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第10話 追放されかけてた令嬢を助ける話5

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「―どうだ? アシック。ユミィ様は魔法を使えそうか?」

 ユミィとの初めての授業を終えた日の夕方。
 家族揃って夕食の席に着いていると、俺の目の前に座っていた父上からそう尋ねられ、俺は食事の場でも気を抜く事なく父上に的確な情報を伝えていく。

「はい。結論から言うと、本日、ユミィ様は火の魔法を使う事が出来るようになりました」
「何……? たった一日でか……?」

「僕も驚きましたが、やはり『魔導書』に書かれていた通り、『忌み子』という存在は魔法を引き出す方法を知らないだけで、最初から才能を持っているのだと思います。いえ、『忌み子』などと不名誉な名称で呼ぶことすら失礼になるでしょう。いわば、彼女達のような人々こそ、『天才』と呼ばれる希少な存在なのではないかと思われます」
「何ということだ……。こればかりは驚くしかないな」

 父上は顎に手を当てながら驚いた顔を見せ、感心したようにそう声を上げる。
 そんな俺達の会話に興味を示した母上も会話に混じってきた。

「話は聞きました。ユミィ様の様子はどうだったの?」
「はい、母上。初めて魔力を使ったという事もあり、魔力を消耗したことからあまり負担を掛けるわけにいかず、本日は火の魔法を使い、それを自分の力で消すまでの手順を復習するだけに留めました。恐らく、今頃はゆっくりとお休みされている事でしょう」
「そうではなくて、魔法を初めて使ったユミィ様の反応が聞きたかったのです」

 そっちか。
 父上の前でどう表現して良いか分からないから、その手の話題は困るんだよなぁ……。
 何というか、感情的に表現せざるを得ないというか……とりあえず、どう言えば正解なのか全く分からない。

「何と言いますか……大変喜んでいらっしゃいましたよ」
「それはそうでしょう、今まで魔法が使えないと周りから言われ続けていたんですもの。どんな風に喜んでいたのか教えてもらえますか?」

「どんな風……と言われても……そうですね、普段のユミィ様では想像できない程に上機嫌になられていました」
「こら、ミーファ。息子を可愛がるのは良いが、そうやってアシックをからかうのはよしなさい。困っているではないか」

「日頃、大人の中に混ぜられてばかりいて、子供らしい扱いを受けていないアシックを心配しての事です。それに、アシックは少し大人び過ぎて、母親としてはもう少し子供っぽい反応が見たいのですよ。ちょっとくらい良いではないですか」
「それはそうだが……」

「これは親子のコミュニケーションの一つなのですから。ねえ、アシック?」
「えっと、まあ……そうですね」

 母上から同意を求められ、俺は苦笑いを返すしかない。
 とはいえ、実際、母上は父上とは違い、俺と一緒に居る時間は少ない為、そんな母上に強く出られてしまうと父上もあまり言い返す事は出来ないようだ。

 俺の方も母上との話は嫌いではないが、真面目な父上が一緒に居る事もあってこういうノリは少しだけ遠慮して欲しかったりする。

 そうして、俺が苦笑いを返した後、俺はふと母上に対して疑問に思った事を口にした。

「そういえば、母上はユミィ様の事を聞いて驚かれていないのですね」
「ええ。実を言うと、私はもうユミィ様を知っていたの。直接お顔を合わせた事は無いけど、私ってよく『本家』の奥様とお茶会をしているでしょう? その時にそれとなくお話として聞いた事があったのですよ。とはいえ、魔法が使えないというのは知らなかったけれどね」

 なるほど……っていうか、あの奥様からそこまで情報を引き出すなんて、相変わらず母上の話術も底が知れないな。そもそも、『本家』からしたらユミィの存在は消したいくらいだって話だったのに……。

 そんな俺達の話を聞いていた父上は、笑みを浮かべながら声を掛けてくる。

「では、明日にでもさっそく当主様に報告しておいた方が良いだろう。お前のおかげでユミィ様の将来も明るいものとなるやもしれんからな」

 厳しい人ではあるが、何だかんだ言っても父上は優しい。
 『本家』であってもユミィの事を気遣う父上の優しさを感じつつ、しかし俺はその提案を否定した。

「その事なのですが……しばらくはユミィ様が魔法を使える事を当主様達には伏せておいてもらえないでしょうか?」
「ん……? それは構わんが……理由を聞かせてもらえるか?」

「中途半端な魔法を使えたところで当主様は納得されないと思います。まして、リーヴ様が幼い頃から魔法を使っている事を考えると、ユミィ様にはそれ以上の技術を学んで頂いた上で当主様に報告した方が良いのではないかと考えました」

「そうは言うが、あまり遅くてはお前が講師として不適切だと解雇されかねんぞ? ただでさえ、当主様はお前がユミィ様に魔法を教えるという事に反対されていたのだ。あまり言いたくは無いが……当主様が今回の提案を受け入れたのも、『魔法を使えない人間が教えたところで、魔法が使えるわけがない』と考え、『分家』である我々を嘲笑う為に引き受けたようなものだからな」

 まあ、そうですよね。
 これまでユミィには散々お金を掛けてきたって言うくらいだし、もう魔法の才能については完全に諦めてるだろうと思ってたよ。

 俺はそんな性悪当主様の事はとりあえず頭の隅に置き、父上に自分の考えを話していく。

「大丈夫です。まだ初日ですし、当主様がしびれを切らす頃にはユミィ様により多くの魔法を使えるようにさせて頂きます。ユミィ様が魔法を使えるというのが分かった以上、どうせなら彼女を少しでも他の子供達よりも優秀な子に育てたいのです」

「ハハハッ、その歳でもう立派な教師のようだ。しかし……そうだな。日頃、私達に対して全くワガママを言わないお前がそこまで言うんだ。そこまで考えているのであれば、これ以上はお前に任せよう。引き続きユミィ様に魔法を教えてやりなさい」
「はい! ありがとうございます、父上!」
「良かったわね、アシック」

 俺やユミィを馬鹿にしてた人間達に、どうせなら一泡噴かせてやりたいしな。
 そうして、俺の提案を歓迎してくれる父上と母上に笑みを返しつつ、その後も楽しい食事は続けられていった。
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