たかが、恋

水野七緒

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第8話

3・どこへ?

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 まず、訪れたのは書庫だ。
 作戦会議の予定はなかったけれど、念のため。もちろん鍵はないから、いるとしたらドアの前でたたずんでいるはず。
 けれど、間中くんの姿はなかった。
 ついでに図書室にも顔を出してみたけど、当然そこにも間中くんはいなかった。
 となると、だ。

(間中くんの行きそうなところ──)

 他の教室、トイレ、グラウンド、体育館──もしかして先生から呼び出しをくらって職員室、とか?
 そこまで考えたところで、ふと思い出したことがあった。
 一時期、間中くんを避けていたときに連れていかれた場所。

(屋上の、階段のところ……!)

 すぐさま階段を駆け下りると、渡り廊下を抜け、中央階段に向かった。
 当然だけど、階段を駆け下りるのに比べて駆け上がるのはめちゃくちゃキツい。それでも足を止められなかったのは、前へ前へと向かう想いがあったからだ。

(きっといる……絶対いる……)

 ようやく中央階段3階の踊り場までたどり着いた。ガクガクと震える足腰を支えるように、私は手すりにしがみついた。

「……佐島?」

 声は、頭上から降ってきた。
 ゆっくり顔をあげると、屋上の手前──階段の上から2段目のところに間中くんは腰を下ろしていた。

「なんで佐島がここにいるの?」

 私は、答えるかわりに階段をのぼった。あいかわらず足がガクガクしたままだったから、一段ずつゆっくりと。

「佐島……」

 なにか言いかけた間中くんに軽く手をあげて、私は隣に腰を下ろした。

「報告……」
「えっ?」
「報告して……後夜祭の……」

 間中くんは迷うような表情を見せたあと、小さく「うん」とうなずいた。

「ええと……結論から言うと池沢先輩にフラれた」
「……」
「池沢先輩、好きな人いるって。だから俺とは付き合えないって」

 やっぱりそうか。
 後夜祭のとき、結麻ちゃんが優先させたがっていたの、きっとその人からのお誘いだったんだろうな。

「大丈夫?」
「……」
「決勝戦もダメだったみたいだし……失恋も、したわけだし」
「ダメ。どっちも、思い出すだけで心臓が壊れそう」

 悲しげな声は、教室でみんなと話していたときとは全然違う。
 もしかして、あのときも無理していたのかな。みんなの悪気ない軽口に、間中くんなりに合わせようとしただけだったのかな。

「後悔、してる?」

 結麻ちゃんに告白したこと。やっぱり「もっと時間をかけたほうが良かった」とか思ってる?
 間中くんは目を伏せたあと、小さく首を横に振った。

「後悔は、してない」
「本当に?」
「……ほんとは、ちょっとしてる」

 だって、苦しい。すごく苦しい。
 間中くんはそうこぼすと、ついに抱えていた膝に顔を埋めてしまった。
 しばらくすると、すんって小さく鼻をすする音がした。
 さらに、そのあと、すん……すんって何度も。
 その間、私はただ隣に座っていた。どうすればいいのかわからなくて、膝の上の両手をジッと見つめることしかできなかった。
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