たかが、恋

水野七緒

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第2話

4・思惑どおり

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 というわけで、翌日の昼休み。
 間中くんは、誰よりも早く給食を食べ終えるとびゅんっと教室を出ていった。
 一方、私は特に急ぐこともなく、最後の牛乳まできっちり飲み終えてから図書室へと向かった。
 さて、間中くんは、図書室のどのあたりにいるだろう。
 長机のところ?
 それとも、昨日結麻ちゃんが声をかけてきた書棚のあたり?

(私なら、受付の近くで待つな)

 あのあたりが、図書室全体をいちばんよく見渡せるから。
 もちろん、ただ突っ立っているとへんに思われるから、手にはカムフラージュ用の本を持っている。
 で、受付脇の柱に寄りかかって、ページをめくりながら様子見する感じ。
 それなら結麻ちゃんが来たときすぐにわかるし、本を探す結麻ちゃんをこっそり眺めることもできるから。
 もっとも、今日結麻ちゃんが図書室に来る確率は極めて低いわけだけど。
 3階奥の図書室に到着すると、私はそっとドアを開けた。
 そのとたん、入り口にいた誰かがぐるんって勢いよく振り返った。

(うわ……)

 まさかの、入口での待ち伏せ。間中くん露骨すぎだよ。
 しかも、目があうなり「あっ」と声をあげて後退った。
 ハイハイ、私もここに来るってこと、頭からすっぽり抜け落ちていたわけだね。なるほど、そこまで結麻ちゃんのことで頭がいっぱいか。

「来ないよ」
「……へっ」
「結麻ちゃん来ないよ、ここには」
「えっ……な、なんで!?」

 大声で聞きかえしたあと「やばっ」って口元を押さえたけど。
 遅すぎ。もう聞いたから。
 あれだよ、ほら最近読んだ本に書いてあった「げんをとった」ってやつ。

「そんなの決まってるでしょ。嘘だからだよ」
「……嘘?」
「昨日の電話が」
「えっ」
「あんなの本当にかけてるわけないじゃん。校則で禁止されてるのに」

 なのに信じちゃってバカみたい。
 まあ、間中くんは単純だからひっかかると思ったけど。

「やっぱり結麻ちゃんのこと好きなんだ」
「お、俺は、べつに……」
「じゃあ、なんで今ここにいるの? 結麻ちゃんに会いたいからじゃないの?あわよくば、私をダシに結麻ちゃんと話がしたかったんじゃないの?」
「そんな卑怯なことしねぇよ!」

 間中くんは、耳まで真っ赤になった。

「佐島をダシになんて考えてねぇ!」
「あ、結麻ちゃんに会いたかったのは認めるんだ?」
「……っ、俺は……」
「ハイハイ、いいよ、否定しなくても」

 間中くんの気持ち、もうバレバレだし。
 いくら恥ずかしいからって、いちいち誤魔化さなくても──

「そうじゃねぇ!」

 ギュッて左腕に痛みが走った。

「俺が言いたいのはそういうことじゃなくて!」

 間中くんが、ものすごい力で私の腕を掴んでいる。まるで「こっちを見ろ」っていうみたいに。

「佐島は卑怯だ。こういうやり方は嫌いだ」
「……」
「俺は、友達にこういうことをされたくない!」

 らんらんと輝く大きな目。お姉ちゃんがかんしゃくを起こすときとは違う、まっすぐすぎる強い光。

「あの……」

 図書当番の人が、受付から身を乗り出した。
 2年生を示すリボンタイが、胸元で控えめに揺れていた。

「静かにしてね。ここ、図書室だよ」

 その手にあるのは、例の黄色いカード。
 私が口を開くより先に、間中くんが「すんませんっ」と頭を下げた。体育会系らしい張りのある声に、2年生の彼女はさらに顔をしかめた。
 ダメじゃん。思わず洩れたそのつぶやきは、たぶん彼の耳には届いていない。
 だって、すぐに図書室を出ていってしまったから。
 ドアの向こう、どんどん遠ざかってゆく足音。
 図書当番が席に戻っても、私はうつむいたまま動けずにいた。
 今、間違いなく私はひとりぼっちだった。
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