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第18話 悪行貴族のはずれ息子⑤&あとがき
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(どういうことだ……? 当主様は確かにユミィ様を幽閉していたはずなのに……)
とはいえ、父上がウソを言っているようにも思えない。
そんな父上の言葉に疑問を抱く中、自分の考えを根本的に否定してきた父上にユミィがかすれた声で言葉を返す。
「私を追放する気がなかった……? そ、それはどういうことなのですか……?」
「ユミィ様もご存知の通り、貴族の中で魔法を使うことが出来ないというのは大変な痛手です。申し上げにくいことではありますが、そんな状況でユミィ様がパーティなどに参加なさった場合、間違いなく周囲の貴族達はあなたをあざ笑うことでしょう」
「そ、それはそうですが……」
「そして、それは貴族達だけではありません。街中にあなたの存在が知られてしまえば、それこそあなたの居場所は無くなります。当主様は『それだけは避けなければ』とあなたを屋敷の中に幽閉していたわけです」
「嘘……」
つまり、当主様はユミィをないがしろにしてたわけじゃないってことか?
あまりにも衝撃的な事実を聞かされてしまい、ユミィは困惑した表情で当主様へと視線を向ける。
そんな娘からの視線から逃げるように、当主様は椅子に深く腰を落とすといつものように不機嫌そうな声で父上の言葉を肯定してきた。
「ふん……街の人間がどうなろうと、私にとってはどうでも良い。所詮は平民、我々のような貴族の為にいくらでも税を徴収し、肥やしになれば良いのだからな。……しかし、無能とはいえ、自分の子供が笑われるのを楽しむ親がどこにいる? だから、私は屋敷の外に出ることを許さなかったのだ」
ウソだろ……俺が魔法を使えたことよりも衝撃的な事実なんだけど。
驚く俺達に、父上は俺やユミィの方まで腰を曲げると、さらに衝撃的な事実を告げてきた。
「これはここだけの話だが……ユミィ様に魔法を使わせる為に遠くまでわざわざ足を運び、彼女の師匠を探していたのも当主様なのだよ」
「当主様自ら……ですか?」
「ああ。だから、当主様はいつもこの屋敷を空けていたんだ」
いや、全然想像付かないんですが……というか、父上に公務を任せて、本人は娘の為に師匠探しですか。
人は見かけに寄らないというか……明らかにユミィに対しての扱いもぞんざいなのに、実際は違うってことか?
すると、そんな父上を責め立てるように当主様が声を上げた。
「レナルド……口の軽さは歳を重ねても変わらんな。まったく、これだから『分家』の人間は嫌なのだ……」
そんな嫌味に対して父上は軽く笑みを浮かべてみせると、当主様に対して言葉を返す。
「いえいえ、私は事実を言ったまでですよ」
「それが軽いと言っているのだ……ふん、相変わらず食えぬ男よ。それに、ユミィの為だからと嫌な役まで押し付けおって……」
「嫌な役……ですか? どういう事でしょうか?」
さらなる疑問に俺達が困惑していると、当主様はため息交じりに父上を軽く見た後、俺の方に視線を向けながらそれを説明してくれた。
「ふん……ユミィがあまりに緊張しているゆえ、失敗させぬ為に一芝打った方が良い、とそこの失礼な男に提案されたのだ。貴様が気に入らないのは事実だが、だからといって追放や税の優遇の取り消し等するわけがなかろう」
「おや、これは心外ですね。別に私はアシック達を悪く言え、とは言っておりませんよ?」
「うぐっ……!? し、しかしだな、突然あのように言われては他にどうすれば良いのか分からなかったのだ! な、ならば、やはり貴様の所為ではないか!」
え? じゃあ、さっきまで俺に散々言ってたのは、全部演技だったってことか?
父上を睨み付けるように当主様がそうこぼすと、ユミィが驚いた様子で当主様へと視線を向ける。そして、意外にも自分を案じてくれていた当主様に感動したらしく、小さく呟いていた。
「お父様……」
「ぐっ……」
そんなユミィから純粋な目を向けられ、当主様はガラにも無く「ンンッ!」と頬を赤らめてわざとらしい咳払いをしてみせると、慌てた様子で椅子から軽く腰を上げて両手をぶんぶんと振り払った。
「え、ええい! やめだやめだ! そんな話はどうでも良い! どうあれ、ユミィが魔法を使えたのだ! それ以上はもう良い!」
「何もそのように言われなくても。せっかく、あれだけ心配なさっていたユミィ様が魔法をお使いになられたのです。どうせなら、もう少しお褒めの言葉をあげても良いのでは?」
「れ、レナルド! も、もう十分だろう! 勘弁してくれ……本当に貴様は性格が悪いな」
そうして恥ずかしがる当主様を見ながら軽く笑みを浮かべる父上。意地が悪いというか何というか……二人の関係って、もっと殺伐としたものだと思ってたんだけど。
時間があったら、後でその辺りの話を父上に聞いてみても良いかもしれない。
俺が二人のやり取りに驚いている中、その当主様はユミィから視線を俺の方へと移すと、いつものように不機嫌極まりなさそうな顔で意外な提案をしてきた。
「……ともかく、今回の件は認めざるを得ん。ようやく、ユミィも『本家』の人間として表舞台に立つことが出来るというものだ。……ふん、それが『分家』のおかげというのが気に入らんがな。しかし、誠に遺憾ではあるが……アシックよ、今回のことを評価し、お前にも褒美を与えよう」
「褒美……ですか?」
「そうだ」
これには驚いた。
俺はユミィが認められればそれで良かったし、特にそれ以上のことは考えてなかったし。
ただ、この機会を逃すのはもったいない。
丁度、持っていた『魔導書』だけじゃ限界を感じ始めてたし、どうせならもう少し魔法に詳しい人間が欲しいと思っていたところだ。
「―であれば、私とユミィ様に魔法のお師匠様を付けては頂けないでしょうか?」
「何……?」
俺の言葉が意外だったのか、当主様は困惑した表情を見せる。
そして、眉間にシワを寄せ、俺の真意を図るかのように言葉を返してきた。
「……これはお前への褒美だぞ? ユミィと共に師匠を付けるなら、それはそれで別件だ。もののついでだ、褒美とは別にそちらも叶えてやる。だが、それとは別にお前自身への褒美を要求してみろ、と言っているのだ」
「いえ、私は当主様がお約束をお守り頂けるのなら、それ以上の要求はありません。私にとって、『分家』とはいえ、家族なのです。その家族が無事であれば、それ以上のことは望みません」
「……ふん。やはり、レナルドに似て生意気な小僧だ……」
俺の返答が気に入らなかったのか、当主様はそう返して再び椅子に深く腰を掛けてしまう。しかし、しばらくの沈黙の後、渋々といった様子で俺の願いを承諾するように言葉を返してきた。
「―仕方あるまい。後日、お前達に師匠を付けてやる」
「当主様……」
意外にも要求を飲んでもらい驚く。
そんな俺に対して、隣に居たユミィが嬉しそうに俺の手を掴んできた。
「嬉しい……アシック様、本当にありがとうございます! アシック様のおかげで私達にお師匠様を付けてもらえるんですよ!?」
俺の手を掴み、子供らしく今にも飛び跳ねそうなユミィ。そんな彼女を微笑ましく思いながら、俺も笑顔で返す。
「いえ、私はただお嬢様のお手伝いをさせて頂いただけです。魔法を使うことが出来たのは、間違いなくお嬢様ご自身のお力ですよ」
「いいえ、私があのような態度を取っても、見捨てなかったアシック様のおかげです。これは譲れません」
しかし、そんな俺の言葉にユミィは意外にも譲ることなく、少しむすっとした顔でそう返してくる。どうやら、俺のことを本当に尊敬してくれているらしく、そこは嬉しくもあり、少しむずがゆい。
そんな俺達を見ていた当主様はどこか面白く無さそうに「ふん……」と鼻息を鳴らすと、いつにも増して不機嫌さを増した声を父上へ投げ掛けた。
「……新しい師匠についてだが、そこのアシックの言う通りならこれまでのような人間を呼んでも無駄のようだ。となれば、これからはその選定基準も変えねばならんな」
「そのようですね。確かに、通常の学び方ではアシックやユミィ様に教えることは難しいでしょう。であれば、彼らに相応しい相手を探すべきかと」
「相応しい人間、か……。レナルドよ……そうは言うが、お前も知っての通り、これまでに探してきた人間も巷では有名な者ばかりだったのだぞ? 果たして、何を基準に探し出せば良いのやら……」
これまでの苦労を思い出したのか、椅子に深く腰を掛けながら大きくため息を吐く当主様。そんな当主様の言葉を聞いたユミィは笑顔から一転、まるでしかられた子供のような顔で俯いてしまう。
「お父様……申し訳ありません。私の所為で苦労を掛けて……」
「い、いや、待て、ユミィ! そうではないのだ! これは、そう―あれだ! 手の掛かる子ほど愛しいという言うではないか! これはそういうことなのだ!」
「ということは、やはり私は手の掛かる子供だったということですか……?」
「ああ、いや! それは違うぞ!? 今まで呼んだ者達が無能だったのだ! ふ、ふん、あのような無能に我が『ユーグ家』の娘を任せる方がどうかしていたのだ! あれだけ金を払ってやったのに成果を出せないなど、やはり平民というのは信用ならんな! れ、レナルド、お前もそう思わんか!?」
そう言って慌てて父上に振る当主様……あまりにもイメージが違い過ぎて、本人とは思えないよ。そんな当主様に驚いると、ふと話題を振られた父上が顎をさすった後、興味深いことを返していた。
「……実を言うと、それに思い当たる人物がおります」
「何だと……?」
これは驚いた。父上から特にそういった話をされたことはなかったし。
しかし、いざ話したことはなんてことはない。よく考えてみたら、それは充分あり得る人物だった。
「元々、我々がアシックに師匠を付けるというお話をしたことがありましたね?」
「む? う、うむ……」
「その時に頼もうとしていた者がおり、彼女ならばアシックにも魔法を教えられる可能性がある……当時はそのように思っていたのですが、今回の件でそれが確信に変わりました。そのお方ならば、アシックだけではなく、ユミィ様にも魔法を教えることが可能ではないか……と」
そういえば、そんな話もあったよな……当主様に断られて、結局駄目になったけど。
自分から拒否してしまった手前、めちゃくちゃ気まずい顔を返す当主様。しかし、話を進めなければユミィに師匠を付けることは出来ない。
すると、驚いたことに、当主様はわざとらしく「オホン!」と咳払いをすると、顔を横へと向けながらレナルドや俺を横目で見ながら謝罪を口にしてきた。
「そ、その節はすまなかった……誰だ、それは? 申してみよ」
あの当主様が謝った……? 明日は雨が降らないと良いけど……。
そんな俺の不安をよそに、父上は当主様に笑みを返すと、その師匠のことを口にした。
「『黒髪の魔女』―巷ではそう言われている少女です」
-------------------
『悪行貴族のはずれ息子』を読んで頂きありがとうございます!
キャラクターを知ってもらうため(特に当主様の印象が変わるので…)、第1部は複数話をまとめて公開しましたが、明日から始まる第2部(2巻部分)以降は毎日1話ずつ更新していきます!
AmazonのKindle電子書籍で『悪行貴族のはずれ息子』1~6巻が書き下ろしエピソード付きで発売中! 楽天Koboでも順次発売予定です!
表紙は千道センリ様に素敵なイラストを描いて頂きました!
1巻は短いですが、2部にあたる2巻以降は倍近いボリュームになっています!
ちなみに去年「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」Kindle有料ランキングで1位にWランクイン!
新刊6巻も「SF・ホラー・ファンタジー」新作ランキング1位を維持してます!
しかし、実はここ数ヶ月で売上が大幅に下がってしまい、続刊が難しい状況になっていまして……なので、もし気に入って頂けたら電子書籍版や書籍版を応援して頂けると嬉しいです……!
また、Xの方で『白波文庫@白波 鷹』という名義で新刊や更新のお知らせもしていますので、もし良かったらフォローして頂けると幸いです!
★第2部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603
↓近況ボードであとがきも書いてます
https://www.alphapolis.co.jp/mypage/diary/view/261917
とはいえ、父上がウソを言っているようにも思えない。
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「ユミィ様もご存知の通り、貴族の中で魔法を使うことが出来ないというのは大変な痛手です。申し上げにくいことではありますが、そんな状況でユミィ様がパーティなどに参加なさった場合、間違いなく周囲の貴族達はあなたをあざ笑うことでしょう」
「そ、それはそうですが……」
「そして、それは貴族達だけではありません。街中にあなたの存在が知られてしまえば、それこそあなたの居場所は無くなります。当主様は『それだけは避けなければ』とあなたを屋敷の中に幽閉していたわけです」
「嘘……」
つまり、当主様はユミィをないがしろにしてたわけじゃないってことか?
あまりにも衝撃的な事実を聞かされてしまい、ユミィは困惑した表情で当主様へと視線を向ける。
そんな娘からの視線から逃げるように、当主様は椅子に深く腰を落とすといつものように不機嫌そうな声で父上の言葉を肯定してきた。
「ふん……街の人間がどうなろうと、私にとってはどうでも良い。所詮は平民、我々のような貴族の為にいくらでも税を徴収し、肥やしになれば良いのだからな。……しかし、無能とはいえ、自分の子供が笑われるのを楽しむ親がどこにいる? だから、私は屋敷の外に出ることを許さなかったのだ」
ウソだろ……俺が魔法を使えたことよりも衝撃的な事実なんだけど。
驚く俺達に、父上は俺やユミィの方まで腰を曲げると、さらに衝撃的な事実を告げてきた。
「これはここだけの話だが……ユミィ様に魔法を使わせる為に遠くまでわざわざ足を運び、彼女の師匠を探していたのも当主様なのだよ」
「当主様自ら……ですか?」
「ああ。だから、当主様はいつもこの屋敷を空けていたんだ」
いや、全然想像付かないんですが……というか、父上に公務を任せて、本人は娘の為に師匠探しですか。
人は見かけに寄らないというか……明らかにユミィに対しての扱いもぞんざいなのに、実際は違うってことか?
すると、そんな父上を責め立てるように当主様が声を上げた。
「レナルド……口の軽さは歳を重ねても変わらんな。まったく、これだから『分家』の人間は嫌なのだ……」
そんな嫌味に対して父上は軽く笑みを浮かべてみせると、当主様に対して言葉を返す。
「いえいえ、私は事実を言ったまでですよ」
「それが軽いと言っているのだ……ふん、相変わらず食えぬ男よ。それに、ユミィの為だからと嫌な役まで押し付けおって……」
「嫌な役……ですか? どういう事でしょうか?」
さらなる疑問に俺達が困惑していると、当主様はため息交じりに父上を軽く見た後、俺の方に視線を向けながらそれを説明してくれた。
「ふん……ユミィがあまりに緊張しているゆえ、失敗させぬ為に一芝打った方が良い、とそこの失礼な男に提案されたのだ。貴様が気に入らないのは事実だが、だからといって追放や税の優遇の取り消し等するわけがなかろう」
「おや、これは心外ですね。別に私はアシック達を悪く言え、とは言っておりませんよ?」
「うぐっ……!? し、しかしだな、突然あのように言われては他にどうすれば良いのか分からなかったのだ! な、ならば、やはり貴様の所為ではないか!」
え? じゃあ、さっきまで俺に散々言ってたのは、全部演技だったってことか?
父上を睨み付けるように当主様がそうこぼすと、ユミィが驚いた様子で当主様へと視線を向ける。そして、意外にも自分を案じてくれていた当主様に感動したらしく、小さく呟いていた。
「お父様……」
「ぐっ……」
そんなユミィから純粋な目を向けられ、当主様はガラにも無く「ンンッ!」と頬を赤らめてわざとらしい咳払いをしてみせると、慌てた様子で椅子から軽く腰を上げて両手をぶんぶんと振り払った。
「え、ええい! やめだやめだ! そんな話はどうでも良い! どうあれ、ユミィが魔法を使えたのだ! それ以上はもう良い!」
「何もそのように言われなくても。せっかく、あれだけ心配なさっていたユミィ様が魔法をお使いになられたのです。どうせなら、もう少しお褒めの言葉をあげても良いのでは?」
「れ、レナルド! も、もう十分だろう! 勘弁してくれ……本当に貴様は性格が悪いな」
そうして恥ずかしがる当主様を見ながら軽く笑みを浮かべる父上。意地が悪いというか何というか……二人の関係って、もっと殺伐としたものだと思ってたんだけど。
時間があったら、後でその辺りの話を父上に聞いてみても良いかもしれない。
俺が二人のやり取りに驚いている中、その当主様はユミィから視線を俺の方へと移すと、いつものように不機嫌極まりなさそうな顔で意外な提案をしてきた。
「……ともかく、今回の件は認めざるを得ん。ようやく、ユミィも『本家』の人間として表舞台に立つことが出来るというものだ。……ふん、それが『分家』のおかげというのが気に入らんがな。しかし、誠に遺憾ではあるが……アシックよ、今回のことを評価し、お前にも褒美を与えよう」
「褒美……ですか?」
「そうだ」
これには驚いた。
俺はユミィが認められればそれで良かったし、特にそれ以上のことは考えてなかったし。
ただ、この機会を逃すのはもったいない。
丁度、持っていた『魔導書』だけじゃ限界を感じ始めてたし、どうせならもう少し魔法に詳しい人間が欲しいと思っていたところだ。
「―であれば、私とユミィ様に魔法のお師匠様を付けては頂けないでしょうか?」
「何……?」
俺の言葉が意外だったのか、当主様は困惑した表情を見せる。
そして、眉間にシワを寄せ、俺の真意を図るかのように言葉を返してきた。
「……これはお前への褒美だぞ? ユミィと共に師匠を付けるなら、それはそれで別件だ。もののついでだ、褒美とは別にそちらも叶えてやる。だが、それとは別にお前自身への褒美を要求してみろ、と言っているのだ」
「いえ、私は当主様がお約束をお守り頂けるのなら、それ以上の要求はありません。私にとって、『分家』とはいえ、家族なのです。その家族が無事であれば、それ以上のことは望みません」
「……ふん。やはり、レナルドに似て生意気な小僧だ……」
俺の返答が気に入らなかったのか、当主様はそう返して再び椅子に深く腰を掛けてしまう。しかし、しばらくの沈黙の後、渋々といった様子で俺の願いを承諾するように言葉を返してきた。
「―仕方あるまい。後日、お前達に師匠を付けてやる」
「当主様……」
意外にも要求を飲んでもらい驚く。
そんな俺に対して、隣に居たユミィが嬉しそうに俺の手を掴んできた。
「嬉しい……アシック様、本当にありがとうございます! アシック様のおかげで私達にお師匠様を付けてもらえるんですよ!?」
俺の手を掴み、子供らしく今にも飛び跳ねそうなユミィ。そんな彼女を微笑ましく思いながら、俺も笑顔で返す。
「いえ、私はただお嬢様のお手伝いをさせて頂いただけです。魔法を使うことが出来たのは、間違いなくお嬢様ご自身のお力ですよ」
「いいえ、私があのような態度を取っても、見捨てなかったアシック様のおかげです。これは譲れません」
しかし、そんな俺の言葉にユミィは意外にも譲ることなく、少しむすっとした顔でそう返してくる。どうやら、俺のことを本当に尊敬してくれているらしく、そこは嬉しくもあり、少しむずがゆい。
そんな俺達を見ていた当主様はどこか面白く無さそうに「ふん……」と鼻息を鳴らすと、いつにも増して不機嫌さを増した声を父上へ投げ掛けた。
「……新しい師匠についてだが、そこのアシックの言う通りならこれまでのような人間を呼んでも無駄のようだ。となれば、これからはその選定基準も変えねばならんな」
「そのようですね。確かに、通常の学び方ではアシックやユミィ様に教えることは難しいでしょう。であれば、彼らに相応しい相手を探すべきかと」
「相応しい人間、か……。レナルドよ……そうは言うが、お前も知っての通り、これまでに探してきた人間も巷では有名な者ばかりだったのだぞ? 果たして、何を基準に探し出せば良いのやら……」
これまでの苦労を思い出したのか、椅子に深く腰を掛けながら大きくため息を吐く当主様。そんな当主様の言葉を聞いたユミィは笑顔から一転、まるでしかられた子供のような顔で俯いてしまう。
「お父様……申し訳ありません。私の所為で苦労を掛けて……」
「い、いや、待て、ユミィ! そうではないのだ! これは、そう―あれだ! 手の掛かる子ほど愛しいという言うではないか! これはそういうことなのだ!」
「ということは、やはり私は手の掛かる子供だったということですか……?」
「ああ、いや! それは違うぞ!? 今まで呼んだ者達が無能だったのだ! ふ、ふん、あのような無能に我が『ユーグ家』の娘を任せる方がどうかしていたのだ! あれだけ金を払ってやったのに成果を出せないなど、やはり平民というのは信用ならんな! れ、レナルド、お前もそう思わんか!?」
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「……実を言うと、それに思い当たる人物がおります」
「何だと……?」
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しかし、いざ話したことはなんてことはない。よく考えてみたら、それは充分あり得る人物だった。
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「む? う、うむ……」
「その時に頼もうとしていた者がおり、彼女ならばアシックにも魔法を教えられる可能性がある……当時はそのように思っていたのですが、今回の件でそれが確信に変わりました。そのお方ならば、アシックだけではなく、ユミィ様にも魔法を教えることが可能ではないか……と」
そういえば、そんな話もあったよな……当主様に断られて、結局駄目になったけど。
自分から拒否してしまった手前、めちゃくちゃ気まずい顔を返す当主様。しかし、話を進めなければユミィに師匠を付けることは出来ない。
すると、驚いたことに、当主様はわざとらしく「オホン!」と咳払いをすると、顔を横へと向けながらレナルドや俺を横目で見ながら謝罪を口にしてきた。
「そ、その節はすまなかった……誰だ、それは? 申してみよ」
あの当主様が謝った……? 明日は雨が降らないと良いけど……。
そんな俺の不安をよそに、父上は当主様に笑みを返すと、その師匠のことを口にした。
「『黒髪の魔女』―巷ではそう言われている少女です」
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東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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