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変わったもの

天啓なのか悪魔の囁きなのか

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  俺は一人病院のベットで横になっている、ずぶ濡れの制服から着替えて毛布もかけてはいるけど寒気が止まらない、風邪を引いてしまったからなのか、それともこの現実味の無い状況に気持ちが追い付いていないからなのか自分でもわからない。

  少しして、ぼやーと虚空を眺めつつ、先程までの出来事を思い返していた。

  俺が慌てて彼女を見捨てた場所に戻るとこまで遡る。





  地面に伏して意識を失っている彼女の姿を見た瞬間頭が真っ白になる、夢ヶ島!!!……そう叫びそうになる数瞬前、冷静に思考を始めた自分がいた。

  彼女を見捨てた事実は変えられないが、ここからならなんとか挽回が効くんじゃないか?まず直ぐに救急車を呼ぶ、それから来た人に彼女は暴漢に頭を殴られたと言う、そしてここからは少し賭けになるが、回復した夢ヶ島に対して見捨てたことを謝罪して俺が一回逃げたことを皆に言わないでくれるように頼み込もう。彼女からの信頼はなくなっているだろうけど、元々優しい彼女だ、実際に救急車を呼んで助けたのも俺だしその辺も考慮してなんとか許してくれるはずだ。

  ……なんて最低な考えなんだ、自分でも吐き気がしそうだ、ただ俺の心のなかではもう取る行動は決まっていた。

  まずスマホを手に取り緊急連絡から119番に掛ける、コールがなっている間に夢ヶ島のそばに駆け寄る、意識はないみたいだが、微かに息をしているのはわかるし、この雨のせいで出血がどれほどしているのかわかりにくい、ただ頭はかなりデリケートな部分だから油断はできない。そうしている間に電話が繋がる。

「はい119番です、どうされ「女の子が一人頭を殴られて血を流して倒れています、すぐ救急車をお願いします!!」

  相手は救急のプロだ、俺の切羽詰まった電話にもしっかり対応する。必要な条件を俺から聞き出し、直ぐに救急車の手配を済ませてくれる、あと待ってる間に俺がするべきことを教えてくれる。

  できる限り頭を動かさず抱えるような姿勢で彼女を雨の当たらない所に移動させる、ずきりと胸が痛むが気にならない、それから自分の着ていた制服を脱ぎ彼女に掛ける、かなり濡れてはいるが無いよりある方がましだろう。

  それからはもう俺に出来ることはない、彼女の手を握りながら、繰り返し名前を呼ぶ。

  俺がいる場所は病院からかなり近いところだったらしく5分もしない内に救急車の音が聞こえる、それから俺たちを発見し、彼女を担架で救急車に運び病院へと連れていく、その道中治療を受ける夢ヶ島の隣で、隊員の人に毛布をかけてもらいながら俺は状況の説明をする、釘バットで俺も彼女も殴られたこと、殴ったやつは直ぐ何処かに走っていったこと……

  必要なことや必要じゃないことをあれこれ喋った気がするが、俺のことを気遣って全部の話を聞いてくれた、自分の話を聞いた隊員に尋ねられるまで忘れていたけど、俺も胸を殴られたのだった、思い出すと激痛の記憶が蘇る。

  あとはそうだな、彼女の両親と学校に連絡を取って病院に来てもらうようにしたことか。

  そして救急車は病院に着き俺と夢ヶ島は別々の治療を受けることになった、夢ヶ島の状態はわからないが、俺の方は胸骨は折れてはおらず酷い打撲状態ではあるけど特に問題はないとの診断だった。

  一応安静にしておきなさいとのことで、こうやってベットに横になっており、今に至る。

 ……夢ヶ島はそろそろ目を覚ましたのだろうか、大事になってなければいいけど。

  今更ながら彼女を心配している自分に嫌悪を感じながらも、ふと気になったことがあった

  俺が逃げたあと、どうして彼女は殴られたのだ?かなり抵抗したのかもしれないけど、それだけでバットで殴られるようなことはないはずだ、まぁやつらの短気さを思えばあり得ないことではないんだろうけど。

 ……考えても今は結論がでない、彼女が目を覚ましたらもしかしたら話してくれるかもしれないけど……もう俺のことを見損なって何も話してくれないかな。

  そんな自虐めいた思考をしていると

「嬉野くん!!傷は大丈夫?自分で起きれる?起きれるなら今すぐ行こう夢ヶ島さんが目を覚ましたよ!!」

  この看護師の報告は俺にとって福音なのか凶報なのか、朗報だと言い切れない自分に嫌気がさした。
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