14 / 19
第32話 森神様
しおりを挟む
「―レナルド様。もう少し『本家』の方に税の徴収を下げるよう言っちゃくれませんかね?」
あれから数日。
俺は久しぶりに父上と共に街の方へと繰り出していた。
リリア先生は俺が中級魔法を使える可能性を感じたのか、少し指導が厳しくなったというか……いや、口調は丁寧なんだけど、なんて言うか「私の全てを伝授させます」みたいな真に迫った雰囲気を感じるんだよなぁ。
それはそれとして、今は街に仮設した詰所で領地の人々の声を聞いているところだ。
最近はリリア先生やユミィと魔法の勉強をする事が多かった為、なかなか顔を出す事は無かったが、以前まではこうして父上と共に出向いて領地改善の為に尽力していた。
そして、今は街で店をまとめている『ガット商会』の商人であるクラック・ガットさんの話を聞いている。
俺は父上のすぐ横に置かれた椅子に座り、後で父上に資料として渡す為にガットさんと父上の話を紙にまとめていた。
普段は母上がやっている事だが、母上が参加出来ない時はこうして俺が代わりに引き受けることも多い。
これも『分家』の長男として行う立派な仕事だし、おかげで嫌でも字が上手くなったよね。
そんな俺の前で、ガットさんは呆れた様子で本家の愚痴をこぼしていた。
「うちらの支払ってる税がそこらの領地よりも高い所為で、俺達の生活はカツカツですよ……もし、レナルド様が交渉してくれなかったら、街の奴らみんな飢えちまってたかもしれないくらいですからね。こればっかりはレナルド様には頭が上がりませんよ」
「そうですね……そちらの交渉を進めているのですが、何分、当主様もなかなか頑固なお方でしてね。とはいえ、領地の人々の生活が掛かっていますし、早急に改善してもらえるようお伝えしておきましょう」
「ぜひお願いしますよ。俺達にとってはレナルド様だけが頼りなんです」
ガットさんはそう言って座っていた椅子から腰を上げ掛けたが、ふと俺の方に視線を向けると、同情するような声を向けてきた。
「にしても、アシック様も大変じゃないですかい? 向こうの息子はそこらの悪ガキ引き連れて遊び呆けてるでしょう? アシック様がこんなに頑張って働いてるってのに……アシック様があの悪ガキ達に絡まれてたりしてないか心配ですよ」
「いえ、大丈夫ですよ。リーヴ様とは仲良くさせて頂いています。とはいえ、領地を統べる人間としては少々度が過ぎているところはあるかもしれません。私の方からそれとなく注意しておきますよ」
「か~、レナルド様に似て、相変わらずアシック様は御立派だ。店の手伝いもせず遊び呆けてるうちの娘やリーヴ様に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいですよ。言っておきますけど、誰も向こうが『本家』だなんて思ってませんからね? 俺達にとっちゃ、レナルド様やアシック様こそが『本家』だと思ってます」
「ありがとうございます。ただ、ガットさんの娘さんは八歳ですし、まだ遊びたい頃でしょう。もう少し様子を見てから手伝いを頼んだ方が素直に応じると思いますよ。周りの友人達が親の手伝いをしているのを目にすれば、自分からやろうという気持ちが生まれるかもしれませんから」
「はあ~……こいつぁ驚きました。やっぱり、アシック様やレナルド様は頭の出来がそこらの人間と違いますわ……にしても、アシック様と同じ歳とはいえ、よくうちの子供の年齢なんて覚えてましたね? 俺なんかしょっちゅう忘れる所為で、嫁さんや娘にしょっぴかれてますよ」
「ええ。この領地でご相談頂いている方々の事は大体頭の中に入れるようにしていますから」
「いや~……こりゃあ、うちの娘の代もアシック様には頭が上がらなさそうだ。頼りになる次期当主様のおかげで、将来も安心して子供達をこの街に住まわせられるってもんです」
「はは、大袈裟ですよ」
いや、ほんと、我ながらこんな話をする子供ってどうなんだろう?
大人とばかり話している所為で、老け込むのが早いというか……他の人よりも早くお年寄りっぽくならないと良いけど。
そんな中、ふとガットさんは父上の方に視線を向けると、真剣な表情である事を口にした。
「それはそうと……お二人は『森神様』が暴れまわってる、って話は知ってます?」
「『森神様』が……? 今までそのような事は無かったはずですが……」
『森神様』とは、この領地の近くにある森に住む巨大な猪の守り神の事だ。
世間一般で言えば『魔物』だが、基本的に人に危害を加える事が無く、また手に負えない相手の為、長らく森を守る『森神様』として崇められていた。
「そうなんです。『森神様』が森の中で暴れてる所為で狩りも出来ないし、山菜も全く取りに行けないんですよ。……はあ、まったくこっちは生活が掛かってるっていうのに、勘弁して欲しいもんですよね。しかも、噂じゃあこの街の近くでも見掛けた、なんて聞きますし……」
「それはまずいですね……分かりました。念の為、衛兵達に見張りを頼んでおきましょう」
「すいません、レナルド様。うちの子達も不安がってるんで、よろしくお願いします」
『森神様』が暴れるなんて……一体、何があったんだろう?
結局、ガットさんが帰った後も同じように街の人々からやはり『森神様』の話があり、俺達はその対応に追われる事になるのだった。
あれから数日。
俺は久しぶりに父上と共に街の方へと繰り出していた。
リリア先生は俺が中級魔法を使える可能性を感じたのか、少し指導が厳しくなったというか……いや、口調は丁寧なんだけど、なんて言うか「私の全てを伝授させます」みたいな真に迫った雰囲気を感じるんだよなぁ。
それはそれとして、今は街に仮設した詰所で領地の人々の声を聞いているところだ。
最近はリリア先生やユミィと魔法の勉強をする事が多かった為、なかなか顔を出す事は無かったが、以前まではこうして父上と共に出向いて領地改善の為に尽力していた。
そして、今は街で店をまとめている『ガット商会』の商人であるクラック・ガットさんの話を聞いている。
俺は父上のすぐ横に置かれた椅子に座り、後で父上に資料として渡す為にガットさんと父上の話を紙にまとめていた。
普段は母上がやっている事だが、母上が参加出来ない時はこうして俺が代わりに引き受けることも多い。
これも『分家』の長男として行う立派な仕事だし、おかげで嫌でも字が上手くなったよね。
そんな俺の前で、ガットさんは呆れた様子で本家の愚痴をこぼしていた。
「うちらの支払ってる税がそこらの領地よりも高い所為で、俺達の生活はカツカツですよ……もし、レナルド様が交渉してくれなかったら、街の奴らみんな飢えちまってたかもしれないくらいですからね。こればっかりはレナルド様には頭が上がりませんよ」
「そうですね……そちらの交渉を進めているのですが、何分、当主様もなかなか頑固なお方でしてね。とはいえ、領地の人々の生活が掛かっていますし、早急に改善してもらえるようお伝えしておきましょう」
「ぜひお願いしますよ。俺達にとってはレナルド様だけが頼りなんです」
ガットさんはそう言って座っていた椅子から腰を上げ掛けたが、ふと俺の方に視線を向けると、同情するような声を向けてきた。
「にしても、アシック様も大変じゃないですかい? 向こうの息子はそこらの悪ガキ引き連れて遊び呆けてるでしょう? アシック様がこんなに頑張って働いてるってのに……アシック様があの悪ガキ達に絡まれてたりしてないか心配ですよ」
「いえ、大丈夫ですよ。リーヴ様とは仲良くさせて頂いています。とはいえ、領地を統べる人間としては少々度が過ぎているところはあるかもしれません。私の方からそれとなく注意しておきますよ」
「か~、レナルド様に似て、相変わらずアシック様は御立派だ。店の手伝いもせず遊び呆けてるうちの娘やリーヴ様に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいですよ。言っておきますけど、誰も向こうが『本家』だなんて思ってませんからね? 俺達にとっちゃ、レナルド様やアシック様こそが『本家』だと思ってます」
「ありがとうございます。ただ、ガットさんの娘さんは八歳ですし、まだ遊びたい頃でしょう。もう少し様子を見てから手伝いを頼んだ方が素直に応じると思いますよ。周りの友人達が親の手伝いをしているのを目にすれば、自分からやろうという気持ちが生まれるかもしれませんから」
「はあ~……こいつぁ驚きました。やっぱり、アシック様やレナルド様は頭の出来がそこらの人間と違いますわ……にしても、アシック様と同じ歳とはいえ、よくうちの子供の年齢なんて覚えてましたね? 俺なんかしょっちゅう忘れる所為で、嫁さんや娘にしょっぴかれてますよ」
「ええ。この領地でご相談頂いている方々の事は大体頭の中に入れるようにしていますから」
「いや~……こりゃあ、うちの娘の代もアシック様には頭が上がらなさそうだ。頼りになる次期当主様のおかげで、将来も安心して子供達をこの街に住まわせられるってもんです」
「はは、大袈裟ですよ」
いや、ほんと、我ながらこんな話をする子供ってどうなんだろう?
大人とばかり話している所為で、老け込むのが早いというか……他の人よりも早くお年寄りっぽくならないと良いけど。
そんな中、ふとガットさんは父上の方に視線を向けると、真剣な表情である事を口にした。
「それはそうと……お二人は『森神様』が暴れまわってる、って話は知ってます?」
「『森神様』が……? 今までそのような事は無かったはずですが……」
『森神様』とは、この領地の近くにある森に住む巨大な猪の守り神の事だ。
世間一般で言えば『魔物』だが、基本的に人に危害を加える事が無く、また手に負えない相手の為、長らく森を守る『森神様』として崇められていた。
「そうなんです。『森神様』が森の中で暴れてる所為で狩りも出来ないし、山菜も全く取りに行けないんですよ。……はあ、まったくこっちは生活が掛かってるっていうのに、勘弁して欲しいもんですよね。しかも、噂じゃあこの街の近くでも見掛けた、なんて聞きますし……」
「それはまずいですね……分かりました。念の為、衛兵達に見張りを頼んでおきましょう」
「すいません、レナルド様。うちの子達も不安がってるんで、よろしくお願いします」
『森神様』が暴れるなんて……一体、何があったんだろう?
結局、ガットさんが帰った後も同じように街の人々からやはり『森神様』の話があり、俺達はその対応に追われる事になるのだった。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
身バレしないように奴隷少女を買ってダンジョン配信させるが全部バレて俺がバズる
ぐうのすけ
ファンタジー
呪いを受けて冒険者を休業した俺は閃いた。
安い少女奴隷を購入し冒険者としてダンジョンに送り込みその様子を配信する。
そう、数年で美女になるであろう奴隷は配信で人気が出るはずだ。
もしそうならなくともダンジョンで魔物を狩らせれば稼ぎになる。
俺は偽装の仮面を持っている。
この魔道具があれば顔の認識を阻害し更に女の声に変える事が出来る。
身バレ対策しつつ収入を得られる。
だが現実は違った。
「ご主人様は男の人の匂いがします」
「こいつ面倒見良すぎじゃねwwwお母さんかよwwww」
俺の性別がバレ、身バレし、更には俺が金に困っていない事もバレて元英雄な事もバレた。
面倒見が良いためお母さんと呼ばれてネタにされるようになった。
おかしい、俺はそこまで配信していないのに奴隷より登録者数が伸びている。
思っていたのと違う!
俺の計画は破綻しバズっていく。
いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる