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第7話
2・あの、さ
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「いや、大丈夫だって! 後夜祭までにはちゃんと帰ってくるから」
翌日、金曜日。
前夜祭を控えて皆がすっかりお祭り気分になっているなか、私たちはいつもの書庫で最後の作戦会議を行っていた。
「ほんとに? 絶対に大丈夫?」
「大丈夫! 試合がはじまるの1時からだし」
「でも、いろいろ調べてみたところ、過去に『アディショナルタイム25分』なんて試合もあったみたいだよ?」
「それはすっげーレアなやつ。ふつうは長くても5分くらい!」
「じゃあ、遅くても3時には会場を出られる感じ?」
「たぶん──あ、でも表彰式とかあるともうちょっと遅くなるかも」
「ほら!」
「でも3時30分までには出られるって! だから絶対間に合うはず!」
──あやしい。これは警戒しておいたほうがいいかもしれない。
「ねえ、わかってる? 後夜祭って5時からだよ?」
「けど告白できんの、フォークダンスのときだろ?」
前夜祭同様、後夜祭も生徒は強制参加なんだけど、必ず出なければいけないのは最初の1時間だけ。そのあとのフォークダンスは自由参加だ。
ジンクスの「後夜祭で告白」は、どうもこの自由時間のときに行われるらしい。つまり、後夜祭の最初のほうに間に合わなくても、6時に校内にいれば問題なし──というわけだ。
「でも、やっぱり不安だよ。何が起きるかわかんないし」
「なにも起きないって! 佐島は悪いことばっかり考えすぎ!」
「間中くんが脳天気すぎるんだよ!」
「脳天気ってなに?」
「間中くんみたいな人のこと!」
いやみを込めて言ったつもりなのに、間中くんは「そっかぁ、俺、脳天気なんだぁ」って、やっぱりのんきだ。その様子を見ていたら、あれこれ心配するのもバカバカしくなってしまった。
(まあ、いいか)
なにか起きたら、そのとき考えよう。
間中くんの言うとおり、取り越し苦労の可能性もあるわけだし。
「じゃあ、当日のことだけど──自由時間になったら、間中くんはすぐに図書室に向かってね」
「図書室? なんで?」
「そこで告白してもらうから」
お姉ちゃん情報によると、当日告白する場所として一番多いのが中庭、その次が屋上で、3番目が教室らしい。
「だからその3カ所は避けようと思って。告白するところ、誰かに見られたくないでしょ?」
「うん、それは嫌」
その点、図書室周辺は誰も来やしない。文化祭の展示会場からも外れているから、告白する場所としてはうってつけなのだ。
「俺はただ待っていればいいの?」
「うん。結麻ちゃんは、私が図書室まで連れていく」
もちろん、結麻ちゃんの自由時間の予定はすでに予約済みだ。
正面玄関で待ち合わせたあと、私が案内することになっている。
「だから、うまいこと抜け出してね。坂田くんとかに捕まらないようにね」
「わかった! 絶対ちゃんとうまくやる!」
他にも気になっていることをいくつか確認して、私たちは書庫をあとにした。
今日はこのあと授業はなく、前夜祭が行われる予定だ。
「あの、さ」
渡り廊下の一歩手前くらいで、私はあえて立ち止まった。
間中くんも遅れて立ち止まると「なに?」と不思議そうに振り返った。
「あ、その……ええと……」
ああ、緊張する。
本当は、もっと自然に言えれば良かったのに。
「ええと……決勝戦がんばって」
とたんに、鼓動が早くなる。両手にぶわっと汗がにじんだ。
だって、こんなの──わざわざ「好き」ってアピールしているみたい。
でも、そんなふうに思っているのはやっぱり私だけなのだ。
「おう、がんばる!」
当たり前と言わんばかりの、いつもの笑顔。
友達として向けられたそれに、私は「ん」と小さくうなずいた。
翌日、金曜日。
前夜祭を控えて皆がすっかりお祭り気分になっているなか、私たちはいつもの書庫で最後の作戦会議を行っていた。
「ほんとに? 絶対に大丈夫?」
「大丈夫! 試合がはじまるの1時からだし」
「でも、いろいろ調べてみたところ、過去に『アディショナルタイム25分』なんて試合もあったみたいだよ?」
「それはすっげーレアなやつ。ふつうは長くても5分くらい!」
「じゃあ、遅くても3時には会場を出られる感じ?」
「たぶん──あ、でも表彰式とかあるともうちょっと遅くなるかも」
「ほら!」
「でも3時30分までには出られるって! だから絶対間に合うはず!」
──あやしい。これは警戒しておいたほうがいいかもしれない。
「ねえ、わかってる? 後夜祭って5時からだよ?」
「けど告白できんの、フォークダンスのときだろ?」
前夜祭同様、後夜祭も生徒は強制参加なんだけど、必ず出なければいけないのは最初の1時間だけ。そのあとのフォークダンスは自由参加だ。
ジンクスの「後夜祭で告白」は、どうもこの自由時間のときに行われるらしい。つまり、後夜祭の最初のほうに間に合わなくても、6時に校内にいれば問題なし──というわけだ。
「でも、やっぱり不安だよ。何が起きるかわかんないし」
「なにも起きないって! 佐島は悪いことばっかり考えすぎ!」
「間中くんが脳天気すぎるんだよ!」
「脳天気ってなに?」
「間中くんみたいな人のこと!」
いやみを込めて言ったつもりなのに、間中くんは「そっかぁ、俺、脳天気なんだぁ」って、やっぱりのんきだ。その様子を見ていたら、あれこれ心配するのもバカバカしくなってしまった。
(まあ、いいか)
なにか起きたら、そのとき考えよう。
間中くんの言うとおり、取り越し苦労の可能性もあるわけだし。
「じゃあ、当日のことだけど──自由時間になったら、間中くんはすぐに図書室に向かってね」
「図書室? なんで?」
「そこで告白してもらうから」
お姉ちゃん情報によると、当日告白する場所として一番多いのが中庭、その次が屋上で、3番目が教室らしい。
「だからその3カ所は避けようと思って。告白するところ、誰かに見られたくないでしょ?」
「うん、それは嫌」
その点、図書室周辺は誰も来やしない。文化祭の展示会場からも外れているから、告白する場所としてはうってつけなのだ。
「俺はただ待っていればいいの?」
「うん。結麻ちゃんは、私が図書室まで連れていく」
もちろん、結麻ちゃんの自由時間の予定はすでに予約済みだ。
正面玄関で待ち合わせたあと、私が案内することになっている。
「だから、うまいこと抜け出してね。坂田くんとかに捕まらないようにね」
「わかった! 絶対ちゃんとうまくやる!」
他にも気になっていることをいくつか確認して、私たちは書庫をあとにした。
今日はこのあと授業はなく、前夜祭が行われる予定だ。
「あの、さ」
渡り廊下の一歩手前くらいで、私はあえて立ち止まった。
間中くんも遅れて立ち止まると「なに?」と不思議そうに振り返った。
「あ、その……ええと……」
ああ、緊張する。
本当は、もっと自然に言えれば良かったのに。
「ええと……決勝戦がんばって」
とたんに、鼓動が早くなる。両手にぶわっと汗がにじんだ。
だって、こんなの──わざわざ「好き」ってアピールしているみたい。
でも、そんなふうに思っているのはやっぱり私だけなのだ。
「おう、がんばる!」
当たり前と言わんばかりの、いつもの笑顔。
友達として向けられたそれに、私は「ん」と小さくうなずいた。
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