73 / 76
第8話
3・どこへ?
しおりを挟む
まず、訪れたのは書庫だ。
作戦会議の予定はなかったけれど、念のため。もちろん鍵はないから、いるとしたらドアの前でたたずんでいるはず。
けれど、間中くんの姿はなかった。
ついでに図書室にも顔を出してみたけど、当然そこにも間中くんはいなかった。
となると、だ。
(間中くんの行きそうなところ──)
他の教室、トイレ、グラウンド、体育館──もしかして先生から呼び出しをくらって職員室、とか?
そこまで考えたところで、ふと思い出したことがあった。
一時期、間中くんを避けていたときに連れていかれた場所。
(屋上の、階段のところ……!)
すぐさま階段を駆け下りると、渡り廊下を抜け、中央階段に向かった。
当然だけど、階段を駆け下りるのに比べて駆け上がるのはめちゃくちゃキツい。それでも足を止められなかったのは、前へ前へと向かう想いがあったからだ。
(きっといる……絶対いる……)
ようやく中央階段3階の踊り場までたどり着いた。ガクガクと震える足腰を支えるように、私は手すりにしがみついた。
「……佐島?」
声は、頭上から降ってきた。
ゆっくり顔をあげると、屋上の手前──階段の上から2段目のところに間中くんは腰を下ろしていた。
「なんで佐島がここにいるの?」
私は、答えるかわりに階段をのぼった。あいかわらず足がガクガクしたままだったから、一段ずつゆっくりと。
「佐島……」
なにか言いかけた間中くんに軽く手をあげて、私は隣に腰を下ろした。
「報告……」
「えっ?」
「報告して……後夜祭の……」
間中くんは迷うような表情を見せたあと、小さく「うん」とうなずいた。
「ええと……結論から言うと池沢先輩にフラれた」
「……」
「池沢先輩、好きな人いるって。だから俺とは付き合えないって」
やっぱりそうか。
後夜祭のとき、結麻ちゃんが優先させたがっていたの、きっとその人からのお誘いだったんだろうな。
「大丈夫?」
「……」
「決勝戦もダメだったみたいだし……失恋も、したわけだし」
「ダメ。どっちも、思い出すだけで心臓が壊れそう」
悲しげな声は、教室でみんなと話していたときとは全然違う。
もしかして、あのときも無理していたのかな。みんなの悪気ない軽口に、間中くんなりに合わせようとしただけだったのかな。
「後悔、してる?」
結麻ちゃんに告白したこと。やっぱり「もっと時間をかけたほうが良かった」とか思ってる?
間中くんは目を伏せたあと、小さく首を横に振った。
「後悔は、してない」
「本当に?」
「……ほんとは、ちょっとしてる」
だって、苦しい。すごく苦しい。
間中くんはそうこぼすと、ついに抱えていた膝に顔を埋めてしまった。
しばらくすると、すんって小さく鼻をすする音がした。
さらに、そのあと、すん……すんって何度も。
その間、私はただ隣に座っていた。どうすればいいのかわからなくて、膝の上の両手をジッと見つめることしかできなかった。
作戦会議の予定はなかったけれど、念のため。もちろん鍵はないから、いるとしたらドアの前でたたずんでいるはず。
けれど、間中くんの姿はなかった。
ついでに図書室にも顔を出してみたけど、当然そこにも間中くんはいなかった。
となると、だ。
(間中くんの行きそうなところ──)
他の教室、トイレ、グラウンド、体育館──もしかして先生から呼び出しをくらって職員室、とか?
そこまで考えたところで、ふと思い出したことがあった。
一時期、間中くんを避けていたときに連れていかれた場所。
(屋上の、階段のところ……!)
すぐさま階段を駆け下りると、渡り廊下を抜け、中央階段に向かった。
当然だけど、階段を駆け下りるのに比べて駆け上がるのはめちゃくちゃキツい。それでも足を止められなかったのは、前へ前へと向かう想いがあったからだ。
(きっといる……絶対いる……)
ようやく中央階段3階の踊り場までたどり着いた。ガクガクと震える足腰を支えるように、私は手すりにしがみついた。
「……佐島?」
声は、頭上から降ってきた。
ゆっくり顔をあげると、屋上の手前──階段の上から2段目のところに間中くんは腰を下ろしていた。
「なんで佐島がここにいるの?」
私は、答えるかわりに階段をのぼった。あいかわらず足がガクガクしたままだったから、一段ずつゆっくりと。
「佐島……」
なにか言いかけた間中くんに軽く手をあげて、私は隣に腰を下ろした。
「報告……」
「えっ?」
「報告して……後夜祭の……」
間中くんは迷うような表情を見せたあと、小さく「うん」とうなずいた。
「ええと……結論から言うと池沢先輩にフラれた」
「……」
「池沢先輩、好きな人いるって。だから俺とは付き合えないって」
やっぱりそうか。
後夜祭のとき、結麻ちゃんが優先させたがっていたの、きっとその人からのお誘いだったんだろうな。
「大丈夫?」
「……」
「決勝戦もダメだったみたいだし……失恋も、したわけだし」
「ダメ。どっちも、思い出すだけで心臓が壊れそう」
悲しげな声は、教室でみんなと話していたときとは全然違う。
もしかして、あのときも無理していたのかな。みんなの悪気ない軽口に、間中くんなりに合わせようとしただけだったのかな。
「後悔、してる?」
結麻ちゃんに告白したこと。やっぱり「もっと時間をかけたほうが良かった」とか思ってる?
間中くんは目を伏せたあと、小さく首を横に振った。
「後悔は、してない」
「本当に?」
「……ほんとは、ちょっとしてる」
だって、苦しい。すごく苦しい。
間中くんはそうこぼすと、ついに抱えていた膝に顔を埋めてしまった。
しばらくすると、すんって小さく鼻をすする音がした。
さらに、そのあと、すん……すんって何度も。
その間、私はただ隣に座っていた。どうすればいいのかわからなくて、膝の上の両手をジッと見つめることしかできなかった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる