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第5話
9・時期尚早
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はっきり告げると同時に、ちょっとだけ身構えた。間中くんは「ええええっ」みたいな大声をあげると思っていたから。
でも、違った。間中くんは、ジッと私を見つめただけだ。
「なんで?」
「時期尚早だから」
「じきそーそー?」
「時期尚早。『まだ早い』ってこと」
たしかに、結麻ちゃんとの距離は縮まったかもしれない。
でも、それはあくまで「ちょっぴり」だ。
「少し前に結麻ちゃんがうちに来たときにね、間中くんの話になったの」
そのときの結麻ちゃんの反応は、決して悪いものではなかった。「いつも元気いっぱいで面白い子」──たぶん間中くんのことを好意的に見てはいるんだろう。
でも、それは「イトコのクラスメイト」としてだ。恋愛感情──たとえば、私が間中くんに抱いているような、どうしようもないグルグルした想いじゃない。
「今の間中くんは『イトコの友達』止まりなんだよ。告白するなら、せめてもう少し距離を縮めてからでないと」
私の意見に、間中くんは不服そうに顔をしかめた。
でも、これが協力者としての私の判断だし、友達としての精一杯の誠意だ。
「間中くんが後夜祭にこだわるのは、結麻ちゃんが3年生だからっていうのもあるんでしょ」
来年の文化祭のとき、結麻ちゃんはこの学校にはいない。だから、焦る気持ちもわからなくはない。
「でもさ、ジンクスは絶対じゃないんだよ。非科学的な、ただの『言い伝え』だよ?」
「……」
「せっかく告白するなら、もっとちゃんと計画をたてようよ。時間をかけて、間中くんのことを知ってもらってさ」
そうすれば、好きになってもらえるかもしれないんだ。私が、一ヶ月以上かけて間中くんを好きになったみたいに。
けれども、間中くんは頷かない。キュッと唇をとがらせたままだ。
かたくなな彼に、私はため息をこぼした。
「あのさ、どうしてそんなにこだわるの?」
例えば、クリスマスじゃダメなの? お正月は? いっそ、バレンタインデーのときに告白するのは? 最近は男子から告白するのも有りみたいだし。
でも、やっぱり間中くんはうなずかない。「んー」とか「うー」とかうめいたあと、ようやく言葉を選ぶように口を開いた。
「あのさ……勘、みたいなヤツなんだ」
「勘?」
「サッカーやってるとさ、たまに『今だ!』ってなるときがあんの。『今ここでゴール前!』とか『今、ななめに走れ!』って。考えるより先にピンってくんの。で、そのとおりにするとうまくいくんだ」
「……それで?」
「後夜祭の話を聞いたときも同じ感覚だった。『これだ!』ってひらめいたっていうか」
いや、サッカーと告白は違うよね? それに、サッカーは小学生のころから頑張ってきたんだろうけど、恋愛に関してはほぼ初心者じゃん。
なのに、間中くんは首を横に振る。
「絶対『これ』って……『ここを逃すな』って……」
「はぁ……」
「俺のそういうの、けっこう当たる! だから、俺は後夜祭で告白したい!」
──まいったな。これは絶対に自分の意思を通す気だ。どんなに「非科学的だ」といっても、譲る気はないんだ。
そうか、そこまでか。そんなに結麻ちゃんに告白したいのか。
「念のため、確認するけど。うまくいかなかったらどうすんの?」
間中くんはムッと唇を曲げたあと「わかんない」と小さくこぼした。
「そんなの考えてない。だからわかんない」
「辛いかもよ? 苦しいかもよ? なにもかもやけくそになっちゃうかもよ?」
今の私みたいに。
そう──失恋に関しては、私のほうが「先輩」だ。
間中くんは、唇をへの字にしたままうつむいた。
私は、ひどく静かな気持ちで彼が口を開くのを待った。
でも、違った。間中くんは、ジッと私を見つめただけだ。
「なんで?」
「時期尚早だから」
「じきそーそー?」
「時期尚早。『まだ早い』ってこと」
たしかに、結麻ちゃんとの距離は縮まったかもしれない。
でも、それはあくまで「ちょっぴり」だ。
「少し前に結麻ちゃんがうちに来たときにね、間中くんの話になったの」
そのときの結麻ちゃんの反応は、決して悪いものではなかった。「いつも元気いっぱいで面白い子」──たぶん間中くんのことを好意的に見てはいるんだろう。
でも、それは「イトコのクラスメイト」としてだ。恋愛感情──たとえば、私が間中くんに抱いているような、どうしようもないグルグルした想いじゃない。
「今の間中くんは『イトコの友達』止まりなんだよ。告白するなら、せめてもう少し距離を縮めてからでないと」
私の意見に、間中くんは不服そうに顔をしかめた。
でも、これが協力者としての私の判断だし、友達としての精一杯の誠意だ。
「間中くんが後夜祭にこだわるのは、結麻ちゃんが3年生だからっていうのもあるんでしょ」
来年の文化祭のとき、結麻ちゃんはこの学校にはいない。だから、焦る気持ちもわからなくはない。
「でもさ、ジンクスは絶対じゃないんだよ。非科学的な、ただの『言い伝え』だよ?」
「……」
「せっかく告白するなら、もっとちゃんと計画をたてようよ。時間をかけて、間中くんのことを知ってもらってさ」
そうすれば、好きになってもらえるかもしれないんだ。私が、一ヶ月以上かけて間中くんを好きになったみたいに。
けれども、間中くんは頷かない。キュッと唇をとがらせたままだ。
かたくなな彼に、私はため息をこぼした。
「あのさ、どうしてそんなにこだわるの?」
例えば、クリスマスじゃダメなの? お正月は? いっそ、バレンタインデーのときに告白するのは? 最近は男子から告白するのも有りみたいだし。
でも、やっぱり間中くんはうなずかない。「んー」とか「うー」とかうめいたあと、ようやく言葉を選ぶように口を開いた。
「あのさ……勘、みたいなヤツなんだ」
「勘?」
「サッカーやってるとさ、たまに『今だ!』ってなるときがあんの。『今ここでゴール前!』とか『今、ななめに走れ!』って。考えるより先にピンってくんの。で、そのとおりにするとうまくいくんだ」
「……それで?」
「後夜祭の話を聞いたときも同じ感覚だった。『これだ!』ってひらめいたっていうか」
いや、サッカーと告白は違うよね? それに、サッカーは小学生のころから頑張ってきたんだろうけど、恋愛に関してはほぼ初心者じゃん。
なのに、間中くんは首を横に振る。
「絶対『これ』って……『ここを逃すな』って……」
「はぁ……」
「俺のそういうの、けっこう当たる! だから、俺は後夜祭で告白したい!」
──まいったな。これは絶対に自分の意思を通す気だ。どんなに「非科学的だ」といっても、譲る気はないんだ。
そうか、そこまでか。そんなに結麻ちゃんに告白したいのか。
「念のため、確認するけど。うまくいかなかったらどうすんの?」
間中くんはムッと唇を曲げたあと「わかんない」と小さくこぼした。
「そんなの考えてない。だからわかんない」
「辛いかもよ? 苦しいかもよ? なにもかもやけくそになっちゃうかもよ?」
今の私みたいに。
そう──失恋に関しては、私のほうが「先輩」だ。
間中くんは、唇をへの字にしたままうつむいた。
私は、ひどく静かな気持ちで彼が口を開くのを待った。
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