たかが、恋

水野七緒

文字の大きさ
上 下
55 / 76
第5話

9・時期尚早

しおりを挟む
 はっきり告げると同時に、ちょっとだけ身構えた。間中くんは「ええええっ」みたいな大声をあげると思っていたから。
 でも、違った。間中くんは、ジッと私を見つめただけだ。

「なんで?」
「時期尚早だから」
「じきそーそー?」
「時期尚早。『まだ早い』ってこと」

 たしかに、結麻ちゃんとの距離は縮まったかもしれない。
 でも、それはあくまで「ちょっぴり」だ。

「少し前に結麻ちゃんがうちに来たときにね、間中くんの話になったの」

 そのときの結麻ちゃんの反応は、決して悪いものではなかった。「いつも元気いっぱいで面白い子」──たぶん間中くんのことを好意的に見てはいるんだろう。
 でも、それは「イトコのクラスメイト」としてだ。恋愛感情──たとえば、私が間中くんに抱いているような、どうしようもないグルグルした想いじゃない。

「今の間中くんは『イトコの友達』止まりなんだよ。告白するなら、せめてもう少し距離を縮めてからでないと」

 私の意見に、間中くんは不服そうに顔をしかめた。
 でも、これが協力者としての私の判断だし、友達としての精一杯の誠意だ。

「間中くんが後夜祭にこだわるのは、結麻ちゃんが3年生だからっていうのもあるんでしょ」

 来年の文化祭のとき、結麻ちゃんはこの学校にはいない。だから、焦る気持ちもわからなくはない。

「でもさ、ジンクスは絶対じゃないんだよ。非科学的な、ただの『言い伝え』だよ?」
「……」
「せっかく告白するなら、もっとちゃんと計画をたてようよ。時間をかけて、間中くんのことを知ってもらってさ」

 そうすれば、好きになってもらえるかもしれないんだ。私が、一ヶ月以上かけて間中くんを好きになったみたいに。
 けれども、間中くんは頷かない。キュッと唇をとがらせたままだ。
 かたくなな彼に、私はため息をこぼした。

「あのさ、どうしてそんなにこだわるの?」

 例えば、クリスマスじゃダメなの? お正月は? いっそ、バレンタインデーのときに告白するのは? 最近は男子から告白するのも有りみたいだし。
 でも、やっぱり間中くんはうなずかない。「んー」とか「うー」とかうめいたあと、ようやく言葉を選ぶように口を開いた。

「あのさ……勘、みたいなヤツなんだ」
「勘?」
「サッカーやってるとさ、たまに『今だ!』ってなるときがあんの。『今ここでゴール前!』とか『今、ななめに走れ!』って。考えるより先にピンってくんの。で、そのとおりにするとうまくいくんだ」
「……それで?」
「後夜祭の話を聞いたときも同じ感覚だった。『これだ!』ってひらめいたっていうか」

 いや、サッカーと告白は違うよね? それに、サッカーは小学生のころから頑張ってきたんだろうけど、恋愛に関してはほぼ初心者じゃん。
 なのに、間中くんは首を横に振る。

「絶対『これ』って……『ここを逃すな』って……」
「はぁ……」
「俺のそういうの、けっこう当たる! だから、俺は後夜祭で告白したい!」

 ──まいったな。これは絶対に自分の意思を通す気だ。どんなに「非科学的だ」といっても、譲る気はないんだ。
 そうか、そこまでか。そんなに結麻ちゃんに告白したいのか。

「念のため、確認するけど。うまくいかなかったらどうすんの?」

 間中くんはムッと唇を曲げたあと「わかんない」と小さくこぼした。

「そんなの考えてない。だからわかんない」
「辛いかもよ? 苦しいかもよ? なにもかもやけくそになっちゃうかもよ?」

 今の私みたいに。
 そう──失恋に関しては、私のほうが「先輩」だ。
 間中くんは、唇をへの字にしたままうつむいた。
 私は、ひどく静かな気持ちで彼が口を開くのを待った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

処理中です...