185 / 199
錬金薬学のはじめ『とある錬金薬学師の終幕』
とある錬金薬学師のエンドロール
しおりを挟む
「まだ立つか」
アルスの手に武器はない。あるのは錬金石のついた指輪のみだ。
それでも自身の身が裂かれるのをゲンは感じていた。目に見えないほど小さく鋭利な物を作り出してるのか、それか生命力そのものか。
ゲンにその正体はわからぬが、やるべき事は決まっていた。
一秒でも長く、時間を稼ぐ事。
故にゲンは錬金の殆どを己の治癒に注いでいた。
訳もわからないモノに切られ、刺されて動かなくなった四肢を錬金する。
ありったけの生命力と僅かな素材でハリボテのような身体を作り上げる。
逃げ出したくなる身体と投げ出したくなる命を地に縫い付け、ゲンは立つ。
「俺を越えてみろ、アルス・マグナ!」
「既に超えている。しがみつく手を離せ……ゲン・メディ!」
*
幾分過ぎたかもわからない。終わりのない防衛戦。それは唐突に終わりを迎える。
攻撃の手を止めたアルスがハリボテの男に向かって呟く。
「錬金薬学。あいつが選択したというから少しは期待したが……その程度か」
平坦な声に混ざる僅かな落胆、それを認識した瞬間ゲンの錬金が止まる。
「……っ」
見えない何かが、ゲンの心臓を突いていた。他の物はどうにかなっても、心臓だけはハリボテでは機能しない。
「さらばだ、錬金薬学師」
*
「…………」
四肢は朽ち果て、舌の錬金石も失った。薄れゆく視界の端に一匹の猫が映る。目が合った猫はゆっくりと歩いて来てゲンの顔を舐める。
その尾がやけに太いのを見て、ゲンは口を開く。
「ネッコワークを……知っているか」
猫の眼が大きく開き、太い尾が五つに分かれる。
「如何にも、我は五尾の五十嵐。死に向かう者よ、要件を聞こう」
「これを……キミアに……ボルさまに」
ゲンはありったけの生命力を指輪に込め、猫の手に置く。
「あの異端なる猫神か。確かに預かった……安らかに眠れ、我らが友よ」
猫が去っていったのを確認して、動かぬ身体で空を見る。
やるだけの事はやった。悔いは……
そこまで思考して、ゲンは最後の言葉を、唯一の悔いを口にする。
「あいつの好きなオムライスのレシピ……教え損ねちまったなぁ」
アルスの手に武器はない。あるのは錬金石のついた指輪のみだ。
それでも自身の身が裂かれるのをゲンは感じていた。目に見えないほど小さく鋭利な物を作り出してるのか、それか生命力そのものか。
ゲンにその正体はわからぬが、やるべき事は決まっていた。
一秒でも長く、時間を稼ぐ事。
故にゲンは錬金の殆どを己の治癒に注いでいた。
訳もわからないモノに切られ、刺されて動かなくなった四肢を錬金する。
ありったけの生命力と僅かな素材でハリボテのような身体を作り上げる。
逃げ出したくなる身体と投げ出したくなる命を地に縫い付け、ゲンは立つ。
「俺を越えてみろ、アルス・マグナ!」
「既に超えている。しがみつく手を離せ……ゲン・メディ!」
*
幾分過ぎたかもわからない。終わりのない防衛戦。それは唐突に終わりを迎える。
攻撃の手を止めたアルスがハリボテの男に向かって呟く。
「錬金薬学。あいつが選択したというから少しは期待したが……その程度か」
平坦な声に混ざる僅かな落胆、それを認識した瞬間ゲンの錬金が止まる。
「……っ」
見えない何かが、ゲンの心臓を突いていた。他の物はどうにかなっても、心臓だけはハリボテでは機能しない。
「さらばだ、錬金薬学師」
*
「…………」
四肢は朽ち果て、舌の錬金石も失った。薄れゆく視界の端に一匹の猫が映る。目が合った猫はゆっくりと歩いて来てゲンの顔を舐める。
その尾がやけに太いのを見て、ゲンは口を開く。
「ネッコワークを……知っているか」
猫の眼が大きく開き、太い尾が五つに分かれる。
「如何にも、我は五尾の五十嵐。死に向かう者よ、要件を聞こう」
「これを……キミアに……ボルさまに」
ゲンはありったけの生命力を指輪に込め、猫の手に置く。
「あの異端なる猫神か。確かに預かった……安らかに眠れ、我らが友よ」
猫が去っていったのを確認して、動かぬ身体で空を見る。
やるだけの事はやった。悔いは……
そこまで思考して、ゲンは最後の言葉を、唯一の悔いを口にする。
「あいつの好きなオムライスのレシピ……教え損ねちまったなぁ」
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない
あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。
久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。
いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。
ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。
わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言?
もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方!
そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして────
※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。
※設定は相変わらずゆるんゆるん。
※シャティエル王国シリーズ4作目!
※過去の拙作
『相互理解は難しい(略)』の29年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、
『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。
上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。
※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)>
※ちょくちょく修正します。誤字撲滅!
※全9話
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる