を紛らわせるように、メイアが言う。
「命彦は〔武士〕にして〔忍者〕よ。2つの学科魔法士資格を持ち、個人的に魔法技術を幾つも修得してるから、攻撃・結界・付与・治癒・探査・儀式の、あらゆる魔法術式を使うことができるわ」
「特に付与魔法と攻撃魔法が得意で、単純に修得した攻撃魔法の総数で比べれば、〔精霊使い〕たる空太に劣るけど、その分命彦は、自分が使える魔法全ての練度が総じて高い。2人が使える攻撃魔法だけで比べたら、命彦の攻撃魔法は空太の上を行くで?」
「限定された攻撃魔法の習熟に特化したせいで、その特化した攻撃魔法に限れば、攻撃魔法を専門に修得する〔精霊使い〕を凌駕するほどの実力ですか……ごくり」
「命彦が空太に審判役を任せた理由は、空太が小隊内で結界魔法の扱いが1番上手いからだけど、それ以外にも、攻撃魔法について、小隊内で空太が1番よく知っているからって理由もあるわ。攻撃魔法に専念する命彦は、舞子の状態を確認するのが一拍遅れる可能性がある」
「命彦が避けられる、防げると思って使った攻撃魔法が、舞子に致命傷を与えることも、可能性としてあり得るんや。せやから、客観的に危険度を計る意味で、空太が審判役に立つ。見てくれはヒョロいアホボンやけど、〔精霊使い〕として攻撃魔法を見抜く目はピカイチやで」
腹立たしそうに空太を一瞥して、勇子が言葉を続ける。
「命彦の具現化した攻撃魔法が、舞子にとって防がれへんと思ったら、空太がいち早く気づいて、合図する。すると、命彦が攻撃魔法を自分で消滅させるって寸法や。勿論、合図が間に合わん時は、空太が魔法防壁を瞬時に展開して防ぐやろ」
「私達も、もしもの時は手を出すから、死んでしまう心配は皆無だけれど、裏を返せば、そこまで計算しているからこそ、恐らく命彦もギリギリまできつい魔法攻撃を仕かけて来るわ。気を引き締めてね?」
「はい!」
「とにかく動きまくり。そんでウチらの声に耳を澄ませること。これだけ守って砕けてきい」
そう言うと、勇子とメイアはさっと舞子から距離を取った。
訓練場の端にたどり着いた舞子が振り返ると、空太が挙げていた手を振り降し、宣言する。
「それでは模擬戦2戦目、砲撃戦試技、開始」
空太の言葉が言い終わると同時に、舞子は自分を標的にして、高速で飛来する圧縮空気の塊、風の魔法弾を視認した。視界の端では、驚く勇子とメイアの姿が映る。
「開始早々に無詠唱での精霊攻撃魔法やとっ!」
「舞子、《旋風の矢》よ、避けてえ!」
勇子とメイアの慌てた警告が、舞子の耳を打った。
精霊攻撃魔法《旋風の矢》。具現化した魔法弾で、魔法の対象を損傷させたり、異常を起こさせたりする攻撃魔法の1種であり、風の精霊達を魔力に取り込んで使役し、圧縮空気の塊である風の魔法弾を高速で射出して、対象を追尾させ、確実に攻撃する魔法であった。
魔法系統を問わず、《○○の矢》と呼称される攻撃魔法は、扱いやすさを重視した誘導追尾式の魔法弾を作る、最も基礎の攻撃魔法であり、撃ち出す魔法弾の数が増えるほど、魔力消費量が増えて魔法展開速度も遅れた。
追尾系と呼ばれるこの種の精霊攻撃魔法は、他の攻撃魔法と比べると1発の破壊力が数段低いものの、その分使いやすく、魔法の射程距離も長くできるため、新人から熟練の学科魔法士まで、多くの魔法士が使用している。
特に熟練の魔法士達は、無詠唱でこの追尾系魔法弾を使い、相手の機先を制して次の動作の遅延や牽制の役割で、先制攻撃に多用することが多かった。
「ひうっ!」
手荒い《旋風の矢》の先制攻撃に思いっ切り驚いて、横に飛ぶ舞子。
まっすぐ飛来する風の追尾系魔法弾を、舞子が避けたと思った瞬間である。頬にドパンッと、衝撃が走った。
「ホブラッ!」
思わず女子にあるまじき声を発し、倒れかける舞子。その舞子へ、勇子の叱責が飛ぶ。
「舞子のアホ! 追尾系魔法弾やぞ! 1回避けたくらいで完全に回避できるかい!」
追尾系魔法弾は、使用者の想像によってその軌道が曲げられるため、無力化するには魔法自体を叩き落すか、別の対象にわざと当てさせるかして、その効力を発散させる必要があったのである。
「舞子、今倒れたらダメ! 次が来るわ、避けてえぇっ!」
すぐにメイアの警告も聞こえ、舞子は危機を察知してその場を飛びのいた。
舞子が飛びのいた瞬間、ズドドドッと9つの追尾系魔法弾が地面の床を抉る。
「無詠唱の《旋風の矢》……い、痛かったでふ」
精霊付与魔法の魔法力場が2重にあったとはいえ、ひりひりと痛む頬に手を当てつつ、舞子は遠く離れた命彦を見た。命彦がニヤリと笑い、呪文を紡ぐ。
「其の旋風の天威を矢と化して、我が敵を撃ち払え。穿て《旋風の矢》」
またしても《旋風の矢》が具現化され、風の追尾系魔法弾が、命彦の周囲にフワフワと数十個も出現した。
詠唱したおかげで多くの魔力を注げたのか、出現した追尾系魔法弾はさっきの数倍の数である。
それが全て自分へと殺到すること思い、舞子は戦慄した。
「命彦め、普通新人相手に初手から無詠唱の《旋風の矢》を使うかぁ? いけずやわ。舞子、《旋風の矢》は視認しにくいで! 避ける時は目に頼らず魔力の気配をたどりっ!」
「はい!」
勇子の助言に応え、勢いよく駆けだす舞子。その舞子に追尾能力を持った風の魔法弾が、雨あられと降り注ぐ。
「うにょわぁぁああぁぁっっっ!」
「慌てずに対処して! 初撃の追尾系魔法弾と違って今度は数が多いわ! その分個々の魔法弾の追尾性は低下している筈よ!」
「せや! よく見て避けられるモンは避け、避けるんが難しいモンは叩き落せっ! 一発の威力は低いから、魔法力場で包まれとる限り、酷い怪我することはあらへん! あとジグザグに走行するんや! まっすぐ進めばええ的やで!」
メイア達の檄に反応して、舞子が動き回る。
魔法力場を纏う手で、追尾系魔法弾を叩き落したり、不規則に回避したりするが、しかし舞子を追尾する魔法弾は、進路を巧みに阻み、舞子を後退させる。
顔面に飛んで来る風の魔法弾を、どうにか身を捻って躱した時だった。
「舞子、下よ!」
メイアの警告にハッとする舞子。
いつの間にか死角に入っていた追尾系魔法弾が、下から舞子の顎に当たり、弾けた。
「ぶべっ!」
「うら若き乙女が、蛙みたいに跳び上がってどうすんねん、走れ舞子!」
「早く、次が来るわ!」
頭を揺らされ、ふら付く舞子。その間に、命彦は次の魔法を詠唱していた。
「其の旋風の天威を束ねて槍と化し、一閃を持って、我が敵を撃ち払え。貫け《旋風の槍》」
命彦の頭上に、今度は回転した高密度圧縮空気の槍、風の集束系魔法弾が出現した。
「待って命彦! 集束系はあんまりでしょう、当たれば重傷よ!」
「加減はしてるし、空太も止めねえだろ? それに、2重に魔法力場がある。多分平気だ」
「多分平気って、オノレは鬼か! 舞子、イチバチや、真上に全力で飛べぇえーい!」
優しい笑顔を浮かべた命彦が、肩に乗せたミサヤの喉をくすぐりつつ、舞子に風の集束系魔法弾を射出した。
精霊攻撃魔法《旋風の槍》。風の精霊達を魔力へ多量に取り込んで使役し、圧縮して回転させた貫通力のある風の魔法弾を撃ち出して、展開された結界魔法や付与魔法をも貫通し、対象を攻撃する魔法である。
多数の追尾系魔法弾を、1つの魔法弾に集束・凝縮し、撃ち出すといった感じの攻撃魔法で、扱いは難しいものの、この集束系魔法弾の破壊力は、追尾系魔法弾の連射を遥かに超える魔法攻撃力を発揮した。
《○○の槍》と呼称される集束系の攻撃魔法は、結界魔法の魔法防壁や、付与魔法の魔法力場を貫通するために使われる、破壊力重視の攻撃魔法であるため、魔力消費量も多く、魔法展開速度も遅い。
よって、追尾系魔法弾のように具現化した魔法弾を連射したり、曲射したり、追尾させたりすることは不可能であった。
高速でまっすぐ飛来する風の槍を見て、舞子は戦慄し、咄嗟に勇子の指示通り跳び上がる。
風の集束系魔法弾は、ゾンッと床に突き刺さり、突風を発生させて深い傷跡を残した。
間一髪、逃れた舞子だったが、その破壊力にまたもや戦慄を覚える。
しかし同時に、よく動いたと自分で自分に感心した。
実際、視界の端に映った勇子とメイアは、手を叩いて喝采を上げている。
「いよっしゃ! ようやった!」
「反転攻勢よ、残りの距離は半分、まだ行けるわ!」
喝采に応えようと舞子が意気込んだ時である。
「舞子、行きますンゴッ!」
頭頂部に物凄い衝撃を受けた。凄い勢いで頭から天井の衝撃吸収材にめり込んだのである。
《旋風の纏い》の全力跳躍と《旋風の槍》の余波で生じた突風が、天井にぶつかるほど高く、舞子を舞い上げていた。
足首まで立方体の衝撃吸収材に埋まり、ビチビチとつま先を動かす舞子。
その舞子を見て、目を点にする命彦達。
しばらくの間、痙攣するように足先だけで動いていた舞子だったが、化学合成繊維の絡まりが思った以上に頑固だったらしく、やがて諦めたのか動きが止み、懇願の声が訓練場に木霊した。
「ずみばせん……うう、だずげてぐだざいぃ」
「「「「くくく、ぶあはははっ……」」」」
まさかの自滅と、余りにしょぼくれたその声によって、命彦達がこらえ切れずに笑い出した。
かくて舞子の模擬戦2戦目は、不完全燃焼と笑いの内に幕を閉じたのである。
「舞子の接近戦、見ててどうだったミサヤ?」
『少し驚きましたね? 迷宮で会った時、ツルメの奇襲を受けて、彼女だけが軽傷で済んでいたのも、単に運が良かっただけかどうか、迷う程度にですが』
「まあ、あの時放って置いたら他の子達と一緒に食われてただろうから、軽傷だろうが重傷だろうが結果は同じだが、それでもツルメの奇襲を受けて、舞子がもし自力で生き残ってたとすれば、面白い素材ではある」
『はい』
「身体能力もそこそこ高いし、荒削りだが体捌きも良い。筋がいいのか師がいいのか。それとも、オママゴトの訓練が多少は役に立ってたのか。いずれにしても、しっかり育てればそこそこ使えると思う。一から育てるのは面倒だったが、アレだったら案外良い拾い物かも……」
『育てる気ですか、我が主よ?』
「怖い目付きしてるぞミサヤ、妬いてるのか?」
『まさか。ただ、我が主の周りに異性が増えるのを危惧しているだけです。マイトがどう言うか……』
つーんと澄まし顔をするミサヤの喉をくすぐり、命彦が笑った。
「心配いらねえって。育成はできる限りメイア達に任せるつもりだ。基本的に見てる方が面白い」
命彦はそう言うと、ミサヤを肩に乗せ、椅子から立ち上がって歩き出した。
ミサヤはどこか苛立った様子で、舞子を見ている。
舞子と、その後に続いて歩いて来るメイア達。4人と合流した命彦は、開口一番に告げた。
「接近戦の立ち回りは確認した。舞子としては、良いように一方的にあしらわれて不満もあるかと思うが、俺の感想としては意外に良かったと思う。主に受け身と身体の使い方の面で。多分メイア達も同意見だろ? 次の砲撃戦も、良い意味で予想を裏切ってくれることを願うぞ」
「ありがとうございます。引き続き全力を尽くします!」
「うむ。ところで舞子、精霊攻撃魔法以外に、魔法による遠距離攻撃手段を持ってるか?」
「いえ、持ってませんが……あの、何か問題があるのでしょうか?」
「いや、聞いてみただけだ。精霊付与魔法でも、やろうと思えばそういう魔法攻撃もできるんだが、まあ本来は攻撃魔法の領分だし、例外的使用法だ。今は置いておこう。さて、遠距離攻撃手段をろくすっぽ持ってねえ場合、次の砲撃戦は、いかにして自分の攻撃が届く間合いまで距離を詰めるか。その一点が重視される」
命彦が舞子を見据え、厳かに言う。
「俺は遠間から攻撃魔法を連発する。舞子はどういう手段を使ってもいいから間合いをつぶし、とにかく俺に触れてみろ」
「はい!」
「空太、審判役をくれぐれも頼む。メイア、それに勇子も、砲撃戦では2人がかりで助言役をしろ。しっかり教えてやれ。メイアは攻撃魔法の性質を、勇子は間合いのつぶし方、動き方をきっちり指示すること。俺も多少は手加減するが、基本的に当てるつもりで行く。空太、マズいと思ったらすぐ合図するか防げよ?」
「まったく、命彦はいっつも難しい役割を僕に振るよねえ……まあ、任されたよ」
「ウチも、わかったで」
「私も了解したわ」
「それじゃあ、舞子。訓練場の端まで行け。舞子が端に着いた時点で空太は開始の合図を。空太の合図の後、俺は攻撃魔法を使う。端に着くまでに付与魔法を使ってもいいぞ?」
「あ、はい! それでは……行ってきます」
舞子がぎくしゃくと歩きつつ、精霊付与魔法を詠唱した。
「其の地礫の天威を衣と化し、我が身に地の加護を与えよ。包め《地礫の纏い》」
薄黄色の魔法力場が舞子の身体を包み込み、全身の自己治癒力が活性化する。
嘘のようにフラつく足取りがしっかりして、身体の芯に疼いていた倦怠感が治まった。
精霊付与魔法《地礫の纏い》。地の精霊達を魔力に取り込んで使役し、肉体の自己治癒力を活性化する薄黄色の魔法力場を作って、魔法の対象である生物や無生物を、その力場で包む魔法である。
《旋風の纏い》や《火炎の纏い》と同様、魔獣との接近戦を行う戦闘型前衛系学科魔法士に、必須の付与魔法であった。
舞子が薄黄色の魔法力場を纏ってすぐ、後ろを歩いていたメイアと勇子が口を開いた。
「身体の疲労は少しは抜けたようね? それじゃあすぐに《旋風の纏い》を詠唱しましょうか」
「え、あ、はい!」
「端まですぐや。さっさとメイアの言うとおりにし? 2つの付与魔法の重ねがけくらいできるやろ? 《地礫の纏い》は、今回は疲労回復のためと防御のために割り切り。本命は《旋風の纏い》や。この模擬戦では、《旋風の纏い》の機動力が絶対必要やから」
「了解です! 其の旋風の天威を衣と化し、我が身に風の加護を与えよ。包め《旋風の纏い》」
薄緑色がかった別の魔法力場が発生し、舞子を包み込む。身体が身軽に思えて、どこまでも飛んでいける感覚が、舞子を覆った。
すると、先に使っていた《地礫の纏い》の魔法力場が、舞子の思う通りに制御できず、突然減衰する。
魔法の効力はまだ残っているが、効力自体は相当弱まった感じがした。
薄緑と薄黄色の2重の魔法力場を見て、難しい顔をする舞子。その舞子にメイアが言う。
「あら、精霊付与魔法の多重展開は苦手? 《地礫の纏い》の魔法力場が弱体化してしまったけれど」
「えーと、そう言うわけではありませんが……白状しますと、実はこの付与魔法の扱いがやや苦手で。《地礫の纏い》と他の精霊付与魔法を一緒に使うと、どうしてもこの通り、いつも《地礫の纏い》が弱体化してしまうんですよ。《地礫の纏い》単体で使えば、普通に使えるんですが」
「魔法によって制御力に差があるんやね? 《地礫の纏い》に対する練度、修練不足が原因やわ。せやから、他の精霊付与魔法と多重展開した時、《地礫の纏い》だけが弱体化するんよ。《地礫の纏い》に割くべき意識と力が、他の精霊付与魔法を使った時に分散するんやろ」
勇子の言葉に、舞子も自覚があるのか、悔しそうに顔をしかめた。
「修練不足から来る問題は、今すぐにはどうこうでけへんもんや。まあ、多少でも魔法力場の効力が残っとれば、この場ではそこまで困らへんし、今はこれでええやろ。ウチらと一緒に訓練して、おいおい改善すればええ。メイアも手伝ってや?」
「分かったわ。ただ舞子、自分が認識できる精霊に関する精霊魔法は、平等に使えるようにしておいた方がいいわよ? 特定の精霊魔法の練度だけが高いのも1つの個性だけれど、自分が修得した全ての精霊魔法を等しい練度で使える方が、魔法士として遥かに有益だもの。理由は分かるわよね?」
「はい。精霊融合魔法の効力が上がるからですよね?」
「ええ。単体の精霊魔法を重ねて使う多重展開は、言わば足し算の効力。一方、複数の精霊魔法を融合させて相乗効果を得る融合展開、つまり精霊融合魔法は、かけ算の効力よ。だから精霊融合魔法の方が、使う魔法の練度に差があると、せっかく相乗された効力が激しく下がってしまうわけね」
「はい、しっかり頭に刻んでおきます」
「とにかく今は、《旋風の纏い》の魔法力場だけに絞って、効力を維持しましょう。精霊攻撃魔法も使えるでしょうけど、命彦が相手だと異常系魔法弾は無効化される可能性が極めて高いわ。使うだけ魔力の無駄よ。付与魔法の維持にだけ、全神経を傾けて。いいわね?」
「わかりました!」
「まずは命彦の攻撃魔法を避けるための、機動力が最優先や。《旋風の纏い》の効力は切らさへんこと。不意の魔法攻撃で魔法力場が減衰、消失したら、すぐに《旋風の纏い》を再展開するんやで?」
「あとは防御力ね。今回は触れたら勝ちだから、攻撃力は不要。割り切って魔法防御力と移動のみを考えて動いて。効力が弱体化してるとはいえ、少しの間2重の魔法力場を纏えてることは事実。外側の《地礫の纏い》の効力が残ってる間に、命彦に触れるのよ?」
「了解です」
「《地礫の纏い》の効力が残っている時間は、自分の感覚で把握できるやろ? その時間までにケリをつけ。短期決着や、全ては舞子次第やで?」
いつの間にか訓練施設の端が間近に迫っており、硬い表情を作る舞子。
その舞子の気を紛らわせるように、メイアが言う。
「命彦は〔武士〕にして〔忍者〕よ。2つの学科魔法士資格を持ち、個人的に魔法技術を幾つも修得してるから、攻撃・結界・付与・治癒・探査・儀式の、あらゆる魔法術式を使うことができるわ」
「特に付与魔法と攻撃魔法が得意で、単純に修得した攻撃魔法の総数で比べれば、〔精霊使い〕たる空太に劣るけど、その分命彦は、自分が使える魔法全ての練度が総じて高い。2人が使える攻撃魔法だけで比べたら、命彦の攻撃魔法は空太の上を行くで?」
「限定された攻撃魔法の習熟に特化したせいで、その特化した攻撃魔法に限れば、攻撃魔法を専門に修得する〔精霊使い〕を凌駕するほどの実力ですか……ごくり」
「命彦が空太に審判役を任せた理由は、空太が小隊内で結界魔法の扱いが1番上手いからだけど、それ以外にも、攻撃魔法について、小隊内で空太が1番よく知っているからって理由もあるわ。攻撃魔法に専念する命彦は、舞子の状態を確認するのが一拍遅れる可能性がある」
「命彦が避けられる、防げると思って使った攻撃魔法が、舞子に致命傷を与えることも、可能性としてあり得るんや。せやから、客観的に危険度を計る意味で、空太が審判役に立つ。見てくれはヒョロいアホボンやけど、〔精霊使い〕として攻撃魔法を見抜く目はピカイチやで」
腹立たしそうに空太を一瞥して、勇子が言葉を続ける。
「命彦の具現化した攻撃魔法が、舞子にとって防がれへんと思ったら、空太がいち早く気づいて、合図する。すると、命彦が攻撃魔法を自分で消滅させるって寸法や。勿論、合図が間に合わん時は、空太が魔法防壁を瞬時に展開して防ぐやろ」
「私達も、もしもの時は手を出すから、死んでしまう心配は皆無だけれど、裏を返せば、そこまで計算しているからこそ、恐らく命彦もギリギリまできつい魔法攻撃を仕かけて来るわ。気を引き締めてね?」
「はい!」
「とにかく動きまくり。そんでウチらの声に耳を澄ませること。これだけ守って砕けてきい」
そう言うと、勇子とメイアはさっと舞子から距離を取った。
訓練場の端にたどり着いた舞子が振り返ると、空太が挙げていた手を振り降し、宣言する。
「それでは模擬戦2戦目、砲撃戦試技、開始」
空太の言葉が言い終わると同時に、舞子は自分を標的にして、高速で飛来する圧縮空気の塊、風の魔法弾を視認した。視界の端では、驚く勇子とメイアの姿が映る。
「開始早々に無詠唱での精霊攻撃魔法やとっ!」
「舞子、《旋風の矢》よ、避けてえ!」
勇子とメイアの慌てた警告が、舞子の耳を打った。
精霊攻撃魔法《旋風の矢》。具現化した魔法弾で、魔法の対象を損傷させたり、異常を起こさせたりする攻撃魔法の1種であり、風の精霊達を魔力に取り込んで使役し、圧縮空気の塊である風の魔法弾を高速で射出して、対象を追尾させ、確実に攻撃する魔法であった。
魔法系統を問わず、《○○の矢》と呼称される攻撃魔法は、扱いやすさを重視した誘導追尾式の魔法弾を作る、最も基礎の攻撃魔法であり、撃ち出す魔法弾の数が増えるほど、魔力消費量が増えて魔法展開速度も遅れた。
追尾系と呼ばれるこの種の精霊攻撃魔法は、他の攻撃魔法と比べると1発の破壊力が数段低いものの、その分使いやすく、魔法の射程距離も長くできるため、新人から熟練の学科魔法士まで、多くの魔法士が使用している。
特に熟練の魔法士達は、無詠唱でこの追尾系魔法弾を使い、相手の機先を制して次の動作の遅延や牽制の役割で、先制攻撃に多用することが多かった。
「ひうっ!」
手荒い《旋風の矢》の先制攻撃に思いっ切り驚いて、横に飛ぶ舞子。
まっすぐ飛来する風の追尾系魔法弾を、舞子が避けたと思った瞬間である。頬にドパンッと、衝撃が走った。
「ホブラッ!」
思わず女子にあるまじき声を発し、倒れかける舞子。その舞子へ、勇子の叱責が飛ぶ。
「舞子のアホ! 追尾系魔法弾やぞ! 1回避けたくらいで完全に回避できるかい!」
追尾系魔法弾は、使用者の想像によってその軌道が曲げられるため、無力化するには魔法自体を叩き落すか、別の対象にわざと当てさせるかして、その効力を発散させる必要があったのである。
「舞子、今倒れたらダメ! 次が来るわ、避けてえぇっ!」
すぐにメイアの警告も聞こえ、舞子は危機を察知してその場を飛びのいた。
舞子が飛びのいた瞬間、ズドドドッと9つの追尾系魔法弾が地面の床を抉る。
「無詠唱の《旋風の矢》……い、痛かったでふ」
精霊付与魔法の魔法力場が2重にあったとはいえ、ひりひりと痛む頬に手を当てつつ、舞子は遠く離れた命彦を見た。命彦がニヤリと笑い、呪文を紡ぐ。
「其の旋風の天威を矢と化して、我が敵を撃ち払え。穿て《旋風の矢》」
またしても《旋風の矢》が具現化され、風の追尾系魔法弾が、命彦の周囲にフワフワと数十個も出現した。
詠唱したおかげで多くの魔力を注げたのか、出現した追尾系魔法弾はさっきの数倍の数である。
それが全て自分へと殺到すること思い、舞子は戦慄した。
「命彦め、普通新人相手に初手から無詠唱の《旋風の矢》を使うかぁ? いけずやわ。舞子、《旋風の矢》は視認しにくいで! 避ける時は目に頼らず魔力の気配をたどりっ!」
「はい!」
勇子の助言に応え、勢いよく駆けだす舞子。その舞子に追尾能力を持った風の魔法弾が、雨あられと降り注ぐ。
「うにょわぁぁああぁぁっっっ!」
「慌てずに対処して! 初撃の追尾系魔法弾と違って今度は数が多いわ! その分個々の魔法弾の追尾性は低下している筈よ!」
「せや! よく見て避けられるモンは避け、避けるんが難しいモンは叩き落せっ! 一発の威力は低いから、魔法力場で包まれとる限り、酷い怪我することはあらへん! あとジグザグに走行するんや! まっすぐ進めばええ的やで!」
メイア達の檄に反応して、舞子が動き回る。
魔法力場を纏う手で、追尾系魔法弾を叩き落したり、不規則に回避したりするが、しかし舞子を追尾する魔法弾は、進路を巧みに阻み、舞子を後退させる。
顔面に飛んで来る風の魔法弾を、どうにか身を捻って躱した時だった。
「舞子、下よ!」
メイアの警告にハッとする舞子。
いつの間にか死角に入っていた追尾系魔法弾が、下から舞子の顎に当たり、弾けた。
「ぶべっ!」
「うら若き乙女が、蛙みたいに跳び上がってどうすんねん、走れ舞子!」
「早く、次が来るわ!」
頭を揺らされ、ふら付く舞子。その間に、命彦は次の魔法を詠唱していた。
「其の旋風の天威を束ねて槍と化し、一閃を持って、我が敵を撃ち払え。貫け《旋風の槍》」
命彦の頭上に、今度は回転した高密度圧縮空気の槍、風の集束系魔法弾が出現した。
「待って命彦! 集束系はあんまりでしょう、当たれば重傷よ!」
「加減はしてるし、空太も止めねえだろ? それに、2重に魔法力場がある。多分平気だ」
「多分平気って、オノレは鬼か! 舞子、イチバチや、真上に全力で飛べぇえーい!」
優しい笑顔を浮かべた命彦が、肩に乗せたミサヤの喉をくすぐりつつ、舞子に風の集束系魔法弾を射出した。
精霊攻撃魔法《旋風の槍》。風の精霊達を魔力へ多量に取り込んで使役し、圧縮して回転させた貫通力のある風の魔法弾を撃ち出して、展開された結界魔法や付与魔法をも貫通し、対象を攻撃する魔法である。
多数の追尾系魔法弾を、1つの魔法弾に集束・凝縮し、撃ち出すといった感じの攻撃魔法で、扱いは難しいものの、この集束系魔法弾の破壊力は、追尾系魔法弾の連射を遥かに超える魔法攻撃力を発揮した。
《○○の槍》と呼称される集束系の攻撃魔法は、結界魔法の魔法防壁や、付与魔法の魔法力場を貫通するために使われる、破壊力重視の攻撃魔法であるため、魔力消費量も多く、魔法展開速度も遅い。
よって、追尾系魔法弾のように具現化した魔法弾を連射したり、曲射したり、追尾させたりすることは不可能であった。
高速でまっすぐ飛来する風の槍を見て、舞子は戦慄し、咄嗟に勇子の指示通り跳び上がる。
風の集束系魔法弾は、ゾンッと床に突き刺さり、突風を発生させて深い傷跡を残した。
間一髪、逃れた舞子だったが、その破壊力にまたもや戦慄を覚える。
しかし同時に、よく動いたと自分で自分に感心した。
実際、視界の端に映った勇子とメイアは、手を叩いて喝采を上げている。
「いよっしゃ! ようやった!」
「反転攻勢よ、残りの距離は半分、まだ行けるわ!」
喝采に応えようと舞子が意気込んだ時である。
「舞子、行きますンゴッ!」
頭頂部に物凄い衝撃を受けた。凄い勢いで頭から天井の衝撃吸収材にめり込んだのである。
《旋風の纏い》の全力跳躍と《旋風の槍》の余波で生じた突風が、天井にぶつかるほど高く、舞子を舞い上げていた。
足首まで立方体の衝撃吸収材に埋まり、ビチビチとつま先を動かす舞子。
その舞子を見て、目を点にする命彦達。
しばらくの間、痙攣するように足先だけで動いていた舞子だったが、化学合成繊維の絡まりが思った以上に頑固だったらしく、やがて諦めたのか動きが止み、懇願の声が訓練場に木霊した。
「ずみばせん……うう、だずげてぐだざいぃ」
「「「「くくく、ぶあはははっ……」」」」
まさかの自滅と、余りにしょぼくれたその声によって、命彦達がこらえ切れずに笑い出した。
かくて舞子の模擬戦2戦目は、不完全燃焼と笑いの内に幕を閉じたのである。
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