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第6話
3・試合当日
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結論が出ないまま、試合観戦の日が訪れた。
「前、行こう! 前!」
お姉ちゃんは、当たり前のように階段をどんどん下りてゆく。
「いいよ、真ん中あたりで……」
「なに言ってんの。見やすいとこで見ないと意味ないじゃん!」
それもそうか。今日の観戦は、間中くんkなら結麻ちゃんへのアピールの場だ。それなら見やすい席のほうがいいに決まっている。
お姉ちゃんは迷うことなく一番前の席に陣取ったので、私もその隣に座ることにした。なるほど、ここなら間中くんも気づきやすそうだ。周囲も、今のところ人がまばらだし。
「結麻ちゃん、いつ来るんだっけ?」
「試合の途中くらいじゃない? 部活が終わってからって言ってたし」
調べたところによると、試合時間は前半30分・後半30分の合計60分。それとアディショナルタイムっていうのが、オマケであるらしい。
(60分なんてあっという間だ)
どうか、結麻ちゃんにはできるだけ早く来てほしい。じゃないと、今日誘った意味がなくなってしまう。
「あ、来た来た!」
えっ、結麻ちゃんが? と思ったけど、お姉ちゃんの目はフィールドに向けられていた。
なんだ、選手入場か。
間中くんは背番号12番──ああ、いた。11番の選手と何やら話をしている。こっちを見るかなってちょっと期待したけど、そんな素振りはまったくない。きっと試合のことで頭がいっぱいなんだろうな。
「ええっ、なんで遠野くん出ないの!?」
「知らないよ。ていうか遠野って誰?」
「2年1組の子。球技大会のバスケ、めちゃくちゃカッコよかったんだって!」
そうなんだ? でも、バスケがうまいからって、サッカーもうまいとは限らないよね。
(まあ、間中くんはバレーもサッカーも上手だけど)
ホイッスルが鳴り、試合がはじまった。「間中くんがんばれ」の言葉は、当然心のなかにしまっておいた。お姉ちゃんのいる前でそんなことしたら、絶対厄介なことになりそうだし。
もっとも、お姉ちゃんは「遠野くん」のことしか頭にないらしく、持ってきた双眼鏡でずっとベンチを眺めている。
「試合観ないの?」
「観るよ。気が向いたら」
「気が向いたら──って、じゃあ、何しに来たの」
「決まってるじゃん。遠野くんを拝みにだよ」
ダメだ、こりゃ。あまりにも動機が不純すぎる。
呆れ半分でため息をつくと「なによ」と軽く睨まれた。
「そういうあんたこそ、なんでサッカーの試合を観ようと思ったわけ? スポーツ観戦とか、ぜんぜん興味なかったじゃん」
──ハイ、きた。
これ、絶対にきかれると思ってた。
「トレーニングの成果を確認するためだよ」
「トレーニング? なにそれ」
「うちのクラスに間中くんって子がいるんだけど、彼がトレーニングの本を探すのを図書委員として手伝ったんだ」
その成果を確かめたいから──というのがあらかじめ用意しておいた理由。
うん、我ながら完璧。これなら、へんに勘繰られることもないはず──
「なにそれ。そんな理由で来るとか有り得ないでしょ」
「そんなことないよ! ふつうの、真っ当な理由でしょ!」
「とかいって、ほんとはその間中って子が好きだったりして」
ギュンッと心臓が跳ねた。
なんなの、うちのお姉ちゃん。なんで余計なことしか言わないの?
「そんなんじゃない! 間中くんはただのクラスメイトだってば!」
「でも、あんた、今日は髪の毛おろしてるじゃん」
お姉ちゃんは、ニヤニヤ笑いながら私の髪の毛を引っ張った。
「普段はギチギチの三つ編みのくせに。ちょっとおしゃれしたくなったんじゃないの?」
「違うから。出がけに、髪ゴムが切れただけだから」
これは本当。いつも使ってる髪ゴムが切れて、仕方なくおろしてきただけなのだ。
なのに、お姉ちゃんはニヤニヤ笑いを消そうとしない。これ、絶対に勘違いしているやつだ。
「それで? 間中って子、試合に出てるの?」
「……出てるけど」
「何番?」
「12番」
「ああ、アレか」
ひとめ見ただけで、お姉ちゃんは「ないな」と切り捨てた。
「うるさそう。汗くさそう。ああいうタイプ苦手」
余計なお世話。
ああ見えて間中くんは、他人を気遣えるし案外まじめだし、誠実で一途だし。モテ期真っ只中のときも、告白してきた女子全員にきっちりお断りしてたくらいなんだから。
(そういうの、結麻ちゃんならきっとわかってくれるはず)
そう考えたところで、胸がしくんと疼いた。
ああ、嫌だな──この感じ。自分のダメなところを突き付けられているみたいで。
しっかりしろ。協力するって決めたじゃん。
だから、結麻ちゃん、早く来て。間中くん、がんばってるから観てあげて。
私に、私の務めを果たさせて。
「前、行こう! 前!」
お姉ちゃんは、当たり前のように階段をどんどん下りてゆく。
「いいよ、真ん中あたりで……」
「なに言ってんの。見やすいとこで見ないと意味ないじゃん!」
それもそうか。今日の観戦は、間中くんkなら結麻ちゃんへのアピールの場だ。それなら見やすい席のほうがいいに決まっている。
お姉ちゃんは迷うことなく一番前の席に陣取ったので、私もその隣に座ることにした。なるほど、ここなら間中くんも気づきやすそうだ。周囲も、今のところ人がまばらだし。
「結麻ちゃん、いつ来るんだっけ?」
「試合の途中くらいじゃない? 部活が終わってからって言ってたし」
調べたところによると、試合時間は前半30分・後半30分の合計60分。それとアディショナルタイムっていうのが、オマケであるらしい。
(60分なんてあっという間だ)
どうか、結麻ちゃんにはできるだけ早く来てほしい。じゃないと、今日誘った意味がなくなってしまう。
「あ、来た来た!」
えっ、結麻ちゃんが? と思ったけど、お姉ちゃんの目はフィールドに向けられていた。
なんだ、選手入場か。
間中くんは背番号12番──ああ、いた。11番の選手と何やら話をしている。こっちを見るかなってちょっと期待したけど、そんな素振りはまったくない。きっと試合のことで頭がいっぱいなんだろうな。
「ええっ、なんで遠野くん出ないの!?」
「知らないよ。ていうか遠野って誰?」
「2年1組の子。球技大会のバスケ、めちゃくちゃカッコよかったんだって!」
そうなんだ? でも、バスケがうまいからって、サッカーもうまいとは限らないよね。
(まあ、間中くんはバレーもサッカーも上手だけど)
ホイッスルが鳴り、試合がはじまった。「間中くんがんばれ」の言葉は、当然心のなかにしまっておいた。お姉ちゃんのいる前でそんなことしたら、絶対厄介なことになりそうだし。
もっとも、お姉ちゃんは「遠野くん」のことしか頭にないらしく、持ってきた双眼鏡でずっとベンチを眺めている。
「試合観ないの?」
「観るよ。気が向いたら」
「気が向いたら──って、じゃあ、何しに来たの」
「決まってるじゃん。遠野くんを拝みにだよ」
ダメだ、こりゃ。あまりにも動機が不純すぎる。
呆れ半分でため息をつくと「なによ」と軽く睨まれた。
「そういうあんたこそ、なんでサッカーの試合を観ようと思ったわけ? スポーツ観戦とか、ぜんぜん興味なかったじゃん」
──ハイ、きた。
これ、絶対にきかれると思ってた。
「トレーニングの成果を確認するためだよ」
「トレーニング? なにそれ」
「うちのクラスに間中くんって子がいるんだけど、彼がトレーニングの本を探すのを図書委員として手伝ったんだ」
その成果を確かめたいから──というのがあらかじめ用意しておいた理由。
うん、我ながら完璧。これなら、へんに勘繰られることもないはず──
「なにそれ。そんな理由で来るとか有り得ないでしょ」
「そんなことないよ! ふつうの、真っ当な理由でしょ!」
「とかいって、ほんとはその間中って子が好きだったりして」
ギュンッと心臓が跳ねた。
なんなの、うちのお姉ちゃん。なんで余計なことしか言わないの?
「そんなんじゃない! 間中くんはただのクラスメイトだってば!」
「でも、あんた、今日は髪の毛おろしてるじゃん」
お姉ちゃんは、ニヤニヤ笑いながら私の髪の毛を引っ張った。
「普段はギチギチの三つ編みのくせに。ちょっとおしゃれしたくなったんじゃないの?」
「違うから。出がけに、髪ゴムが切れただけだから」
これは本当。いつも使ってる髪ゴムが切れて、仕方なくおろしてきただけなのだ。
なのに、お姉ちゃんはニヤニヤ笑いを消そうとしない。これ、絶対に勘違いしているやつだ。
「それで? 間中って子、試合に出てるの?」
「……出てるけど」
「何番?」
「12番」
「ああ、アレか」
ひとめ見ただけで、お姉ちゃんは「ないな」と切り捨てた。
「うるさそう。汗くさそう。ああいうタイプ苦手」
余計なお世話。
ああ見えて間中くんは、他人を気遣えるし案外まじめだし、誠実で一途だし。モテ期真っ只中のときも、告白してきた女子全員にきっちりお断りしてたくらいなんだから。
(そういうの、結麻ちゃんならきっとわかってくれるはず)
そう考えたところで、胸がしくんと疼いた。
ああ、嫌だな──この感じ。自分のダメなところを突き付けられているみたいで。
しっかりしろ。協力するって決めたじゃん。
だから、結麻ちゃん、早く来て。間中くん、がんばってるから観てあげて。
私に、私の務めを果たさせて。
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