たかが、恋

水野七緒

文字の大きさ
上 下
72 / 76
第8話

2・驚くほど…

しおりを挟む
 翌日は文化祭の振替休日だったので、間中くんと顔を合わせたのは火曜日の朝だった。
 その間、私の頭のなかは彼のことでいっぱいだった。
 落ち込んでいないかな。
 やけくそになっていないかな。
「やっぱり告白しなければよかった」って思っていないかな。
 なのに、2日ぶりに会った間中くんはびっくりするほど普段どおりだった。

「マナ~、決勝残念だったなぁ」

 背中にのしかかってくる山岸くんに、「やめろぉっ」って耳をふさいで抗議したりして。

「その話題ダメ! 傷口えぐるな!」
「なに言ってんだよ、準優勝もすごいじゃん」
「そうだよ、すごいよ、マナ。シュートを決められなかったとしてもさ」
「やめて! お前ら、ほんとやめて!」

 そっか、決勝戦負けたのか。しかもシュートを決められなかったのか。
 それは、めちゃくちゃ落ち込むだろうな。

(で、とどめが「失恋」──と)

 でも、そっちはそんなに落ち込んでいないみたい。ずっと心配していた身としては、なんだか拍子抜けしてしまった。

(面白そうな小説、持ってきたのにな)

 男子でも楽しめそうな冒険小説。こういうのを読むと、失恋の悲しみがまぎれるんじゃないかって。
 でも、必要なかったみたい。間中くんが落ち込んでいるの、サッカーのことだけみたいだし。
 それが誤解だってわかったのは、昼休みに入ってからだった。

「なあ、マナいる?」

 たまにうちのクラスに顔を出すサッカー部の子が、西原くんに声をかけている。けれども、肝心の間中くんの姿はどこにもない。

「あいつ、給食を食い終わるといつもいなくなるんだよなぁ」
「え、マジで?」
「マジで。どこに行ってんだろう」

 「いつも」の行き先なら、書庫だ。理由は、私と作戦会議をするため。
 でも、今日は違う。会議の約束はしていない。
 なのに、間中くんはどこかへ行ってしまった。

(まさか……)

 なんだか胸がザワザワした。
 予習のために開いていた数学の教科書を閉じると、私は教室を抜け出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】だからウサギは恋をした

東 里胡
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞応募作品】鈴城学園中等部生徒会書記となった一年生の卯依(うい)は、元気印のツインテールが特徴の通称「うさぎちゃん」 入学式の日、生徒会長・相原 愁(あいはら しゅう)に恋をしてから毎日のように「好きです」とアタックしている彼女は「会長大好きうさぎちゃん」として全校生徒に認識されていた。 困惑し塩対応をする会長だったが、うさぎの悲しい過去を知る。 自分の過去と向き合うことになったうさぎを会長が後押ししてくれるが、こんがらがった恋模様が二人を遠ざけて――。 ※これは純度100パーセントなラブコメであり、決してふざけてはおりません!(多分)

タイマヲマイタ 【園児・小学生時代】

テジリ
児童書・童話
 若草市立ヒヲス小学校に転入してきた、時期外れの転校生・結尾咲人に回覧板を届けに行った柾谷は、異性装の彼に対面する。その姿に感動を覚えた柾谷は、咲人に瓜二つな彼の妹、樹に執着するが……その他、様々な人物達と学生生活を描いた群像劇 〈簡易あとがき〉  特に柾谷 稲穂と結尾一家のキャラクターは、完全なるフィクションである。何故なら元々タイマヲマイタは、柾谷と結尾 咲人を話の中心に据えた短編の予定で、 当初考えていたオチとしては、勤続何十年の高校教師となった柾谷が、勤務先の高校で結尾 咲良という名の女子生徒を受け持つこととなり、ひょっとしたら小学生時代に突如転出入してった咲人の娘か何か? と思いつつ、教室で顔を合わせる場面で終わる、といった、雰囲気小説になる予定だったからだ。

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」 落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。

少年王と時空の扉

みっち~6画
児童書・童話
エジプト展を訪れた帰り道。エレベーターを抜けると、そこは砂の海。不思議なメダルをめぐる隼斗の冒険は、小学5年のかけがえのない夏の日に。

チョウチョのキラキラ星

あやさわえりこ
児童書・童話
とある賞に出して、落選してしまった絵本テキストを童話版にしたものです! 小さなお子様に読んでいただきたい・読み聞かせしていただきたい……そんな心温まる物語です。 表紙はイメージです。

【完結】落ちこぼれと森の魔女。

たまこ
児童書・童話
魔力が高い家系に生まれたのに、全く魔力を持たず『落ちこぼれ』と呼ばれるルーシーは、とっても厳しいけれど世話好きな魔女、師匠と暮らすこととなる。  たまにやって来てはルーシーをからかうピーターや、甘えん坊で気まぐれな黒猫ヴァンと過ごす、温かくて優しいルーシーの毎日。

はんぶんこ天使

いずみ
児童書・童話
少し内気でドジなところのある小学五年生の美優は、不思議な事件をきっかけに同級生の萌が天使だということを知ってしまう。でも彼女は、美優が想像していた天使とはちょっと違って・・・ 萌の仕事を手伝ううちに、いつの間にか美優にも人の持つ心の闇が見えるようになってしまった。さて美優は、大事な友達の闇を消すことができるのか? ※児童文学になります。小学校高学年から中学生向け。もちろん、過去にその年代だったあなたもOK!・・・えっと、低学年は・・・?

処理中です...